転生、夢への第一歩
僕はトラックに跳ねられて死んだ。
魔力だと思っていた光は車のライトだった。何ともバカらしい話だ。
そして、僕は目覚めた。
死んだはずなのにありえないと思った、身体中に違和感もあった。
縮んでいたのだ。あれだけ鍛えた腕と足が。
見たこともない人が僕を覗き込みながら何かを話している。
幼女、僕を抱きかかえる女性、光の反射が眩しすぎて顔すら見えないハゲ。
僕は悟った、異世界転生というやつだ。
ただし、生後間もない赤子にだ。
次の瞬間僕は歓喜した。死んだことで鍛えた身体が失われた喪失感すら吹き飛ぶほどに。僕の目には宙を舞う光の粒子が映った。
ついに僕は魔力を手にした。
赤子の有り余る時間を修行に費やした。
前世での修行は決して無駄ではなかった、全裸で十字架にはりつけにされた感覚、
滝行で岩が頭に落ちてきた時の感覚、とにかく魔力を得るために行った全ての修行がきいている。
その証拠にすぐに魔力を知覚し、手足のように操ることが出来る。身体強化もできるようになった。
ただ赤子の身体は色々と問題が多い。理性と身体が嚙み合わないのだ。
何が言いたいかというと....漏れる。
なにが漏れたかは言いたくない。ただ、精神年齢18歳で漏らすのはキツイ。
転生してからそれなりの時間がたった。
僕の生家はカゲノー男爵家、その長男として生まれた。
前世と違って中世ヨーロッパ並の文明レベルの世界、いつでも知識が手に入るわけではないので、勉強にはかなり打ち込んだ。
知恵のない陰の実力者なんてダサすぎる。
今世の僕の名前はシド・カゲノー。前世とあまり変わらない名前。
僕の家系は代々魔剣士を排出する家系だ。魔剣士はそのままの意味で魔力で身体を強化した剣士のことだ。
捻りもない安直な表現なのは気にしてはいけない。
今僕は光の反射が凄すぎて手で光を遮らなければ顔が見えないハゲ、父親のオトン・カゲノーから剣の手解きを受けている。
安直な名前なのも気にしてはいけない。
「魔剣士とは全身に魔力を張り巡らせ戦う者のことだ」
「コツとか何かないの?」
貴族にギリギリ引っかかっている男爵だが一応貴族、英才教育は受けていた。
「魔力を全身に纏う」
「うん」
「そして、斬る」
「うん」
「........」
「他には?」
「ない」
貴族だからといって優秀というわけではないということがよく分かった。
そして、僕の父親は毛がないせいでかなりのバカだということがよく分かった。
「そんなんで分かるわけないでしょハゲ」
「クレア!そんな汚い言葉を使うなと何度も言っているだろう」
現れたのは、今の僕の姉クレア・カゲノーだ。
「ハゲじゃない。」
「だからクレア...」
「ハゲだね。」
「シドまで...」
僕に言われたのがショックだったのか、オトンが四つん這いになる。
光の反射率が上がったせいでかなり眩しい。
「見なさい、シド!剣ってのはこうするのよ!」
そう言って剣を振るうと用意されていた大人ほどサイズの岩が両断された。
姉さんは誇らしげに胸を張る。
どうやら姉さんもかなりのバカ、いや脳筋らしい。
「あんた、今お姉ちゃんのことバカにしたでしょ。」
そして、姉さんは時々僕の考えていることを読んでくる。エスパーなのだろうか。
光のない真っ黒な目で僕を睨んでくる。しかも真顔で。
「そんなことないよー、オネエチャンカッコイイナー」
「ふふん。そうでしょ!」
気分を良くしたのか、僕を抱きしめてくる。手加減なしで抱きしめてくるので背中から
メキメキと嫌な音がなるが緩めたりはしてくれない。
昔から姉さんは僕を猫可愛がりしている。ただし、手加減なしでだ。
まだハイハイしかできなかった時に僕を転がして三半規管を壊しに来たこともある。
二人がバカなせいで欲しい知識や効率的な修行方法を得ることが出来なかった。
二人がこんなだから母親のオカン・カゲノーはとてもまともにみえた。
初めて母親の名前を聞いたときはこの世界のネーミングセンスに疑問を抱いたが、
とにかくオカンはとても優しく常に笑顔で僕ら姉弟に接してくれる。僕が知っている限りでは怒ったことは一度もない。
領民からも優しいと評判も良い。だから僕もそう思っていた。
ついこの間までは。
発端は両親が僕に紳士としての心構えを教えると言い出したことだ。
なんというか普通のことしか言わなっかった。レディーファーストとか
女性に花を持たせる作法とかよく分からなかったが言いたいことは分かった。
ただオトンが最後に言ったことがオカンを怒らせた。
女性に暴力を振るってはいけない、とても真面目に言われた。
陰の実力者が女性に暴力を振るうとかありえないし、前世でも女性に手を挙げる奴らは白い目で見られるからそれは真面目に聞いていたのに、僕の耳元でバカ丸出しの発言をした。
「夜のベッドの上でなら尻を叩くぐらいはいいからな。」
夫婦事情が丸わかりになることをドヤ顔で言ってきた。
しかも、自分の子供に。やっぱりこいつはバカだった。
(何言ってんのコイツ?)
そう考えた瞬間、離れた所に立っていたはずのオカンがいつの間にか満面の笑みでオトンの横に立っていた。
しかし、一秒後笑みは鬼の形相に変わり、
「子供になんてこと教えてんだこのハゲェェェェェェェ!!」
叫ぶと同時にオトンの鳩尾に右ストレートが叩き込まれた。
吹き飛ばされたオトンは壁に叩き付けられ、白目をむいて床に落ち痙攣している。
オカンの放った右ストレートは前世であらゆる格闘技を学んだ僕から見てもとてつもなかった。
拳の握り方、姿勢、踏み込み、一切の文句の付けようがなかった。
床で痙攣しているオトンにオカンが近づき
「寝てんじゃねぇこのハゲ!!」
と言いながら、蹴りをいれ続けている。
周りの使用人も止めたりしない、むしろ顔色が悪くなっている。
オカンが満足すると、使用人がオトンを手際よく回収し部屋から出ていく。
これを見るだけでこのカゲノー家の力関係がよく分かる。
そして、オカンが僕に近づき優しく両肩に手を置く。
「いいシド?あんな大人になったらダメよ。」
「......」
「返事は?」
「......」
「返事は?」
「...はい」
前世で僕はバール片手に毎晩騒音をまき散らす暴走族に殴り込みをかけたり、
ナイフを持った相手に冷静に対処できるほどの精神力を持っていて恐怖に対してそれなりに耐性を持っていたが、
これは別の意味で怖かった。
陰の実力者は僕の夢だ。一切妥協をするつもりはない。
だがオカンの言うことは聞こうと思った。
これだけ書くのに5時間近くかかってしまった。
文章能力があまりにも低い。