STAR WARS 〜孤独の艦隊〜   作:とある惑星の住人

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第3話 シャンドリラ防衛協定

 〜シャンドリラ防衛軍、第4星系監視ステーション〜

 

 定員僅か15名の小さな監視ステーションが、まるで孤独な幽霊船の如くシャンドリラからやや離れた場所に静かに存在していた。もちろん、中には幽霊ではなく人がおり、これを含めた4箇所の同型のステーションが、平時よりこの星系に出入りする艦船を監視している。防衛軍所属となっているが武装は心もとなく、局所防衛砲台が2基あるだけだった。あとは、連絡船としてのU-55軌道ロードリフター。この輸送船には60名が乗れ、どうみても定員過剰なのだが、安価で修理が容易であり、操縦も簡単ということで各ステーションにそれぞれ1隻ずつ配備されていた。

 

 いつもなら、楽な仕事だった。最近まで新共和国の首都だっただけあって船の往来は盛んだったが、たいていは形式的なやりとりを相手の船と交わすだけで、滅多なことはない。あまりに暇だったので、家から本を持って来て勤務中に読んでしまっていた程だ。「大銀河戦争」、「ヘツァルの厄災」、「スターキラーの冒険」……どれも面白い物語だった。

 

 だが今では、それらの本は持ち主の勤務スペースからはなくなり、代わりに政府や軍高官からの命令封書が整然と置かれていた。

 

 ……ああ、少しぐらい気を抜きたいものだ。

 

 はあ……と男はため息をついた。その顔には、緊張がありありと浮かんでいる。現在、4つの監視ステーションはすべて厳戒態勢にあった。警戒レベルは4の「安全保障上の緊急事態」。ここまで引き上げられたのは本当に久しぶりらしい。最大レベルは一つ上の5で、これは「有事発生」を意味し、敵性機が攻撃を我が方に加えてきたときにのみ発令が許可されている。もちろん、そんなことが起きてほしくはない。断じて。

 

 男の名はアルメク・ザックラント。ここに配属されて3ヶ月の新任である。しかし若いわけではなく、本人も苦い思いながらもそれを認めている。彼は士官学校にて優秀な成績を修め、その後紆余曲折ありここへ至った。当初は舐められたものだと感じていたが、今では逆にプレッシャーに押し潰されそうになっている。理由は単純。警戒レベルが一気に上がり、業務にいつも以上の責任が生じたからだ。

 

 ホズニアン事変は、帝国の恐怖を再び銀河市民に刻み込んだ。

 

 その恐怖に対し、首脳部が何を考え、これからどうしていくのかは想像に難くない。恐らく、ファースト・オーダーへの抵抗を叫ぶのだろう。しかし、レジスタンスの発表を聞く限り、奴らの超兵器に狙われた場合、我々は全員が死ぬ。この星には、市民全員を詰め込めるだけの船がない。

 

 そして、そんな不安に苛まれながらもなにもできないもどかしさが、彼の心を摩耗させていた。

 

 しかし意外なことに、ホズニアン星系の消滅から約1日が経とうとしている今現在、これといった「有事」なる事態は発生していない。ファースト・オーダーの戦艦は1隻たりともやっては来ないし、民間船の往来も途絶えていた。それが逆に、シャンドリラ全市民の――特にこのアルメクの――不安を駆り立て、一時の気の緩みも許さない状況にするのだが。レジスタンスはスターキラー基地を攻撃していると言っていたらしいが、果たして成功したのか? そもそもそれはどこにあるのだ? 自分の部下たちは信頼に足るが、それがこの不安を和らげるわけでもない。

 

「管制官、BF-94より大規模な艦隊を確認しました!」

 

 だが、そんな思索は長くは続かなかった。監視員の1人が突如として警告を発したからである。アルメクは、ディスプレイの表示を見た。あの形は、確実に民間船ではない。彼は、とっさに軍本部に報告を行おうとして緊急コードを打ち込んだが、それよりも先に向こうから通信をよこしてきた。ディスプレイ越しに相手の顔を見る。自分よりも若い男だった。

 

『こちらは、共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊司令官エルマー・ドアロ。監視ステーション、応答を願います』

 

 第4星系監視ステーションの人員は、どれも優秀である。このような事態でも慌てず、管制官の指示を冷静に待っていた。砲座にはすでに担当の者がつき、休憩中の者も警報で起きてきた。

 

 アルメクは手振り一つでそれらの人員に待機を命じ、内心の動揺をできるだけ隠しながらディスプレイの向こうへと返答した。

 

「こちらは第4星系監視ステーション管制官アルメク・ザックラント。貴官らの目的をお伝え願いたい」

 

 ……まさか、新共和国防衛艦隊に生き残りがいたとはな。

 

 彼は、己の任務をマニュアル通りに実行することを心がけた。何かあれば即座に警報を送れるように身構える。直後、向こうの司令官が返答した。

 

『まず第一に、燃料補給です。コアクシウムを融通して頂きたい。クレジットならあります。……そして第二にですが、できればあなた方の政府首脳部と会談を行いたい。今後の情勢、安全保障について……』

 

 そうきたか。

 

