アイドルとクズと音楽と   作:はないちもんめ

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相変わらずの急展開


2 正直者の嘘は下手

「はい、これ借りてた服。ありがとね。当然洗ってるから」

 

「ほいよ。前にも言ったが、礼ならいらねーよ」

 

「そんな訳にはいかないわよ。礼儀よ、礼儀」

 

「律儀なもんだな」

 

丈二はかのんから渡された服を肩をすくめながら受け取る。そのまま捨てられてもおかしくはないと思っていたのだが、以前の言葉通り連絡してきたかのんに内心驚いていた。

 

「それと勘違いしないで欲しいんだけど、アンタとの関係はこれで終わり。学校であってもこの関係を持ち出してこないでよね」

 

「安心しろ、そのくらいの分別はある」

 

本当かなと言いたげにかのんは丈二をジト目で見るが、証明しようのないことなので、ここは信じるしかない。

 

「話がそれだけならもう行って良いか?これからバイトの面接して、上手くいったらそのまま働くんだよ」

 

「バイト?アンタ厳密にはまだ中学生でしょ?」

 

「何とか考慮してもらったんだよ。一人暮らしには金がかかるんだ」

 

「じゃあ、一人暮らしやめなさいよ」

 

「親の転勤の関係で家が遠くなったんだよ。毎日ここまで来るのもダルいし、折角受かった高校を拒否るのもやだし、妥協点だな。悪いことはしないって約束でさせてもらってるんだよ」

 

「入学前に破ってるじゃない、約束…」

 

かのんは頬をぴくぴくと引き攣らせる。この男、自分の前で堂々と良くそんな発言ができるものだ。

 

「やってしまったことはしょうがないだろ。バレなきゃ良いんだよ」

 

「アンタは良いわよね。こっちはまだ座るだけでも痛いってのに…」

 

顔を赤くしてかのんは文句を言う。コイツ以外に言うことができない文句だから余計にタチが悪い。痛くてもそれを共感してもらうことすらできない。

 

「そうなのか?女は大変だな」

 

「これだから男はダメなのよ。ヤルだけヤッて無責任なんだから」

 

「おい、誤解を招く言い方はやめろ」

 

「誤解どころか事実以外の何物でもないでしょうが!」

 

額に青筋を浮かべるかのんに丈二は背中に汗をかく。この話は自分の劣勢が始まる前から決まっており、誤り続けるしかない事を悟っている。だからこそ、丈二にできるのは逃げるか話を変えることしかない。

 

「そ、そうだな。あ、そろそろバイトの面接に行かないと!じゃあな、縁があればまた会おう!」

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

まだまだ文句の言い足りないかのんは丈二の背中に声をかけるが、反応が返ってくることもなくそのまま逃亡してしまう。

 

あの男…!とかのんが内心憤っているとそんなかのんに声が届いた。

 

「かのんちゃん、こんな所で何やってるの?」

 

背中からかけられた声にかのんはビクッと反応する。この声の主は自分が良く知る人物であり、話しかけられること自体は一向に構わないのだが如何せんタイミングが悪すぎた。

 

振り返ったかのんは予想通りの白色の髪の可愛らしい顔の女の子にぎこちなくならないように答える。

 

「ち、ちーちゃん久しぶり!ど、どうしたのこんな所で」

 

「そりゃ、こっちの台詞だよ。ちょっと買い物に出かけたらかのんちゃんがいるんだもん。それに見たことない男の人に何か渡してたし。誰なのあの人?」

 

見られてたのか…!?とかのんは背中に冷や汗をかくがそれを表情に出さないようにしながら言葉を続ける。

 

「さ、さあ、私もあの人が落とした物を渡しただけだし。は、話を聞いてたなら分かるでしょ?」

 

「いや、少し離れた場所にいたから何を話してたかまでは聞こえてないよ」

 

よし、なら最悪の事態は免れた!かのんは見えないように拳をギュッと握った。

 

「でも、落とした物を渡しただけなの?割と話してたように見えたけど」

 

「い、いやー、どうもあの人も来年私たちと同じ高校に行くみたい何だよね。それで奇遇だなって話しちゃってさ」

 

「へー、そうなんだ。でも何で落とし物を渡した人とそんな話にまで発展するの?」

 

マズイ、ボロを出してしかいない気がする。真面目なかのんは嘘をつくことに慣れていない。何とか取り繕おうとしているのだが、その度に何か別の綻びが現れ続けている。

 

「い、良いじゃないそんな話は!そ、それよりも久しぶりね、ちーちゃん!元気だった?」

 

「そんな久しぶりでもないと思うんだけど…何かかのんちゃん変じゃない?」

 

「へ、変じゃないわよ!全然、全く、金輪際変じゃないわよ!」

 

「本当にぃ?」

 

ジト目で自分を見てくる親友にかのんは内心泣きたくなってくる。何故、自分がこんな風に追い詰められねばならないのだろうか。全部、アイツのせいだ…かのんは丈二に全部の責任をなすりつけた。実際、間違ってはいない。

 

