飢えた犬と優しい鳥   作:上条@そぉい!

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これのために最終章見直してまた泣きました。


第23話

『勇者の本質』

 

 内部に侵入したチームがまず体感したのは、体に掛かる負担の重さである。まるで重力を何倍にもしたかのような重さが体全体に伸し掛かる。

 既に、その身に宿る神秘が削られ始めているのだ。その影響が現れた。

 

「グ……ッ」

 

 しかし、それを振り切り走る。目標は決まっている。内部にいるであろう大神リルの居る場所だ。

 事前に調べた限りでは内部にいる事までは分かっても、その詳細まで知る事はできなかった。だが、対抗策はある。

 

「皆こっち!この先にいるよ!」

 

 幾つもの部屋が強引に混ざったかのような迷路となった道の進路を決めるのはユメだ。指針は彼女が感覚的に理解するリルの気配だ。

 

「長い間ずっと一緒にいたからね!あの子の事はなんとなく分かるんだ!」

 

 しかし、そんな彼女らの前に迫るのはロボットの軍団。内部で生み出され続けるロボットはさながらウィルスに反応する白血球か。

 これも想定済み。フェンリルは他の預言者を喰い、その権能もまた継承している。これは『ケセド』だろう。

 

「どけぇ!」

 

 鬼気迫る勢いでサオリが銃で蹴散らし、ユメが盾でその隙をカバーしながら叩き潰す。対応できない遠距離からの攻撃はアルが予め狙撃する。余りにも危険な為先生が同行する事は出来なかったが、その代わりに指揮する立場にいるのがカスミだ。初めての連携だったが、不思議とよく馴染んでいた。

 

「アリス、大丈夫か?」

 

 戦闘が終了し、サオリが走りながらも後ろをついてくるアリスに一言声をかける。

 

「はい!アリスは平気です!」

 

 ここまで戦闘にも参加せず、じっと皆の周りをついていくだけだったアリスには、別の役目が存在する。

 

 ──アリスにはもっとも重要な役割をこなして貰います。

 

 アリスは思い出す。作戦会議での一幕を。


 

「そもそも、大神リルという存在はどうやって成立していたのか。という疑問からこの作戦は始まっています」

 

 全員を前に、ヒマリは教鞭を振るう教師のように言った。

 

「ここまでに揃った情報を元にした予測、というよりもはや限りなく正解に近いと確信していますが、結論から言えば大神リルとは、幼年を迎えた人格と。元からあった人格、つまりユメの2人が互いに観測し合う事で成立した者です」

 

「そのきっかけまでは分かりません。奇跡か、偶然か。しかし、観測し合うことでその均衡を保っていた存在は、片方を切り捨てた事でその均衡が崩れた。結果、抑えられていた機能が目覚めここに至る訳です」

 

 本題はここから。この作戦の肝であり、これが失敗すれば全て台無し。だが、誰かがやらなくてはならない。

 

「自己を喪失し、暴走をしている訳ですが、解決法は至ってシンプル。その喪失した自己を取り戻せばいいだけです」

 

 と、そこでヒマリの目がこちらに向けられた。アリスは首を傾げた。

 

「ここで参考になったのはゲーム開発部とアリスの始まりです。覚えてますか?」

 

「……えっと、わかり、ますけど」

 

 控えめに、呟くようにユズが返事を返す。その後に続くように疑問を返すのはモモイだった。

 

「それが何の解決法になるのさ!私達の時とは状況が違うじゃん!」

 

「あなた達はまだアリスですら無かった頃、アリスに何をしましたか?」

 

 モモイの言葉に、質問を返されゲーム開発部の面々は考える。やがて思いつく。

 

「そういえば作ったゲームをやってもらったことがあった!」

 

「そう、それです。何も無かったアリスの中に、強烈な刺激を与えた。それがアリスのきっかけであり今のアリスを形作るもの。つまり自己を再び獲得できる程の刺激を与えればいいのですよ」

 

「じゃあそのリルって子にもゲームをやらせればいいんだね!」

 

 元気よく言い出すモモイに、何ともいえない苦笑いを溢すヒマリ。

 

「そこまではしなくて大丈夫。必要なのは刺激なのですから、その過程まで真似する必要はありませんよ」

 

 そこまで云々と考え続けていたミドリが、顔を上げる。

 

「つまり、アリスちゃんにその『刺激』を与える役目をしてほしい、って事なんですか?」

 

「ええ、少し強めに起こしてあげてください。随分とお寝坊な子ですから」


 

 

 

 沸き続けるロボットを潰しながら進むチームは、その最深部の手前まで到達。しかし、その足はそこで止まる。何故なら──

 

「流石にすんなりと通してはくれないか」

 

 一際大きい。背中から二尾の蛇を生やす二足歩行の戦車兵器。それが最深部に続く扉を塞ぐ形で立ち塞がっているからだ。

 その特徴からして、『ビナー』『ゲブラ』の融合機体か。

 だが、生徒達の足は前に進む。戦闘が始まる。サオリが、ユメが、アルが、カスミが全力でその兵器を足止めし、その隙を縫う形でアリスが最深部に続く隔壁に触れた。


 

 

 

 アリスは思います。きっと、リルは違う未来を辿るかもしれないアリスだと。あの時、消えるのはアリスでした。でも、ケイがその代わりになりました。きっと、リルも同じ事をしたのですね。

 あの後アリスは考えました。ケイが消えたと知って、私は悲しみました。胸が締め付けられました。声を掛けても返事が返ってこなくて涙が止まりませんでした。

 アリスはあの時が何度もあっても同じ事をした、と思います。でも、それは、残される誰かを悲しませる事だと理解しました。

 アリスは、反省しました。だから、今度は間違えません。

 誰かを助けたい、のままでは『見習い』から卒業できません。だから今度は。

 

 ──リソース領域の拡大。リソース名『フェンリル』の全体リソース999万エクサバイトのデータを確認。

 

 先生と、ゲーム開発部の皆と、キヴォトスの皆に、そして誰かに勇気を与えられるような、ハッピーエンドを目指します!それが勇者の使命です!

 

 ──ハッキング開始。『捕食』によるデータ侵食率45% 現時点でも稼働可能。

 

 ──プロトコルATRAHASIS稼働。

 

 周りのフェンリルの内部素材をハッキング。アリスの手に収まる形で物質生成を開始する。それは不格好で、色も違う。しかし、そのシルエットはその小さな背中に背負う選ばれし者が持つことができる彼女の武器とそっくりで。

 巨大な光の剣・スーパーノヴァを、両手で構えてアリスは、いつものように。

 

「──光よ!」

 

 巨大な光線が、最深部への隔壁を貫き、フェンリル全体にまで大きなダメージが刻まれた。

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