「にーちゃんはどう思う? 鬼さまがかっこいいよな?」
「トウカ! 鬼なんてただの悪い奴よね!?」
「え? えっと」
突然二人にそう投げかけられてトウカはうろたえた。キタカミ伝説の鬼という存在ともゲームの中で出会ったことのあるトウカは、ある程度キタカミ伝説の真偽を知っている。この伝説によって伝えられる鬼は悪でともっこが善という立場は実際は真逆で、鬼の仮面を盗んだともっこが鬼に成敗されたことが鬼から村を守ったという誤った形で伝わっているのだ。そのことを知っているのは真の歴史を血族の中だけで口伝してきたゼイユとスグリの家系だけ。しかし、ゼイユとスグリにはまだ話されていないようだった。
家族から伝えられるべき真実を話すわけにもいかず、ゼイユとスグリどちらかに肩入れするのも気が引ける。トウカは前世で聞いたある物語のことを思い出していた。
「俺は、たぶんその鬼さまにも何か事情があったんじゃないかなって思う。鬼が意味もなく暴れるとは限らないし」
「鬼に事情ねえ」
「にーちゃんは鬼さまのこと何か知ってるの?」
「その鬼さまじゃないけど昔、ここではないどこかで、鬼の話を聞いたことがある。泣いた赤鬼ってお話」
「鬼が泣く?」
ゼイユとスグリは揃って目をぱちくりさせた。トウカは記憶をたどりながら喋る。
「あるところに心優しい赤鬼がいたんだ。彼は人間と仲良くなりたくてお菓子やお茶を用意するぐらいだったんだけど、人間は鬼を怖がって全く寄り付かなかった。そこに友達の青鬼がやってきた。赤鬼の悩みを聞いた青鬼はこう提案したんだ。『自分が村で暴れているところに君がやってきて村の人々を助けるんだ。そうすれば村の人々は君を信用する』って」
「え、でもそれじゃ青鬼は……」
スグリは何かを察したようだった。トウカは頷いて言葉をつづけた。
「そしてその作戦が実行された。青鬼は村で暴れて、赤鬼が人を助けた。結果、赤鬼は村の人と仲良くなれたけど、青鬼は赤鬼の元を訪れることをしなくなったんだ。赤鬼が青鬼の住処へ向かうと置手紙が残されていた。『自分と一緒にいると君まで悪い鬼だと思われてしまう。自分は長い旅に出ます。けど、いつまでも君のことを忘れません。いつまでも君の友達です』。赤鬼は何度も読み返して泣いたとさ。……こういう話だよ」
「そ、そんなのってあんまりじゃない!」
トウカが話し終えると、二人は涙を堪えている様子だった。素直な感性が子供らしくて可愛いと思いつつ、自分の記憶からすらすらと前世の物語が出てきたことに驚いた。ゲームのストーリーなどもよく覚えているし、架空の話は記憶に残りやすいのかもしれない。ただやっぱり、これを自分はいつどこで読んだのか、その記憶は全くなかった。
「確かに、鬼さまが村で暴れたのも何か理由があるのかも……」
「林間学校のときに調べてみましょうよ! 名付けて真相解き明かし隊結成よ! リーダーはあたしね! トウカ、副リーダーよろしく」
「えっと、じゃあスグリが参謀かな」
「おれが参謀!? わやかっこいいべ……!」
「スグに参謀なんて早いわよ。ま、あんたたちがそれでいいならいいけど」
最後の一切れを素早く取ったゼイユはりんごをかじりながら言った。
「丁度オモテ祭りも始まるし、楽しくなりそうね」
「オモテ祭り?」
「ともっこさまが鬼を退治したことに感謝するためのお祭りよ。鬼の力の源であるお面をともっこさまが奪って鬼の力を封印したことに由来するの」
「皆お面さ被って参加すんだ! おれのじーちゃんが作ってんだよ」
「へえ、すごいね。楽しそう」
