【ポケモンSBVW】緋炎と紫電と冷灰の子   作:黒蜜殿

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#19

 できる限り距離を取りお互いにボールを構える。一呼吸置いた後、ほとんど同時にポケモンを繰り出した。

 

「けっぱれ、オオタチ!」

「いけ、キュウコン!」

 

 スグリの先発はオオタチ。対してトウカが最初に出したのはキュウコンだ。キュウコンが場作りにおいて優秀というだけでなく、相手のポケモンに応じて戦い方が変わるメタモンや地形を壊すほどの力を持つオノノクスよりも指示を出しやすいと踏んでのことだった。

 

「キュウコン、まずは守りを固めよう。オーロラベール!」

 

 いつものようにトウカはオーロラベールを張る選択をする。そしてすぐにスグリの策にはまってしまったことに気が付いた。

 

「オオタチ、おかたづけ!」

「タチ!」

 

 おかたづけはみがわりやまきびしなどの場の状況をリセットする技だが、自身の攻撃力と素早さを高める効果もある。尻尾で辺りをさっと払ったオオタチは気合万全といった様子でキュウコンを見据えた。

 

「オオタチ、もう一回おかたづけだ!」

 

 スグリの調子づいた指示で一つの可能性に思い当たった。トウカは焦らずスグリを上回る策略を展開する。キュウコンの技構成のうち最後まで悩んだ、味方を支援するための補助の技だ。

 

「キュウコン、アンコール」

「な、アンコール!?」

 

 アンコールは相手が直前に使った技しか使えなくさせる効果がある。攻撃役が攻撃しなかったときや逆に火力の低い支援役などが攻撃したときにアンコールをすることで、相手のやりたいことを封じることができる強力な技だ。

 キュウコンから発せられる脚光を浴びたオオタチはおかたづけを繰り返すことしかできなくなった。攻撃ができないのならいくら能力を上げても仕方がない。

 

「ムーンフォース!」

「キュウ!」

 

 月の光をまとったキュウコンは美しく白の毛並みをなびかせ、光線を放った。オオタチに直撃して土埃が舞い上がるのも気にせずトウカは語りかける。

 

「そのオオタチ、きあいのタスキでしょ。無理やり攻撃を耐えつつ能力を上げて、攻めに転じるなりバトンタッチで味方に繋げるなり臨機応変に立ち回れる。なかなか良い戦略だね」

 

 きあいのタスキは致命傷を受けても必ず一回は耐えることができる汎用性に優れた持ち物だ。キュウコンなら一回は攻撃を耐え反撃することができるかもしれないが、オオタチがきあいのタスキを持っていた場合アンコールをしなければ必ず二回以上攻撃をされてしまう。

 スグリはむしろ楽しそうに笑って言った。

 

「流石にーちゃん。お見通しだったか」

 

 キュウコンはもう一回ムーンフォースをお見舞いした。やがて、地面に倒れ伏したオオタチの姿が煙の中から現れる。スグリは残念そうにボールにオオタチを戻し、次のポケモンを繰り出した。

 

「出番だ、メガヤンマ!」

「キュウコンふぶき!」

「まもる!」

 

 命中したら確実に気絶するだろうふぶきから完璧に身を守られてしまう。あのメガヤンマが特性かそくだと、時間が経てばたつほど素早さの差を付けられて厄介だ。

 そこでトウカは雪が降り止んだことに気が付きますます焦りを深くした。時間をかけてでも安全策でオオタチを突破した分のツケが回った。雪とオーロラベールが無くなったことで防御力が大幅に下がるだけでなく、ふぶきの命中率もかなり減少してしまった。

 

「キュウコン、アンコール!」

「くっ」

 

 メガヤンマの動きをまもるだけに限定させる。この隙にふぶきを当たるまで繰り返すことも考えたが、ゆきふらしを温存したほうがいいと判断しキュウコンをボールに戻すことにした。

 

「キュウコン戻れ! いけ、メタモン!」

「ポケモン交代ですって!?」

 

 ゼイユが驚嘆した。それもそのはず、ゲーム内でポケモン交代を行うのはプレイヤーである主人公しかいない。ルールの穴を突くような、斬新な行動だと映るのだろう。

 ボールから飛び出したメタモンはスグリのメガヤンマに変身した。メタモンの特性かわりものは、相手の能力値の変化も含めてコピーする。つまりメガヤンマが特性かそくで素早さを高めていたとしても、メタモンは同じ素早さを得ることができるのだ。

 

「エアスラッシュ!」

 

 まもるは連続で使うと失敗する技だ。メガヤンマはもう何もできないにも等しい。エアスラッシュが突き刺さるかと思った次の瞬間、メガヤンマの姿はそこにはなかった。

 

「おれも、交代させる! ニョロゾ、いくべ!」

 

 メガヤンマを戻したスグリはニョロゾを繰り出した。まだ進化を残すニョロゾは種族値的には大したことのないポケモンだ。気を取り直して冷静に攻撃を加える。

 

「エアスラッシュ!」

「体ごとぶちあたって! とっしん!」

 

 エアスラッシュを体で受けながらニョロゾはメタモンに突っ込んだ。メタモンは体制を崩すもすぐに立て直す。

 

「エアスラッシュ!」

 

 三度目の正直と言わんばかりにエアスラッシュを叩き込む。ようやくニョロゾが気絶して、最後のポケモンとなったメガヤンマをスグリは繰り出すが、メタモンのエアスラッシュを避けきることができず成すすべなくとうとう地に落ちてしまった。

