2日目は少し早く呼び出された。
2日目にして1番の山場を迎えた。昨日ですら精神的に大きなダメージを負ったのに、果たして僕は明日も正常でいられるだろうか?
....ネガティブに考え過ぎたな、ここはポジティブに考えよう。
今日さえ乗り越えれば明日からは気合いで乗り越えられる。
「いつまでそこにいるの?」
だから何で気づくの?
こっちは完全に気配を霧散させてたんだぞ。これが女の勘か。
部屋の中から声をかけられた以上入るしかない。
扉を開けて部屋に入ると以外にも女の子らしい部屋に驚いた。もっとこう...シンプルな感じだと思ってた。
「何よ」
「ちょっとビックリしたから」
「ふん」
ご機嫌斜めだ、今日は君の番なんだから機嫌直して欲しい。
「髪梳かそうか?」
「それで私の機嫌を取れると思ったら間違いよ」
「じゃやめとく?」
「そんな事は言ってないわ。イジワルね」
少し頬を膨らませながら化粧台の前に移動して椅子に座ると櫛を渡してくる。
「伸ばしてるんだね」
「あなたが褒めてくれたから伸ばしてるんだけど、短い方が良かった?」
「そんな事はないよ、アルファは長い方がいい」
「それは嬉しいわ....なら、あんな女よりも私の方を優先して欲しいのだけれど。まぁ、あなたには無理そうね。もう消してしまおうかしら、あの女」
鏡に映るアルファの瞳が一瞬だけ黒く渦巻いたかと思うと部屋の気温が体感で10℃は下がり、横に揺れ動く。アルファの言う『あの女』は頻繫に変わるから誰の事を言っているのか分からない。
この前はベアトリクスだったし、実家にいた時は姉さんだったし、王都に来てからはアレクシアかローズだったからこの場合の正解は誰なのか見当がつかない。
取り敢えず謝っとこ。
「ぜ、善処します」
「...今は許すわ。今は....ね」
含みを持たせた言い方止めて、怖い。
怒りが収まったようで部屋の気温も戻ったし揺れも収まった。
部屋から出ようとするが腕を引っ張られる、振り向くと無言で腕を広げてこっちをジッと見てくる。
あれだね、昨日のベータと同じだね。僕の考えが分かったのかぷくーと頬が膨らんでいる。
さっきとの差が凄いからちょっとくらっとした。
頭を振って煩悩を打ち払い、アルファを抱き上げる。
「ふふっ♡」
抱き上げてからずっと僕の頬を撫で続けている。
食堂についても扉を開ける気にはなれなかった、扉の向こうからは肌に刺さるような空気が流れてくる。開けたくなかったがアルファが扉を開けてしまったので入ったが殺気を叩きつけられる。前から思ってたけど君ら色恋沙汰になると人格変わるよね。
アルファを席に座らせて食べさせていく、ここまでは順調と...言えるのかな?
「水を飲ませて」
コップを口に近づけるが顔を逸らす。
「飲まないの?」
「口移しじゃないと飲まないから」
「え~~」
「く・ち・う・つ・し!」
駄々っ子の様に顔を背ける、この状況で口移しをしろと?
何人かしちゃいけない顔してるし、ベータなんてフォークで皿を破壊してる。皿が粉々になっても止めようとしない。
歯軋りも聞こえてくる、女の子が歯軋りなんてしたら駄目だよ。
仕方ないからやるか。
コップの水を口に含み、お望み通り口移ししてやる。
「んっ....ちゅっ....じゅっ」
口移しってこんなに卑猥だったか?僕の心が汚れているだけか。
ちゃんと満足してくれたみたいだ、これからは胃の心配はしなくて....
