【ポケモンSBVW】緋炎と紫電と冷灰の子   作:黒蜜殿

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#7

 なんとなく穏やかな目覚めだった。時計を確認するために体を起こし、横でぐうぐう寝ているロコンとメタモンに笑みが零れた。そういえば、メタモンは眠っていても俺の姿のままだ。前世の記憶では、この完成度の変身をそれだけ長く保てるメタモンは稀だったと思うが、この世界では違うのかもしれない。起こさないようにベッドを抜け出し、さっさと制服に着替えて冷蔵庫を開けた。誰かがすでに入れておいてくれたらしく、牛乳や卵、いくつかの肉が入っていた。一体何の肉なのかと思ったが、何を思いついても気が滅入るので考えるのをやめた。

 キッチンにはこれも誰かが用意してくれたらしい、シリアルとポケモンフードの箱がいくつかあった。トウカの姿のメタモンにポケモンフードを食べさせなきゃいけないのかと苦しく思いながらシリアルと牛乳を混ぜる。キッチンの物音で起きたのか、メタモンとロコンがいつの間にか布団の上で並んでトウカをじっと見つめていた。

 

「朝ごはん、食べるか?」

 

 問いかけると二匹は嬉しそうに返事をした。誰かと食事を共にすることすら新鮮な心地がした。果たして、前世の自分は孤独だったのだろうか。そう思うと、自分がこの世界に迷い込んだ真相を解き明かすのが怖くなった。

 朝食を終えポケモンをボールに戻したトウカは、太陽の光を浴びるたいと思いエントランスへ出た。中央のバトルコートを囲むように広がる観客席は和気あいあいと雑談する生徒で賑わっていた。空を鳥ポケモンが度々横切るのを、本当にポケモンの世界に来たんだなとぼんやり眺める。

 

「あれ? トウカさんじゃないですか!」

 

 急に声をかけられて一気に意識が戻る。その方向を見るとタロがにこやかに手を振っていた。

 

「おはようございます、タロさん」

「おはようございます! ここ、朝に来ると気持ちがいいですよね。穏やかな日差しと爽やかな海風……最高です」

 

 そしてタロはバトルコートのほうを一瞥し、思い出したかのように口を開いた。

 

「そうだ、トウカさん。ポケモン集めは順調ですか?」

「順調ではないですが、スグリの手伝いのおかげで何とか1体仲間にしました。タロさんが好きそうな子ですよ」

「えー! 気になります! 見せていただいてもいいですか?」

 

 見るからにうきうきしたタロに催促されるままに、ロコンを繰り出した。

 

「コン?」

「アローラロコンちゃん! 可愛くてたまらないですねえ」

 

 タロはロコンと目線を合わせてにこにことした。手を出そうとはしないあたり、タロがしっかり者であることが伝わってくる。ロコンも少し安心した様子で可愛らしい澄ました表情をし、タロをますます喜ばせた。

 

「トウカさんありがとうございます! この可愛さで今日とっても頑張れそうです!」

「お礼ならロコンに。俺は何もしてないので」

「いいえ、優秀なスカウターさんにも感謝は伝えておくべきです! ロコンもありがとね」

「コン!」

 

 得意げに尻尾を揺らすロコンをボールに戻した。

 

「じゃあ、俺はそろそろドームのほうへ行ってきます」

「バトルができそうになったらぜひリーグ部へ来てくださいね! では、ポケモン集め頑張ってくださいー!」

 

 笑顔のタロに見送られてトウカはエントランスを後にした。そしてのんびりとサバンナエリアを歩き、ポーラエリアを目指した。相変わらず野生のポケモンから避けられ続け、何事もなくセンタースクエアへたどり着く。正直こおりタイプ以外のポケモンも捕まえたかったのだが、その望みは薄いようだ。

 ポーラエリアに到着し、しばらく辺りを歩き回る。雪山もあるがさすがに登っていく気にはなれなかった。一目散に逃げていくポケモンや我関せずと言わんばかりに悠々と遠くを泳ぐポケモンたちを横目にとぼとぼとしていると、不自然な雪の塊が地面に落ちているのを発見した。

 恐る恐る近づいてみると、緑色っぽい尻尾が少し出ていた。まさかと思って雪をかき分ける。その中から出てきたのは、今にも凍え死にそうなキバゴだった。慌てて抱き上げて病院へ連れて行こうと思ったが、この学園ではポケモンを回復させる手段がセルフマシンしかないことを思い出した。一旦捕まえて回復マシンを使ってみるしかない。

 トウカは震えそうな手でボールを取り出し、祈りながらボタンを押した。キバゴは青白い光の奔流となってボールの中に納まり、ロックもかかった。まずは捕まえられたことに安堵し、センタースクエアへと急いだ。

 回復マシンを使用した後、おそるおそるボールからキバゴを出した。

 

「キバ……?」

 

 キバゴはぼんやりとした様子で目を覚ました。トウカは心の底から安堵して、思わず座り込む。起きたばかりのキバゴは警戒した様子でトウカに対してキバを向けた。

 