オモテ祭りはゲームの中でも描かれていた。いくつかの屋台が並び田舎らしい賑わいを見せていた。その祭りの最中に、主人公とゼイユは鬼さまと呼ばれる伝説のポケモンと出会うことになるのだが、それをスグリに隠したことでスグリは思いつめるようになってしまう。横目で見ると、スグリはすっかり気を許した笑顔をしていた。この子に辛い思いはしてほしくないなと祈るような気持ちになった。
「で、林間学校の話だけど、用意するものは特にないわ。ちなみに、あたしたちは家で寝泊まりするけどトウカは公民館にパルデアの生徒と一緒に宿泊することになってるわよ」
「ほんとは一緒に泊まりたかったけどじいちゃんがやめとけって……ごめんな」
「大丈夫。気にしてないよ」
ゼイユとスグリの家系は村の真実を代々受け継いでいるので部外者を入れるのはまずいのだろう。その判断に異論はなかったが、家族になり切れない寂しさはどうしても拭いきれなかった。
「パルデアの人たちとの交流も楽しみだし」
「そう! チャンピオンランクっていう超強いトレーナーが来るらしいの! あたしたちも腕が鳴るってもんじゃない?」
「チャンピオンランク?」
トウカは思わず聞き返した。ゲームの主人公が幾多のバトルを経て最後にたどり着くのがチャンピオンランクだ。まさかその主人公に会えるのかと緊張が走る。
「パルデアではポケモンジムっていう凄腕のトレーナーと戦える施設がいくつかあって、それを全部制覇してさらにテストに合格した人がチャンピオンランクって言われるらしいの。つまりポケモンバトルが超強いってことよ!」
「わやじゃ! 凄すぎる……。ねーちゃん、その人の名前は知ってる?」
「この前パルデアに連れていかれたときに会ったわよ。すぐ帰らなきゃいけなかったからバトルは断ったけど。たしか、ネモだったかな」
ネモ、彼女はゲームの主人公のライバルだ。ゲームでは林間学校に来ることはなかったはずだ。主人公がいなくなった影響で林間学校に参加する生徒が変わったとしか思えない。トウカは背筋が寒くなるのを感じた。
パルデア地方で主人公が解決した問題は三つある。不良集団の解体と各地で暴れる強大なポケモンの打破、そしてパルデアの大穴の奥深くで稼働するタイムマシンの停止だ。主人公がいない今、それらが野放しになっているとすると厄介なことになりかねない。
「目が合ってすぐにバトルしようって持ちかけられてほんとびっくりしたんだから! 強そうに見えたからって言われて、まあ嬉しかったけど」
「へええ。バトルのことさすごい好きな人なんだべな」
「スグは気圧されちゃいそう。勢いほんとやばかったもん」
「うう……ちょっと緊張してきた」
ゼイユとスグリはのんびり話している。頭の中から不安を追い出し、トウカも調子を合わせた。
「俺、キタカミのポケモンたちも楽しみだな。まだスグリから貰ったボールが三つ残ってるし」
「いいわね! パルデアの奴らが来る前にゲットして回りましょうよ」
「俺について来てくれるポケモンがいるかどうかわからないけどね」
肩をすくめたトウカの言葉を二人は否定しなかった。こおりタイプに手持ちが偏ることが嫌なわけではないが、できればいろいろなポケモンと触れ合いたい。キタカミにはオタチやロコンのような可愛いポケモンやムクホークやルクシオのようなかっこいいポケモンも多く生息する。一目でも見たいがきっとすぐに逃げられてしまいそうだと、トウカは心の中でがっくり肩を落とした。
あけましておめでとうございます。あんまり明けた感じのない更新分ですが、挨拶だけでも新年らしくさせていただきます。
今年も更新続けますので何卒よろしくお願いいたします。(きっと2024年のうちには完結するはず……! BWリメイクが出て執筆をおろそかにするぐらい夢中になりさえしなければ……)
追記 2024/01/01
能登半島地震に遭われた皆様方のご無事と安らかな一年をお祈りしております。無力な身ですが少しでも心の助けとなれば幸いです。