飢えた犬と優しい鳥   作:上条@そぉい!

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第22話

『作戦開始』 

 

 作戦開始は会議を終えてすぐの事だった。既に作戦の主要なメンバーは揃い、それぞれの配置についている。

 内部に侵入するのは、カスミ含めた温泉開発部、サオリ、ユメ、アリス、アル。

 想定される相手の抵抗への迎撃班として、ヒナ、ホシノ、トキ。本来は他にも適任が居たが時間に間に合わず遅れている為このメンバーとなった。

 支援組としてホシノ以外のアビドスメンバー、ゲーム開発部に便利屋68、ヒマリ、リモートでエンジニア部にゲヘナ風紀委員会となっている。支援とは名ばかりで実のところ、戦力外と割り振られた者達だ。戦力が足りないという意味ではない。前にも説明された通り、『フェンリル』の持つ捕食機能は恐ろしく、生半可な者では対峙するだけで神秘を喰われて死に至る可能性もある為だ。

 キヴォトスにおける強者のみが、この戦いで戦場に立つ資格を持つ。しかし、その事実を前に彼女達の目に翳りはない。その場に立てなくとも、戦う事はできる。その事実を『色彩』との戦いで、或いは各々の事件で。皆知っていたからだ。

 作戦開始のカウントダウンが始まる。この結果が吉と出るか、凶と出るか──賽は投げられた。


 

 

 アバンギャルドに乗って生徒達が海に浮かぶ氷の上を進む。その際にも抵抗があるかと思ったが、意外にもそれはなかった。

 遥か天を突く巨体のフェンリルの視線は、前方に位置する船の甲板に佇む生徒達に向けられていた。

 

「うへ〜、睨まれてるねぇ」

 

 ビシビシと伝わるこちらへのプレッシャーを前に、ショットガンのスライドをガシャンと動かしながらホシノは呟く。

 

「予想通り。あの機械の優先目標は神秘。より大きい神秘を優先的に狙う……流石ミレニアム最高の智慧者。予測がドンピシャね」

 

 その呟きを拾うのは、油断なく銃を構え相手の出方を待つヒナ。

 

「まず私が撹乱に動きます。隙あればいつでも」

 

 捕捉されたことを確認し、アビ・エシェフを起動。真上に飛び滞空を維持するトキ。

 

 その戦力を前に、フェンリルの判断は殲滅である。最終的な目標は捕食だが、激しい抵抗を予測しての事だった。

 遥か空、フェンリルの背中から射出される数多のミサイル群が船目掛けて降ってくる。

 

「……ッ!」

 

 あの大きさでは細かい目標などつけられない、そう判断して撹乱を買って出たトキだったが、その見立ては甘いと認識させられた。相手はそんな事を考えない。合理的なまでに無慈悲。数で押し潰しにきたのだ。

 まだ作戦は開始したばかり。ここで躓く訳にはいかない。

 アビ・エシェフを最初からフルスロットルで稼働。空を滑空しながら放たれる弾丸が降り注ぐミサイルを貫くたびに空で花火の如く爆発が連鎖する。

 それでも撃ち漏らしたミサイルはある。

 

「──邪魔」

 

 しかし、それを許さないのは地上のヒナである。両手で抱える愛銃から放たれた濃い神秘を纏う弾丸はミサイルそのものを粉々にして破壊していく。

 

「ミサイルを喰らうのは前ので懲り懲り。退場願うわ」

 

「おじさんの出番はなさそうだねぇ〜」

 

 そんな様子を横目にホシノは至って自然体で前を見据える。今も海面を移動するアバンギャルドを視界に入れ、思う事は一つ。

 

(……今度こそ帰ってきてくださいよ。消えるのはもう無しです)

 

 前と変わらない天真爛漫な先輩に伝わりますように、と願うホシノだった。


 

 

 予定通りフェンリルの外殻にまで到達。ここから温泉開発部の出番である。

 その外殻を見つめるカスミの視線は今までにないほどに真剣である。

 

(やはり普段通りの爆破だけではこの装甲は貫けない、だが今回はいつもとは違うぞ)

 

 彼女が指揮してきた爆破現場は数知れず。こと貫くという事に関して彼女の右に出る者はこのキヴォトスに存在しない。そんな彼女の目が的確に装甲の一番弱い、脆い場所を見抜いた。

 

「今回はミレニアムの技術を提供してもらったまたとない機会だ!いくぞ温泉開発部!いつものように!」

 

 今回の作戦において、アバンギャルドにはヒマリの要望により本来数日は掛かる作業を数十分に短縮した突貫工事的な改修がされている。その名もアバンギャルドくんX。

 名前はイマイチ。しかしその装備はなんとドリル。本来ならもっとコンパクトに衝撃と掘削を熟すものだったが、部長のウタハの『ドリルはデカければデカいほどいい』の一言が原因で限界まで大きくなり、結果それ以外の機能が無くなったという余りにもピーキーな仕様。

 これの為にヒビキ、コトリの両名は作業が終わると共に受け身も取れずに五体を地面に投地した。疲れ果てていたが、その表情は満足げだったという。

 

 そんな代物が、装甲をガリガリと削り出す。火花散る装甲の削り具合を、カスミはじっと見る。これはスピード勝負。最速最短で貫かなくてはならない難題。

 カスミの経験と、ミレニアムの技術。そして温泉開発部の総力を上げた爆破技術だけが可能にできる。中々に貫けない装甲を前に、ジワジワとした焦りが現場を包む。だが、依然としてカスミの目は真剣そのもの。

 ──その瞬間は訪れた。

 

「ここだ!全員ここを爆破しろ!今回ばかりは採算度外視!ありったけの爆弾だ!」

 

 指示を飛ばすと、待っていましたと温泉開発部が、ドリルが削りに削り薄くなった装甲目掛けて爆弾を一斉に投げつけ、爆破した。

 

「ハッーハッハッ!我々に貫けない穴など無い!さぁ行くぞ!」

 

 結果は見ての通り。爆破によって開けられた穴に、アバンギャルドに乗っていた侵入組が突入した。

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