日が地平線にかかりそうなころ、ようやくセンタースクエアに到着した。ちらほらと生徒の姿が見え、思いのほかにぎやかだった。
「あのバトルコートの近くにポケモン回復マシンとわざマシンマシンがあって……一応使い方教えとく」
もはやメタモンを引きはがすことを諦めたスグリは、その手を引いたまま歩いて行った。トウカも後をついていくと、やはりいろんな人がぎょっとした顔でこちらを見てきた。メタモンを自分に変身させたまま出歩かせるのは可能な限り避けなければと、そっとため息をついた。
中央で一段高いバトルコートのそばにマシン類はまとめて置いてあった。機械の説明をあらかたし終えたスグリはこれから向かう先を指さす。
「あっちがコーストエリア。南国を意識した造りで暖かいから、探検しやすいと思う」
そしていざ向かおうとしたところを、突然誰かに呼び止められた。
「そこのあなた! その子はメタモンでしょう。ポケモンとシンクロしていかない?」
「あ、えっと、このメタモンはおれのじゃなくてこっちの……」
「ではそちらのあなたはシンクロにご興味が」
「今のところ特にはないですが」
声をかけてきた相手は博士のような出で立ちをしていた。ゲームでも登場したキャラクターだから自分は知っていたが、まさかこの世界でも声を掛けられるとは思っていなかった。
この博士は名前をシンクロミといい、ポケモンとシンクロ、つまり感覚を共有できる機械を主人公に渡してくる。ゲームのお遊びでしかないと思っていたが、まさかこの世界でも発明されていたなんて。
「まあまあ、とりあえず機械を渡しておくから、使ったら感想を教えてね!」
半ば押し付けられるように無骨な機械を受け取った。無駄に鞄を圧迫したくなくてスグリにすかさず差し出す。
「スグリいる?」
「も、もしかするとポケモンに信頼されるために使えるかも……」
「やっぱり危なそうだから俺が持っておくよ」
スグリに万が一があったときのことを考えると自分が持っていた方がましだ。真剣にこの機械の使い方を考えているスグリを横目に手早く鞄にしまい込んだ。
コーストエリアの方向に出たトウカたちは野生のポケモンを探しながら歩いた。記憶ではこの辺りはキュワワーやエルフーンといったサポートに秀でたポケモンが多く生息するので、ダブルバトルで活躍させられそうなポケモンをゲットしたかった。しかしポケモンたちは全く姿を見せようとせず、偶然見つけてもすぐに草むらに隠れてしまった。
「もしかしてにーちゃん、ポケモンに避けられてる?」
「理由はわからないけど、そうかもしれない」
基本的に鈍感なガラルヤドンでさえ、トウカが近づくとゆっくり離れていった。スグリは困った顔で俺を見上げる。
「にーちゃん、どうする?」
「とりあえず他のエリアへ行ってみよう。メタモンは俺に懐いたわけだし、たぶん全部のポケモンに避けられるわけじゃないと思うんだけど……」
「なら、とりあえず横のポーラエリアに行ってみるべ。足場が悪いからおれは苦手だけど、メタモンが付いてくれてるなら大丈夫だな」
「モン!」
メタモンはトウカの姿で胸を張った。スグリは苦笑してメタモンと歩き出す。なんとなく申し訳なく思いながら、その後ろについていった。
暖かいコーストエリアから厳しい寒さのポーラエリアへの移動は、トウカにとってはさほど苦ではなかった。ただスグリはとても寒がってぺったりメタモンに引っ付いている。
「この寒さのこと忘れてたべ……」
「スグリ。もう十分案内してもらったし、スグリはいったん戻ったほうがいいんじゃ」
「にーちゃんはまだポケモン探すんでしょ? 助けてもらったお礼もあるし学園内の案内も必要だろうから、おれも一緒にいる」
「そっか。ありがとうスグリ」
震えながらもスグリはきっぱり言い切った。
暗くなっていく空の下、冷たい氷の上を渡っていく。ユニランやチラーミィの姿がちらほら見えたが、やはりトウカを見ると一目散に逃げて行った。
「やっぱりだめか」
「あ、でもにーちゃん。パウワウはまだいるよ」
スグリが氷海を指さすと、たしかにパウワウがちらほらいるのが見えた。ただ距離がかなりあり、海に入る必要がありそうだった。
「メタモンが変身して泳いでいくっていうのは」
「モン」
メタモンはスグリをぎゅっと抱きしめて首を横に振った。スグリが凍えてしまうことを危惧しているようだ。
「代わりに俺が温められれば……」
「え!?」
俺もスグリに引っ付いてみたが、スグリの方が暖かかった。これでは温めるどころか俺が温められてしまう。
「……にーちゃん、その体温でなんで平気なの?」
「さあ。というか、そんなに低かった?」
「うん、びっくりした……」
トウカが離れるとスグリは顔を覆い、メタモンは咎めるような視線を向けてきた。何故か悪者にされる空気を感じ、ポケモン探しをしに行くふりをして逃げた。数歩足を進めたところで白い影がぽつんと立っているのに気付く。
「あれは……」
その影はこちらに気が付いたように尻尾をぴんとたてた。そのシルエットでそれが何であるか分かった。丸まった尻尾を6本持つ白いポケモン、アローラロコンだ。
「白いロコンだ。おれの地元には赤いほうのロコンがいるんだべ」
「へえ。いつかスグリの地元にも行ってみたいな」
「おれもにーちゃんに来てほしい! おれの地元にはかっこいい伝説があってな……。にへへ、にーちゃんと一緒に探検したいべ」
ゲームではすでにスグリの地元へ行ったことがあり、彼の言う伝説がどういうものなのかもあらかた知っていたが、表情には出さずただ頷いた。
ロコンはトウカが近づいても、不思議そうに大きな瞳で見つめるばかりで逃げるそぶりを見せなかった。このロコンの進化系、アローラキュウコンはサポートが強いポケモンという印象だ。天候雪のときにのみ限られるが、オーロラベールという技を使えば物理攻撃も特殊攻撃も弱めることができる。ぜひとも手持ちに加えたいポケモンだ。
「にーちゃん、この子逃げないね」
スグリとメタモンもやってきて見守った。トウカはロコンと視線を合わせるようにひざまずいた。
「ねえ君、一緒に来てくれない?」
「コン」
ボールを取り出すとロコンはその場にちょこんと座り、まるで捕まえられるのを待っているかのようだった。ボールをおでこにそっと当てると大人しくボールへ入っていった。メタモンのときもそうだったが、ゲームとは違ってポケモンと戦うことなく捕獲することができるのが新鮮で、毎度別世界にきたと実感する。
「そろそろ帰ろう」
「お、おれはまだ平気……」
「一気に手持ちを増やすよりゆっくり増やした方が信頼を育みやすいかなって思っただけだよ」
「……そっか」
本当はスグリを遅くまで連れ回したことでゼイユに怒られたくなかっただけなのだが、ゼイユの名前を出さない方がいいかと思って言わなかった。スグリは複雑そうな顔で俯いた。その微妙な反応に少し心配になったところ、突然アナウンスがテラリウムドームに響き渡った。
「ゼイユさん、スグリさん、トウカさん。3-2教室へお越しください。ブライア先生がお待ちです」
トウカとスグリは思わず顔を見合わせた。
「なんでおれも?」
「さあ。とりあえず急いで行かなきゃ」
「うん。タクシーさ使っていこう」
そうして学園へ舞い戻り、スグリの案内で3-2教室まで急いだ。