「キバゴ、勝手に捕まえてゴメン。俺の手持ちになるのが嫌なら、壊してもらっても構わない」

 

 そう言ってキバゴのボールを目の前に置いた。キバゴはトウカとボールを交互に見やり、何かを考えている様子だった。

 

「キバ」

 

 やがてキバゴはボールに近づき、そのボタンに触れた。開いたボールに吸い込まれていく彼は、決意をにじませた瞳でトウカをじっと見つめていた。

 

「……信じてくれたのかな」

 

 トウカはボールを拾い上げた。

 キバゴはドラゴンタイプのポケモン。成長するとオノノクスというまさに竜にふさわしいポケモンになる。その特徴は相手の特性を無視して攻撃できるかたやぶりという特性に加え、かなりのバリエーションの技を覚えること、攻撃面だけでなく防御面でもまあまあの能力を誇ることから、安定したオールラウンダーな攻撃役といえる。何より武器のような牙のフォルムがとても格好いい。トウカは内心小躍りした。

 ボールを鞄に仕舞い、あらためてこおりのいしを探すためにポーラエリアを探索する。雪山のふもとを巡るように歩くと、その裾に埋もれた水色の石を発見した。ほかにもいくつかのボールやきのみを拾うことができ、太陽が真上へ上ったころには鞄の半分が道具類で満たされた。

 一旦自室へ戻ってロコンを進化させようかと悩んでいると、向こうから間延びした声が聞こえてきた。

 

「おーい、キョーダイ」

 

 見ると、雪山を降りてくるブリジュラスの上でカキツバタがひらひらと手を振っていた。

 

「キョーダイ?」

「おう。リーグ部の部員はみんなキョーダイみたいなもんよ」

「まだ入部はしてないけど」

「そんなの時間の問題だろい。タロからも聞いてるぜ。トウカがそろそろ入部してくれそうって」

 

 どうやらリーグ部にしっかり囲い込まれているらしい。トウカは一つため息をついて見せた。

 

「それによう。スグリが同じ顔の二人に挟まれてまるで捕獲されるリグレーみたいに連れていかれてたって話もあったぜい」

「そ、それは俺のせいですね」

 

 カキツバタは心底愉快そうに笑った。

 

「タネあかしは部室で頼むぜ。それより、ポケモン探しは順調か?」

「さっきこのエリアでキバゴを捕まえました。今にも死んでしまいそうなほど凍えていたので回復させるための捕獲だったのですが」

「キバゴねえ……。きっと洞窟を追い出されたやつだな」

「追い出された?」

 

 カキツバタはうんうんと頷いて続ける。

 

「キバゴは洞窟の中で暮らすんだが、その縄張りでの争いに負けたやつは出て行かなくちゃいけねえ。そしてさんむいポーラエリアの雪にやられちまうのさ。自然界でもよくあることだねい」

「なるほど。そんなシビアなところまで再現されているんですね」

「再現っつうか、自然にそうなったってーほうが正しいかな。あとは、一応境界を越えるのは難しいが、たまーにエリアを渡って環境の変化にやられるやつもいるな」

「そうなんですね」

 

 ポケモンといえど逃れられない厳格な自然の理を悲愴に思う一方、そういった弱ったポケモンであれば逃げられず捕獲できるのではないかと考えるあくどい自分もいた。弱弱しいキバゴの姿を思い出してすぐにその邪念を払う。

 

「オイラもなるべくそういうのは助けたい。よくやったな、キョーダイ」

「ありがとうございます」

「あと、敬語はいらないぜい。そういう礼儀正しいのはタロとネリネで腹いっぱいだ」

「えーと、じゃあ。ありがとう、カキツバタ」

「あいよ」

 

 カキツバタは再びブリジュラスを操り、険しい雪山へ向かっていった。今すぐライドポケモンが欲しいと思ったが、なぜか嫌われがちな自分を背中に乗せてくれるポケモンが早々に見つかるとは思えず、肩を落としながら自室へ戻った。

 他の手持ちと初めて対面したキバゴは、ひんやりとしたロコンよりはメタモンの方が気に入ったようだった。相変わらずトウカの姿のメタモンの膝の上で丸まっている。メタモンはとても嬉しそうに緩んだ笑顔をしていた。

 

「コン」

 

 どこか拗ねたようなロコンはトウカの横を陣取ってそっぽを向いている。

 

「ロコン。早速で悪いけど、進化させてもいいかな」

「コン?」

「強くなるってことなんだけど……もしかして、まだバトルをしたことがないから実感が湧かないのか」

 

 トウカは頭を抱えた。ポケモンたちを危険に晒したくない一心で戦うことを避けてきたが、腹を括るべきなのかもしれない。なるべくロコンに有利な相手を探そうと思ってもこおりタイプ以外のポケモンは逃げてしまう。そうなるとトレーナーと戦うのが一番いい。そう考えたとき、ふさわしい相手を思いついた。

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