【ポケモンSBVW】緋炎と紫電と冷灰の子   作:黒蜜殿

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#3

 トウカはベッドの中ではっと目を覚ました。ぞっとした気持ちで身を起こすと、なんだか喉が痛かった。

 荒れる心を察知したのか、ボールから出てきたメタモンがトウカの姿をとって、慰めるかのように抱きしめてきた。波立った心が落ち着いていくのを感じながらそっと呟いた。

 

「俺に変身されると落ち着かないから、できればやめてくれないかな」

 

 トウカがそういうと今度はゼイユに変身した。ますます落ち着かない。

 

「ゼイユになるくらいなら俺でいいよ……」

 

 メタモンは笑顔で再びトウカに変身して、今度はトウカから布団をはいでゴロゴロし始めた。自分自身が正気を失った姿のようでとても直視できなかった。

 

「トウカ! そろそろ行くわよ!」

 

 突然ゼイユが顔を出した。トウカは心臓が口から飛び出そうになった。もし来るタイミングがもう少し早かったらとんでもない誤解をされていたに違いない。

 

「うわー、どっちがあんたよ」

「床で寝転がってるのがメタモンだよ。それぐらい判別してくれないかな」

「あんたのくせに生意気ね。どっちも一緒じゃない」

 

 相変わらず横暴なゼイユにため息をつきながらポケモンセンターを出発した。ジョーイさんとタブンネに見送られながら、エアームドが運ぶ空飛ぶタクシーに乗り込んで数時間後、海の中に浮かぶ無機質な学園の姿が目に入った。

 

「そろそろ降りる準備をするわよ」

 

 頷いてポケットの中のモンスターボールをそっと撫でる。今の手持ちはメタモンしかいないが、それでもとても心強かった。ゲームの主人公たちも同じ気持ちだったのかもしれない。どんな強敵が相手でも立ち向かっていけたのは、きっと頼もしいポケモンたちが背中を押していてくれたのだろう。

 いよいよタクシーが着陸し、トウカとゼイユは学園へ降り立った。入口の方からお洒落な身なりの紳士が歩いてくる。

 

「おかえり、ゼイユくん。そして君が……」

「トウカですよ、シアノ学園長」

「そう! トウカくん! いやあ、名前覚えるの苦手なんだよね」

 

 悪びれずひょうひょうとする学園長にゼイユは呆れた顔をした。

 

「話は聞いてるよー。なんかいろいろ大変なんだって? でも優秀な教師と優秀な生徒の頼みだからねえ。僕のあれやこれやを使って、君をうちの学園の生徒として向かい入れることにしたんだ」

「恐れ入ります。十分報いることができるよう、尽力いたします」

 

 トウカは頭を深く下げた。身寄りもないのに入学するなんて、本来なら不可能なことだ。それを可能にした学園長の懐の広さと、何よりゼイユとブライア先生の献身に、心の底から感謝をした。

 

「頭を上げて、堅苦しいのはやめていいよー。バトルの知識がとっても豊富ってブライア先生から聞いたから、君の活躍が今からすごく楽しみなんだ。うちの学園にはブルベリーグっていう制度があってね、生徒全員がバトルの腕前を競ってるんだ。ぜひそれに参加して、うちの学園を盛り上げてねー」

 

 シアノ学園長はにこやかに言うが、その言葉は重いプレッシャーを放っていた。ブルベリーグはランク5位から2位の生徒が四天王となり、ランク1位の生徒はチャンピオンとして君臨する、圧倒的な競争のフィールドだ。自分が上り詰められるかどうか、正直不安だった。

 

「トウカは活躍しますよ。絶対」

 

 ゼイユが後押しをし、ますますトウカは冷や汗をかいた。

 

「あ、渡すの忘れるところだった。これ、制服ね。じゃ、トウカくん、がんばってねー」

 

 シアノ学園長は緩い様子で制服を手渡すと、のんびりと帰って行った。緊張が解けないトウカに構う様子もなくゼイユはトウカの手を取る。

 

「次はリーグ部室行きましょ! あたしとスグ……弟の入ってる部活なの。もし弟がいたら、ついでに紹介してあげる!」

 

