丁度サザレと入れ替わるようにしてゼイユとスグリが公民館にやってきた。パルデアの人をキタカミ流儀で出迎える準備万端といった風にやる気で満ち溢れている二人は、疲れが抜けきってない様子のトウカに目を丸くした。昨晩の冒険のことを伝えるとゼイユに手ひどく怒られそうだったので、緊張で上手く眠れなかったことにした。なんとか誤魔化せたらしく、二人はトウカの様子を気にするのを止めてサザレのことを尋ねた。
「それよりさっきの人、この前トウカを撮ろうとしてた人よね? なんで公民館にいたの?」
「ああ、写真のお礼を持ってきてくれたんだよ」
「お礼ってことはあんた撮影させたの!?」
「俺の顔はそんなに映ってないから大丈夫だよ。……たぶん」
「にーちゃん……意外と抜けてるから心配だべ」
「大丈夫だって。それより、ブライア先生たちはいつここに到着するの?」
「もう空港には着いたらしいから二時間後には来ると思うわ」
ゼイユは見るからに浮ついた様子だったが、ブライア先生の面倒を見なければならないことを思い出したらしく、突然大きなため息を吐いた。
公民館の中にいてもやることがないのでとりあえず外に出た。朝日が寝不足のトウカに突き刺さって少ししんどかったが、なんとかふらつくことなく歩くことはできそうだった。
「そうだ、にーちゃん。写真のお礼って何を貰ったの?」
「こだわりスカーフと、ヒスイガーディ」
「ヒスイガーディ!? 見たい見たい!」
はしゃぐスグリのためにトウカは先ほどサザレに貰ったボールを取り出した。そういえばまだ新しいトレーナーとして顔合わせをしていなかった。
「おいで、ガーディ」
そう言ってボタンを押すと蓋が勢いよく開き、人懐っこそうに舌を出すヒスイガーディが現れてぶんぶんと尻尾を振ってトウカの足にまとわりついた。
「可愛いじゃない!」
ガーディの可愛さにゼイユもすっかり魅了されたようだ。スグリはしゃがんでガーディと目線を合わせにこにことしている。
トウカも膝をつくと、ガーディは賢そうな雰囲気でトウカをそっと伺った。その背を撫でると随分と温かい。
「俺はトウカ。よろしくね、ガーディ」
「ぐふん!」
ガーディは返事のように声高に鳴くと、伸ばされたトウカの手をべろべろ舐め回した。その勢いの良さにゼイユもスグリも苦笑している。その後挨拶をするかのようにスグリの手も唾液まみれにされてしまい、べたべたの手を持て余すトウカとスグリからゼイユはすかさず距離を取った。
「わやじゃ……指がふやけとる」
「人懐っこい子みたいで良かった。メタモンと性格合いそうで」
「あんたの手持ち、メタモン以外ちょっとドライだものね」
そんなことを話していると、呼ばれたと分かったのか、メタモンが勝手に鞄の中から飛び出してきた。トウカの姿を取って人間らしくガーディをわしゃわしゃと撫でている。顔を舐められてもメタモンは嬉しそうだ。
「この姿のガーディも、たしかほのおのいしで進化するよね」
トウカはほのおのいしもテラリウムドームで拾ったことを思い出していた。サザレが戦い好きな弟と呼んでいたことを考えると、早く進化させてもいいのかもしれない。ただ、オノンドのように力を制御できなくなる可能性だってある。
「そうだ。ガーディのバトルの仕方を見たいな」
「バトルする?」
「いや、最初はその辺で技の出し方とか見るよ」
今にもボールを構えそうなスグリを押しとどめてトウカがそう言うと、ますますスグリは目を輝かせた。
「そういえば、にーちゃんがポケモン鍛えてるところ見たことない……どんな訓練するの?」
「あたしもぜひ知りたいわね」
「そんな面白いことはしないと思うけど……」
「モンモン」
「メタモンも見たいって言ってるわよ」
予防線を張ったものの二人の好奇は止めることができず、結局ガーディとの訓練を見学されることになった。スイリョクタウンから出てすぐの川べりまで歩き、ゼイユとスグリ、そしてメタモンに見守られながらガーディに技を出してもらう。
今ガーディが覚えている技はどうやらひのこ、とおぼえ、かみつく、かえんぐるまの四つらしかった。レベルがかなり低いのでバトルに出すのは相当後のことになりそうだ。トウカの体質のせいで野生ポケモンと戦闘するのは難しく、どうやって戦闘経験を積んでもらおうかと思わず頭を抱えたくなった。
トレーナーの先輩である二人に助言をしてもらおうかと振り向いたとき、ふと思いついた。メタモンならちょうどいいバトル相手になるかもしれない。
