『収束』
まず連絡をしたのはヒマリ達、特異現象捜査部だ。デカグラマトンに関係する話なら、まず話をしておきたい相手。
向こうも何か掴んでいたようで、すぐに部室に来てくれ。と言われた。私はカスミと共に向かった。
扉を開ければ、既にヒマリ、エイミ、トキの3人が揃っていた。よく見たら後ろにはゲーム開発部の面々がいる。
「お待たせ。ごめんね、急に連絡して」
「いえ、こちらも情報を整理してから連絡するつもりでしたので、ちょうど良かったです」
私はまず、黒服との会話で得た情報を話した。その話を聞いたヒマリの表情は強張る。
「なるほど……かなり信憑性のある話です。こちらでもそれを裏付ける情報が出てきています」
各地での預言者達の活動が再び活発化している事。氷海区域でのデカグラマトンの時のようなこちらを呼び込むかの如き反応。
何がきっかけだったのか、それが疑問だった。しかし先生の話で結論は出た。
「元々、氷海区域に向かう前、僅かな反応が見られたのですが、私達の手が空いてないのでC&Cに依頼したのです。結果はご存知の通りですが……やはりそうですか」
「一刻も早く止めなきゃならないのは分かってるんだ。でも、私は助けたい。だから協力して欲しいんだ」
そう言って頭を下げる先生を前に、ヒマリ達は知ってた、と微笑む。先生はそういう人だし、だから皆が協力するのだ、と。
「そういうと思って、今回ゲーム開発部に来てもらいました。アリスの件が参考になる、と思いまして」
「アリス、頑張ります!」
「私たちも協力するよ、先生!前もそうだったけど、世界の崩壊を防ぐならやっぱり勇者は欠かせないでしょ!」
ふんす!とガッツポーズするアリスと、それを囃し立てるモモイ。やれやれと言わんばかりのミドリ。普段見ない人も居るので人見知りしているユズ。いつも通りのゲーム開発部の面々に、焦りや緊張が自然と解れる。
こういう時だからこそ、ムードメーカーというのは大事だ。
「既に作戦は出来ています。作戦の要は、先生です。準備はいいですね?」
「もちろん」
頷き一つ返して、私は気を引き締める。ヒマリは、この場にいる全員に見えるように、データを写したディスプレイを出して、説明を始める。
「マルクト……ここでは大神リル、と呼びましょうか。彼女の反応は微弱である事は変わりません。何かきっかけがない限りこちらから探知するのは難しいです」
前回は偶然の目覚めによって反応が出た。その後見失ってしまったのは、他の反応、つまり預言者達の反応が強すぎて反応が隠れてしまったのだ。
「よって、今回、確認されている預言者達を一度叩いて反応を弱くする必要があります。先生の指揮が必須になる為負担が大きいですが……」
「大丈夫だよ、気にしないで」
『色彩』の時の経験が大丈夫だと告げている。
「その後、反応を見つけ次第そこに集結、そして大神リルを捜索し、保護する。と言った流れですが、先生が聞いた話を加味すると、恐らくそこはデカグラマトンの本拠地でしょう、相当な抵抗が予想されます。なので、こちらも戦力を確保しておく必要があるでしょう」
「そこは生徒達に手伝ってもらうつもり。でも問題はその後、でしょ?」
その言葉に頷きを返すヒマリは、データの写るディズプレイの表示を変え、幾何学的なパラメータを表示するディスプレイを皆に見せる。
「大神リルの中にいる生徒の意識、そんな事例は初めてですが、似た事例が無いわけではありません。そうですよね、アリス?」
「はい!アリスとケイにそっくりです!」
「あの時はアリスの深層心理にダイブする事で会話を試みましたが、今回は少し違います。やろうとしているのは以前アリスの中に存在するケイの僅かなデータを抽出しサルベージしようとした事に近い。あの時の経験が役に立ちます」
つまり、大神リルの中に存在する生徒の存在を引っ張り出して、別の器に入れる……という事だろうか。それで大神リルが壊れなければいいが……
「本来の器があるならそちらの方が確実なのですが……見つからない以上他を探すしかありませんので」
「時間がありません、先生。預言者戦のメンバーは一任しますので、急いでください」
「わかったよ」
私はすぐに思いついた生徒達へ、連絡を取った。
四方がつるりとした壁の見たこともない場所に閉じ込められ、外に出ることはできない。そんな場所で私は目を覚ました。そこで大神リルと、アイン・ソフ・オウルと名乗る存在との会話を聞いてしまったのだ。
彼女の存在する理由と、あの時いなくなったユメ先輩の真相を。
『マルクト・プロト。お姉様の妹にあたるのが貴女。借り物の神秘を植え付けて動く筈のなかった失敗作』
『でも、こうして動いたのは運が良かった。貴女の存在目的は新たな神の証明。こうして動いたのなら、やる事は一つ』
『ちょうどそこに餌もある、神秘を喰らい尽くしなさい』
そう言われたリルの視線がこちらに向く。数秒、そのまま考え込む彼女。私は呆然としていただろう。
だって、いなくなったユメ先輩は、ここで奴らに改造され、彼女はその一部だった。なんて聞かされて。普通なら荒唐無稽も良いところで、私だって信じなかっただろう。だけど、そう言われて、私はある意味ストン、と納得してしまった。
彼女の後ろ姿がユメ先輩にとても似ていたこと。時々聞こえる声は、ユメ先輩そのものだった。
「あ、あはは……」
あの時、遺された盾を見て、死んだと思った。だけど、あの時生きていた。もしあの時、私が諦めていなければユメ先輩は──今もアビドスで笑っていたかもしれない。そう考えたら、もう。私は動けなかった。
──私のせいだ。
私はこのまま、彼女に喰われるのだろう。だけど、もういいと思った。彼女の中にはユメ先輩がいる。だったらこうして喰われるというのは救えなかった私に対する報いになる。報復という正当な権利だ。
「嫌だ」
だけど、彼女は一言拒絶すると、持っている銃で壁に向かって連射、穴がいくつもできて脆くなった所を飛び蹴りで破壊した。それを見て満足げに頷くと、力無く座り込む私の手を引っ張り、背中で背負った。
「盾、借りる」
そう言って私が持っていた盾を取って、破壊した穴から飛び出した。