アイドルとクズと音楽と   作:はないちもんめ

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3 ちょっとした約束

「いや、気持ちはわかるけどさあ…あの時はああ言うしかないだろ?かのんも同意したじゃん」

 

「アンタの話の内容を知らなかったからね」

 

かのんはキレイな青筋を立てながら、笑顔で丈二に向き合う。笑顔とは威嚇の一種らしい。どうでも良い情報が丈二の頭を駆け巡った。

 

このオレンジ髪の女の子の機嫌を直す方法を考えながら、丈二は先ほどの出来事を思い出す。しかし、妙なことになったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜一時間前〜

 

「あら、かのん、アンタ付き合ってる人いたのね」

 

「嫌々、そんな簡単に受け入れないでくださいよおばさん!本当なのかのんちゃん!?」

 

「ほ、本当よ!ねぇ、丈二!?」

 

「ねぇってお前…」

 

大体の話には合わせる気だった丈二も即答はできかねる話だった。勝手に自爆して追い詰められているように焦っているかのんだが、別に付き合ってる体にしなくとも、今の展開なら誤魔化す余地はいくらでもあった。

 

にも関わらず、態々より誤解を招くような展開にしてしまったかのんには戸惑いしかない。この後の展開とか考えているのだろうか?いないんだろうな。

 

完全にパニクっているかのんを見ればそのくらいのことはわかる。

 

「あー、すみません、ちょっと二人で話させてください」

 

そう言って即座にかのんの手を掴むと、丈二は母親と千砂都に聞こえないように場所を移動させると小声で話しかける。

 

「おいぃぃぃぃぃ!!!何言ってんだテメエはよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「しょ、しょうがないでしょ!避けられない事態よ!良いから話を合わせなさい!」

 

「横道に逸れる方法は幾らでもあったわ!勝手に高速乗って速度制限無視して、突っ走ってんのはテメェだろ!」

 

「アンタ男でしょ!?男なら乗った車を途中下車しようとしないでよ!」

 

「そんな暴走車に乗った覚えねぇんだよ!」

 

だが、とはいえこうなった元々の原因を辿れば丈二に行き当たる。原因が無いとはとてもではないが、言える状況ではない。

 

この言い合いを続ければ、そこに辿り着くのが明白である丈二は諦めてこの現実を受け止めて、建設的な話を始める。

 

「お前…いや、かのんで良いか?かのんが良いなら別に付き合うことは良い。特定の相手が現在いるわけでもないしな。それでかのんは二人に何か突っ込まれた時の話は考えてるのか?」

 

かのんは無言で目を背ける。勘づいてはいたが、予想通りの反応だ。

 

「考えてないなら俺の話に合わせろ。適当なストーリーをでっち上げる。色々ツッコミどころはあるだろうが、かのんが同意してくれなきゃ話が進まん、それは良いな?」

 

かのんは無言で頷く。同意は取れたようだ。

 

「よし、なら行くぞ」

 

丈二はかのんの手を掴む。予想外の行動に驚いているようだが、付き合っているなら手を繋ぐくらい当たり前だ。

 

「いやー、すいません。隠すはずだったのに急に話されて戸惑っちゃって」

 

「それは良いんだけど…付き合ったなんてかのんちゃんから聞いたことないし、そもそも丈二君のこと自体聞いた覚えないんだけど、どこで知り合ったの?」

 

「高校の入試の結果発表の時だよ。落ち込んでるかのんが目に入って、放っておけないなって思って声をかけたんだ」

 

かのんが手を強く握りしめる。とても痛い。気持ちは分かるが落ち着いて欲しい。ここは青筋を立てる場面ではない。赤面する場面だ。

 

「そうだったの…ありがとうね丈二君。かのんが迷惑かけちゃって」

 

「気にしないでください。落ち込んでる女の子を助けるなんて男の義務ですよ」

 

握りしめた手からギチギチと音が聞こえてきそうだ。話が終わる前にかのんに手を折られるかもしれない。

 

「確かに音楽科に落ちたのに、かのんちゃんそこまで落ち込んでる様子がなかったけど…丈二君のおかげだったの?」

 

「自分で言うのも何だが、そうなんだろうな」

 

これに関しては間違いではない。落ち込む暇がないほどの緊急事態が発生したせいだと思われるが、かのんの落ち込みを回避したというのは事実だ。

 

だから、かのんはそんな目で人のことを見るのは止めなさい。明らかに彼氏見る目じゃないよ、人殺しの目だよ。

 

「それで付き合う事になった訳ね。じゃあ、服もその時に借りたのかしら?」

 

「ええ。二人で気晴らししている時に汚しちゃいまして、自分の家から服を取ってきてかのんさんに貸したんです」

 

「気晴らし…?」

 

遂に怨嗟のような声がかのんの口から漏れ始める。言いたいことは何となく分かるが、落ち着きなさい。今、お前が同意しなきゃ話が纏まらないどころか俺が捕まる。

 

「あらあら、本当に迷惑かけちゃったわねぇ。今度賄いを奮発しておくわ」

 