「ただちに軍本部と連絡を取ります。貴官らはその場での待機を。臨検を行います」

 

『感謝します』

 

 通信が切られたと同時に、アルメクは数桁の緊急コードを打ち込み、短い報告を行った。これからの自分の運命が、この星の運命が、いつか自分の肩にのしかかるのではないかという嫌な予感(バッドフィーリング)を覚えながら。

 

「こちら第4星系監視ステーション。緊急事態です。新共和国防衛艦隊の残存部隊が接触してきました。燃料補給と首脳部との会談を望んでいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜シャンドリラ首都、ハンナ・シティ、01番大型宇宙船プラットフォーム〜

 

 コルサントには遠く及ばないものの、シャンドリラにも超高層ビル郡は存在する。それがここ、首都のハンナ・シティだ。雲ひとつない空で輝く太陽の光を反射して煌めくデュラスチールの塔は、まるで勝鬨とともに掲げられた剣のようであった。その光は、四方八方から自分の目を焼きにくる。ビルの隙間をぬって吹き付ける風が肌を打ち据え、大きな唸りを伴って鼓膜を刺激する。それを聞いて、シャンドリラ首相モン・モスマはジロ・ビーストを思い出していた。

 

 モン・モスマ。彼女は人生をかけて「平和」「自由」を追求してきた。

 

 帝国勃興期の初期反乱運動から今に至るまでの彼女の功績は数え切れない。それを考えれば、彼女が新共和国元老院の初代議長に選出されたのも納得である。

 

 かつてはあった若々しさはとうに消え、老いを隠し切ることは不可能だ。だが彼女にとっては、そんなことはどうでも良い。もう会うことは叶わない夫や、たった1人の娘すらも、モスマの理想への姿勢を崩すことはできないであろう。「理想」に生き、それを「現実」とした後に死ぬ。これがモスマが自分に誓った生き方だ。

 

「おや、来たようですな」

 

 モスマの隣に立っている男、副首相のバットス・オーレンデルが言った。確かに、リパルサー・エンジンの唸りが聞こえてくる。上だ。思索を断ちその方向を向くと、巨大な体躯を持つ宇宙船が視界に飛び込んできた。

 

「懐かしいわ……」

 

 思わず声が漏れた。CR90コルベット。今は亡き私の盟友、ベイル・オーガナも、この同型艦に乗っていた。その娘のプリンセスも。船体にこびりつく汚れが、妙に昔を想起させる。

 

 しかし、感傷にふけるモスマとは違って、バットスは特に何も感じていないらしい。その瞳に映るのは、ただただ現実のみだ。一切動かない彼の表情を見て、モスマは思った。あなたも、少しは理想の世界を夢見てはどう? と。

 

 そんな彼女の心中はいざ知らず。バットスはプラットフォームに着陸したコルベットに向かって歩き出した。モスマがやや遅れてついていく。そしてその両脇を、2名の警備兵がいつでも撃てるブラスター・ライフルを構えついてきた。

 

 船から下りてきたのは、若い男女が2名とその護衛が2名の計4名だった。事前の通達通りならば、あの男女はそれぞれ我が星系にやってきた新共和国残存艦隊の司令官と副司令官であるはずだ。想像以上の若さに、モスマは驚いた。私の娘とほぼ同年代か……いや、下手をしたらもっと若いかもしれない。

 

 男はバットスやモスマの前に来ると礼儀正しく挨拶した。女の方もそれにならう。

 

「お初にお目にかかります。モスマ首相、オーレンデル副首相。私は共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊司令官エルマー・ドアロ。肩書がどうにも長いので、覚えなくとも構いません。こちらは……」

 

「副司令官のミラ・レグランであります。よろしくお願いします」

 

「はじめまして。ご存知だろうけど一応自己紹介させていただきます。私はモン・モスマ。こちらはバットス・オーレンデル。あなたたちを歓迎しましょう。ようこそシャンドリラへ」

 

 エルマーやモスマたちは、風が吹き付けるプラットフォームを歩き出した。行き先は中央議院。しかし議会を招集するわけではない。政界の混乱を避けるためだ。この4人だけで秘密裏に会談を行い、今後について話し合う。情報漏洩を防ぐため、予めハンナ・シティの空中交通レーンは別の理由を名目に封鎖され、艦隊の存在も知られないように厳重に注意を払っていた。

 

「……」

 

「……」

 

 双方、言葉はない。聞こえるのは、コツコツという靴音、護衛のライフルがカチャカチャと揺れる音、そして、風の意思を持ったかのような唸りだけだ。交通規制の影響で、周囲にスピーダーは1機も見当たらない。頭上の太陽は、相変わらず光輝いている。それを感じたエルマーの脳裏に、新星と化したホズニアン・プライムの姿がよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、生きておられるとは思いませんでした。モスマ首相。私は、あなたがホズニアン・プライムで亡くなっていたかと……」

 

 エルマーは、議院の一室で会議が始まると真っ先にそう言った。モスマはそれに苦笑いで応じる。

 

「ええ、そうです。私は生き残りました」

 

