陰の実力者になりたくて!addition   作:読者0

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ハイエナの群れに飛び込んだモブ ①

シドがジト目で見つめてくるストーカ-エルフ2人への対応に思い悩んでいた同時刻、『ご褒美』を渡された獣達は睨み合い殺気をぶつけ合っていた。

その理由は当然、明日から誰がどの順番でシドとイチャつくかである。

 

「あの子には悪いけどいなくて良かったわ」

 

アルファのその言葉に全員が頷いた。

シドの精神的にもかの五歳児ワンちゃんはいない方がよかったのかもしれない。

 

「やはりここは私から」

「アルファ様、第一席だからといって一番というのは少々横暴ではないでしょうか」

 

かつて『何でもいう事聞く券』が使われた時は一日ではなく一回だけであった、しかし今回は一日という長い時間を共に過ごせるとあって誰もが本気である。

 

「私、最後で、いい」

 

ただ1人イータだけは違った。

 

「あら、いいの?」

「ん、オケ」

「文句は受け付けないわよ」

 

1人離脱した事により、誰が一番か決めやすくなった。

 

「恨みっこなし、アレで行くわよ」

 

アルファが深呼吸すると4人が構える。

 

「七陰じゃんけん!!」

 

『じゃんけんぽん!!』

 

この時獣達は欲望に目が眩み気付いていなかったが、イータだけは冷静に考え一番のメリットとデメリットを考えて順番決めから降りたのだ。

そして

 

「やったー!」

 

デメリットが理解できなかったエルフが一番に決まった。

 

 

自分から言い出した事だが気が重い。一日といったが実際は門限までだ。

既に今日担当の人の部屋に来てしまっている。

取り敢えず起きてない事に期待して扉をノックする。

 

「はい、どうぞ」

 

期待は外れた、起きてないわけないか。

部屋に入り、部屋の主と目が合う。

 

「おはよう、ベータ」

「おはようございます!シャドウ様」

 

初日はベータだ、なんか大量の♡が飛んできてる。

僕のこれからの予定は朝食の同伴から始まり仕事の手伝い(できる事なんてない)をしてそれぞれのお願いを聞く事になっている。

大変な一日なりそうだ。

 

「じゃ、食堂いこっか」

 

そう言い部屋から出ようとするが、ベータはベッドに座ったままモジモジして立とうとしない。

 

「どうかした?足でも捻ったの?」

「ち、違うんです!そ、その...」

 

さっきよりも顔が赤くなっている。

 

「....っこ」

「うん?」

「...抱っこ...してくれませんか?」

 

乙女か!

この間のサキュバス状態とかけ離れてるからドッペルゲンガーと思った。

 

「これでいい?」

 

ベータの膝裏と背中に腕を通しお姫様抱っこで抱き上げる。

 

「ーーーーー!!」

 

ベータの顔から蒸気機関車の様にモクモクと蒸気が上がっている。

大丈夫かこれ?脱水で倒れたりしないかな?

食堂について扉を開けると既に席についていた七陰から殺気を向けられる。

更に食事の配膳をしていた人たちからジト目で見られ、

 

「ちっ」

 

ケルベロスからは舌打ちされた。一体僕が何をしたって言うんだ。

ベータを席に座らせるとフォークとナイフが手渡され、チラチラと見られる。どうもそういう事らしい。初日でこれなら明日からとんでもないことになりそうだ。

取り敢えず盛りつけられた肉を切り分け、雛鳥の様に口を開けているベータに食べさせる。

 

「うーん♪美味しいです♡」

 

誰が食べさせても味は変わらないと思う。

できるならもう少し速く食べて欲しいな、行儀のいいはずの皆が皿を破壊しかねない勢いでフォークを突き刺している。

僕の胃の為にも速く食べて欲しい。

 

多くもない朝食を30分掛けて食べさせた事で、初日にして既に限界が来ていた。

辛い、身内に意味不明の敵意を向けられるのはわりとくるものがある。泣きたい、ラムダに会いたい。

ベータのお手伝いは作家ナツメとしてのお手伝いだが文章力皆無の僕にできる事はない。

そのはずだった。

 

「ひ、姫よ今日もあなたはお美しい」

 

現在ベータの作品の読み合わせをしている。

僕でも羞恥心というものを感じる、そして転生して初めての...生まれて初めての羞恥を感じている。何でもすると言い出したのは僕だがこれは違うと思う。

 

「ぐへ♡...ぐへへへへへへへ♡」

 

そしてベータは女の子がしてはいけない顔をしてしまっているし、出してはいけない声を出している。

開いた口の端からは涎が垂れている。

何でも言う事聞くとか言わなきゃ良かった。

 

「ベータ、大丈夫?」

「ぐへへへ♡....はっ!も、申し訳ありません!」

 

きりっとした表情に戻し涎を拭いているが全て見てしまった後だ、忘れて上げるべきなんだろうか。

ちなみにストーリーは結構ドロドロしている。

年若い貴族の息子が婚約者に暴行を受け、精神を追い詰められている時に偶然会った王女に不敬と分かりながらも助けを求めてしまい、心優しい王女は哀れな少年を悪魔から助け出しその体に残った痛ましい傷痕を見て何かと世話をやくようになり、気付けば2人の間には人には言えない禁断の感情が芽生えていた。とかいうストーリーだ。最初の暴力を振るう婚約者の下りがなければ普通の恋愛小説だったのに、最近のベータの小説は一癖も二癖もある物が多い。この小説に出てくる暴力を振るう婚約者が黒髪ロングなのには特に理由はないはずだ、僕の近くに似た人がいるからきっと思い込んでいるだけだ。

姉さんがモデルな訳ないんだ。

 

「シャドウ様~~、今はベータとの大事な時間ですよ~~。他の女の事なんて考えたら駄目ですよ~~」

「ご、ごめん」

 

光の消えた目でこちらを見ながらペーパーナイフを向けてくる。

てか、なんで分かるの。

謝ると何事もなかったかのようにナイフを机の引き出しに直す。

 

「では続けましょうか、あなたこそ元気そうで何よりです」

「お心遣い痛み入ります。全てはあの日姫...殿下が私を救っていただいたお陰です」

「そんなにかしこまらなくてもいいのに」

 

無だ、無になるんだ。心を無にして精神に安らぎをもたらすんだ。

臨兵闘者皆陣烈在前、臨兵闘者皆陣烈在前、臨兵闘者皆陣烈在前.....

