翌日、キバゴの特訓もかねて野生ポケモン探しに出発した。とはいえ徹底的に避けられるのでバトルのしようもなく、とりあえずキバゴを連れたまま歩いた。
「逃げていく姿を見るのも、もしかするとこう、参考になるかも」
「キバ」
小さい体に見合わない達観した表情でキバゴはやれやれと首を振った。そのうちに自分から走り出し、ものすごいスピードで駆け回るケンタロスやドードーたちを牙で次々と打倒していった。
「キバゴ、すごく強いね! 正直予想以上だよ」
「キバ……」
トウカが褒めてもキバゴは浮かない顔で首を振るだけだった。そういえばカキツバタは、縄張り争いに負けたんじゃないかと言っていた。もしかするとそれが原因で、これほど焦ったように強くなろうとしているのかもしれない。
「このあたりのポケモンじゃ相手にならないか……。そうだ、キャニオンエリアに行ってみない?」
「キバ」
そういえばまだキャニオンエリアには行ったことがなかった。いわタイプやかくとうタイプが多く生息しているはずの岩石地帯だ。もしかすると、闘争心が強い彼らなら俺から逃げずに戦えるかもしれない。そう期待して向かった。
到着するとぎらついた目が一気に向けられた。アローライシツブテやバルキーたちがじりじりと後ずさりしている。
「キバゴ、行くぞ」
「キバ!」
キバゴは弾かれるように飛び出し、イシツブテを切りつけ、バルキーと組み手をした。切っては投げ切っては投げを繰り返すキバゴの周りにはすぐに瀕死のポケモンの山が築かれる。トレーナーとして見ているだけでいいのかと自問したとき、キバゴは大きな咆哮を上げて光り輝いた。
「進化!?」
一回り大きくなった姿、オノンドとなったキバゴはますます止まらない勢いで暴れ始めた。その牙は岸壁をも削り、尻尾を叩きつけられた地面はひび割れた。
「オノンド! もういい! 一旦戻ろう!」
そう呼びかけても暴れ足りないと言わんばかりにオノンドは地団太を踏んだ。キュウコンの攻撃ならすぐに止められる。でも、オノンドは他の手持ちに今の姿を見られたくないだろう。トウカは決死の覚悟でオノンドに向かって走り出した。
「オノンド! 止まれえええ!!」
走ってくるトウカにオノンドはとっしんをするような構えをした。衝撃に備えて思わず腕を眼前で交差させる。そのとき。
「ギャウ!?!?」
オノンドの叫ぶ声がして辺りは静かになった。恐る恐る腕を解くと、驚いた表情のままオノンドが氷漬けになっていた。
「オノンド!?」
慌てて駆け寄って氷柱に触れると、たちまちパキパキと音を立ててそれは瓦解し、破片もやがて溶けて無くなってしまった。瀕死らしくのびるオノンドをボールに戻し、一度センタースクエアへ戻る。もしかするとあの氷は……。トウカの両手は微かに震えていた。
足取り重く自室に戻り、オノンドを出す。彼はすっかり元気になったようだが、少し落ち込んでいた。
「オノンド、ごめん。危険な目に遭わせた」
「ギャウン」
オノンドは首を振ってくれた。
「ギャウ……」
「もしかして、暴れたことを気にしてるの?」
「ギャウ」
「気にすることじゃないよ。それに俺はもう、原因に目星が付いてる」
「ギャウ?」
初めてオノンドはトウカの顔をじっと見た。頷いてその目を見つめ返す。
「たぶんげきりんっていう技の影響だよ。げきりんを使うとしばらく暴れ続けた後、混乱してしまう。それだけ強い技なんだけどね」
げきりんは高威力のドラゴンタイプの物理技で、一度使うと何ターンかずっとげきりんを打ち続け、最後には混乱してしまう両刃の剣だ。他の技を打てなくなるため後出しでドラゴンタイプに有利なポケモンが来ると簡単に対策されてしまうし、混乱による自傷ダメージも怖い。ドラゴンタイプの技を無効化できるフェアリータイプが追加されて以降、げきりんの地位は失墜した。
「技の構成を変えた方がいいな。でもどうやって確認すれば……」
「ギャウギャウ」
頭を抱えるトウカにオノンドは扉を指さして見せた。
「外に出たい?」
「ギャウ」
「もしかして、テラリウムドームに行きたい?」
「ギャウ!」
オノンドは大きく頷いた。俺は了承し、オノンドをボールに戻してテラリウムドームへ再出発した。
サバンナエリアで今度は木に向かっていくオノンド。口を開けて青い炎を吐き出した。
「これはりゅうのいぶきかな」
「ギャオ」
次にオノンドはオノをぶんぶんと振り、木を切断した。
「これは……もしかしてハサミギロチン?」
「ギャオ」
木を切断するほどの切れ味に内心怯えてしまう。オノンドはとっしんの姿勢を取り、別の木へ走り出した。衝突すると爆発したかのような音がして、木はメキメキと音を立てながら地に倒れていった。
「これはギガインパクトっぽいね」
「ギャオ!」
そしてオノンドは俺の元へ戻ってきた。
「じゃあオノンド。ワイドブレイカーは使える?」
「ギャーオ」
オノンドは深く考え込んだ後に、並んだ岩に向かって尻尾を振りかざし、攻撃を叩きこまれた二つの岩はすっかり粉々に砕け散った。
「えーと、じゃありゅうのまいは?」
「ギャオ」
オノンドは再び思い出しながら、ぐるっとその場で回転し牙を構えた。これがおそらくりゅうのまいなのだろう。
「それなら、アイアンヘッドは?」
「ギャオ?」
どうやらアイアンヘッドは覚えていないらしい。アイアンヘッドがあればドラゴン技を無効化するフェアリータイプに対して有効な打点となるので、できれば覚えさせておきたい。技マシンを作るか買うかしなければと思ったとき、そういえばブルーベリー学園にはポイント制度があったはずだと思い出した。トウカは迷った末、とりあえずリーグ部の誰かに相談してみることにした。