STAR WARS 〜孤独の艦隊〜 作:とある惑星の住人
なにも存在しない宇宙空間。無限の闇は、幾重にも重なったカーテンとして常に自分たちをドーム状に包み込み、また、そのカーテンの切れ目から差し込む光のような何十億もの恒星は、この銀河系の惑星の数と同じだけの数の星座を形作る。その眺めは、ナブーの牧歌的な優しい景観や、荘厳なエキュメノポリスが広がるコルサントなどとはまた違った美しさ、そして幾分かの恐ろしさを孕んでいた。
突如、その闇が24機のスターファイターの亜光速エンジンの光に切り裂かれた。とてつもない速さで、ファイターたちはアクロバティックな飛行をこなしてゆく。まるで震盪ミサイルの群れに見えるそれらが過ぎ行くと、多数の宇宙艦艇が堂々と姿を現した。その姿は、群れをなしたランコアか、はたまたラスターと例えるべきか。自分たちの進行を妨げるものなどこの世に存在しないとでも言いたげである。
『こちら、オーレク・リーダー。オーレク中隊全機、異常なし』
スターファイターの群れの先頭をゆくのは、新共和国最新鋭宇宙戦闘機であるT-85 Xウィング12機によって構成されたオーレク中隊だ。続けて、もう一つの中隊の無線が旗艦に入ってくる。
『こちら、ベッシュ・リーダー。中隊全機、異常なし』
演習中の2個中隊全機異常なし。それを聞いて、人間の司令官、エルマー・ダッチはひとまず安心した。
続いて、彼は戦闘機監視コンソールから艦船監視コンソールへと視線を移す。すぐに、艦隊に所属する各艦から無線が入ってきた。
『こちら、「フォーティチュード」。異常なし』
『「レジリエンス」、異常なし』
『「イモータル」、異常なし』
『「リバティー・アンカー」、異常なし』
『「ディフェンダー」、異常なし』
「本艦、『アサルター』も、異常ありません」
それらを聞いた後、エルマーは肩の力を抜き、無線を使って艦隊全域に放送を行った。
「さて、我らが『便利屋艦隊』に所属する諸君、アンシオンでの紛争調停任務、ご苦労だった。その後の抜き打ち訓練を含め一切の損害がなかったのは実に素晴らしい。これにて訓練を終了。ファイターは母艦に着艦せよ」
巨大な艦船と、その周りをマイノックのように飛行するスターファイターの群れ。この艦隊の正式名称は『共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊』、新共和国防衛艦隊の中でも最大規模の独立部隊だ。
この艦隊は、
スターホーク級バトルシップ『アサルター』
ネビュロンCエスコート・フリゲート『フォーティチュード』
フリーヴァージリア級バンカーバスター『レジリエンス』
CR90コルベット『イモータル』、『リバティー・アンカー』『ディフェンダー』
の計6隻の艦船、そして、
T-85Xウィング『オーレク』、『ベッシュ』、『クレシュ』中隊
BTA-NR2 Yウィング『チェレク』中隊
RZ-2 Aウィング『ドーン』、『エスク』中隊
Bウィングマーク2『エンス』中隊
の計7個中隊全72機からなるスターファイター飛行団を有する大部隊だ。また、それに付随して、約41000名の乗員が活動している。
旧共和国のときと比べ、軍備縮小が進んだ新共和国防衛艦隊。その中でも、この艦隊の重装備は極めて異例だった。
理由は、エンドアの戦いのほぼ1年後に起こった新共和国と残存帝国軍の間に発生したジャクーの戦いにある。この戦闘に勝利した新共和国軍だったが、数で勝っていたにもかかわらず帝国軍に苦戦を強いられたことから、新共和国軍の艦隊決戦の能力不足が指摘されるようになった。
これを受け、新共和国軍作戦本部は、軍全体での規模縮小を行いつつも、仮に再び艦隊決戦が起きても有利に戦えるよう、「戦略規模」ではなく「戦術規模」での行動を主軸とする艦隊を設立。それがこの艦隊だった。初代司令官は惑星シャンドリラ出身の人間、エルマー。彼は若いが、ジャクーの戦いにて優れた戦術眼を用い、スター・デストロイヤーを1隻大破させた功績があった。
しかし、幸か不幸か、彼らが本領を発揮できるような大規模な艦隊決戦はジャクーの戦い以降ほとんど起きなかった。この艦隊は、誕生してすぐに存在意義が消えかかった。しかし、せっかくの大規模艦隊を活用しないのは勿体ないということで、彼らには様々な惑星、星系の紛争調停任務が与えられた。その一つが、つい先程解決させた第二次アンシオン境界紛争である。
彼らの活動範囲は文字通り銀河全体と言っても過言ではなかった。ケッセル、コレリア、ジャビーム、ムーニリンスト……。やがて彼らは、新共和国軍のオフィスの一室で、やがては半ば公然と「便利屋」とあだ名された。無駄に大規模な装備を貰ったのだから、少なくともその維持費分の働きはしろと言われたこともある。
しかしエルマーは、「便利屋」というあだ名を悪く思っていない。彼は知っていた、戦争のせいで荒廃した星々を。いや、惑星ごと消滅したオルデランよりかはマシなのか……。ともかく、我々の「便利屋」としての努力が平和に繋がるなら、自分はどんな評価をされようと構わない。願わくば、この艦隊の本領を発揮できるような戦いが起こらないことを願う。
「司令、2個中隊全機、着艦完了しました」
ミラ副官の報告で、彼の思索は遮られた。彼女は優秀な人間で、彼の最も信頼している部下の1人だ。彼女は、エルマーがまだ士官候補生だった頃からの同僚だ。一応階級の関係上、敬語で話す彼女だが、私的な場では親しい友として接している。