 ずんずんと進むゼイユに成すすべなく引っ張られて歩く。周りで歓談する生徒の視線が突き刺さるのを感じて落ち着かなかった。

 

「せめて制服着させて……」

「はあ? そんなの部室で着替えればいいじゃない」

 

 何を言っても止まらないと判断してゼイユに身を任せることにした。あっという間に部室にたどり着き、ゼイユは勢いよくその扉を開けた。

 

「みんな! 新しい部員を連れてきたわよ!」

「勝手に変なこと言わないで」

 

 ゼイユの大声に部室にいるすべての人間がこっちを見た。トウカは思わず受け取ったばかりの制服で顔を隠す。

 

「ゼイユ。予定よりも遅い帰還です。何か発生した?」

 

 機械的な呼びかけをしてくるメガネの生徒は、四天王の一人であるネリネだ。たしかゼイユの親友だったと思うが、たしかに仲が良さそうにゼイユは満面の笑みで答えた。

 

「出先で人間を拾ってきたから連れてきたのよ!」

「人間を拾ったあ!?」

 

 ゼイユに負けない大声で素直に驚いたのは、同じく四天王の一人であるアカマツ。記憶ではネリネのランクが4位でアカマツが5位だったが、もしかするとその通りのランクではないかもしれない。

 

「おいおい、ついに犯罪に手を染めたってーのか。ゼイユよう」

「うっさいわね! むしろ社会貢献よ!」

 

 まぜっかえすように声をかけたのは、四天王の中で最も高いランク2位であるはずのカキツバタだ。どうやら人間関係はゲームのときとあまり変わっていないようで、ゼイユとカキツバタの相性は悪そうだった。

 

「倒れていたところをポケセンに運んで、身寄りがないっていうから学園に連れてきたのよ。ブライア先生も共犯よ共犯」

「共犯ならやっぱり犯罪か」

「言葉の綾よ!」

 

 言い合いをする二人に挟まれて目を回しそうになったところに、あざとい表情で覗き込んでくる人物と目が合った。

 

「最近イッシュ地方は物騒ですからね。私の父も気を付けろと言っていました!」

 

 ランク3位の四天王、タロは可愛らしく声を張った。

 

「タロのおやっさんが言うってーことは、相当だな。まあ、うちはうちでしっかり強くなっておきましょうや。んで、自信満々に連れてきたんなら、それなりの見込みはあるってことだろ?」

「ふふん、聞いて驚きなさい。こいつは昨日初めてポケモンを捕まえたばかりよ!」

 

 胸を張るゼイユの言葉に部室は静まり返った。トウカは穴があったら入りたい気持ちになった。

 

「……おいおい、オイラの聞き間違えか? そうじゃなかったら冗談だろい?」

「聞き間違えでも冗談でもないわ。こいつは正真正銘初心者ポケモントレーナー。それでもうちでやっていけると、私とブライア先生の両方から評価された逸材よ」

「まあ、それは本人に直接聞きましょうや。まずは名前を教えあうとっからか。オイラはカキツバタってんだ。よろしくやっていきましょうや」

 

 トウカは緊張を鎮めるために息を一つついて、一歩前へ出た。虚勢を張ってでもリーグ部の仲間として認められたかった。

 

「俺はトウカです。トレーナーとしては初心者ですが、知識は誰にも負けません。よろしくおねがいします」

 

 自信の伴わない言葉でも、カキツバタは喜んでくれた。

 

「おっ、威勢が良くていいねえ。んじゃ、とりあえず四天王を順繰りに紹介していきやすか。えーっと、まずは」

「四天王のタロです! かわいいものが大好きです! ゼイユさんもカキツバタも適当なところがありますので、何かあれば遠慮なく私を頼ってくださいね!」

 

 カキツバタの言葉を遮るようにタロが自己紹介をした。出鼻をくじかれたカキツバタは仕方なさそうに笑っている。

 

「次、四天王ネリネ。バトルのできない生徒を認めることはできない。しかし友ゼイユの推薦、期待している。よろしく」

「オレの番だな! 四天王アカマツ! 料理とバトルが好きだ! 直火でよろしく!」

 

 残りの二人もカキツバタの言葉を待たずに自己紹介を済ませた。ゼイユがいつもの企むような笑顔でこちらを見やる。

 

