部室に行くと今日は人が少なく、アカマツとタロが話をしていた。会話に割り込むのも気が引けてホワイトボードの前で二人を眺めていると、トウカに気が付いたアカマツがにこやかに手招いた。
「トウカ! どうかしたのか?」
「ちょっと聞きたいことがあって……技マシンってどうやって手に入れたらいいかな」
「でしたら材料を集めてわざマシンマシンを使うか、BPとの交換ですね」
「BP……」
BPはブルーベリー学園で流通するポイントのことだ。やはりポイント制度があるのだろう。
「俺BPについての説明を受けてなくて」
「えええ!! ってことはブルレクも知らないんじゃないか」
「そ、そうです」
タロは深々とため息をついた。
「シアノ学園長、そういうとこありますから。代わりに私が説明します! ブルレクは課されるミッションを達成することでBPを手に入れられるシステムなんです。BPは技マシンの他にもいろんなものと交換できますのでとても便利です。あと、部室のパソコンから他の部に寄付することもできます。ブルレクはバトルが上手い人ほど有利ですから、リーグ部が助ける立場に回らないといけないんですよね」
「あー、トウカくんちょうどよかったあ」
そのときドアがガラッと開いて、シアノ学園長が姿を現した。
「リーグ部に入ったって聞いてねえ、もしかしたら部室にいるかなって思って来てみたんだ。トウカくんに渡したいものがあってねえ」
そして学園長が差し出したのはスマホロトムだった。トウカが受け取ろうとした瞬間、スマホからロトムがすぽっと抜け出し悲鳴のような声を上げてあっという間にどこかへ行ってしまった。
「ありゃりゃ。珍しいね」
「たぶん僕のせいです。大半のポケモンが僕を見ると逃げてしまうので」
「へえ、面白いね。気になるところだけど、僕は忙しいからもう帰るねー」
「お忙しいところ、ありがとうございます」
改めて学園長はトウカにスマホを手渡すと、手を振りながら去ってしまった。
「本当に逃げられるんだな、トウカ……」
「そうなんです。ポケモン捕まえるのが本当に難しくて」
「ポケモンに避けられると、なんだか悲しいですよね」
なぜか辛そうにする二人の表情が少し面白くてくすっと笑ってしまう。
「何はともあれ、これでBPを集めて技マシンと交換してくるよ」
「……! はい! 頑張ってくださいね!」
「オレも中火で応援してるぜ!」
トウカの笑顔に安堵したらしく、突然明るくなった二人に見送られて部室を後にした。テラリウムドームへ移動しながらスマホを確認すると、どうやらブルレク専用のアプリがインストールされているらしい。それを開くと現在のミッション一覧が表示された。ゲームのときよりは学校らしい項目ばかりで、達成の判定は自動で行われるようだ。これならばテラリウムドームでいろいろやっているうちにBPが貯まるだろう。
一旦アイアンヘッド取得は置いておくことにして次の手持ちをそろそろ探しに行く頃合いかと考えた。しかしオノンドのときのように手持ちが突然凍ってしまうかもしれないことを考えると、うかつに仲間を増やすことはできない。
おそらくげきりんを忘れた今ならオノンドが暴れだすこともないはずだ。とりあえずオノンドの特訓を再開しようと、再度テラリウムドームへ赴いた。
サバンナエリアの夜は冷え切っていた。オノンドは対照的に熱意に燃えていて、早く技を試したくて仕方のない様子だった。
やはり怒涛の勢いで逃げていくポケモンたちを見やり、指示を出す練習もしたかったが諦めてオノンドを走らせる。それでもトレーナーとして何かをしなくてはと、ひたすら彼の立ち回りを凝視した。
走って横に入り、強靭な尾を振り叩く。オノンドはその特徴的な大きな牙は滅多に使わなかった。
「オノンド、牙は使わないのか」
「ギャオ」
オノンドは大切なものであるかのように牙にそっと触れてみせた。理解したトウカは頷いて思考を巡らせ始める。
「となればやはり尾を振り回すのが一番主な攻撃方法になるのか。もっと洗練させるには……」
再び特訓を始めたオノンドは、意外と可愛らしい足を軸に尻尾をぶんぶん回している。あることを思いついたトウカは、オノンドに一つ提案をした。
「オノンド。尾を振るときに腕も使った方が身体がぶれなくていいんじゃないか」
「ギャオ!」
心得たと言わんばかりの力強い返事をし、オノンドはさっそく前足を使い重心を低めながら尾を振り払った。足を掬うようなその攻撃は、ただダメージを与えるというだけでなく相手の姿勢を崩すという点でも効果的なように思われた。
オノンドは気に入ってくれたらしく、姿勢を低めての横薙ぎから、転倒した相手に対して上から尾を叩きつける動きまで編み出していた。
「すごいねオノンド。体の動かし方が一気に洗練された」
辺り一面が静かになりきったころ、トウカはそう言ってオノンドに近づいた。オノンドは嬉しそうにつぶらな瞳を細める。
そろそろBPを確認しようとスマホを取り出したとき、ずいぶんと目立つ輝きが怒涛の勢いでこちらに向かってくるのが見えた。
「あれは……」
「ギャオ!!」
驚くトウカを守るようにオノンドが一歩前へ出る。そのきらめきの正体はテラスタルしたケンタロスだった。
このテラリウムドームの中央に釣り下がるブライア先生謹製のテラリウムコアにより、このドームに出現する野生ポケモンにもテラスタルするものがいるのだという。そのエネルギーに中てられたケンタロスはトウカから逃げる様子もなく、ただただ一直線に走ってきた。
「一旦足を止めさせよう。オノンド、ワイドブレイカー!」
オノンドは少し前に出ると腰を低めてケンタロスが通りがかるそのときを待った。そして接敵する瞬間、正確にその足を尾で横薙ぎにした。
「ギュモ!?」
ケンタロスは驚きながらも怒りに満ちた目でこちらを見やる。起き上がられる前に決め切りたかった。
「ギガインパクト!」
「ギャオオオ」
オノンドが猛々しく雄叫びを上げるとケンタロスへ突っ込んでいく。その直後すさまじい爆音が響き、舞った砂ぼこりが薄れていくと、地面に伸びる輝きを失ったケンタロスの姿が目に入った。
「やったなオノンド!」
「ギャオ!!」
嬉しそうなオノンドがこちらへ駆けてこようとした瞬間、その体が青白い光に包まれた。
その体長はぐっと伸び、牙も無骨だった形から武器のように洗練された姿へと変わる。立派な鱗に覆われた長い尾は力強く動いた。そして光の中から、戦闘に特化した容貌の竜、オノノクスが姿を現した。
「オノノクス……! 進化おめでとう!」
「グゥ」
感動しながら祝うトウカに、オノノクスは言葉少なく、しかし確かに嬉しそうに一つ頷いた。サバンナエリアの夜に溶け込むその緑の猛々しい姿は、今までに見たどんな光景よりもトウカの目に焼き付いた。