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「お肉の食べ方は一番何が好き?」
「食べ方?うーん、やっぱり焼肉かな。きみは?」
「私はねえ……刺身!ワサビと醤油が最高!」
「あー、最近流行ってるらしいねえ。お寿司屋さんも出たんだっけ?」
「肉寿司ね。あんまり美味しくないけどね」
「へー、そうなんだ」
「やっぱり肉は肉で食べたいから」
「肉食系ってやつだ」
男と女が二人、小屋の中で他愛もない会話をしている。見たところ年齢は二十代前半といったところであろうか。顔立ちはこれといった特徴はない。道端ですれ違っても記憶に残らないだろう。
会話を終えると二人は作業に戻る。揃いのツナギを着ており、足元には血だまりが広がっている。二人は猟師のようだ。「死体を見ながら肉の話をするって最悪じゃない?」と軽口を叩きながら作業を続けている。
駆除するだけでは猟師は儲からない。自治体にもよるが、イノシシ一頭七千円程度だ。彼らの様に食肉や皮骨の加工をして売買しないと諸費用で弾代にも困窮する始末だ。本業にしている人は一握りであろう。
彼らはその一握りであった。腕は良いのであろう。今回の狩猟でも小屋の壁に立て掛けている二丁の猟銃で大物を仕留めて、肉、内臓、血液、皮骨を余すことなく加工していた。腐りやすい内臓は既に彼らの腹の中だ。猟師の特権というものだ。
話すことが無くなったのか二人は無言で手を動かす。鋸、包丁の各種道具が猟銃に代わって、今の彼らの得物であった。静寂の中、ギコギコ、ゴリゴリという木造建築の際に聞くような音が小屋に響いた。
作業が止まった一瞬、小屋の端からムームーという鳴き声が聞こえた。小屋の端の方でゴソゴソと動くものがある。大方罠猟で捕まえた獲物であろう。二人はそれを一瞥して、すぐに作業に戻る。何といっても今捌いているのは60kg級の大物である。ノロノロやっていると日が暮れてしまうだろう。
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「「かんぱーい!」」
作業を終えた二人は缶ビールで祝杯をあげた。場所は変わらず小屋の中。どうやら山を降りるのは諦めたようだ。血の匂いが充満するが二人は気にする素振りすら見せない。若いが熟練の猟師なのだろう。血は慣れっこといった様子だ。
小屋の中央には七輪が置かれている。窓は開けられており、一酸化炭素中毒対策も完璧だ。これから焼肉パーティをするのであろう。ハツ、ミノ、ホルモン、レバーにタン、ここは小さな焼肉屋だ。
「ちょっとそれ私が育ててたんだけど!」
「知らないなあ、早いもん勝ちだ!」
「隙あり!これもーらいっ!」
間に七輪を挟み、男と女の戦いが始まった。両者まったく譲らず。勝敗はつかず。二人とも大満足の様子だが、女の方があーっと口を開いた。
「刺身で食べるの忘れてた!」
「あー、何か言ってたねえ。後は売り物だから食えねえぞ」
「まだ、解体してないのあるじゃん」
「今からやるのか?一日に二体はきついぜ」
「男見せてよ。お、ね、が、い!」
「うぇえええ!吐きそう!」
「ああん?」
「やらせていただきます……。お前も手伝えよ」
「当り前じゃん!よーし、七輪を隅っこに寄せてと」
「とどめ刺すけど良い?」
「いや、言い出しっぺだし私がやるよ」
こめかみに千枚通しが突き刺さった。声をあげる間もなく、獲物は絶命。動かぬ60kgの肉塊となった。
女は解体用の包丁で尻肉をそぎ落とし、口にする。
「うんま!あんたも食べてみたら!」
「昔、食べた時に中(あた)ったことあるからパース。手足切るけど良いか?」
「先に頭落とさない?血抜きした方が楽だよ」
「そうするかあ」
彼らの夜は終わらない様だ。働き者に幸あれ。
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『本日十五時頃、〇〇山にある山小屋で大量の血痕があるのを地元の猟師が見つけました。残留物から血痕は行方不明になっていた男女の猟師二名のものである可能性が高いと判明しております。新たに情報が入り次第、続報いたします。以上、夕方のニュースでした』
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"採れたて新鮮!皮骨をお求めの方はお申し付けください。"
ガラスのショーケースの中にある肉の前には写真が置かれている。顔の見える生産者というやつだろうか。写真を見るに生産者は猟師だ。この店は猟師から肉を仕入れているらしい。
見たこともないが、あの肉は美味しそうだ。店の中にいる二人の男女に声を掛ける。
道に迷ったが美味しそうな精肉店を見つけられたのは僥倖だ……。なぜ、そんなものを私に向けている?冗談でも良くないぞ。
パーン!
*終*