飢えた犬と優しい鳥   作:上条@そぉい!

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テンションに任せて書いたらこんな長さに……


第21話

『奮起』

 

 

 大きく揺れ続ける地震は波となってこちらの船を激しく揺らすも、辛々転覆する事なくその場を離脱することができた。

 船内は、リルを助けられなかった事を悔やんでの事だろう。少し席を外すと告げて甲板に出て行ったサオリと、やることが出来た、と普段にない真剣さを帯びてどこかに連絡をするカスミの他、残りのメンバーが残っていた。

 船内の一角。医務室にはアビドスのメンバーがいた。皆で囲むように眠り続ける1人の生徒を見守っていた。

 

「この人が……ユメ先輩?」

 

 口火を切ったのは、セリカだった。初めて見る人だから判断がつかず、しかし眠り続ける彼女に向けるホシノの視線からして、そうだと思った。

 

「うん、姿が少し変わってたけど、間違いなくユメ先輩だよ。私が間違えるはずない」

 

 ──夢に見るくらい覚えてるから、と続けるホシノの言葉は、とても重かった。そして、それを裏付けるように、ノノミがそれを肯定した。

 

「私もこうしてお会いするのは初めてですけど、何度も見たことがあります。間違いないですよ」

 

「で、でも眠ってるって事はもしかしてもう──」

 

「それはないよ」

 

 その時、医務室の扉が開き、聞こえる声にその場の全員が振り返った。

 

「先生、大丈夫なんですか?」

 

 その場に来た先生を前に心配の言葉が口に出る。それもその筈。今、現在進行形で進む事態はどう見ても悪化している。その対処をしなくてはならない先生が、この場にいるのはあまりよろしいとは言えないだろう。

 

「少しだけ時間を貰ったんだ、大丈夫かどうか心配だったしね」

 

「って、先生。それはないってどういう」

 

「あの時、リルが最後に言ってたからね。『返した』って」

 

 どうしてこうなってしまったのか、その原因を先生は把握していた。ユメとリル、2人の人格が揃っている事で均衡を保っていた筈の『預言者』の試作体は、その均衡が崩れた事で一気に噴火するかの如くその身に眠る機能が表に出た、それが今の事態を引き起こしている、と。

 それをヒマリと相談して今後について話し合っていた、しかし攻略法はまだ見えず。その糸口を掴むためにも、こうしてユメにも話を聞かなくてはならなくなった。

 だが、まだ眠りから覚める様子はない。沈黙が続く。今か今かと、眠りから覚める時を待ち続けた。

 

「んぅ……」

 

 数分か、或いは数十分か。とても長く感じたその時は来た。呻きながら、頭を抑えて目を覚ましたのだ。体を起こし周囲にいる私達を見る。

 

「ユメ先輩、分かりますか?」

 

 恐る恐る、確かめるように。縋るように、ホシノが尋ねた。もしもこれで、ユメ先輩では無かったら──そう考えるだけでも怖い。

 しかし、その考えは杞憂だったようだ。ホシノの顔を見たユメの顔は花が咲くかのような笑顔になり、そのまま抱きついたのだから。

 

「ホシノちゃん〜!少し見ない間にこんなに可愛くなって〜!あ、いや!別に前が可愛くないって言うわけじゃないんだけども!ほら、前は1匹狼って感じだったから」

 

 1人で捲し立てるように弾けるユメ先輩に、流石にその場にいた皆がついていけず固まった。

 そんな中、抱きつかれ、腕の中でもがいていたホシノがようやく拘束を剥がし、肩で息をする。

 

「いつの話してるんですか!流石に変わりますよ!それより身体におかしなところはないんですか!?」

 

「えー、いつもの喋り方で良いんだよ?あれ可愛くて私好きなんだけどなぁ……あ、身体は平気。むしろ調子良いくらい」

 

 そう言いながらベットから立ち上がるユメは、調子を確かめるようにピョンピョンとその場で跳ねる。

 前と全然変わらないその調子に安心した、と言えば聞こえはいい。しかしだ。

 

