自室に戻りいつものように手持ちを出そうとして、この部屋はオノノクスにとっては狭すぎることに気が付いた。少し寂しく思いながらメタモンとキュウコンだけ出してオノンドの進化を伝える。メタモンはいつものようにハイテンションで祝ってくれ、キュウコンも素直ではないものの喜んではくれたようだった。
そして寝る支度をしながら改めてスマホを確認する。思っていたよりもBPが貯まっていて、アイアンヘッド以外にも必要な技マシンがあれば買おうかと思った。そこでキュウコンの技構成を確認していないことに気が付く。
オーロラベールとふぶきは、テラリウムドームで捕まえたロコンなら持っているだろうと前世の記憶で判断できたが、他の技は正直覚えていなかった。確かしろいきりみたいなあまり使わない技だったと思うが、どちらにせよ確認して入れ替える必要がありそうだ。
技だけでなくポケモンの持ち物についても気を配らないといけない。特にメタモンはコピー元との差別化をする必要がある以上、持ち物はとても重要だ。まずこの世界において持ち物というシステムがあるのかどうかすら定かではないが、売店へ行ってみてポケモンに持たせられそうな雑貨類があるかどうかを確認すればいいだろう。
学園に入学し一週間ほど過ぎた今、初めて購買部を訪れた。生徒たちで賑わっていて、あちらこちらでバトルの戦術を話し合う声が聞こえてきた。改めてここがバトルの名門校であることを実感する。
雑貨の棚を見るとちゃんと持ち物の類が置いてあった。持たせると何故かスピードが上がるだの持たせると何故かたまに先制できるなど、カルトの怪しい品々のような扱いで少し面白かった。欲しいものを買うのは後回しにしてとりあえず必要なもの、アイアンヘッドの技マシンを購入し廊下に出た。
テラリウムドームでオノノクスにアイアンヘッドを覚えさせる。ついでにメタモンとキュウコンが祝ってくれたことを伝えると照れたように少し頷いた。
「よし、じゃあやってみようか。オノノクス、アイアンヘッド」
オノノクスは静かに構え、近くの手ごろな岩に向かって鋭い頭突きを食らわせた。岩の破片がばらばらと崩れていくのを見やりオノノクスは満足そうだ。
これでドラゴンタイプの弱点、こおりタイプとフェアリータイプへの対策ができた。今の技構成はりゅうのまい、ワイドブレイカー、アイアンヘッド、ギガインパクトだ。全体攻撃である代わりに威力の低いワイドブレイカーはドラゴン技の主力とするには物足りない。考えた末に、ギガインパクトをドラゴンクローと交換した。ドラゴン技の中ではやはりげきりんが最も火力が高いが、ドラゴンクローは威力を抑えた代わりにげきりんのデメリットを無くしたようなシンプルな技であり、暴れたときに止められなくなることを危惧してこれを採用した。
もう仕上がったと言ってもいいオノノクスをボールに戻し次はキュウコンを場に出す。早速、最近オノノクスばかりに構ってますよねと言わんばかりの冷たい目線を投げかけられた。
「ちゃんとキュウコンも特訓するから。安心して」
「キューウ」
まだつんとした態度でキュウコンは耳をこちらに傾けた。指示に従ってくれるかどうか心配になりつつトウカは尋ねる。
「今使える技って、オーロラベールとふぶきの他に何がある?」
キュウコンはのっそり起き上がると、木々に向かってまばゆい光を放ち、その木の葉を散らした。おそらくフェアリータイプの範囲攻撃技、マジカルシャインだろう。次にキュウコンは泥でよどんだ水辺へ歩いていき、その水面を一気に凍らせてみせた。巻き込まれたドードーが足を取られて騒いでいた。
「ビームでもなく息でもなく……水を凍らせる……もしかしてフリーズドライか?」
「キュウ」
こちらへ戻ってきたキュウコンはトウカの言葉に頷いた。フリーズドライはこおりタイプの技だが、本来それを半減にするみずタイプに対して効果抜群になるという特徴がある。かなり心強い技であることに間違いはないが、こおり技の主力はやはり威力の高いふぶきのほうがいいだろう。
一方フェアリータイプの攻撃技には、マジカルシャインの他にムーンフォースという技もある。単体攻撃になる代わりに威力の高い特殊攻撃技だ。キュウコンはすでに範囲攻撃であるふぶきを覚えており、一体を詰め切れるムーンフォースも扱えた方が良いのだろうかと悩んだ。
「マジカルシャインとムーンフォースを選ぶのも難しいし、補助技もアンコールとかほえるとかいろいろあるし困ったな。そうだ、フェアリータイプと言えば……」
「フェアリータイプといえば?」
聞いたことのある声が突然聞こえてきた。間の良いことにちょうどブルベリーグ四天王、フェアリータイプのエキスパートであるタロがそこに立っていた。
「タロさん。奇遇ですね」
「奇遇といいますか、最近サバンナエリアで木を折ったり岩を砕いたり、豪快な訓練をする人がいると聞いたのでちょっと見に来ただけなんです。で、トウカさん、その岩は……」
「え、えーと……すいません。僕のせいです」
全てを見通したような目のタロに屈するしかなかった。項垂れるトウカにタロは優しく微笑みかけるが、しっかり腕でばってんを作ってくる。
「熱心なのはいいことですが、自然破壊はなるべく止めてくださいね! テラリウムドームの生態系が崩れてしまう恐れもあるので」
「以後気を付けます……」
反省しきった様子のトウカの傍にキュウコンがいることに気が付き、タロは声のトーンを上げる。
「わあ! ロコンちゃん進化したんですね! おめでとうございます!」
「ありがとうございます。まだまだ育成途中ですが」
「いつだってポケモンは可愛くて最強なんですよ! あ、そういえばさっきフェアリータイプがどうのって言ってましたよね」
手を口に当て可愛らしく首を傾けるタロに、トウカは尋ねたかったことを切り出した。
「実は、キュウコンにフェアリータイプの技を覚えさせようと思ってるんですが、ムーンフォースとマジカルシャインで悩んでいて……」
「単体攻撃で威力の高いムーンフォースと、範囲攻撃で威力の低いマジカルシャインですかあ。私もよく悩む二択ですね。うーん……そうだ! 実際に使い比べてみるのはどうでしょうか! 私もちょうど使いたい子たちがいるんですよ!」
タロの提案は目から鱗だった。たしかに、実戦を通して試行錯誤するのがポケモンバトルというものだ。前世の記憶でもバトルの反省を生かして技を変えたり構成を変えたりしていた。この世界でもそれは変わらないのだろう。
「その通りですね。では、遠慮なく胸を借りさせていただきます」
「はい! 私も全力でお相手します!」
そして適当な距離を取り、お互いにボールを構えた。今回はキュウコンとオノノクスを選出する。まだこの二匹のコンビネーションを試したことがないというのもあるが、一番の理由は前世の記憶の中にあるタロの手持ちだった。
ゲームでのタロはブルーベリー学園にやってきた主人公と最初に出会う生徒であり、ブルーベリー学園での最初のバトルの相手でもある。そのときは四天王であることが明かされる前で、手持ちも四天王としてのものではなかった。それがおそらくタロが使いたい子たちと表現した、プラスルとマイナンだった。タロの手持ちのプラスルとマイナンの特性はそれぞれひらいしんとちくでんであり、どちらも電気技を吸収する効果がある。もしメタモンを出すと、彼らの攻撃手段がでんき技しかない場合に手も足も出なくなってしま う。
トウカは素早く作戦を組み立てた。単純明快、でんき技を使われる前に倒す。