【ポケモンSBVW】緋炎と紫電と冷灰の子   作:黒蜜殿

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#20

 夢の中でトウカは閉じ込められていた。ガラス張りで何か怪しい色の液体に満たされた水槽の中だった。そこから管が方々に走り無数の電子機器に繋がっている。青白い光を投げかけるモニターに囲まれている白衣の背中が見えた。

 

「バイタルに異変、わずかに目覚めた? しかし平常時とは程遠い。……まだ覚醒とはいえませんか」

 

 そう言って科学者らしいその人は振り向いた。霞む視界でも分かる、金髪のオールバックから青いひと房の髪が伸びる特徴的な髪型。たしか名前はアクロマ。プラズマ団に属する科学者だ。

 

「数値のゆらぎの頻度が高くなってきていますね。いよいよこの時が来ましたか。キュレムの待ち望んだ英雄の誕生……!」

 

 なぜあなたがここに? いや、なぜ自分はここに? トウカは口を開こうとしたがその前に意識が遠のいていき、気が付いたときには朝日が差し込む公民館の一室にいた。

 身を起こし、頭に手を当てて記憶を整理する。あれは間違いなくアクロマだった。彼はゲーチスの下でキュレムの研究をしていたはずだ。ということはもしかすると、あの夢は捕獲されたキュレムの視点だったのだろうか。

 事態は思いのほか深刻なのかもしれない。慌ててベッドから立ち上がると、昨日の疲労のせいか足がひどく震えて上手く歩けなかった。

 

「どうしよう、こんなところで挫けてる暇はないのに」

 

 壁に手をついて体を支えながら鞄に手を伸ばし、メタモンのボールを取り出した。

 

「モン!?」

 

 トウカが珍しく顔をゆがませるのを見たメタモンはすぐさまボールから飛び出してきた。いつも通りのトウカの姿で心配そうに眉根を寄せている。

 

「ごめんメタモン。肩を貸してくれない?」

「モン!」

「ありがとう。外に出るまでお願い」

 

 メタモンは快く手助けしてくれた。転びそうになるのをメタモンに支えられながら一歩一歩踏み出す。公民館の受付のおばさんに目を丸くされながら外に出た。柱で身を支えながらメタモンを戻し、鞄から今度はオノノクスのボールを出して繰り出す。

 

「オノノクス、今日も運んでもらってもいい?」

「ギュウ……」

 

 オノノクスにも心配そうな顔をされた。そんなに体調が悪そうに見えるのかと思っていると後ろから声を掛けられる。

 

「にーちゃん、おはよう」

「おーいトウカ、ってメタモンたちもいるじゃん。どうしたの?」

「二人ともおはよう。昨日の疲れが響いてて一人じゃ歩けないから手伝ってもらってたんだ」

「ええ!? 大変じゃない」

「それに……」

 

 夢のことをつい言いそうになって口を閉ざした。キュレムのことを二人に伝えたとして何になるだろう。ただでさえイッシュ地方から遠く離れた地にいるというのに。

 余計な心配を増やしたくない一心でトウカは頭を振った。

 

「ちゃんとご飯も食べたし睡眠もとった。大丈夫だよ」

「なら、いいんだけど……。最後の看板さ行ける? 鬼が山を越えた楽土の荒地にあって、山を北西に下りる……」

「行ける行ける。ね、オノノクス」

「ギャオ」

 

 そう言いながらオノノクスに持ち上げられるトウカにゼイユは呆れ顔で首を振る。

 

「あんまり無理しないでよ」

「でも、明日にはもうパルデアの人たちが来るんじゃないの? 今日しかないよ。皆で看板見に行けるの」

「それは……そうね」

「なら早速行こう」

 

 そうして三人、いや二人と一体は昨日と同じようにキタカミセンターの方向へ歩き出した。今度はオノノクスのおかげで長い坂道も悠々と登ることができる。

 キタカミセンターではいよいよ祭りの準備が始まっていた。屋台や飾り付けを建てる手伝いをしているらしいかくとうタイプのポケモンたちがトウカのほうをぎょっとした顔で見やる。トレーナーたちもトウカの方を見てオノノクスに驚いていた。

 

「明後日からオモテ祭りさ始まるんだべ」

「丁度オリエンテーリングが始まる日ね。偶然だと思うけど」

「それならパルデアの人たちとも一緒にお祭り回れるかな?」

「なんでよそものと一緒に回らなきゃいけないのよ」

「おれも、初めての人はちょっと……」

 

 思いがけない反応にトウカは目を丸くした。二人とも自分とはすぐに打ち解けてくれたと思うのだが、それはどうやら特例らしい。

 

「チャンピオンランクの人とか気になるんじゃないの?」

「あくまでバトルの腕の話よ。よそものってことに変わりはないわ」

「俺もよそものだけど……」

「あんたは家族みたいなもんだから別よ!」

「そ、そうだべ……にーちゃんはにーちゃんだもん」

「冗談だよ」

 

 二人にむっと迫られてついつい微笑みを溢してしまった。ゼイユもスグリも素直で子供らしく、まるで妹と弟のように思えた。そう正直に言ってしまうとスグリはともかく、ゼイユは「あたしが姉よ!」と怒るだろうな。トウカの珍しい笑顔に浮足立つ姉弟を見ながら、さんさんと降る日の光の暖かさに心躍る気持ちになった。

 険しい鬼が山へ入り、今度は恐れ穴の方向ではなく山の中腹をぐるりと回る道を進む。人が通った痕跡すらないような岩が露出しガスが噴き出る光景にトウカはぎょっとしたが、ゼイユとスグリはなんでもないような顔ですいすい歩いていた。

 

「ここから下っていく。危ないから気ぃつけて」

 

 スグリはそう言うと突然ひょいっと飛び降りる。彼の背丈の二倍ほどはある段差を次々に下っていくスグリに人間の定義を覆されたかのような衝撃を味わった。ゼイユも続いて下りていきオノノクスがそれに続く。トウカはこわごわオノノクスの肩にしがみついた。

 ようやく緩やかな道になってトウカは口を開く。

 

「二人ともすごいね」

「あ、普通は怖いのか……?」

「キタカミに住んでたらこれぐらい平気よね。子供の頃からしょっちゅうあちこち歩いてるし」

「それにキタカミ鬼面衆っていうかっこいい人たちがいて、その人たちを探してバトルするっていうイベントもやってくれんだ。全員見つけて倒した人はまだ誰もいないって話だけど……」

「そうそう。たしかここにもいたわね。あたし、惜しいところまではいけたのよ」

 

 途中、池を取り囲むように岩壁のある空間に出てゼイユはそう言った。この特徴的な地形はトウカも見覚えがある。たしかにゲーム時代、キタカミ鬼面衆という強いトレーナーの一人が待ち構えていた場所だ。キタカミ鬼面衆は子供向けのレクリエーションなのだとそのリーダーが言っていたのをトウカはぼんやり思い出した。




道案内はゲーム内のセリフを元に書いてるんですけどスグリの言う「鬼が山を北西に下る」の道のりが分からなくてもう適当にこのルートだろって書いてます。ちゃんとゲームを起動して歩いてみてもいるんですがテラスタルゴルダックで行き止まりなんですよね。こっちが正規ルートじゃねってやつがあったら教えてください。
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