今日はおよそ2ヶ月ぶりの盗賊狩りだ。
いい加減紙袋ではなくもっとまともなのが必要だと思ったので服作りに集中していた。
この2ヶ月はかなり苦労した。そして、苦心の末に完成したのがこのスライムスーツ。
スライムでできた黒のボディースーツにフード付きのローブ。
完成に至るまでに魔力制御と操作が格段に上手くなった。
自分で作ったものだが素晴らしい完成度だと思う。
スーツを作るのに色々な素材を試したがスライム以上のものはなかった。
その理由は魔力伝導率だ。
普通の鉄の剣に魔力を流したとしても、100流して10しか伝わらない。
伝導率の高いミスリルの剣でも50しか伝わらない。
魔力伝導率の高い素材を探すのには苦労した。そして、スライムにたどり着いた。
スライム、代表的なファンタジー生物でその生態を調べていくとそのポテンシャルの高さに驚かされた。
魔力伝導率99%。1%の損失しかない理想的な素材。
しかも液状なので形状は自由自在。
有頂天になった僕はスライムを乱獲し、地域一帯からスライムが消えてしまい遠出することになってしまった。
途中そこそこ強めの獣人とも戦った。
スライムのコアだけを潰してゼリーだけを残すのは難しく、捕獲したスライムの半分を駄目にしてしまった。
魔力制御と操作が上手くなると、コアだけを潰してゼリーを残すのが上手くいき、ついに完成させることができた。
構想自体は盗賊狩りを始めたあたりからしていたので
完成まで2年近くかかってしまった。
そして、今日はスライムスーツの初実戦。
近くの廃村に住み着いた盗賊が相手だ。そこそこ名前の売れている盗賊団らしい。
元傭兵団らしく、盗賊にしては珍しくかなり貯めこむタイプらしい。
深夜なのに灯りがついており、物資が積み上げられている。
襲撃に成功した後だろうか気分よく酒を飲みながら、ギャハハと下品な笑い声を上げている。
そして、盗賊の宴会に飛び込み。
「ヒャッハー!金出せてめぇら!」
最近は姉さんの訓練が強くなってストレス発散もできていなかったので僕のテンションはぶち上がりだ。
「な、なんだっ、このガキ!」
素晴らしい。モブの反応としては100点満点だ、見習わなければならない。
盗賊達が武器を持って集まってくるので、僕もスライムソードを取り出す。
このスライムソード、スーツと一体化しているのでいつでも取り出せる。
盗賊の首を斬り飛ばす。うん、弱い。
せっかく作ったので便利機能を試していく。
その1、伸びる
「おらおらおらぁぁぁぁ!」
伸びたスライムソードを振り回すと盗賊がバラバラになっていく。
鞭のしなやかさを持ちながら、切れ味は剣そのもの。
やはり素晴らしい出来だ。
「お....あれ?」
斬りまくっていたら、後1人だけになってしまった。
なんかボスっぽい奴しか残っていない。
その2はこいつで試すことにした。
「な、何なんだお前!」
凄いモブっぽい。盗賊狩りはモブについての振る舞いがよく勉強できる。
「君はいい踏台になりそうだね。
頑張れば2分くらい長生きできると思うから....頑張ってー。」
気に食わなかったらしく顔が赤くなっている。
「バカにしてんのか?!これでもブシン流の皆伝なんだよ!」
そう言いながら斬りかかってくる。全然洗練されてない。
この手の奴とは何度も戦ったがどれも似たり寄ったりだ。もう凄く弱い。
「お終い」
切られたフリをして、足から伸ばしたスライムソードで心臓を貫いた。
その2、スーツのどこからでも剣を取り出せる。
つまり全身が武器なのだ。
防御、攻撃、改良の余地はあるが、素晴らしい発明だ。
「戦利品、戦利品♪」
盗賊の死体を積み重ねて、掃除を終えると戦利品の確認を始める。
現金が500万ちょっととよく分からない絵画と他の美術品が少々。
あまり期待通りの結果とはいかなかった。
「何これ?」
1つだけ布の被さった箱が気になったので布を外すと、鉄の檻がありその中に巨大な肉塊が入っていた。
呼吸音が聞こえなければ生きているとは思わなかった。
「もしかして悪魔憑き?」
悪魔憑きは突然身体中に黒い痣が広がりやがて身体が腐り死に至る病。
聖教は悪魔憑きを浄化と言い、処刑する。
そして、何も知らない一般人は聖教を称え信仰する。
宗教って怖い。
悪魔憑きなんて言われているがただの魔力暴走だ。
以前、姉さんに魔力暴走の兆候が見られたのでマッサージと言い魔力制御を行うと治療することができた。
もし治療していなかったら姉さんもこうなっていたのだろうか。
「大丈夫。助けて見せるから。」
僕は悪魔憑きをセーフハウスに持ち帰った。
この時の僕は善意半分、私欲半分といったところだ。
僕は悪人なら例え何人殺したところで心が痛まない程度で外道だ。
だからと言って、目の前にいる救いの手を求める人を見捨てるほど人間をやめた訳ではない。
それに試したいこともあった。
以前僕は能力向上のために自分の身体を改造しようとしたが上手くいかず痛い目を見たことがある。
そのため身体の改造はためらっている状況だ。
だがこの悪魔憑きを治療することが出来れば自分の改造も上手く行くかもしれない。