 

「殿下、私はどのように報いればいいのでしょうか。このままでは我が家は王家の恩に報いる事のできない恥知らずと言われてしまいます」

「そんな、私が好きでやった事です。報いるなどとそんな事は考える必要なんてありません」

「ですが殿下...なら私はどうすれば...」

「そんな顔をしないで...そそそそうです。ではこっこここんなのはどうですか!」

 

臨兵闘者皆陣烈在前、臨兵闘者皆...なんか手が差し出されてる。

これはあれか?ひょっとするのか?

ベータを見るとまたも蒸気が出ている。ま、マジか。やらないといけないのか。

くっ、言い出したのは僕だから責任は取らないといけないのだろう...いいだろう!やってやるとも!

ベータが求めているのは跪いて手の甲に口付けする、如何にも王子様といった振る舞いだ。この物語ではただの貴族だがそんな事は気にしない。

取り敢えずやるだけだ。

あれ?やったのはいいんだけど反応がない。立ち上がってベータを見ると固まっていた。

顔の前で手を振っても反応がない、手を叩いても反応がない。

 

「おーい、べータ?...ベータ?」

 

肩を揺すると崩れ落ちそうになり間一髪の所で抱き留めることがができた。

呼吸はしているが意識がない。魔力で体内に異常が起こっていないか調べたが特に問題はない。

思い当たるのは1つだけ。

 

「手の甲にキスしただけで気絶って...」

 

このままにするわけにもいかないのでベッドに寝かせて僕も横になる。

こうしてじっくり見るとベータは体付きこそ大人だが顔にはまだ少女らしさが残っている。彼女が自分で決めたとはいえ巻き込んでしまったのは僕だ。

ちゃんと責任取らないとな。

 

意識を取り戻したベータは目の前で眠っているシドを見て叫び声を上げそうになったがすんでの所で踏みとどまった。自分がベッドに寝ている事から気絶した後運んでくれたのは理解できるが何でも言う事聞を聞くと言い出した本人が寝ているのは腹立たしかった、何でも言う事を聞くと言ったのだから起こしても特に問題ないのだから起こしてしまおうと考え手を動かそうとした。しかし

 

「か、可愛い」

 

滅多に見る事ができずに写真でしか見られないと諦めかけていた寝顔を見る事ができ不満など遥か彼方に飛んで行った。何度も同衾する事があったがベッドの上での運動ではいつも攻められてばかりでいつも先に自分がダウンしてしまう、複数人で襲い掛かったとしても負けてばかりで寝顔を眺められる機会など全くなかった。

目の前には写真の中でしか見られなかった敬愛する主の安心しきった寝顔を見てしまいとても起こすなんてできなかった。

そしてこの機会を逃す様なベータではなかった。

シドを起こさないようにゆっくりと体を動かしベッドの端まで移動すると、ベッドの下に手を伸ばしていつでも使えるように仕込んでおいたインスタントカメラを取り出しカメラを構える。

いざ写真を撮ろうとするも緊張しているため腕の震えが収まらない。

震えが止まるまで10分かかりようやく撮影に成功した。

 

「んんっ」

 

シドがもぞもぞと身動ぎし起こしてしまったのかと一瞬焦ったが眠ったままなのでほっと胸をなで下ろす。

使い切ったカメラをベッドの下に隠すと音を立てないようにゆっくりと近づき腕を伸ばして起こさないようにそっと頭を掴み胸に抱きしめる。

 

「んっ...むぅ」

 

一瞬だけ苦しそうに身動ぎするが、甘える様に胸に顔を埋めてスースーと寝息を立てる。

瞬間ベータの全身に電流が流れた様な刺激が走った。

 

「あっ」

 

ベータはシドを抱き枕にした事と、敬愛する主が自分の胸に甘えてくれた事で今までに感じたことのない幸せを感じてしまいまたも気絶してしまった。

何でも言う事を聞かせられる千載一遇のチャンスを2回も気絶してしまった事でベータは無駄にしてしまった。

 

 

今回のイベントにおいて一番はメリットよりもデメリットの方が多いと見抜いたイータは早々に辞退し自ら最後を選んだ。

その理由は初日はできる事が少なくなってしまうからだ。

考えが纏まっていなければ時間を無駄にするだけであり、主に不快感を感じさせてしまうかもしれないからだ。

逆に2日目以降なら前日の人の行動から自分がしたい事と思った事もでき羨む必要がなくなるのだ。

そして初日を掴んでしまったベータは羨ましい、自分もしたいと思っても既に自分の番は終わっているので羨ましいと思いながら眺めることしかできないのだ。

 

「胸にしか、栄養行ってない、あんぽんたん、バーカ」

 

研究室で自分の番を首を長くして待っている。

 

 

 

 

 

 

同日深夜。

 

「シド....いなかった...明日は会えるかしら」

 

小説の悪役のモデルにされたであろう少女は会えなかった弟に思いをはせながら眠りにつく。

 

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