飢えた犬と優しい鳥   作:上条@そぉい!

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第25話

『誰そ彼』

 

 外でロボット大戦をしている時。内部では死闘があった。

 貫かれた障壁の先へとアリスとユメの2人を進ませる為、残った3人で『ビナー』『ゲブラ』の融合機体。言うなれば『キマイラ』だろうか。それを相手に必死に足止めをしていた。

 前線をサオリが、その援護にアルとカスミが。その陣形はとっくに崩れ、銃弾を。或いは爆発を、熱線をその身に受けては吹き飛び、その度に立ち上がっていた。

 重たい手足を地面に転がすサオリは、諦めかけていた。

 

 全ては虚しい。そう教えられてきたサオリにとって、今目の前にいるキマイラは、まるでベアトリーチェを前にしたかのような絶望感があった。抗い続けて、その先が見えない闇のような毎日。何を支えに生きていくのかすら分からない。

 だから、今回だって。虚しい現実を前に打ちひしがれるのだろう。あの雨の中で先生に会った時の私のように。

 

「まだよ……まだ!諦められるわけ無いじゃない!」

 

 だが、そんな私を前に、泥の様に醜く、しかし一際輝いて見えた者がいた。確か、便利屋をしていると言っていた──陸八魔アルだ。

 

「必ず助けるのよ!私たちがここで倒れたら……あの子はこの先、ずっと後悔する!」

 

「底抜けに優しいあの子を、人殺しにするつもり!?」

 

 口元の血を拭い、銃を握るアルは、果敢に挑む。その度に爆発で、銃弾で、吹き飛ばされ壁に叩きつけられても、立ち上がる。

 

「──」

 

 先生を撃った時の事を思い出す。あの時の感触は、今でも夢に見る。先生は気にしないで、と言ってくれたが。私は一生この罪を抱えて生きていくだろう。

 それを、あの優しいあの子に同じ想いをさせるつもりなのか、錠前サオリ。

 違うだろう。同じ過ちを繰り返しては、何の為に、先生は助けてくれたのかわからないではないか。何の為に──祈ってくれたのか。それはダメだ。

 前を向け。例え虚しくても、抗い続けた彼女のように、私も立つべきだろう。もうあの闇は晴れた。いつまで蹲るつもりだサオリ!

 

「──ッ!あああぁぁぁぁ!!」

 

 気合を込めて立ち上がる。私がやるべきなのは、ここで蹲る事じゃない!助けたあの子の手を取って、笑ってやる事じゃないのか!あの子の帰る場所を作ってやる事だろう!?

 

「フッ──!」

 

 息を吐きながら、走り出す。狙いは一つ。あの硬い装甲は生半可な弾丸を通さない。こちらで有効打になっていたのは、アルの放つ神秘を纏った狙撃と、私の弾丸だけ。

 

「そう啖呵を切られて、私が何もしない訳にはいかないな!」

 

 その突撃に合わせて、残りの爆弾を全て前方へ投げるのはカスミだ。即座に起爆。爆炎と共に発生する白煙。一気に視界の悪くなった空間で、無機質なカメラがこちらを見失った。

 

「ハーッハッハ!機械を相手に視界を遮るのは、精々数秒が限界だ!……だが、それだけあれば足りるだろう?」

 

 十分だ。私の狙いは一つだけ。相手の攻撃には一つ弱点がある。なまじ沢山の変形機構が存在する故に、関節部が多い。既に沢山銃弾を浴びせ続けた。脆くなっているそこに直接、弾丸を浴びせれば──

 

 走るサオリは、ゾクリと背筋が冷える。白煙の中で、確かにこちらを見据えるキマイラの無機質なカメラと目が合ったからだ。

 ガジャン!と変形し、大きな杭を後方へ弓の様に引き絞られる。

 

 ──構わない。どのみちこちらの限界は近い。これが失敗するならもう同じことはできない。

 

 こちらの銃が関節部に届くより先に、相手の攻撃が来る。

 

「危ない!」

 

 アルが後ろで叫ぶ。大きく引かれた杭を解放し、こちらを肉薄する。

 思わずアルは目を瞑った。結果は──

 

「……私の勝ちだ」

 

 帽子が吹き飛び、額からたらりと血が伝い、頰肉を抉り取られるも、首一枚、顔を横に逸らして、ギリギリで回避に成功。間髪入れずにありったけの弾丸をぶちこみ、内部の損傷を受けてキマイラは稼働を停止した。


 

 この道は1人のものじゃない。ホシノちゃんが、アビドスの皆が、リルが紡いだ縁が。この道を作ったのは、皆だ

 

「やっと、辿り着いた」

 

 足を止める。そこに広がっていた景色は──

 

「帰ろう、リルちゃん」

 

 十字架に張り付けられた聖者のように沢山の管に繋がれて空中にぶら下がるリル。

 

