一度ポケモンたちをボールに入れ、リーグ部室の扉を叩いた。
「すみません、スグリくんいますか?」
顔を出すとちょうどスグリが熱心に勉強しているところだった。その頭の上にいるオタチも一緒に本を覗き込んでいる。
「スグリ、来客です」
「え、あ! にーちゃん!」
その面倒を見ていたらしいネリネがスグリに知らせてくれた。スグリはすぐに輝いた目で駆け寄ってくる。
「ごめんスグリ、ちょっとバトルの相手になってほしくて」
「お、おれが相手でいいの?」
「うん。スグリがいいんだ」
「わ……、お、おれけっぱる」
スグリとオタチはそっくりな仕草で気合を入れるように握りこぶしを作った。珍しく口元を緩めながらそれを見やるネリネに一応一言謝っておく。
「すみませんネリネさん。スグリくん借りていきます」
「気遣いは不要です。……そうだな。私も同行します。あなたたちの戦いを見たい」
ネリネの思いつきにスグリは顔を真っ青にした。
「わ、わやじゃ……ちょっと緊張するべ」
「俺も」
ロコンのバトルテストなんてのんびりとしたことを言ってられなくなったかもしれない。
ネリネの勧めでエントランスのバトルコートを使うことになり、まあまあの人だかりの中トウカとスグリは位置に着いた。バトルコートに立つことがこんなに緊張することなんて。歯を噛みしめて、震える手でボールを取り出す。向かい合うスグリは息を長くつき、ボールを構えた。
「両者用意―」
審判の位置に着いたネリネが声を上げた。
「―バトル開始」
「いけ! メタモン! ロコン!」
「けっぱれ! オタチ! ヤンヤンマ!」
登場したメタモンはオタチの姿に変身する。光線から現れたロコンがその足をコートにつけたとき、光がほとばしって空へ届くと雪が降り始めた。
アローラロコンの特性は2種類ある。天候が雪のとき回避率が上がるゆきがくれと、登場時に天候を雪にするゆきふらし。このロコンは後者のゆきふらしのようだ。天候が雪のとき、こおりタイプのポケモンの防御が1.5倍になる。これは嬉しい情報だった。
「オタチ、とっしん! ヤンヤンマ、むしのさざめき!」
「メタモンもとっしん、ロコンはオーロラベール!」
オタチに変身したメタモンが扱える技は正直分からない。だからスグリの指示に出る技を指定するしかなかった。
オタチとメタモンのぶつかり合いに間一髪オーロラベールが間に合う。むしのさざめきを食らったロコンは余裕の表情で、メタモンもスグリのオタチよりは軽傷のようだった。
「ロコン、ふぶき」
「! オタチ、ヤンヤンマ、でんこうせっかでロコンを狙え!」
「メタモン、オタチにでんこうせっか」
メタモンは再びオタチとかち合う。ヤンヤンマのでんこうせっかでよろめきつつも、ロコンはふぶきを放った。メタモンがオタチから素早く離れたところでふぶきがオタチに直撃した。
「……オタチ、ヤンヤンマ、戦闘不能。よって勝者、トウカ」
オタチの姿のままメタモンはロコンと喜びを分かち合った。ポケモンたちをボールに入れたスグリはコートの向こうからとことこと走ってきた。
「わやじゃ! にーちゃんすごい」
「俺の力じゃないよ。ロコンの特性と技が上手く噛みあって、メタモンが機転を利かせてくれただけだから」
「それでもにーちゃん、最後のでんこうせっか……ロコンへの攻撃を減らすだけならヤンヤンマでも良かったけど、オタチを指定したのは素早さでヤンヤンマに勝てないって分かってたからでしょ」
そのスグリの観察眼の良さに思わず目を見開いてしまう。
「すごいな。よく見てるんだな、スグリ」
「にへへ、にーちゃんからたくさん学びたいって思ってるから」
スグリは笑顔を見せるも、すぐに曇らせた。
「おれだったらきっと、ふぶきが絶対に当たる位置にいるヤンヤンマを倒しきるためにでんこうせっかを使ってた。でもにーちゃんは素早さだけじゃなく、むしのさざめきとでんこうせっかをロコンが耐えること、ロコンのふぶきでヤンヤンマが倒れることも確信してた」
「確信といってももうちょっと大雑把だよ。オーロラベールがあるなら大体の攻撃は耐えられる。オタチに変身したメタモンよりロコンの方が特殊技に対しては堅い。ロコンには特殊技を使ってくるヤンヤンマの相手、メタモンには物理攻撃がメインのオタチの相手に集中してもらっただけ」
「素早さ以外の能力差についても頭に入れてるんだ……やっぱにーちゃんはすごい」
二人でバトルの反省会のようなものを行っていると、ネリネが拍手しながらやってきた。
「二人とも、良いバトルでした。トウカ、まさにバトルの天才。リーグ部員スグリとのバトルに勝利、よって入部の権利ありと判定」
「じゃあ、今からにーちゃんに入部届書いてもらおう! 早く部室に戻るべ!」
スグリは駆け足で戻っていく。ネリネはそれを感情の宿る目で見送り、トウカへ向き直った。
「トウカさん。スグリはバトルで深く悩んでいる。あなたなら解決可能だと私は推定します。私にとってスグリは友ゼイユの令弟……大切な存在。でも、あなたになら託すことができる。スグリのことを、どうか導いてください」
ゲームでのネリネは、無感情に見えながらスグリのことを最も思いやっていた人物だった。そんな彼女から熱意の籠ったまなざしを向けられ、トウカも顔を引き締める。
「俺は知識しか取り柄のない空っぽの人間ですが、ネリネさんからそう見えるのなら、きっとそうなんだと思います。その期待に応えられるようにスグリと一緒に成長していきます」
満足そうに頷いたネリネは、トウカに背を向けて歩き出す。
「それと……余計な言葉かもしれませんが、スグリにとっても、ネリネさんは大切な存在だと思いますよ」
一瞬立ち止まったネリネは、何も言わなかった。気まずいことを言ってしまったかと後悔しながら、ネリネの後をついてリーグ部室へ戻った。
クリスマスにちょっとネリネの甘酸っぱさが見えるこの回が来るのいいですね。予期していませんでした。