「要らないから」

 

丈二が答える前にかのんが即座に反応する。有り難く貰っておきたかった丈二としては残念だが、下手なことを言えばかのんに殺される気しかしないので黙っておくことにした。

 

ある程度丈二の作り話のキリがついたと判断したかのんは苛立ちをぶつけるかのように、丈二を指差して母親に詰め寄る。

 

「大体何でコイツを雇うことにしたの!?まだ厳密には中学生よ!?」

 

遂にコイツ呼びになった。どうやら、先ほどの話で丈二の株価はかのんの中で更に下落したらしい。

 

「んー、そうなんだけど困ってるみたいだったし給料は厳密には高校生になってから払うってことにしたから、厳密にはボランティアよ。誠実そうな人だから大丈夫かなって。私は男を見る目あるのよ」

 

「誠実!!!???」

 

信じられないものを見る目でかのんは母親を見た。誠実とは真逆に位置する人間をまさかこのように呼称するとは。

 

「節穴にも程があんでしょ!何処見てんのよ!」

 

「こら、かのん。幾ら彼氏だからって言っていいことと悪いことがあるわよ?」

 

丈二は隣でかのんの中のナニカが切れる予感を聞いた。危ないと感じた丈二は思わずかのんの口を塞いだ。

 

「おいおい、かのん落ち着けよ。交際がバレたからって照れるなって」

 

「照れてなんかいないわよ!」

 

「まあまあ、落ち着けって!後、2時間したらバイト終わるからその後今度のデートの話でもしよう!な!」

 

何とかかのんを宥めている間に、別のお客さんが来たので話はそこで終わりとなった。

 

丈二はバイトをしながらも、かのんの怒りの視線を感じ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大体さあ、かのんが付き合ってるなんて言ったからこんなことになったんだろ?」

 

バイトが終わった後、かのんと丈二は確実に誰にも聞かれない場所ということで丈二の部屋に上がり込んで先ほどの話を振り返っていた。

 

「う…」

 

自覚はあったのか黙り込むかのん。

 

そもそもかのんがそんなことを言わなければ、丈二もあんな作り話を言わずに済んだのだ。

 

「不器用過ぎんだよ、オメーは」

 

丈二はため息を吐きながら言葉を告げた。この様子では、歌が歌えないというのもそこら辺が関係しているのだろう。

 

「人前じゃ歌えないんだっけ?」

 

以前に聞いた話を確認するかの呟く丈二にかのんは暫し沈黙していたが、静かに首肯した。

 

「とりあえず、試しにこの場で歌ってみろよ」

 

「だから人前じゃ…」

 

「ここなら人前じゃないだろ」

 

「アンタがいるじゃない」

 

「お前、ヤルまでいった相手を今更気にすんなよ…」

 

真っ赤な顔で座布団を投げられた。今更照れてもしょうがなかろうに。

 

「お前は他人を気にし過ぎなんだよ」

 

丈二からすれば他人など所詮他人だ。気にしすぎるだけ損だと思っている。

 

「心臓が3個くらいありそうなアンタならそう言うだろうけど…」

 

「どんなハドラー様だ俺は」

 

「何言ってんの?」

 

どうやら、ジャンプネタは通用しないらしい。

 

「いや、それは良い。良いから歌えって。何だったら反対向いててやるから」

 

ほら、と言って丈二は本当に反対を向いて後は何も言葉を発しない。恐らく、かのんが歌うのを待っているのだろう。

 

それでもかのんは歌えない。人前だと考えるとどうしても震えが止まらなくなる。丈二の背中を見ながらかのんは俯く。

 

「処女を奪った詫びだ」

 

丈二は反対方向を向きながら続ける。

 

「俺がお前が人前で歌えるように協力する」

 

「…だから、無理だって」

 

直せるのならとっくに直している。それでも直らないからずっと苦悩しているのだ。

 

「お前が信じなくても俺がお前を信じてやるよ。何たって俺はお前のファンの第一号だ」

 

「私のファン?」

 

俯いていたかのんが漸く顔を上げた。

 

「ああ。誇れよ?俺は誰かのファンになったのは初めてだぞ」

 

「ファンになったからって私は歌えないかもしれないよ」

 

「かもな。まあ、別にそれは良いさ。どうせ部活に入る予定もないバイト生活の暇人だ」

 

「知らないだけで私より上手い人は幾らでもいるわよ」

 

「かもな。でも、お前が良いんだ」

 

その言葉にかのんはフッと笑う。悟ってしまった。この男は自分が何を言おうと歌うまで待つつもりなのだろう。

 

「ばーか」

 

でも、そんな馬鹿の側にいるのは嫌いじゃない。

 

気付くとかのんの震えは収まっていた。考えてみるまでもない。

 

こんな自分を好き放題にしたクソみたいな男に気を遣う何て馬鹿らしいにも程がある。

 

静かに、かのんは歌い出す。入試の時にも歌えなかった歌を自分のファンと名乗る彼氏に。

 

その歌声は間違いなく、これまで歌ってきた中でも会心の一曲だった。

 

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