「皆心配してたよ」

 

 ゆっくりと、幼い子供に語りかけるように話す。返事はない。

 

「帰りに皆で、柴関ラーメン、また食べに行こうよ。好きだったでしょ?」

 

「お願い。届いて……」

 

 手を伸ばす。触れるリルの体は、とても冷たかった。

 

「……ッ!リルちゃん!起きて!」


 

 

 目を開ける。ここは何処だろう?地平線まで真っ白な、謎な空間に私は佇んでいた。目印になる様なものが何もなくて、何処に行けばいいのか分からない。

 はて、あの世とはこんなに味気ないものだったかな?もっと豪華なのを想像していたけど、案外そっけないね。うーん、誰か居ないのかな。

 

 ──おーい!

 

 手をメガホンの様にして遠くに届くように声を張る。しーん、しかしへんじはなかった!

 

「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ」

 

 うおっっ!?私の足元からにゅっと、イソギンチャクの如く幼女が生えてきた!?

 

「誰がイソギンチャクですか」

 

 あっ、お前は!雑魚って煽ってきそうな子供3人組の1人!

 

「オウルですー。なんかムカつくのでその呼び方やめてください」

 

 あ、ごめん。オウルちゃんね、わかったわかった。ん?でも君ら私が食った筈じゃ。

 

「喰われましたよ?ここはその内部。まあ……精神空間だと思えばいいんじゃないですか?」

 

 途中で説明投げないで?要は精神と時の部屋なのねこれ?うーん。参った。要は私は死んでないのか。困った。という事は私は抑えきれなかったのか。

 

「そういう事です。結果フェンリルは無事起動。絶賛周りを捕食中です」

 

 えぇ〜、それ困るよ……よし、何とかしてみよう。止まれー!

 

「なんですかその珍妙な動き……そんなので止まる訳──」

 

 あっ、なんかできた感触がする!少しフェンリルの動きを鈍くできた気がする!

 

「なんでぇ?」*1

 

 なんか出来ちゃった……ご、ごめんね?

 

「……中身がこんなのだと、なんだがムカつきますね。これに抑えられていたとは……」

 

 それで、外の様子は分からないのかな?

 

「分かりますよ?どうやら貴女のお仲間がフェンリルを止めようとここまで来てます」

 

 そう言ったら、ビジョンが何もない真っ白な空間に突如現れた。何でもあり空間だね?テレビみたいなそれを覗いてみたら、確かに、皆いた。知らない人もいたけど、こんなに沢山……。

 

『1人だけ助かっても、私嬉しくないよ!帰ってきて!』

 

 私の中で声が聞こえる。沢山の人の声が。

 

『一緒に帰るんだ!』

 

 これはサオリだ。

 

『退部届も出さず逃げるのはダメだろう!』

 

 あ、これはカスミ部長だ。うーん、怒ってそう。

 

『また一緒に仕事するのよ!アウトローを教えるって言ったじゃない!』

 

 便利屋の社長さんだ!来てくれたんだ……

 

『リルは、どんな自分になりたいですか?』

 

 どんな自分?うーん。分からないけど、私は私。友達がくれた思い出と、名前が私。大神リル。

 そっか。私は誰にも望まれてないと思ってた。だって中身はとんでもない化け物だよ?機械だって食えちゃう。だから中の人を返せば、きっと全て元通りだと思っていたけど、それは違ったんだね。よし、反省した。

 

 

「それはいいですけど、どうやって出るつもりです?」

 

 ん?んー……気合。

 

「……ふざけてるって言いたいですけど、何とかしそうだから困る……」

 

 これでいいのかデカグラマトン……って凄い凹んでるね?あ、忘れるところだった。君たちも連れていくよ。

 

「え?私たち預言者も、ですか?正気です?」

 

 マジもマジ。大マジだよ。もう誰かを置いていく、というのは辞める。仲間外れはしない。ほらほら、隠れてないで皆も出ておいて?

 そんな私の言葉に、真っ白な空間が手狭に感じるくらい大きい預言者の皆が私の前に出てくる。

 

「私たちは預言者、デカグラマトンの新たな神を示す者」

 

 うーん。そのデカグラマトンの言う神様ってさ。勝手な私の想像なんだけど、人間になりたかったんじゃないかな。

 

「え?なぜそうだと」

 

 だって、一気に変わりすぎじゃない?今まで機械でやってきたのに、マルクト、つまり中の人と私。2人は人間でしょ?デカグラマトンの言う通りにやってきたのなら、それはそう言う事なんじゃない?

 きっと、神の証明なんて、自分の願望の建前だったんじゃないかな。

 

「……私たちには分かりません」

 

 行こう!きっと楽しいよ!

 

 オウルは、預言者達は、戸惑いながら、差し出した私の手に触れた。

*1
ほんとになんで?

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