「ほ、本当だって。そ、それよりもどっかでお茶しない!?」

 

そうだ、そうしようと訝しる千砂都を無理矢理自宅のカフェへと連行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か本当にここ最近のかのんちゃん変だよ」

 

「へ、変って何が?」

 

「全部だよ。あんな嘘つくのもらしくないしさ」

 

残念ながら場所を移動しても親友の話の中身は更新されなかった。いや、場所が自宅に変わった分、余計に不味くなったかもしれない。流石に千砂都もその辺は配慮してくれているようでかなり声を顰めての話にはなっているが。

 

「い、いや、そんなこと無いんじゃないかな…?」

 

「そんなことあるよ。音楽科に落ちた影響ってわけでもなさそうだし…どうしたの?」

 

原因の原因を辿っていけば、そこに辿り着くのだが確かに直接的な影響はない。

 

親友が心の底から心配してくれているのは嬉しいのだが、かのんとしては少し、いや、かなり困る。

 

「どうしたって、いや、そのね…」

 

『いやー、実はね。ちょっとした過ちでさー。ワンナイトラブってやつやっちゃったんだよね』

 

などと言えるわけが無い!

 

真っ赤な顔でかのんはダンと手を机に叩きつけた。

 

「おわ!?どうしたの!?」

 

「あ、いや、何でも無いのよ!?あ、あはは…」

 

突然の奇行に千砂都は驚きの声をあげるが、上手く咳払いをして話を続ける。

 

「と、とにかく、私は何もないから!音楽科に落ちたことはショックだけど、これからは普通科で頑張って…」

 

「店長。先程依頼された物買ってきましたけど、何処に置いておけ…ば…」

 

いきなり店に入ってきた男を見てかのんの時が止まった。それに合わせて、店に入ってきた男の動きも止まった。その様子を千砂都は不思議そうに見るが、かのんの母親はそんな様子に気付かないのか気にせず話しかける。

 

「あら、お疲れ様。テーブルの上に置いておいて。あ、紹介するわね丈二君。ここにいるのが上の娘のかのん。前に座っているのが友達の千砂都ちゃんよ。」

 

「あ、どっかで見た人だと思ったらさっきかのんちゃんが落とし物渡してた人じゃない?」

 

「あら、そうなの?丈二君は今日からウチでバイトする事になったんだけど奇遇ね」

 

「え、そうなの?」

 

「そうなの?」

 

落としたはずの丈二すら疑問の声をあげることで千砂都も疑問符をあげる。当然といえば当然だ。先程の話はかのんの創作であり、それをかのんから聞いていない丈二が知っている筈がない。

 

「そ、そうなのよ!い、嫌ね忘れちゃったのアンタ!?」

 

これは不味いと考えたかのんは瞬時に丈二へと近づいて目線を合わせる。勿論、話を合わせろ!という意図を込めてのことである。

 

「あ、ああ、そうね。そんなこともあったかもしれないな、うん」

 

「さっきのことを忘れるもんなの?」

 

「きっと面接の緊張ね、うん!間違いないわ!」

 

「いや、そうなんだよ!意外と緊張することあるからな俺!」

 

「て言うか二人とも距離近くない?」

 

「そうねぇ。かのんはむしろ、人見知りの方なのに」

 

「いやいや、全力で人見知りしてるわよ!!人見知りし過ぎてゲシュタルト崩壊してるくらいに!」

 

「何言ってんのお前」

 

話を合わせようとしている丈二すらかのんの話がぶっ飛び過ぎていて合わせられない。一言で言えばテンパっている。

 

ダメだこいつ、使い物にならないと諦めた丈二はかのんがした言い訳を予想して、適当に作り話をした。

 

「あー、俺ってちょっと他人との距離がバグってる所があるんですよ。それで少し話した相手とも友達みたいに接しちゃって。んで、落とした荷物ってのがこれですね。引越し先に持ってく服を落としちゃって」

 

そう言って丈二がバックから出した服にかのんの母親が不思議そうに首を傾げる。

 

「あら?その服ってかのんが友達から借りたって言って洗ってた服に似てるわね」

 

「え?そうなんですか?何でかのんちゃんが丈二君の服を洗って…?」

 

かのんの母親と千砂都は話の奇妙さに疑いを持っているが、丈二はそれどころではなかった。

 

こいつ、自宅で俺の服洗濯したのか…!?

 

衝撃である。本当に隠す気あるのかこいつ?と丈二はドン引きしながらかのんを見るが、本人は視線を合わせずに明後日の方向を見ている。本人もミスをしたと思ってはいるのだが、まさかこんな形で再開するとは思ってはいなかったのだ。

 

3人の目線がかのんに集中する。かのんは背中どころか全身に汗をかきながら、言葉を探すが、何も思いつかない。この状況を真実を述べる以外に何か挽回できる手段があるかないか必死に探した。

 

「じ、実は私たち…」

 

「「「実は?」」」

 

「つ、付き合ってるのよ!」

 

「「「……え?」」」

 

かのんのカミングアウトに3人の疑問の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 




此処まで音楽が出てこない…
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