【ポケモンSBVW】緋炎と紫電と冷灰の子   作:黒蜜殿

13 / 28
#13

「それでは、始めましょう!」

 

 タロは髪留めを付けなおし、二体のポケモンを繰り出した。やはりボールから出てきたのはプラスルとマイナンだ。お互いにでんきタイプの技を無効にしメリットに変える特性を持つ。味方も巻き込む技を使えば敵にのみダメージを与えながら味方の支援もできるという強力なコンボだがプラスルとマイナン自体はさほど強いわけではない。

 トウカはキュウコンとオノノクスを場に出した。キュウコンの特性で雪が降り始める中、トウカとタロはほとんど同時に指示を出す。

 

「プラスル、マイナン、ほうでん!」

「オノノクスはプラスルにドラゴンテール、キュウコンはふぶき!」

 

 ばちばちと頬に電気を走らせるプラスルにオノノクスが突っ込んでいく。電流が空に放たれる前に尾がその小さな体を吹き飛ばした。そこにキュウコンのふぶきが襲い掛かり、マイナンも巻き込んで地面に叩きつけた。

 今回はオーロラベールを使わず総攻撃で確実に片方は仕留めることにした。プラスルとマイナンはお互いの相性は良いものの種族値が高いわけではなく、キュウコンとオノノクスなら耐えてくれるだろうと思った。その判断が功を奏したらしく、雪混じりに舞い上がった土埃が晴れた先には、すっかり動けなくなったプラスルとマイナンが横たわっていた。

 

「あらら、プラマイ戦法ダメでしたか……」

 

 タロは肩をすくめてポケモンたちをボールに戻した。記憶の中では三体目がいたはずなので、ポケモンを繰り出す気配のないタロに少し混乱する。

 

「次のポケモンは出さないんですか?」

「トウカさんが強すぎて、つい本気の勝負をしたくなっちゃうので! 続きは四天王としてお相手するときのお楽しみです!」

 

 これがバトルマニアらしい感性なのだろうか。タロは上機嫌そうな顔で手中のモンスターボールをかざしてみせた。そして軽やかな足取りでこちらへ歩いてきて、トウカの目の前でこてんと首を傾ける。

 

「ところで、技構成のヒントは何かつかめたでしょうか?」

「ああ、そういえば……。範囲攻撃はふぶきもあるので、一体を詰め切るときのためのムーンフォースに変えようかなと思います。プラスルとマイナンのような強力な並びを崩すという点でも、単体攻撃は有用ですから」

「さすがトウカさん。ダブルバトルのコツをもうご存じなんですね。キバゴのことも先日カキツバタから聞いたばかりなのに、もうオノノクスになっていますし。成長が早くてびっくりです」

 

 タロはそう言ってオノノクスたちを見やった。キュウコンがその足元に近づくと途端に緩んだ表情になってふわふわの毛を堪能している。キュウコンはタロのことをずいぶん気に入っているようで、まんざらでもなさそうな顔をして大人しく撫でられていた。

 

「俺が強いんじゃなくて、単にここのポケモンたちがもともと強いだけです」

「そうだとしても、その子たちとこうして信頼関係を結んで彼らの実力を引き出せるのは、とってもすごいことなんですよ」

 

 タロの素直な誉め言葉に戸惑ってしまって言葉が出てこなかった。タロの言葉を肯定するかのようにオノノクスがトウカにそっと頭を寄せた。

 

「オノノクス、ありがとう。俺のこと信じてくれて」

「グオ」

 

 オノノクスの首をそっと撫でてやると低く、しかし優し気な声色でオノノクスは一つ鳴いた。そこに横から鋭く「キュウ!

」と聞こえてきて、見るとタロの膝元のキュウコンが自分もいるんですけどと言いたげに尻尾を膨らませていた。

 

「キュウコンもありがとう」

「キュウ」

 

 膝から降りてゆっくりトウカの元へ行くキュウコンを微笑ましそうにタロは見送って立ち上がる。

 

「ところでトウカさん。ムーンフォースは覚え方にコツがいるんですよ」

「コツ? あ、そうか」

 

 そこでトウカははっとした。ムーンフォースはもしかして技マシンではなく遺伝で覚える技なのではないか。該当する技を覚えているポケモンのタマゴから孵化させたポケモンでないと覚えることができないというもので、捕まえたキュウコンでは扱うことができない。仕方なくマジカルシャインにしようかと思ったところ、タロがありがたい申し出をしてくれた。

 

「ムーンフォースを使える子がいるんです。トウカさんのキュウコンに教えることもできると思うので、一緒に特訓しませんか?」

「いいんですか? とても助かります」

 

 迷いなく食いつくとタロは微笑みを見せてそのムーンフォースの師匠となるポケモンを繰り出した。可愛らしい人魚のようなファンシーな出で立ちのポケモンだ。

 

「アシレーヌ……」

「ピンポーン! 正解です」

 

 タロがびしっと丸を作るとそれを真似するようにアシレーヌも両手を掲げて見せた。長い間一緒にいたのだろうか、仕草がよく似ている気がした。

 話の流れを理解しているらしく、キュウコンは姿勢を正すようにアシレーヌと向き直る。

 

「アシレーヌ、ムーンフォースをキュウコンに教えてあげてください」

「アシ!」

「キュウコン、がんばっておいで」

「キュウ」

 

 そして広大なサバンナの中神秘的な光が飛び交った。アシレーヌは美しい所作で上空から光を集め解き放った。ムーンフォースは月の光をエネルギーとして攻撃に転用する技だ。まさに月光が降り注ぐ様は思わず見入ってしまうすらい美しかった。

 キュウコンは見様見真似で口元から光線を放ってみせるがすぐに発散してしまう。まるでマジカルシャインのようなきらめきに変化していく光を興味深く見ていると、横でタロがくすくすと笑った。

