STAR WARS 〜孤独の艦隊〜 作:とある惑星の住人
ディカ―は、リングが特徴的な緑豊かな森林惑星である。アウターリムに位置し、主要なハイパースペース・ルートは付近には存在しない。そのためか、あるいはめぼしい資源も特になかったからか、銀河共和国、続く銀河帝国いずれの支配下にも置かれず、誰も入植しないまま平和に宇宙に浮かんでいた。
しかし、銀河内戦時に反乱同盟軍が基地を築こうとこの星を訪れ、さらに現在ではレジスタンスの本拠地となり、多少の活気がある……はずだった。我々「便利屋」は、それを目的に、彼らと手を組むためにやって来たのだ。だが、ハイパースペースかの渦から解放された私達の目に飛び込んできたのは……。
「なんだ、これは……」
この光景を見た者は、全員が驚いた。エルマーも、ミラも、全員が。目に映り込むのは、くすんだ緑色の球体、ディカ―と、原型が分からないほど大破している戦艦らしき艦艇、そして、周囲に漂うスターファイターの残骸だった。それらはまるで小惑星帯のようであり、生命の痕跡を感じない不気味な墓場へと成り果てていた。
「……まさか、もう全滅してしまったのか?」
ブリッジにいる誰かがそう呟いた。その声には不安がありありと伝わってくる。エルマーの頭にも最悪の可能性がよぎる。もしそうだったとしたら……
「……状況を、報告せよ」
エルマーは、内心の動揺をできる限り隠して問うた。まだ、まだ希望はある。
「XウィングやMG100スターフォートレス、TIEの残骸が主に確認できます。戦艦の方は……断定はできませんが、恐らくはファースト・オーダーの所属かと」
「ここで戦闘が起こったのは間違いないですね」
ミラの言葉に、エルマーは静かに頷く。この状況を見れば一目瞭然。彼の関心は、別のところにあった。
「レジスタンスがここで全滅した可能性は? そして、結局彼らはスターキラー基地の破壊に成功したのか?」
「前者の方に関して推測しますと、その可能性は低いと思われます。彼らは少なくともMC85クルーザーを一隻所有していたはずです。その残骸が発見できないため、別の場所にいると考えていいでしょう」
「後者の方ですが、恐らく破壊には成功しています。つい先程イラムの観測を行ったところ、現地から莫大なエネルギーが全方位に向けて放出されていました。星が崩壊し、恒星化していると考えられます」
「くそっ……」
エルマーは苦々しい思いだった。もしこの銀河のあらゆる事象を司る神のような者がいたら、一発殴ってバンサの餌にでもしないと気がすまない。たしかに、スターキラー基地の破壊は紛うことなき朗報であった。しかし、この状況は……
「各艦の艦長、副艦長、そして各飛行中隊の隊長を招集しろ」
彼は、命令を発した。我々はどうすべきか、皆と話し合って答えを出さなくては。これは、私の一存では決められない。
「了解しました」
これ以上誤った判断を下してはならなかった。もしかしたら、考えることすべてが裏目に出てしまう可能性がある。文字通り、部下全員の命が、これから行う選択一つにかかっている……。いや、銀河のこの後にも影響を及ぼしかねない。エルマーは、気を引き締めた。
旧銀河帝国は、人間至上主義を掲げる政府高官の元、エイリアン種族を差別対象として迫害してきた。よほどの才能を見込まれた者でない限り、帝国軍への入隊は決して叶わなかったし、それだけで済んだのならまだ幸運だったと言えよう。当時のスター・デストロイヤーの乗組員は100%人間で占められていた。
その影響で、必然的に反乱同盟軍にはエイリアン種族が多数参加することになった。第2デス・スターの破壊作戦の際、多くの同族を失いながらも反乱同盟軍の勝利に貢献したボサン。複数のスター・シップを提供し、戦力増強の要となったモン・カラマリ。彼らは、続く新共和国防衛艦隊にも多くが在籍し、再び戻ってきた自分たちの居場所を守るために懸命に尽くした。
もちろん、この艦隊も例外ではない。やや温かみに欠ける照明に照らされた作戦会議室の中央で、エルマーは周囲を見渡した。集まった者たちは、半分ほどが人間であるが、残りはエイリアンだった。
「さて、諸君。私は今、良い知らせと悪い知らせを持っている。どちらを先に聞きたい?」
エルマーの一言で、会議が始まった。緊急の会議のため、事前資料やホログラムの準備が全くできていないが、仕方がなかった。しかし居並ぶ高官たちは、この若き司令官の重苦しい雰囲気とビューポートから見える景色でおおよそのことを察していた。
「では、良い知らせの方を」
落ち着いた口調でそう発言したのは、Xウィング中隊オーレク・リーダーの”パーズ”だ。この艦隊には若者が大変多いが、彼と彼の率いる部隊も例外ではない。オーレク中隊はこの艦隊に所属する7個飛行中隊の中で最強と認められており、普段の彼は熱血なのだが、今はやけに冷静だった。
エルマーは軽く頷き、話し始めた。
「観測班の情報から、スターキラー基地があった場所が恒星となっていることが判明した。レジスタンスの同志は、スターキラー基地の破壊に成功したと思われる」
おお……と会議室内にざわめきが広がる。それには、なによりも喜びが多く含まれていたが、同時に「本当に彼らがやりとげたのか」という驚きも存在している。いくらあのレイア・オーガナ氏が率いているとはいえ、戦力は貧弱。我々にも劣っているのだ。装備も旧式。そんな彼らが超兵器を破壊してのけたのには、ただただ感心するしかない。一部の者は、ヤヴィンの戦いの奇跡が再び起こったと歓喜した。