 モスマは、すでに何年も前に元老院議長の座を退いていた。それ自体はエルマーやミラも知っていたが、てっきり議員の1人として活動していると思っていたのだ。そして、その元老院が招集されたタイミングで、ファースト・オーダーはスターキラー基地を稼働、攻撃を行った……。だから、この反乱の象徴たる彼女は、この銀河の自由の女神たる彼女は、永遠に失われてしまったかに思われたのに。

 

 モン・モスマは生きていた。

 

 その事実は、どれほど自分を勇気づけただろうか。シャンドリラ(故郷)へ行くというビルテルの進言を採用してよかったと、このときエルマーは喜ばしい思いだった。

 

 しかし、彼とは違い、モスマの表情は落ち込んでいた。

 

「多くの友人が、あそこで亡くなりました。でも、私だけは生き残ってしまった……」

 

 たったの昨日、起こったことだ。しかし、彼女にそれをゆっくりと悲しむ猶予はない。この星のトップとして、市民を守る義務がある。彼女は顔を上げ、エルマーとミラの両名に目をやった。エルマーは、その目に確固たる決意を見た。

 

「だからこそ、我々は前を見据え、進み続けなくてはなりません。そして、先に申し上げておきますが、私はファースト・オーダーに屈するつもりは毛頭ない。シャンドリラは、自由の星。帝国の後継者を名乗る蛮族にこの美しい星を渡すわけにはいかないのです」

 

「あなた方がやって来る前、我々はすでに閣僚を集め緊急会合を行っていました。結果は、満場一致で『ファースト・オーダーへの抵抗』です」

 

 モスマやバットスにとって、新共和国防衛艦隊が残存していたのは大変嬉しいことだった。ファースト・オーダーに対し抵抗することは決定していたものの、シャンドリラの防衛軍はファースト・オーダーの戦力と比べると脆弱に過ぎる。場合によっては、危険を承知で近隣惑星に軍事援助を求めることも考えていた。

 

「では、我々と共同戦線を張ることに合意すると……そういうことでよろしいのですかな?」

 

「ええ、そうです」

 

 バットスの話によると、シャンドリラはすでにスターキラー基地の破壊を確認していたらしい。少なくとも一撃で抵抗が粉砕されることはないと判断していた。

 

「コア・ワールドへの侵攻は、奴らとしても入念な準備が必要なはず。恐らく数ヶ月の猶予はあります。その間に態勢を整え、侵攻に備えましょう」

 

「決まりましたな」

 

 バットスが協定書を作るために席を立つ。まさかこうもあっさり決まるとは思わなかった。苦い顔ひとつされず、我々を受け入れてくれるとは。燃料補給だけでもありがたいと思って臨んだが、その話題を経由する必要もなかった。力を抜いたエルマーは、ふと窓の外を見た。

 

「それにしても、私が幼い頃に見た景色はそのままですな。相変わらず綺麗な星だ」

 

「おや、出身はここなのですか?」

 

「ええ」

 

 ホズニアン星系は、もうない。それに続いてここを失うことは絶対に御免だ。

 

「私は、今度こそ何も失いません。最後まで、戦い抜きます」

 

「『私達』ですよ、司令官?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 

 

 

 

 

 まもなくバットスが戻ってきて、作成された協定書を机に広げた。内容に目を通し、問題ないことを確認する。ここに自分がサインした瞬間から、我らの抵抗が始まるのだ。我々は決して、孤独ではない。ペンの重みを噛み締めながら、エルマーは手を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、彼らは終ぞ知り得ることはなかったが、このとき、銀河の命運を大きく揺るがす出来事が起こっていた。

 

 スノークの死と、それに伴うカイロ・レンの最高指導者の就任。

 

 ルーク・スカイウォーカーの死。

 

 レジスタンスの救援要請。

 

 そのどれもが、シャンドリラへ届くことはなかった。

 

 エルマーの艦隊はこの瞬間、たしかに孤独ではなかったが……

 

 シャンドリラそのものが、孤独だったのだ。

 

 

 

 

 

 

〈ファイル識別番号:2638286h-ngu-3 ファイル名称『シャンドリラ防衛協定』〉

 

 ホズニアン星系の消滅による新共和国の影響力低下がもたらした安全保障上の懸念により、わが政府はここに、共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊との合意により防衛協定を締結するに至った。

 

 第一条

 本協定にて、「旧シャンドリラ防衛軍」とは本協定締結前のシャンドリラ防衛軍のことを指す。

 

 (中略)

 

 第九条

 本協定締結に伴い、共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊の人員、装備、艦艇はすべてシャンドリラ防衛軍の一部隊として編入される。

 

 (中略)

 

 第十六条

 有事の際の円滑な防衛行動を可能とするため、防衛軍地上部隊を旧シャンドリラ防衛軍出身者が、防衛軍宇宙部隊を旧共和国本営艦隊直属特別戦術作戦部隊出身者が指揮権を有することとする。

 

 (中略)

 

 シャンドリラの平和のために

 

 モン・モスマ

 

 エルマー・ドアロ

 




 短いですが、第1章終了です。次章から戦闘が描かれますので、あんま期待せんで待っといてください。
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