 

「トウカさん。本当にポケモンが好きなんですね」

「え……そう見えますか?」

「はい! ポケモンのことを知りたくて知りたくてたまらないって顔をしてます」

 

 思わず手で顔を触ると、ますますタロは愛らしく笑った。

 

「そんな、表情に出るほどとは」

「トウカさんっていつも無表情ですからね。ネリネさんみたいに。でも、目は素直ですよ? ポケモンに対する愛情がすごく伝わってきます。だからきっと、オノノクスもトウカさんのことを認めたんじゃないですか?」

 

 タロに伺うように見上げられたオノノクスは再び深々と頷いた。楽しげな雰囲気を感じ取ったのか、鞄の中からボールの開く音が聞こえた瞬間、やはりトウカの姿をしたメタモンが隣に姿を現した。

 

「モンモン!」

「この子……メタモンですか? わあ、トウカさんそっくり! トウカさんへの愛情を感じます」

「モーン」

 

 自分もトウカを認めていると言いたげに出てきたメタモンは、タロの誉め言葉に嬉しそうにでれでれしている。あんまり自分の姿でそういう行動をしないでほしいと思いつつ、トウカは顔がほころぶのを抑えられなかった。

 

「メタモンもありがとう」

「モン!」

 

 声をかけるとメタモンはしゃきっとして誇らしそうに胸をぽんと打った。

 

「感情豊かなトウカさんも可愛いですね!」

「そ、そうですか?」

 

 頬を抑えてにこにこしているタロに内心首を傾げた。タロとそう身長が変わらないトウカは可愛いの範疇に入らないはずだと思ったが、タロは強面のグランブルやドリュウズのことも可愛がっている人間なので、おそらくそれらと同じカテゴリーなのだろう。

 

「アシ!」

 

 アシレーヌが不意にこちらに呼びかけた。見るとキュウコンが光をためて今にも解き放とうとしているところだった。その場の全員が見守る中キュウコンは見事な光線を放つ。白い尾は月の光を受けてきらきらと輝いていた。そして光が霧散していき、キュウコンは美しい顔に自慢気な笑みを浮かべてこちらを向き直った。

 

「やり遂げたね、キュウコン!」

「キュウ!」

 

 トウカは思わずキュウコンに駆け寄った。その後からメタモンも走ってきてキュウコンに抱き着き振り払われる。メタモンが悲しそうな表情でキュウコンに絡んでは怒られているのを微笑ましく見ていると、タロとアシレーヌもじゃれ合いを見守るような笑顔でやってきた。

 

「タロさん、ありがとうございました」

「こちらこそ! トウカさんのお役に立てたなら何よりです。強いトレーナーが増えることはリーグ部の活気にも繋がりますので。今の部長は適当ですから、部の雰囲気も緩くなってしまっているんですよね……」

 

 一瞬憂うような顔になったタロはすぐに元の人のよさそうな笑みに戻った。どうしてタロが部長にならないのかと聞こうとしてやめる。タロとカキツバタの間にはおそらく、超えるのも難しい実力差があるのだろう。それを突いてしまうことはタロを傷つけかねない。

 

「すみません、いろいろ大変なトウカさんにお願いみたいなこと言っちゃって」

「いえ、むしろ嬉しいです。俺には何もないので、誰かに頼ってもらえることが一番の存在理由になるんです」

 

 そう言うとタロは明らかに悲しげな表情をした。家族も何もない自分は思っていたよりも周りから心配されているのかもしれない。タロを安心させるために慌てて言葉を繋いだ。

 

「タロさんたちにリーグ部の仲間として扱っていただいたり、スグリやゼイユから兄弟のように接してもらったりしているおかげで、毎日楽しく暮らしていますよ。ポケモンたちもいますし。ですので、心配はいらないです」

「そうですか……。それなら良かったです」

 

 タロは胸に手を当てて微笑んだ。トウカはタロを見ながらぼんやりと思い出した。たしかゲームでのタロはよく親の話を出していた。おそらく家族仲が良いのだろう。

 過去の自分はタロとの会話で何を思ったのだろうか。トウカは、家族の話をする度に冷たくなっていく自分の心に気づかないではいられなかった。

 

「では私はそろそろ学園へ戻ります。四天王の一席で待っているので! ぜひ勝ちあがってきてくださいね」

「頑張ります」

 

 そう言って手を振りながら立ち去るタロに手を控えめに振り返した。その後姿をぼんやりと見ながら、トウカはやっとブルベリーグに取り組む覚悟を決めた。

 今まではなんとなく強さを求めて訓練してはいるものの四天王やチャンピオンになりたいというわけではなく、むしろ目立ちたくないという気持ちの方が強かった。本音を言えばただのんびりと学園生活を謳歌したかった。しかし、強くなることで周りの人に報いなければならないという焦燥感は日に日に増していった。なにより突然オノンドを飲み込んだ氷柱、そもそも自分がこの世界へ現れた意味、そういった謎を解決する力を手に入れなければならなかった。

 

「キュウ?」

 

 キュウコンたちが心配そうにトウカを見つめていた。大丈夫だよと言いつつキュウコンとオノノクスをボールにしまう。そして鞄から空のボールを探り当てメタモンと向き合うと、自分にそっくりらしい眼差しがトウカを刺し貫くような心地がした。寒々しさを覚える視線だった。

 

「メタモン。メタモンは……俺のこと何か知ってる?」

「モン?」

 

 震える声で問うとメタモンは小首を傾げた。どこか人形のような仕草に思えてトウカは不吉な予感がした。頭を振って暗い感情を消し、メタモンをボールの中に入れる。日が暮れてきたせいか、空気が寒くなっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。