【ポケモンSBVW】緋炎と紫電と冷灰の子   作:黒蜜殿

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#21

 道の両脇にそびえていた岩壁は途切れ途切れになりやがて景色が広がった。青々とした草が茂る平原と草の根一つすらない荒れた地面が不自然に隣り合わせになっている不思議な光景だ。

 ふいにスグリが道を逸れて崖を下り始める。ゼイユも同じようにし、トウカが疑問を呈する暇もなくオノノクスが続いた。崖を逃げ道に選んだ草食動物のように軽やかに駆け下りる二人に、これが基準だから体力のない自分のことをあれほど心配するのかとトウカは密かに納得した。

 ざらついた砂地に降り立ち、疲れも見せないゼイユとスグリに案内されて看板の方へ向かう。途中、後ろに遠く見える森からばさばさと鳥ポケモンの群れが飛び立っていくのが見えた。

 

「なんか騒がしいわね」

「あそこは強いポケモンっこさ住んでる……危ない森だべ」

「もしかしてトウカの威圧感が向こうまで伝わってるとか?」

「ありえなくはないね……」

 

 そう首を傾げながらも歩き、すぐに立て看板のある岩の群れに到着した。オノノクスに下ろしてもらって内容を読む。そこには鬼が人の魂を奪う伝承について書かれていた。スグリも半信半疑の謎の多い記述だ。

 

「だから遅い時間に一人で出歩くのは危ないのよ。そうよね、スグ」

 

 ゼイユは圧をかけるようにスグリを睨みつける。実際、スグリはよく夜中に家を抜け出す困った子供なのだとゲーム内でも描かれていた。スグリは思い当たる節がある様子で顔を背ける。ゼイユは大きなため息を吐いてみせた。

 

「ま、これでトウカもよそものに看板を案内できるようになったでしょ。あたしもブライア先生の見張りに集中できるってもんだわ」

「そういえばそうだったね。ブライア先生が行きたがってる場所があるんだっけ」

「そうよ。てらす池って言って、死者と出会えるっていう不気味な話もあるくらい神秘的で綺麗な場所なの。恐れ山の頂上にあるわ」

 

 ゼイユは山のてっぺん辺りを指さした。この無骨な山の中にあの美しい光景が広がっていると思うとトウカはしみじみと人知を超えた力の凄まじさを感じずにはいられなかった。

 ゲーム内でもてらす池は重要な場所として登場する。鬼のお面に埋め込まれたテラスタルの欠片、それを修復するため主人公とゼイユが訪れるのがテラスタルの結晶が自生するてらす池だ。それだけで十分異質な土地ということが分かるのだが、死者と会えるという言い伝えもあながち間違いではなく、テラパゴスと言うポケモンの力で世界線を超えた先の人間を呼び出すこともできるのだ。

 

「坂を上るだけでへばっちゃうトウカには、まだてらす池は早そうね」

「え! ねーちゃん、トウカにてらす池見せる気なの?」

「なによ! トウカが見たいって言うなら止めないってだけよ。連れていくとは言ってないじゃない!」

「珍しい……ねーちゃん、いつもはもっと嫌がるのに」

「何が言いたいのよ! スグのくせに生意気ね!」

「え!? 珍しいって思っただけ……」

「ちょっとゼイユ落ち着いて」

 

 慌てて間に入ろうと足を出すと思ったより力が入らなくて体勢を崩してしまった。やばいと思った瞬間、ぽすんと柔らかい身体に受け止められる。ゼイユが抱きとめてくれたようだ。

 

「もう! トウカってば、ほんと気を付けなさいよ!」

「ごめんゼイユ。ありがとう」

 

 その髪から漂う良い香りから意識を逸らしつつ礼を言った。顔を上げると近いところにゼイユの顔があり、驚いて見つめていると、ゼイユはどこか赤い頬でそっぽを向いた。

 

「早く立ちなさいよ」

「あ、ごめん」

 

 ふらふらと立ち上がるトウカをすかさずオノノクスが迎えに来る。トウカは大人しくその腕に抱え込まれた。

 

「今日はもう帰りましょ。明日にはよそものを迎えないといけないんだし」

「そうだね」

「じ、じゃあ、今度はフジが原のほうを通っていく? 綺麗な池もあるし、にーちゃんに見てほしい……」

「いいね。俺も見てみたいな」

 

