Atlassia side -
ふむ……何だこれは。
この者たち――私のたった一人の愛弟子であり、娘と呼ぶに等しい存在を、よりにもよって瀕死にまで追いやったというのに、その態度はあまりにも静かだ。圧をかけてやれば、誰しも怯え、震え上がるものだと思っていたのだが……。
にもかかわらず、目の前の者たちは微動だにせぬ。まるで自らの命が終わることなど、どうでもよいかのように、あるいは全てを受け入れる覚悟を既に決めているかのような、その表情。これほどの威圧に対しても怯まずに立ち尽くす者たち――その胆力、愚鈍と見るか、あるいは達観と取るべきか。
とりわけ、手を下した主犯と思しき者――記憶を遡って確認するに、“紫”と呼ばれている女――は、何一つ言葉を発しようとしない。ただ沈黙し、蒼白な顔で、私の眼差しをただ受け止めるばかりだ。
……だが奇妙なことに、その場にいる中で最も非力と思しき、小柄な銀髪の娘――“妖夢”とか言ったか――だけが、毅然とした声で私に問うてきたのだ。まったく、何ということか。主よりも、護られるべき存在の方が、遥かにまっすぐに声を上げるとはな。いや騎士というか意味では合っているのかの…?
……まあ、正直に言えば、最初から全員を処すつもりなど、本気ではなかった。だが、娘の庇護者として、怒りのままに行動を起こさねばならなかったのも事実。ある意味でこれは――儂なりの“けじめ”だ。
実際、財団に娘――真円が就職した時も、私は“最上位存在A”として、あの世界の代表者たちと直接面談した。あの時も、彼らには私が何者であるかなどほとんど理解されていなかったが……まあそれでも、会ってみる価値はあった。
幻想郷も同様だ。いずれはその管理者たる“五賢者”と顔を合わせるつもりであったし、それに――私はかつて、この地を愛した古き神格の一柱でもあったからのう。ほんの少しばかり、気紛れで足を運んだ、ただそれだけのことじゃ。
だがな……この態度、何というか、失望の色が強くなってきたわい。昔から見守ってきた身としては、残念としか言いようがない。
――どうしたものかの。実力者数人を、象の鼻先を払うように消し飛ばしてやるのも一興か。ふむ、決めた。少なくともこの場では、“紫”と“幽々子”という名の者――その二名には、御退生願うとしよう。
「のう……。弁明も、謝罪も、まるでないのじゃな? まあ良い。そこに控える銀髪の小娘――先程の圧力を真正面から受けても怯まず、言葉を発した度胸と行動を鑑みて、そなたには免除を与えよう。しかし、それ以外の者……特に紫、そして幽々子とやら――貴様らは許さぬ。今ここで、朽ち果てるが良い」
私が静かに、断を下そうとしたその時――
「A……Atlassia様。どうか……御二方こそ、見逃してはいただけないでしょうか!」
……何? 今、誰が言った?
再び視線を落とすと、あの銀髪の小娘が、再び私の前に進み出て、私の名を正確に呼び、直訴してきたのだった。
ほう……この娘、主たる者やその友人以上に、肝が据わっておるではないか。なかなかに興味深い。
「……なぜじゃ? 儂が下した裁定を、何ゆえ変えねばならぬというのか? 見逃すと言われて尚、そのように申すとは……」
私の問いかけに、しばしの沈黙の後、小娘は震えながらも、はっきりとした声音で、語り始めた。
「そ、それは……私は、自ら罰されたいからです。それに……元はと言えば、私が愚かでした。迂闊な行動を取ったせいで、守ってもらって、結果的に……あの人はこんなことに……だから……私が悪いんです」
……なるほど。ふむ。
「なるほどの。では、儂が問おう。儂の望みは、あの二人を処すことじゃ。それを果たせぬというのならば……ぬしは、代わりに何を差し出す?」
さあ、試されるが良い。私の本質を見据え、その上で選び取れ。この娘に、果たしてどこまでの覚悟があるか。
「……全てを。幽々子様には、これまで多くの恩がありますし……紫さんがいなくなれば、幻想郷そのものが破綻してしまいます……ですから」
……静寂。周囲に漂っていた霊気すら、一瞬止まったように感じた。
「く、くく……ははは、あはははは!! 何じゃ、奇想天外な答えが飛び出すかと期待すれば……あまりにお決まり、いや、定番の展開よのう。だが――本気か? これは決して軽く口にしてよいことではないぞ?」
念のため、覚悟を問うておく。
「勿論、覚悟しています。だって……本来なら、私はあの場で死んでいたんです。あの人が私を庇ってくれなければ、私はもうこの世にいなかった。……今更です」
ふむ、ふむ。よし。嘘偽りは感じられぬ。ならば――。
「よかろう。ならば……契約じゃ。儂と契約してもらおうか」
私が一歩、静かに前に出ると、場の空気が一変した。意識の深淵に触れるような神性の気配が辺りに満ちる。
「契約は儂とぬし。……ふむ、名は何と言う?」
「妖夢、です。魂魄妖夢と申します」
「ほう……魂魄の名を冠するか。半身半霊の剣士、というわけじゃな……。まあ、良い。ではここに宣言する。儂、Atlassiaとぬし、魂魄妖夢との間に、正式なる契約を結ばん」
私は空間に手をかざし、万象の法理を編むように、契約を紡いだ。
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【契約文】
一、甲(Atlassia)は、乙(魂魄妖夢)が契約条項を遵守する限り、乙に一切の害を与えないこと。
一、乙が嘆願し、甲がその内容に共感を覚えた場合、甲は可能な範囲でその嘆願に応じること。
一、甲は、乙および乙の上司、その友人が過去に起こした一切の行為について不問とし、これを赦すこと。
一、乙は、甲との契約における全ての条項を誠実に守ること。
一、乙は、契約時に甲より告げられた“該者”と友人関係を結ばねばならないこと。
一、乙は、“該者”に一切の害を与えぬこと。
一、乙は、“該者”が重大な危機に晒された際、その情報を甲に速やかに報告すること。
一、乙は、上記の危機において、自らの生存が致命的に脅かされぬ限り、かつ無理のない範囲で“該者”を助ける努力を払うこと。
この契約は、甲乙双方の合意なくしては、いかなる条項も変更されない。
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「ふむ、こんなところかの……」
「え……?」
……ふふ。そりゃあ、驚くじゃろう、妖夢とやら。いや、紫とやらも、幽々子とやらもな。だが――これは始まりに過ぎぬ。
幻想郷で師匠系主系の方々は大体親バカですよね…まあ例に漏れずオリキャラもそうですよ。
では次の話でまたお会いしましょう。読んでいただきありがとうございました。