『不思議なヤツ』
路地裏、ブラックマーケットの一角。日の差し込まないビルとビルの隙間を縫うように歩く。歩きながら考える事は一つ。今日出会った少女の事だ。
「気配は空崎ヒナのような強者特有のものだったが……」
今日の依頼は護衛だった。要人の護衛だが、間違いなく襲撃があると予想されており、戦闘は必至。危ない依頼故に、私のような戦闘を得意とする者しか受けない。だから私1人での護衛だと思っていた。しかし。
「──同業者?」
依頼内容に従い、要人を集合地点で待っていた時、背後から声を掛けられ初めて自分の背後に誰かいる事を知った。無警戒な背中を見せたことによる緊張、思わず戦闘態勢に入りそうになりながらも振り返る。
(馬鹿な……私があっさりと背後を……!?気配はなかったはず) *1
まず目を引く緑色の手術衣、黒髪に混じる水色の髪が目立つ少女。お尋ね者の自分からしても目立つ、特異な姿だった。頭からつま先まで用心深く観察する。声を掛けても無言でいる事に疑問を持ったのだろう。
「違う?」
無表情のまま、そう問いかける。背中に嫌な汗を感じながらも慌てて私は返事を返した。
「合っている。ブラックマーケットからの紹介で来た錠前サオリだ……お前も?」
先程同業者かと問いかけられた事からして、この少女も私と同じ依頼で来たのだろう。そう思って聞いてみれば、頷きが返ってくる。
なるほど、1人でやる事になると思っていたが人がいると助かる。お互いをカバーしあえるからな。
だが、私はあまり世間話を自分から振れるような器用さはない。相手もそのようで、それからの私達の会話はなかった。時間が来る。要人の犬獣人が来て、依頼は始まった。
予定通りのルートを通り、予め警戒ポイントとして下見をしていた視界の悪い廃材置き場へ足を踏み入れる。何故こんなところを通るのか、と首を傾げたがどうやら取引現場がここらしい。なるほど、ここなら人目はつかない。
視界が悪いだけに、待ち伏せ、トラップ、考えられる手段は幾らでもある。ここからが依頼の本番。いかにして護衛するか。そして、その時は訪れる。
薄暗い廃材置き場の奥でキラリと一瞬の光を目の端で捉え、要人を押し倒しながら自分も横に倒れる。
「伏せろ!狙撃だ!」
言うよりも先に銃声が響く。一筋の光線となって飛んだ弾丸は、無防備な少女の頭に直撃、勢いのまま廃材に体ごと吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
何故避けなかった!?*2あからさまな狙撃だったはず。いや、何か目的があったのか……?
どんな思惑があったのか。それを推し量ることはできなかった。状況はそんな思考を他所に加速する。狙撃を起点として、周囲の廃材からでヘルメットを被った少女達が姿を現す。既に銃口はこちらに向けられている。
「動くんじゃねぇ!そいつが持ってる荷物をよこしな!」
不味いな、やはり囲まれたか。最初に護衛を1人やられたのが痛い。本来ならお互いカバーし合いながら突破する予定だった。私の背後にいる要人にそれを要求するのは無理だし、1人では少し危ないかもしれない。だが
「……嫌だと言ったら?」
無理かどうかではなく、これは依頼で、私はそれを受けた。ならば遂行する義務がある。ならばやるしかない。
「だったらちょっと痛い目に遭ってもらうだけさ、やっちまいな!」
お互いの銃口から閃光が迸った。要人を廃材の裏に隠し、敢えて身を晒しながらヘルメット集団と撃ち合う。幾度となく弾が直撃し、痛みを堪えながら反撃の弾丸を浴びせていく。
「グッ……!」
痛みに呻くが、事態はそれで解決などしない。今はひたすらに動くしかない。だが、この極限の状況下で普段の判断力はなく、無防備な瞬間を狙われた。
(しまった……ッ!?)
避けられない状況に思わず身が強張る。しかし、予想された痛みは訪れる事はなかった。
「えいっ!」
横から飛んできた少女がこちらを狙っていたヘルメットの1人を廃材から取ってきたのか、鋼材の板を盾にしてタックルで引き倒したからだ。
「大丈夫?丁度いいの探してたら遅れちゃった」
少女の構える盾にヘルメット集団の銃弾が浴びせられながらもこちらに寄り、こちらを心配してくれていた。私は少女のお陰で態勢は既に立て直し、呼吸を整える余裕ができた。
改めて少女を見る。先ほどの無表情とは打って変わって表情豊かな顔で雰囲気はガラリと変わっていた。よく見れば髪も水色が増えているような気がする。
「ああ、助かった。2人でならこの数もなんとかなるだろう」
「じゃあ私が前に出るね。愛用してた盾じゃないから勝手が違うけど……まあ、なんとかなるでしょ!」
そこからの戦いは一方的だった。私が敵を撃ち、私の隙を少女が守りながら盾で殴り倒す。その全てが片付いたのは数分だった。
「……終わりか」
敵の増援がない事を確認して、構えていた銃を下ろす。少女も、ボロボロに歪んで穴だらけな鋼材の板をそこらに捨てて伸びをする。
「なんとかなったねー」
にっこりとこちらに微笑むと、思い出したようにハッとする少女。何かまだあっただろうか?
「もう
「時間?何の事だ?」
「ううん、こっちの話。ねぇ、この話は内緒にしてくれないかな?お願い」
「何の事か分からないが……分かった、助けてもらった恩もある。約束しよう」
そう応えれば、嬉しそうに頷いて目を閉じる少女。再び目を開けた時、先ほどまでの雰囲気はなく、出会った時の無表情に戻っていた。
「……帰る」
周囲を一瞥すると、少女はこちらに背を向けて帰ってしまった。*3
「……何だったのか」
チグハグで、コロコロと変わる雰囲気に困惑しながらも依頼の達成を報告し、私は報酬を手に入れた。
後から聞いた話だが、彼女に名前はなく、ブラックマーケットの仕事斡旋人は彼女を『野良犬』と呼んでいるらしい。
野良犬、子供の頃の
???「仕事の時間だ、621」