「私、朝は多めに飲むから後3杯は飲ませてもらうから」
な、なんだと。まだこの地獄が続くというのか。
第一関門を乗り越え、仕事の手伝いとなるはずだったが
「偶にはちゃんと私達の報告書も読んでね」
と遠回しの嫌味を言われた。
アルファの隣に座り報告書を読んでいる。
一般的な男子高校生程度の脳ミソしか持たない僕と策略で国を亡ぼせそうなアルファ達では脳ミソの造りが違う。だからアルファ達の作る報告書の内容は全くと言っていいほど理解できない。
いつもは
「ふむ....なるほど.....ああ.....そうか」
とか言って誤魔化してたがそのツケが、回ってきたらしい。
渡された資料に目を通すがさっぱり分からない。
ミドガルの裏社会について書かれてるみたいだけど、全然分からない。
組織の頭が不審死したとか実行犯がどうとか、どこの組織が暗殺者を雇ったとかどこが得をするとか書かれてるけど、理解できん。言いたいことは何となく分かるかもしれないがどういう思惑があるとかさっぱりだ。これも全て知能ではなく筋力に能力を回した所為か。
裏組織の抗争の原因が『クスリ』だからどの道全員僕が消すけど。
「美味しいわ、将来はミツゴシで紅茶の部門を任せようかしら」
「お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃないわよ」
お世辞でも褒められて嬉しい。
アルファが飲んでいる紅茶は僕が淹れたものだ。
実家にいた時にオトンに『紳士の心構え(笑)』の一環として紅茶の淹れ方を教えられた。
実際はオトンが紅茶の買いすぎによる浪費がオカンにバレるのを恐れて僕の教育に使うことで証拠を消そうとしていたのだ。僕に紅茶の淹れ方を教えているのは他の家でもやっている所はやっているから最初こそ不審がられなかったが余りにも回数が多かったことによりオカン主導の調査が始まり浪費が発覚。
「てめぇ無駄遣いしねぇってこの前言ったばっかりだろうが!このハゲ!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!ぼぎゃぶげぇうべぇ」
いつものようにボコボコにされてたな。
「明日の朝までパパと会えないけど大丈夫?」
「何で?」
「パパとママはすご~~~~く大事な話があるの」
「ウン、ワカッタ。ナカヨシナノウレシイ!」
「シドはイイ子ね!」
「た、助けてシド!!パパまだ死にた....」
ボコボコにされたオトンが寝室に引きずり込まれて、翌朝真っ白になって出てきたのもいい思い出だ。
僕は紅茶の知識ならそこそこあるが商会の部門を預かれるような立派なものじゃない、精々が趣味程度。
紅茶を飲みながら次の報告書を読む....読めない。
違うな、そこに文字が書かれている事は分かるし読む事もちゃんとできている。
ただそこに書かれている内容を理解する事を頭が拒絶して読めるのに理解したくないという状況になっている。
報告書のタイトルは『アレクシア・ミドガル調査報告書』と書かれている。
本能的に拒絶反応が起きていて、紙一枚にびっしりと文字が書かれているという事実以外受け付けない。
「ジーーー」
自分で「ジーーー」って言う人初めてだ。
クソ!こんなイヤガラセ今までなかったぞ。
次の報告書は....『ローズ・オリアナ調査報告書』か、僕を追い込んで楽しいか?
やはり頭が受け付けない、駄目だ。頭おかしくなりそう。
次の報告書は.....
「紅茶淹れてくる」
中身のなくなったポッドを持って部屋を飛び出す。
『クレア・カゲノー調査報告書』なんて読めるか!
