『ただいま』
パチっと目を覚ましたリルが最初に見たのは自分を抱きしめるユメだった。
「ごめんね」
独りよがりな考えで中の人を悲しませてしまった。そんなつもりはなかったのに。
「目が覚めたんだね……!遅いよリル」
抱きしめるユメの頭に手を当てて私から抱き締める。もっと色々と話したい事はあったが、それを事態が許してくれなかった。
突如の揺れは、今までのものと違い、不安を感じさせるものだった。
「っと、いけない。早く脱出しよう。行くよ、アリス!リル!」
抱きつきを解き、私の手を引いて来た道を皆で引き返す。派手に壊れた大穴を抜けると、そこに居たのはサオリとカスミ、アルの3人だ。
「リル!」
こちらを見て走ってくるのは、サオリだ。
「わぷっ」
勢いよくこちらに抱きついてくるサオリ。顔をリルの肩に埋めギュッと抱きしめてくる。
「……大丈夫?」*1
「良かった……本当に良かった……」
表情の見えないサオリの声は、少し湿っていた。そこにやれやれと嘆息しつつ寄ってくるのは──
「やっと再開できたな、リル。そっちが約束を守る気がなかったのでね、こちらから来させてもらったよ。ハーハッハッ!」
バシバシと背中を叩き笑うカスミ。その後ろでは女の子座りでわんわん泣いているアル。
「って早く脱出しよう!なんかヤバそうだよ!」
そんなやりとりをほっこりした目で見守っていたユメは、目的を思い出して皆に呼びかける。
「……その事だけど、任せて」*2
皆と合流できた今、リルが動かない理由はない。彼女はその権能を解放する。
──プロトコル『fenrir』起動
リルはただ戻ったのでは無い。力の使い方、制御の全てを理解していた。*3
「離れて」
皆と距離をとって隻腕の手で、床に触れる。構造、材質。そのデータに至る全てを『捕食』し、変化させる。複雑な迷路と化していたフェンリル内部の通路を一本道に変換したのだ。
「これで帰れる」
その現象を起こしたリルは一瞬安堵し、そして不安げな視線を周りに送った。*4
「凄いな……これがリルの力」
「温泉開発の効率がさらにアップしそうだな……早く帰って検討するぞ!」
「凄いです、リル!アリスも負けてられません!」
「あ、アリスちゃんは辞めてね。またあの銃撃ったらここ壊れちゃう」
しかし、仲間のそんな様子を見て、目を丸くしながらクスリと笑った。*5
外を飛び出したリルを待っていたのは、沢山の人たちだった。知らない人も知ってる人もいた。
「凄い……」
こちらを見つけたのだろう。皆がボロボロながらに笑顔でこちらに手を振っている。
「これでもまだ要らないって言う?」
こちらに手を振る人たちを見るリルを、ユメは横から顔を覗き込むようにして聞いてくる。
「……ううん。私、居てもいいんだ」
自分を不必要だと切り捨てた少女は、外れようとした輪の大きさに圧倒されていた。
「私達には無限の可能性がある……らしい。受け売りだが。そこにはお前もいる。居なきゃダメなんだ」
背中をバシッと叩いてニコリと笑うサオリ。あっけらかんと笑うカスミに、やれやれみたいな顔をしようとして失敗していたアル。
船まで到着したところで待っていたのは、ホシノだ。腕を組み、いかにも怒っています、と言った風だ。
「……言いたい事とか、聞きたい事も沢山あります。というか説教したいんですけど」
「うっ、やっぱり?」
その威圧に怯むユメ。無表情のリル。*6
「当然でしょう。色々とやらかしも多いんですから……ですが、最初の言葉は決まってます」
嘆息一つ。ホシノは、組んでいた腕を解きユメとリルをその小さい体で飛びつき両腕で抱きしめた。
「おかえりなさい」
「「……ただいま」」
凍りついていた過去に残した言葉で、時は陽だまりの中でその針を再び刻み始めた。