だから治療には積極的に取り組んだ。
治療には1ヶ月近くかかってしまった。
理由としては自由に動けるのが深夜だけだったこと、
そして姉さんと違ってかなり症状が進行していたので肉塊の状態から人型に戻す必要があったので時間がかかった。
だが治療の過程で僕の技量は以前と
比べものにならないほど上昇した。
今なら細胞レベルで魔力を操ることが出来る。
多分悪魔憑きの治療をできるのは僕ぐらいだろう。
魔力暴走はコンピューターで言う所のバグだ。
僕がしたのはバグの原因を修正し、再発生しないようにコマンドを打ち込んだ、といった所だ。
詳しくないので多分そんな感じだと思う。
僕の目の前にいるのは肉塊ではなく......僕と同年代の金髪少女のエルフだ。
裸だったのでパクッてきた姉さんの服を着せる。黒い痣もなく健康的だ。
「助けてくれてありがとう。この恩は忘れないわ。」
「あ....うん。気にしないで。」
(人体実験してたなんて言える訳ない。)
ただ僕は非常に困っていた、助けた後のことを特に考えていなかったのだ。
「当てはある?」
「もう何も残ってない......誰も.....もう」
彼女の表情はどんどん暗くなっていく。彼女の目からは光が失われていく。
悪魔憑きは聖教に人間ではなく悪魔として処刑されるので
存在自体なかったことにされる。
生きる意味、目的、何もかもを失っている状態だ。
ここで放り出そうものなら、自殺しそうな状態だ。そうなったら気分が悪いなんてもんじゃない。
仕方ないので一芝居打つことにした。
僕は聖教の教典を取り出し、とにかく話を盛りまくった。
・教典の内容は実話。
3人の英雄そして、魔人ディアボロスは実在した。
・悪魔憑きは魔人の呪い。
英雄の血を受け継いでいることの証。
・魔人を信仰するディアボロス教団が隠れ蓑として聖教を設立。
処刑と言い実験体として悪魔憑きを回収している。
・教団は世界中で活動している。
政治、経済、あらゆる分野に潜り込み人々を利用している。
・国の中枢にも手が伸びている。
かなり盛ったがいい感じになったと思い彼女を見ると、復讐に燃えている。
まずいと思ったので、たしなめる。
「教会を襲撃しようなんて考えるなよ。」
「どうして!」
「誰もお前の言うことを信じたりはしない。それに....」
前世で世界史を学んだから言い切れることがある。
「人がいる限り宗教は消えない。」
「.....」
前世では様々な宗教があり、それぞれに教典があり、戒律がある。
宗教によって特色があるが、謳い文句はそこまで変わらない。
信じれば救われる。
宗教とは人々の心の不安を打ちけす拠り所になっている。
いい例が戦国時代にフランシスコ・ザビエルが来日しキリスト教を広めたことだ。
当時の日本はまさに血で血を洗うような時代で人々は不安に怯えていた。
そんな時にキリスト教が広まるとそれまで信仰されていた仏教ではなく、
キリスト教に改宗するものが後を絶たなかった。
支配体制が崩れることを恐れた当時の為政者たちが弾圧をし排除しようとしたが失敗に終わり、
江戸時代初期にはキリスト教の信者が反乱すら起こした。
宗教は人の持つ、恐怖、絶望、悲しみ、苦しみといった負の感情を基に成長していく。
人間という生物がいる限り宗教が消えることはあり得ないのだ。
「宗教は巨大だ。お前が挑んだ所で蟻のように潰されて終わりだ。」
「そん.....な」
いい感じに怯んだ。復讐の火は消えている。
もうひと押しだろう。
「俺が助けたから良かったが、教団に捕まれば
実験体にされるのは確実。
解剖され実験されるだろう。
酷ければ、実験体を増やす為に女としての尊厳を奪われ
死んだほうがマシな目にあうだろう。」
悲惨な未来を想像してしまったのだろう顔色が悪く泣いている。
「新しい人生を得たんだ。今までの事は忘れて新しい幸せを探すといい。」
いい感じに決まった。ダサいかもしれないが責任転嫁が一番確実だ。
架空の悪の組織に丸投げすることで万事解決。
振り返ってみると少し盛りすぎたと思うが即興だからこんなものだろう。
「貴方はどうするの?」
僕の夢は今も変わらない。陰の実力者になることだ。
彼女に話したのは僕が盛りまくった架空の話だ。
だがもしそんな組織が存在したとしたらどうすべきか?
陰の実力者ならどうするか?
答えは決まっている。
「戦う。味方がいなくても、理解されることが
なかったとしても進み続ける。命ある限り戦い続ける。」
陰の実力者ならこう言うはずだ。
「なら、私も戦うわ。」
「......ごめん。なんて?」
「貴方と共に戦うわ。全てを失った私を救ってくれた
貴方のために賭けるわ。」
思考が上手くまとまらないのに彼女は話続ける。
「私の身も心も、全てを貴方に捧げましょう。」
前言撤回。なにもいい感じに決まっていなかった。
むしろ話を盛ったせいで余計に酷くなってしまった。
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