"財団"と"幻想"   作:抹茶!

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親バカAtlassia パート


第十二話

 

真円side-

 

……ん。ん、ん……。

 

――まどろむ意識の海底から、浮かび上がるような感覚だった。

重たい眠りの中、ぼんやりとした白の光が、瞼越しに滲んでくる。

ここは……?……ここは――

 

……あぁ、まただ。

 

視界に広がるのは、幾何学的に整えられた白い立方体の空間。

空も地も壁も、全てが滑らかな白の面で構成され、距離感が曖昧になるような錯覚を与える――無音の世界。

この場所には、既視感がある。

まるで、記憶の深層、あるいは魂の基底に結びついたような、懐かしさすら感じる――。

 

「……御師匠様……?」

 

言葉が空間に投げ出された瞬間、それに応える声が、どこからともなく降ってきた。

 

「うぬ、然りだぞ」

 

――ッ!

 

その声、その節回し、そして何よりもその存在感。

聞き違えようはない。

私は、迷わずその方向に振り向いた。

 

「……うそでしょ、マジ……!? 師匠様が……もしかして、助けてくれた……?」

 

けれども――それは、あまりに唐突で現実離れしていて、信じるには、あまりに眩しすぎる再会だった。

 

だが、その問いに、師は肩をすくめ、いつものように呆れたような、けれどどこか安心したような笑みを浮かべて、こう返した。

 

「大正解じゃ。というか当たり前じゃ、バカもん。なにぃ手加減して仮死状態……? バカか? 本気でやられとるがな」

 

……あ、やばい。

 

完全にお怒りモードだ……これは、まずい……非常にまずい……!

 

「……あ、ちなみにこれは夢じゃからな? 現実のぬしは今、爆睡中じゃよ。魂だけちょいと引きずり出してな、対話の場を用意したまでじゃ」

 

そう言って、師匠様はまたクスクスと笑う。

昔と何も変わらない。

私がこの世界へ旅立ったあの日、幼かったあの時から――ずっと変わらない、大きくて、怖くて、でも優しい師だ。

 

私は、懐かしさと申し訳なさで胸がきゅっと締め付けられた。

 

「……真円、一つだけ言わせてくれんか?」

 

師匠様の声が、先程までの軽やかさから一転して、低く、沈んだ調子になった。

響くような語調は、冗談では済まない本気の重みを孕んでいた。

 

「……頼むから無茶せんでくれよの? 儂は、冥府の裁判所にまで突撃するのは避けたいからの? あと仮にぬしが自死でもしたならば、儂は天国だろうが地獄だろうが関係なく突っ込んでいって、魂ごと引きずり戻すからの?」

 

「それが我儘な長命種――いや、始原の大妖怪に連なる者の性(さが)じゃ。……ぬしの死など、容認できるわけがなかろう?」

 

――その言葉が、どれほどの覚悟と情を含んでいるか、私は痛いほど理解していた。

だからこそ、頷くことしかできなかった。何も言えなかった。

 

「……ありがとうございます、御師匠様」

 

ようやく、そう口にできた時――師匠様は、あからさまに顔を背けて照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「……あーもう! 儂は構わんがの? いやなんじゃ、この空気!」

 

……ああ、やっぱり。変わらないな、師匠様。

 

「――あっ、言い忘れとったが、儂の説教が終わった後、盟友マズやら配下やら、右腕やらからも来るからの?」

 

……嫌な予感がした。

 

「か く ご せ い」

 

「……ぇ? いや……ぁ、あ……」

 

「泣きたい、って顔しとるのう。だがな――」

 

師匠様の表情が、にぃっと楽しそうに歪んだ。

 

「馬鹿もの!! 泣きかけた儂らから、大人しく説教を喰らえィ!!」

 

うわあああああああああ!

なんでよ!なんで夢の中でまでこれなの!?

私、拒否権を行使したい!訴えたい!幻想郷労働者?SCP財団?の基本的人権を!

 

「……読心術のある儂には丸わかりだからの? 真円……逃がさん、許さん、忘れさせん……さぁ行動正否を問わなくては、の?」

 

(説教パート)

 

「……まずじゃな。おぬし、なぜ“死んでもいい”などと考えた? あの娘のため、という気持ちは確かに尊い。だがの、それで自らを犠牲にするのが、正しいとでも?」

 

「いや……でも、あの時は……あの状況では、そうするしか……!」

 

「愚か者!!」

 

バァンッと、足元の空間が震えるほどの音が響いた。どこからともなく現れた師匠様の大太鼓による強調効果だった。

 

「儂が教えたはずじゃろうが。命とは、何よりも重く、何よりも価値があり、何よりも“選び取る”ものじゃと」

 

「おぬしが勝手に消えたら、どれだけの者が悲しむか考えたか? その紫の者(も多分自責するじゃろうし)も、幽々子とか言った者(も普通に考えたら悲しむじゃろうし)も、妖夢(は間違いなく責任で病むじゃろうし)も――そして儂も!」

 

「……ぐっ……」

 

「しかも、あろうことか己の無力を理由に、他者にその選択を押し付けるとは何事か! そんなもの、真の責任ではなく、ただの“投げやり”じゃ!」

 

師匠様の声が、空間全体に反響するように響く。

 

「ぬしは、まだ未熟じゃ。未熟ゆえに、全てを背負おうとしすぎる。……だがの? 背負いきれぬ荷を無理に抱えて、転ぶのは当然。そうなった時、誰も得をせん。皆が倒れる」

 

「……だから……協力しろ。誰かに任せても良い。弱さを見せても、恥じゃない。むしろ、それが“強さ”と呼ばれるものじゃ」

 

師匠様の言葉は、心の奥にずしりと突き刺さってくる。

まるで、私の弱さも、迷いも、全部を見透かしているようだった。

 

「……わかったら、頭冷やせ。今は寝ておれ」

 

「は、はい……」

 

「ふむ、よろしい。じゃが――最後にもう一つだけ、問うておこう」

 

師匠様が、少しだけ顔を近づけ、私の瞳を真正面から覗き込んでくる。

 

「――おぬしは、今度こそ、自分の命を自分の意思で大事にできるか?」

 

……私は、ほんの一瞬だけ迷った。でも、その先に見えたのは――妖夢の涙、紫さんの蒼白な顔、幽々子様のあの静かな微笑み、そして……師匠の、泣きそうだった顔。

 

「……はい。……大切に、します。皆のためにも……自分のためにも」

 

「――よろしい!」

 

師匠様は、ぱん、と手を打ち鳴らすと、空間がわずかに波打つ。

白の立方体が崩れ、光の粒となって舞い散っていく。

 

「それじゃあ、説教終了じゃ。起きたらちゃんと謝るんじゃぞ、真円? あと、逃げたら……わかっておるな?」

 

「はい……もう逃げません。――ありがとう、師匠様」

 

「……ふむ、よく言った。さぁ――目覚めの刻じゃ」

 

――光が差し込む。

意識が、ふたたび、現実へと引き戻されていく。

その刹那、私は師匠様の最後の言葉を、確かに聞いた。

 

「……次やったら、本気で地獄の底まで迎えにいくからの。覚えておけ、真円。…あ、後マズもイールメンも説教するらしいから…せいぜい達者での」

 

 

泣きたい…っ!




読んでいただきありがとうございます。

少し今更ながら筏と筏(いかだ)さん、感想ありがとうございます!
とても励みになりましたから、頑張って継続的投稿をやって参ります!

まだ次話でお会いしましょう♪では
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