「ああ、分かった」
エルマーはそのまましばらく黙っていた。これは彼の癖というか習慣のようなもので、やるべきことが一段落したらちょっとの間休憩を置くのだ。この習慣はブリッジの乗員は全員把握していた。幸い、まだ艦隊運用スケジュールには余裕がある。
「……おや、ご家族ですか?」
エルマーはその間、制服のポケットから写真を取り出し眺めていた。愛する妻と一人の娘が写ったものだ。どうやら、いつのまに隣にいたミラにバッチリ見られてしまったらしい。
「ああ、そうさ。二人共、お前とは比べ物にならないほど良い女性だぞ?」
「あら、そうですか。そんなことを言うあなたは、とっても悪い性格をしておりますね……ふふふ」
「こら、上官に何を言ってるんだ」
「これは失礼」
そんな冗談を交わし合っていると、ブリッジのどこからかこんな声が聞こえてきた。
「司令、貴方、アンシオンでなにかお土産買ってましたよね? 俺、バッチリ見ましたよ」
ちくしょう、バレていたか。気をつけていたはずなのに。
「お前らこそ、しっかり家族に尽くせよ。あんまりほうっておくと、愛想をつかされるぞ」
「違いないですな」
ははは……としばしブリッジに笑いが響きわたる。軍隊にしては随分とゆるい雰囲気だが、みんなこれを気に入っているのだ。
そういえば……
エルマーはふと思った。最近家族をほうっておいているのは自分かもしれない。よく考えたら、最近は仕事続きだ。彼女らは今も、ホズニアン・プライムのマンションの一室で自分の帰りを待っているだろう。この任務が終わったのでしばらく非番になるから、数日休んだら、家族とどこかのリゾート地へ行こうか。娘のマリーには、いろんなものを見て、いろんなことを学んで欲しい。そして将来、自分の好きなことを見つけて好きなように生きてもらうのだ。
『……司令、そろそろ行きましょう。流石に待ちくたびれました。早く自宅のベッドで横になりたいです』
せっかちな誰かの無線が、ミラが手に持つコムリンクから聞こえてきた。この野郎、さてはあらかじめ、艦内の友人にでも仕込みやがったな。早く帰ろうと間接的に催促している。
「ああ、ああ、分かったよ。帰ろうか。どうせナビ・コンピュータの計算は済ませてあるだろう?」
ミラは得意げに頷いた。だって、あなたがあんまり遅いから、待ちきれなくて。そんな心の声がいやにはっきり聞こえてきた。
「……では、各艦、ハイパージャンプの用意を……」
しかし、ハイパージャンプを行おうとしたまさにその時、艦隊の全艦船に警報サイレンが鳴り始めた。しばらく聞いていない、あの禍々しい音。そして直後、真正面の漆黒の宇宙が眩い巨大な赤き光線に貫かれる。かつて存在していたジェダイが使っていた武器、ライトセーバーを思わせるその光線は、自分が今まで見てきた事象の中で一番「死」に近い光景を形作る。「何事だ!?」とブリッジの乗員たちも慌てふためいた。その混乱の中で、1人の観測員が悲鳴のような声を出した。
「謎の高エネルギー光線が超光速で観測されました! エネルギー出力は観測史上最大規模、発生源は現在特定中。このままでは……あと1分でホズニアン星系に衝突します!」
「どうした!? 一体、なにが起こったんだ?」
ここにいる全員は知っている。こんな天文現象は存在しない。もっとも近いのはガンマ線バーストだろうが、速度が超光速である時点であり得ない。だとすれば、これは……
……兵器か?
今起きていることが信じられない。超光速で発射されたエネルギー光線だと? 待て、今観測員はこの光線の標的を何と言った?
聞き間違いでなければ、ホズニアン星系。
「マリー……アンナ……」
背筋を冷たいものが流れる。馬鹿な。そんな馬鹿な……。
「観測史上最大」のエネルギー光線などがぶつかったら、間違いなく、対象の惑星は木っ端微塵だ。愛する二人が、何にも代えがたい二人が……。
永遠に、私のもとから失われる。
頭がぼうっとして、靄がかかったようになった。隣で、ミラが怒声を上げているのがかすかに聞こえた。
「早くハイパージャンプを! 急げ! ホズニアン星系全土へ緊急通信も行え。あそこには……元老院、本営艦隊、数百億の人民がいるんだ!」
〈ファイル識別番号:2736941a-hud-12 ファイル名称『ホズニアン事変 〜ウィルズ銀河史解説書より引用〜』〉
あの日、文字通り全銀河市民が震撼した。銀河内戦末期に建設された新共和国と、帝国の系譜を受け継ぎ、急速に軍事力をつけていたファースト・オーダー。彼らは戦火を交えない冷戦のさなかにあった。そこには、奇妙ながらも確かな均衡が存在していた。
それを崩したのは、ファースト・オーダーの方だった。
その結果は……読者の記憶の通りである。
かのウィルズ銀河史には、この衝撃的な――その度合は恐らくはあのオルデランの災厄をも上回るであろう――事件について記されていると思われる箇所がある。以下はその部分の引用である。
「アンバランス、フォースの乱れ。
誇り高き幾百億もの生命は、闇の下で永遠に輝く。
宇宙を照らす太陽として。
願わくば、数多の形なき屍に冥福があらんことを。」
――ウィルズ銀河史 第8章1138節――
長大なこの書物の中で、死者への祈りが捧げられているのはこの部分のみである。それほど、この「ホズニアン事変」は悲惨で、残酷なものだったのだ。
なお、この攻撃によって連星系と化したホズニアン星系は、現在ではスター・ツアーズ社の人気観光地となっている。