 バトルが終わり、スグリはポケモンたちをボールに戻し労うように顔を寄せた。軽傷のメタモンはトウカの姿に変わって上機嫌そうにくるくるとトウカの周りを走り回っている。おそらくキタカミの風景が珍しいのだろう。そういえばまだポケモンたちにキタカミに来たことを報告していないなと思った。

 

「とりあえず回復するべ」

「ありがとう」

 

 スグリに手当をしてもらってメタモンは嬉しそうだ。そしてゼイユに久しぶりと言いたげに寄っていく。

 

「あら、ジャイアントホールのメタモンじゃない。あたしに会えて嬉しいのね」

「モン!」

 

 一人と一体がはしゃいでいるのを横目に、キュウコンの手当てもしてもらう。見慣れない景色に警戒するかのようにキュウコンは耳を立てて辺りを見回している。

 

「ついでにオノノクスも出していい?」

「え、うん」

 

 スグリを怖がらせないためにトウカは一旦尋ねてからボールを取り出す。その中から現れたオノノクスにスグリは目を輝かせた。

 

「これがオノノクス!? わやかっこいい!」

「グオ?」

「あれ、スグリと会うのは初めてだっけ」

「うん! 初めて見た……」

 

 オノノクスは熱心に見つめてくるスグリに困惑しているようだ。スグリははっとして身を正して名乗った。

 

「おれはスグリ。えっと、トウカの……」

「友達だよ。家族みたいな」

「そ、そう! 友達……にへへ」

 

 オノノクスは心得たと言うように頷きスグリに一声鳴いた。

 

「グオオ」

「よろしくって言ってるみたい」

「うん! よろしくな」

 

 ニコニコ顔のスグリの膝の上でキュウコンが面白くなさそうな顔をした。オノノクスが褒められているのが気に食わないのだろう。トウカはしゃがみこんでキュウコンに言った。

 

「キュウコンはタロさんに気に入ってもらってるんだからお相子だよ」

「キュウ……」

「モン!」

「キュウ!?」

「わ!?」

 

 トウカの慰めを肯定するかのようにメタモンがキュウコンに飛びつきスグリも巻き込んで二匹が揉める。

 

「もう! トウカの手持ちってなんでこんなに仲が悪いの!」

「な、なんでだろうね……」

「わやじゃ……」

 

 ゼイユが慌ててもみくちゃになったスグリを引きずり出した。オノノクスによってキュウコンから離されたメタモンは残念そうな顔を隠さない。メタモンが極端に人懐っこく他の二体があまりじゃれ合いを好まない性格だから不和が生まれがちなのだろうか。今度はオノノクスにべったり引っ付くメタモンの姿を見て突然トウカは自分の疲労を思い出した。

 

「そうだ、オノノクス。ちょっと俺を乗せて貰っても良い? 足が疲れちゃって」

「ギュオ……」

 

 オノノクスは冷たい目でトウカを見やるが、ちゃんとこちらに来てメタモンを降ろし代わりにトウカを持ち上げる。鎧のような鱗に覆われた背中は乗れそうなところがなかったので、結局オノノクスの肩にもたれかかる様にして片腕で運んでもらうことにした。

 

「いいなあ。おれもポケモンに乗りたい……」

「モン!」

「え、なに……」

 

 スグリの呟きにメタモンが反応し、オノノクスの姿に変身して同じようにスグリを片腕で持ち上げた。

 

「ひええ、わやじゃ!」

「あんた何して……って、ちょっと!」

 

 ついでとばかりにメタモンはゼイユも持ち上げた。

 

「トウカ! なんとかしなさいよ!」

「いいんじゃない? この方が早そうで。オノノクス、スイリョクタウンまで案内するね」

「ギュオ」

 

 トウカの指示に従ってオノノクスは岩の道を歩き始めた。その後ろをメタモンとそれを見守るように真横を歩くキュウコンが付いてきている。

 

「メタモン! あんた口に刃物付いてんだから気を付けなさいよね! 髪を切ったら承知しないんだから!」

「モンモン!」

「ほんとに気を付けてるつもり!?」

 

 後ろからずっとにぎやかな声が聞こえてきてトウカは苦笑した。キタカミセンターの三角形の門に牙が引っ掛かりそうになったのは冷や冷やしたが、快適で楽しい道のりだった。

 スイリョクタウンに着くと日はもう暮れかかっていた。姉弟と公民館前で別れて一人宿泊室へと戻る。今日はキタカミのポケモンと結局出会うことができなかった。それでも手持ちのポケモンたちとの楽しい帰路を思い起こすと、この三体だけでも十分だという気持ちがした。これ以上の充実を求める理由がどこにあるだろうか。

 トウカはそこまで考えて首を振った。自分が何か問題を持ち込んだかもしれない以上、対処できる力は用意しておかないと。自分の白い手を見つめてトウカは思った。氷の力も共鳴の謎もどこまで危険か分からない。周りの人を巻き込む可能性だってある。誰かに、もしかするとアルセウスに背負わされた宿命だとしても、この責は自分自身が取らなければ。

 疲れた体を癒すために早めに休むことにした。ブルーベリー学園のものより狭いベッドでは、トウカ一人が横たわるしかできなかった。飾り気のない部屋で孤独にまどろむ自分に既視感があった。眠ろうとも眠れず、不安に苛まれる自分に。

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