新しい紅茶を用意して部屋に戻ると机に2枚の紙が置かれており、『ヒョロ・ガリ調査報告書』、『ジャガ・イモ調査報告書』と書かれており、今度は読むことができた。
2人の性格、生活習慣、行動範囲までしっかりと調べられていた。
そして学園の中での言動まで記録されている、やっぱ学園の中も監視してたな。
やっぱあの2人クズだな犯罪ギリギリのグレーな事も結構してるな、と言ってもストーカーとかねずみ講とかの勧誘で微妙な事ばかりだ。
ただなんでこの2人だけ2枚ずつ報告書が....新学期2人と会う事はないかもしれない。
ミツゴシに借金するなんて逃げられる訳がない、2枚目の紙は2人の返済状況と予定額について書かれている。金利は良心的で他の金貸しと比べるとかなり安いが安い分返済方法も特殊だ。
普通借金は毎月決まった金額を返していくものだが2人の場合期日までに金利含めて払わないといけない。
前に一緒に出かけた時にやたら金に余裕があったのはこれが原因か。借りた額は50万で金利は微々たるものだが金遣いの荒い2人に返しきれるだろうか?
例え返せなくても実家の資産状況まで調べられてるから2人が払えなかったら実家に取立が行くだろうな。僕の聖剣から搾り取るのに一切の手加減のないサキュバスだから金を搾り取る時もきっと手加減はないだろう。
今までに搾り取られたりしていたから忘れてたがアルファはかなり乙女だ。
アルファの要求は膝枕、もっと際どい要求が出てくると思ってたから拍子抜けした。
「何してるの?」
服の裾を捲ろうとしているので止める。
「...腹筋を触りたいの」
「そうなんだ。でもズボンに手をかける必要はないよね」
「テガスベッタノ」
「へ~~~」
「ご、ごめんなさい。手は離すから腹筋だけは触らせて」
「う~~ん...別にいいよ」
許可を出すとスッと腕を服の中に入れペタペタと触る。
筋肉なんて触って楽しいものか?皆よく触るけどどういう心理なんだろう?
「そんなの触って楽しい?」
「楽しいし嬉しいわ」
「嬉しい?」
「私を守ってくれる体の感触はたまらないわ♡」
トランス状態に入った。大丈夫かな。
「よくわかんないな」
「本気で言ってるの?」
「うん」
「あなただって私の胸をよく触ったり揉んだりするでしょ?それと同じよ」
そう言われると何も言えない。
男にとって性的興奮を感じるのが女性の胸なら、女性は男の筋肉に性的興奮を感じるという事か。
実例が周りに沢山いるから非常に分かりやすい。エルフ達が僕の筋肉をまさぐる理由がよくわかってなによりだ。
「何か変な事考えてない?」
「カンガエテナイヨ」
いい加減エスパー対策を用意しないとな。
姉さんもそうだけど皆僕がよろしくない事を考えてると直ぐに気づくからな、顔には出てないと思うんだけど。読心術は勉強してなかったから勉強しとこ。
髪の毛サラサラだ、気持ちいい。
髪の毛を触ってたらアルファが体を起こした。
「どしたの」
「...やっぱり我慢できない」
ソファに押し倒された、我慢しろよ。
発情したアルファさんは僕のシャツを捲ると猫の様に服の中に潜り込んで来た。
肌に息が掛かってきてくすぐったい。
「アルファさ~ん、出てきてくれませんか?」
服の上から頭をつつくが反応ない。
「寝てるの?冗談だよね?」
つつくけど反応がない、本気で寝やがった。
つついてると額にカップが置かれた、why?
「何してるのニュー」
「紅茶入れますねー」
「入れますねじゃないよ、何でそこで入れるの?」
「動かないでください、動いたら熱々の紅茶がこぼれて大変なことになっちゃいますから」
確かに動いたら大変なことになるね、主に君の所為だけど!
鍛えた筋肉で首を固定したのでピクリとも動かない。
「ちっ....流石ですね」
舌打ちしたのしっかり聞えたぞ。
僕を甘く見た君の負けだ、これに懲りたら
「ニュー、私も貰っていいかしら」
「....そうですね。せっかくシャドウ様が淹れて下さったのですから捨ててしまうのももったいないですし」
またカップが置かれる。もしかして全員分注ぎ終わるまで続く感じ?
「では入れますね」
地味に熱いんだが。
同日深夜。
「今日もいなかった.....どこに行ってるのかしら」