「メタモン」
トウカがそう呼んだだけでメタモンは真意を理解したらしく、嬉しそうにこちらへ走ってきながらぐにゃぐにゃと体を変化させた。
「ぐふ?」
「ぐふモン!」
ガーディは不思議そうに変身したメタモンを見て、挨拶をするように尻尾の付け根をくんくんと嗅ぎまわった。メタモンもお返しと言わんばかりにガーディを追いかけている。
子供に友達ができた嬉しさってこういう気持ちなのかもしれないと思いながらトウカはその光景を眺め、はっと本来の目的を思い出して指示を出した。
「バトルの練習をするよ! ガーディには僕が指示する。メタモンは自由に戦って」
メタモンは頷き、ガーディから離れてバトルコートぐらいの距離を取って構えた。ガーディは見様見真似をするようにメタモンと同じように身構える。
「いくよ! ガーディ、かみつく!」
鋭い牙を剥きだしに迫るガーディに、メタモンは炎をその身にまとわせて立ち向かった。その火炎に邪魔されて噛みつくことができず、ガーディはもどかしそうに立ち退いて距離を取る。メタモンはその勢いを保ったままガーディに突き進んだ。
「ガーディ、ひのこ!」
すぐさまガーディが吐いた小さな火が直撃したメタモンは、思わずその足を止める。その隙を見逃さずトウカは声を張った。
「かみつくで追撃!」
ガーディが飛び掛かるとメタモンはやり返すようにひのこを吐き、ガーディがたたらを踏んで技を外した瞬間にばっと後ろに跳んで距離を取った。
「トウカの指示もメタモンの動きもすげー……」
「なんか、思考回路が同じって感じよね」
後ろに座った二人がそう喋っているのが聞こえた。目の前ではメタモンとガーディがじりじりと距離を保って慎重に歩き、お互いに好機を伺っているようだ。上機嫌そうにガーディの尻尾が振られているのを見て、戦い好きというサザレの言葉が再び脳裏によぎった。
メタモンが火炎を帯びるとガーディも同様にし、駆け出してはぶつかり合った。衝突の余波で空を舞ったものの、どちらも余裕そうに着地をする。同じことをしていても埒が明かないと判断し、トウカは試しの指示をだした。
「ガーディ、とおぼえ」
「ぐふーん!」
とおぼえは攻撃力を高めるだけの技。これに時間を使うよりは攻撃を行った方がダメージは稼げるので一見無駄な選択だ。実際、メタモンは同じようなことを思ったのか、とおぼえをすることはなく再び火炎を身にまとわせている。
「かみつく!」
「ぐぁう!」
トウカが鋭く指示を出すとガーディは猛々しく吠えた。とおぼえをしたことにより気迫のようなものがみなぎっている。
火に近づくことはないだろうと踏んだらしいメタモンは牙を剥くガーディにそのまま突っ込んでくる。それをガーディは動じることなく受け止め、火炎ごと食べるように大きくかぶりついた。
「モン!?」
メタモンは思わず声を上げて仰け反った。体制を崩した隙を見逃さず、トウカはすかさず指示を出した。
「かえんぐるま!」
みなぎる気力が反映されたかのような、ひと際激しい火炎をまとわせたガーディは四つ足で地を駆け、メタモンにぶつかっていった。そして炎が消えたそこには、疲労困憊といった様子で地面に寝転がるメタモンと、その背中を自慢げに前足で踏み尻尾をぶんぶんと振って笑顔を浮かべるガーディが居た。
「よし。一旦訓練はここまでにしようか。メタモンもガーディもお疲れ様」
「ぐふ!」
「モン……」
トウカが二体に駆け寄って労いの言葉をかけると両方から一斉に抱き着かれて身動きが取れなくなった。尻もちをつき顔面をよだれだらけにされるトウカにゼイユとスグリが歩み寄る。
「す、すごいバトルだった……!」
「さすがねトウカ! バトルの腕もいいじゃない!」
「俺はそんな……大したことはしてないよ」
トウカは顔からガーディを引きはがして言った。そして両手の中で無邪気に舌なめずりをするガーディに笑顔で語りかけた。
「強いね、ガーディ。一緒に成長するのが楽しみだよ」
「ぐふん!」
心強い仲間が増えて心の底から嬉しかった。その喜びが伝わったのかガーディも、トウカの膝で丸まって休むメタモンも嬉しそうににこにこと笑っていた。
ふいにゼイユのスマホロトムが可愛い通知音を鳴らした。もしかしてと思ってトウカとスグリが見守る中、ゼイユはまたため息を吐いて言った。
「思ってたより早く着きそうだって。そろそろバスが来るらしいから急いで公民館に戻るわよ」