(──そう言えばこの人はそういう人だった)

 

 呆れ半分でホシノは腕を組んでため息を吐いた。

 

「あっ、あなた達がホシノちゃんの後輩達だよね!初めまして!私ユメって言います!一応先輩になるのかな?」

 

「まだ記録は残ってるんで先輩ですよ、なんなら部屋もまだ残してます」

 

「ほんと?ありがとー!」

 

 そんなやり取りを前に、ようやく再起動した先生。まだ生徒達は再起動に時間が掛かりそうだ。

 

「目覚めたばかりでごめんね、私はシャーレの先生。少し協力して欲しいんだ」

 

 その言葉に、ユメは頷きを返す。

 

「リルちゃんの事、ですよね。是非協力させてください。あんな終わり方なんて認めたくない。あれじゃ、あんまりじゃないですか」

 

 本当にあの子は、純粋で優しいのに。とユメは続けた。協力を取り付けた先生は、生徒達を連れて、ヒマリ達が待つ、作戦室へ。


 

 

全員が集まったの見て、司会進行を始めるのはヒマリだ。全員の前にディスプレイを表示し、話をする。

 

「今ディスプレイに表示されているのは、観測された新たな預言者、いえ、大神リルの内部です」

 

 そう言われて全員の視線がディスプレイに向けられる。今までの預言者達以上の巨大な身体。しかし、その内部はいくつかの区画に区切られている。

 

「今もまだ大神リルの反応は生きています。その精神までは分かりませんが……無事である事は間違いないです。しかし、暴走を始めて1時間、周りの物質を喰らい現在進行形で、その体は肥大し続けています」

 

 このまま進めば、その巨体はキヴォトスを喰い尽くすであろう、と予測が出ている。ここで止めなければならない。

 

「だから、皆には協力して欲しいんだ。リルを、助けるために」

 

 これは破壊ではない。あくまで救出。中にいるであろう大神リルを保護する為の作戦。

 わかっている、とばかりに皆は頷く。この場に集う生徒達の意思は一つ。誰かを犠牲にした平和なんて要らない。目指すは最高のハッピーエンドなのだから。

 

「ミレニアムのエンジニア部に協力を取り付けて、現在ある作戦──前にも使ったというアバンギャルド君の改良型がこちらに向かっています」

 

「何をするつもりなんだ?」

 

 当然の疑問がその場にいたサオリからあがる。分かっていた疑問を解くようにヒマリは人差し指をピンと立てて言った。

 

「前もって斥候のドローンを飛ばして分かった事なのですが、あの預言者──データからして『フェンリル』ですか。その権能に捕食があります。限度はなく、文字通り何でも食べて学習、新たに生成と言ったルーチンがあるようなのです」

 

 悩ましげにため息を吐きヒマリは説明を続ける。

 

「私達の『神秘』すら例外ではない、それが問題なのですよ。まともに対面すれば、それだけで私達が危険なのです。ですから──ここからはスピード勝負です」

 

 まずアバンギャルド君で、至近距離にまで接近。そこから外殻にまで到達したのち、一点集中でもって穴を開ける。この時点でこちらの神秘に何らかの影響がある事が予測されている。

 だから、喰われる前に内部に侵入。そのまま内部の核となっている大神リルを確保して即座に脱出。

 それがこの作戦の概要。もちろん、この通りに進むとは思っていない。

 

「その作戦、先陣は任せてくれないか」

 

 説明が終わると、手を挙げたのは、カスミだった。全員の視線がそちらに向く。

 

「外殻をぶち破るとなれば、それは我々温泉開発部の専売特許だろう?いやいや、準備が無駄にならなくて良かったよ」

 

「準備?何かしてたのカスミ?」

 

 ずっとだんまりだとは思っていた。何かあったのかと先生は心配していたが杞憂だった。

 

「簡単な事だよ、温泉開発部の部員を全員召集したんだ。場所が場所だけに少し時間が掛かるが、もう間も無く来るだろう。なんでかは知らないが風紀委員会も来るらしい」

 