「それで、私が四人目の四天王ってわけ。ブライア先生に連れまわされてなかったら余裕でチャンピオンだったんだけどねー」

「はいはい。どこかの誰かが忙しいおかげでオイラはずーっとチャンピオンですよっと」

 

 ゲームとは違う。やはり異なる世界のようだ。ゲームでのカキツバタはチャンピオンから四天王に降りたばかりだった。数年にわたり最強であり続けた彼を打ち破ったのは、主人公との対峙を経て強さに執着するようになった、スグリだった。

 

「ゼイユ。四天王の試合、予約多数。早めの消化を推奨する」

「あーもう! 疲れて帰ってきたのに試合あるのサイアク! どれもこれもスグが早く強くなんないからよ!」

「スグリは勝ち負けを気にするより楽しんでるところがいいんだがねい」

「勝てないから気にしてないふりしてるだけよ! あたしの弟なんだから、本気出せばすぐ強くなるに決まってんのに」

 

 無茶苦茶な理論でスグリを責めるゼイユ。主人公と出会う前のゲームでの二人の関係とここは同じようだ。もしかすると主人公と出会うことになる林間学校がまだ行われていないのかもしれないが、それでもゼイユが四天王であることは初耳だった。

 いったい何が起きているのかと頭を悩ませていると、背後の扉がゆっくりと開いた。

 

「お、ちょうどお出ましでい」

「ねーちゃん! おかえり……」

 

 入ってきたのはまさしくスグリだった。相変わらず顔が隠れるほどの前髪をそのままに、ゼイユとおそろいのバンダナをつけた姿だった。スグリはゼイユに安心しきった顔を向けた後、その傍らにいるトウカに目を留め、驚いたように見開いた。

 

「スグにも紹介してあげる。こいつはトウカよ。倒れてたところをあたしが拾ってきてあげたの」

 

 スグリはしばらく何も言わず、ただ凝視して茫然と呟いた。

 

「……おれ、会ったことある?」

 

 今朝見た夢のことを思い出していた。観覧車の中でスグリと二人、空を眺める夢。でもあのときのスグリは今の彼とは違う姿をしていたはずだ。

 

「何ねぼけたこと言ってんの、スグ」

「え? あ、ごめんなさい……」

 

 ゼイユが呆れた声を出す。トウカはひとまず名前を告げた。

 

「俺はトウカ。よろしくね」

「お、おれはスグリ……よろしく」

 

 目を合わせようとせず、スグリはそわそわとゼイユの影に隠れるようにした。だがゼイユは逆に引っ張り出すようにスグリの背中を無理やり押し出した。

 

「よし! じゃああらかた紹介も終わったところで、スグ! トウカにテラリウムドームを案内しにいきなさい」

「えっ、おれが?」

「あたしは四天王の仕事で忙しいもの。あんたどうせ暇なんだから案内ぐらいしてあげなさい」

「ねーちゃん、人使い荒すぎ……」

「あの、二人とも、とりあえず制服に着替えさせて」

 

 言い合う二人を困って交互に見やるトウカをカキツバタが手招いた。

 

「あっちのロッカーがあるところで着替えな。バトルできるようになったらぜひリーグ部に来てくれよう」

「ありがとうございます」

「いいっていいって。ゼイユとスグリは人との適当な付き合い方を知らないだけで、根は良い奴らなんだ。ま、仲良くしてくれよな」

「もちろん」

 

 カキツバタのおかげで着替えることができたトウカは、着慣れないぴっちりとした制服を気にしながらゼイユとスグリの元へ向かった。

 

「制服とっても似合ってます! テラリウムドームは広くてとても面白いので、ぜひ楽しんできてくださいね」

 

 タロがにこやかにトウカを見送ってくれた。

 いつの間にかゼイユに丸め込まれたらしいスグリがそわそわとトウカを待っていた。ゼイユはというとネリネたちとすっかり話し込んでいるようだった。

 

「それじゃあ、い、いこう」

「うん。ありがとう、スグリ」

 

 スグリに連れられるようにしてその場を後にする。扉を閉じてもにぎやかな声が聞こえてくる部室はとても楽しそうだった。

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