 ゼイユの様子を気にしておどおどとするスグリの提案に乗ると、彼は一気に笑顔になった。まさに荒地に突然花が咲き誇ったようなその変貌ぶりにはいつも驚かされる。一方ゼイユは珍しく思案気で陰のある整った顔立ちが様になっていた。

 楽土の荒地を過ぎ緑の平原へ出る。ところどころ道のように草の生えなくなった場所がありやっと人の息遣いを感じられる場所だった。のびやかな青草をかき分けて進んでいくと遠目に咲き乱れる藤の花々が見えてきた。趣のある光景だった。

 

「いい景色だね」

「だべ? なんか風情があっていいよな」

 

 近づくと池がさざ波だっていた。おそらく住み着いているポケモンがさっき慌てて逃げだしたのだろう。スグリもそれに気が付いたようで残念そうに肩を落としていた。

 ひとしきり景色を堪能した後帰路についた。なだらかな坂を上るとスイリョクタウンとその手前のりんご畑が日に照らされてさんさんと輝いていた。その間をのんびり歩きながらトウカとスグリは話を弾ませる。

 

「ここら辺にいるりんごみたいなポケモンっこも紹介したかったんだけども……」

「ああ、カジッチュ?」

「知ってるの? カジッチュはよくこの辺の木に紛れてるんだべ。キタカミにはカジッチュの進化系で、カミッチュっていうりんごあめみたいなポケモンっこもいんだよー」

「へえ、見てみたいなあ」

 

 柔らかな笑みで語るスグリのポケモン紹介を聞いているうちにスイリョクタウンに着いてしまった。公民館の手前の路地で姉弟と別れようとしたとき、あの女性に声をかけられた。

 

「そこのキミ! なかなかいいオノノクスを連れてるね! 写真を撮らせてもらってもいいかな?」

 

 青いショートカットが目を引く軽装の出で立ちの女性だ。傍らにはヒスイガーディが大人しそうに寄り添っている。

 トウカが返事をする前に警戒するようにゼイユが前へ出た。

 

「まずは自己紹介が先なんじゃないですか」

「おっとすまない。ワタシはサザレ。ちょっぴりカメラ好きな旅の者さ。こっちは相棒のガーディ! 頭のツノがキュートでしょ」

 

 ゼイユの鋭い視線を受けてもサザレはひょうひょうとして意に介さず自己紹介をした。その後ろのガーディはトウカに怯えているのか顔を出すだけで近づいてこようとしない。

 マイペースなサザレにゼイユは不服そうに腕を組み、トウカのほうを見やった。

 

「どう? トウカ」

「俺はいいよ。サザレさん、どうぞ好きなだけ撮ってください」

 

 そう言ってオノノクスから降りようとするのをサザレが止めるように言った。

 

「トウカくんも一緒に撮っても構わないかい?」

「えっと、まあ……いいですよ」

「ダメに決まってるじゃない! 知らない人に自分の顔撮らせるとか!」

「アハハ! 素直すぎて心配になるよ、トウカくん。彼女がいてくれてよかったね」

「彼女……?」

 

 ゼイユは目を見開いた。何やら勘違いしているなと思いつつトウカはサザレに紹介する。

 

「ああ、彼女はゼイユです。で、その後ろの子がスグリ」

「あ、えと、初めまして……」

「ゼイユちゃんとスグリくんだね! 初めまして!」

 

 なかなか話の輪に入れなくてまごついていたスグリもついでに紹介すると、サザレに快活な笑顔を向けられてスグリはますます委縮した。そういえばといった様子でサザレは首をかしげて呟いた。

 

「ゼイユちゃんとスグリくんの名前は聞いたことがあるな? たしかこの辺の問題児だって……」

「わー! わー! なんであんたが知ってるんですか!」

「狭い村だからいろいろとね。耳に入ってくるんだよ」

 

 すかさずゼイユが邪魔するとサザレはいたずらっぽく笑った。ゼイユは恥ずかしいのかまた怒り顔で手を震えさせている。

 

「あの! トウカはもう疲れてるんで、写真は今度でいいですか?」

「そうなのかい? それは引き留めて悪かったね。ワタシはしばらくこの村を拠点にしているからさ。写真を撮られたくなったらいつでも声をかけてよ」

 

 サザレは残念そうにしつつ構えていたカメラを下げた。トウカは再訪を約束しつつその場を離れ、ゼイユとスグリとも別れて公民館へと戻った。

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