「ヒナ達が?」

 

「この上ない頼もしい援軍じゃないか、と言うわけで私はこれから準備がある。席を外させてもらうよ」

 

 そう言うとカスミは笑う事なく作戦室を出て行った。

 それからも作戦にあたる色々の擦り合わせは進んだ。


 

 

 

 鬼怒川カスミは、静かに燻る感情に名前をつけられずモヤモヤしていた。

 あの場に駆けつけた時点で、手遅れだと聡明な思考はすぐに気づけた。しかし、感情はそれを拒んだ。

 こうして、無駄かもしれない事に首を突っ込むのは普段なら考えられない。浪漫は大切だが、ある程度で見切りを付けることも大切だからだ。リソースは限られるのだから当然だろう。だが、カスミは今その理屈とは裏腹にその道を突き進もうとしている。

 沢山のボートでこの氷海区域にまで来た温泉開発部の面々を、甲板の上から眺めて、ようやくその感情を理解できた。用意したメガホンを口元へ、その場に居る温泉開発部の面々に語りかける。

 

「諸君、よく集まってくれた。あぁ、各々準備の手は止めなくて良い。そのまま聞いてくれ」

 

 それを聞く温泉開発部の部員達は珍しいと思った。部長は他人を誘導するように話す事はあっても、こうして身内に対して語りかけるような事はした事がなかった。

 不思議と、その声は隅々にまで響く。

 

「今、我々は一つの佳境にいる。キヴォトスにおける未曾有の危機だろう。しかし、我々温泉開発部には差したる問題ではない。我々が目指すのは温泉だ、1人につき一つ温泉。その夢に突き進むのが我々なのだから」

 

 そこで言葉を切り、後ろに視線を向ける。それにつられて部員の目もそちらへ。その先に居るのは、見上げるほどにデカい機械の化け物。

 

「だが、そんな我々にも一つだけ例外が存在する」

 

「それは仲間だ。目の前で苦しむ、助けを乞う仲間を見捨てて目指す夢に、何の価値がある?」

 

「奇しくも、今日は我々温泉開発部が出来た記念日だという。そんなめでたい日に、仲間を見捨てて先人に顔向けができるかな?否!断じて否だ!」

 

「我々は仲間を見捨てない!例えそれが、本人の望みだったとしても、そんな事知ったことではない!彼女もまた、日は浅くとも同じ釜の飯を食べ、共に笑い、時に悔しがり、同じ夢を目指した同志だ!」

 

 そう、カスミは怒っていたのだ。あの馬鹿は、約束を破ったばかりか、退部届も出さずに辞めたのだ。そんなもの無効だ。彼女はこれからも、温泉開発部のメンバーである。

 

「我々が彼女を取り戻した時!今日という記念日を、『仲間を見捨てない』と、世界に突きつけた1日になるだろう!」

 

 そう言葉を切り、拳を握って空に突きつける。その熱は、部員達に周り、この寒い氷海で一際熱い熱気となって空気を揺らす歓声となった。

 満足げに頷き、カスミは甲板を後にしようとするところで予想外の人間に声を掛けられる。

 

「あなた、万魔殿に行ったら活躍するんじゃない?」

 

 その声に顔を向ければ、そこにいたのは腕を組みながら壁に寄りかかる空崎ヒナがいた。

 

「うおうっ!?い、いつからそこに!?」

 

 突如の天敵に飛び上がるカスミ。それを尻目に、なんでもないようにヒナは言った。

 

「あなたが演説を始めた時から。何をするのかと監視してたのよ」

 

 それは杞憂だったけど、と今もまだ歓声が止まない温泉開発部の面々を見ながらヒナは言った。

 

「そちらはそちらで随分とクマが酷いな、寝不足かな?」

 

 怯えながら反撃と言わんばかりにカスミは言い返す。

 

「……そんなところよ。先生に説明されて、納得はできたから今はもう良いわ」

 

 こちらに説明する気のない発言に首を傾げるも、そのままヒナは船の中に行ってしまった。

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