「だが、良い知らせはこれだけだ」
やや浮ついていた雰囲気は、瞬時に引き締まった。そして、エルマーが言葉を発する前に、全員が
「知っての通り、ここにレジスタンスはいない。そして、我々はあとハイパージャンプ1回分の燃料しかない。……我々は、彼らとの合流、共同戦線の構築が不可能となった」
さっきまでとは打って変わって重い沈黙が下り、誰も彼も発言しようとしない。エルマーは、はじめからこうなることを予測していた。この艦隊に所属する者たちは、共通してある欠点を持っている。それはとても致命的なものだった。
これから自分たちがなにをすべきか、分からない。
この艦隊の正式名称は、「共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊」。私達は、個々の戦闘で多大な能力を発揮し得ても、「戦略」となると、全くもって勝手が分からない。
つい最近までは、我々の上には本営艦隊がいた。そのときの我々は、彼らの命令に従えばよかったのだ。いわば、我々がデジャリックにおける駒であり、本営艦隊参謀本部はそのプレイヤーだ。駒は、プレイヤーが立てた戦略に基づき、あらゆるマス――つまりは星――に派遣される。いざ相手の駒とぶつかる事態――つまりは艦隊決戦――が発生すれば、戦術で敵を圧倒するためにその方面での日々の学習は欠かさなかった。しかし、戦略はほとんど学んだことがない。そんな者が大多数を占める我々には、残りの燃料と限られた戦力で、なおかつ政治的な面にも注意を払いながら、ファースト・オーダーに対抗していく方針を固めるなどあまりに難しすぎるのだ。
だが、そんな状況を打開するためにこうして高官を集め、作戦方針を導くべく会議を行っているのだ。やがて、意見が少しずつ出てきた。
曰く、反乱同盟軍が本拠地としていたダントゥインやヤヴィン4に行き、そこを抵抗の拠点としてはどうか。
一考の価値があるかに思える案だったが、ダントゥイン基地やベース・ワンは少なくとも30年前には放棄されていたはずだ。今でも動くものが残っているか、また、全乗員の長期的な食料を確保できるかどうかが不明確すぎる。却下。
曰く、ファースト・オーダーの基地を襲撃し、物資を”現地調達”してはどうか。
この案に関しては、そもそも奴らの基地の場所などだれも知らないということで、却下。
曰く、救難信号を発して親共和国派の勢力に助力を請うてはどうか。
しかしその案に対しては、発言者自身がファースト・オーダーによる通信傍受の可能性に思い当たり、自ら取り下げた。
(いったいどうすれば……)
どの案も納得できるものではなく、皆は頭を抱え、とうとう万策尽きたかに思われた。そんな中、小さな声で誰かが呟いた。
「……では、もう直接どこかの惑星に赴き、交渉して燃料や食料を融通してもらう他ありませんぞ」
その意見に、皆がハッと顔を上げ、議論は再び熱を取り戻した。
……いや、どうせならば反帝国感情が強かった星や、新共和国に協力的だった星に行って交渉し、レジスタンスの代わりに現地政府との共同戦線を張ってはどうか。
……いやいや、それは多くを望みすぎだ。だが、燃料の確保は急務。ひとまず、この案は支持するに値しますぞ。
そう、この意見は一見良いものだ。少なくとも燃料・食料問題さえ解決すれば、反攻作戦はそのあとにいくらでも立案できる。発展案の惑星政府との共同戦線樹立は、さらに魅力的だ。しかし、エルマーは前に説明した通り、この方針には懐疑的だった。
「諸君、落ち着いてくれ……。私にはすでにその考えがあった。
それを聞いて、一部は言葉を詰まらせる。しかしそんな中、1人だけ毅然とした態度で話す者がいた。
「司令、たしかにそのご意見はもっともです。しかし、こうしている間にも奴らは勢力を拡大し続けているのです。迅速な対応が求められます。ここは、一か八かでこの案を採用しましょう。万一の自体に陥ったとしても、我々は正規軍。そう簡単にやられはしません。……司令の出身惑星は、たしかシャンドリラでしたか? そこに赴いてはどうでしょう」
そう発言したのは、ネビュロンC・エスコート・フリゲート『フォーティチュード』艦長、フェレム・ビルテルだ。エルマーよりもずっと年上で、貫禄がある。銀河内戦に参加していた古参兵でありながら、まだ若きエルマーに従っている。その目には、静かな炎が宿っていた。ホズニアン事変で最愛の者を失い、一時は暴れそうになっていたが、今ではとっくに落ち着いている。彼の言い分は、こうだ。
シャンドリラはコア・ワールドに位置しており、未だファースト・オーダーの攻撃を受けていない可能性が高い。また幸運なことに、シャンドリラ出身の者がこの艦隊には多く所属していることから、多少顔が効く。
「最低でも燃料は融通してもらいましょう。理想を言うならば、現地政府と交渉の場を設け、共同戦線の構築を合意するに至ればなお良い、と言ったところでしょうか」
「……」
エルマーはまだ難しい顔をしている。大事なのは、現地政府が我々に友好的か否かだ。しかしフェレムは、この懸念を解消できる一つの知識を持っていた。
「心配には及びませんよ、司令。今あの惑星の元首となっているのは……新共和国初代議長、モン・モスマ氏です」