王都近郊のトンネル前に貨物列車が停止している。
トンネル前にはバリケードが積み上げられており通れない様になっている。
実行犯の野盗達は乗っていた従業員達を取り囲み下品な笑みを浮かべている。
取り囲まれている女性達はというと自分達の演技がうまくいっている事に喜び半分、喧嘩を売ってきた相手に対すっる怒り半分といった所だ。
周りで気配を殺して待機している者達も今か今かとその時を待ちわびている。
それに気付かない野盗達はまるで自慢するかのようにペラペラと話し始める。
「お前らは儲け過ぎたんだよ。見ろよこの車両を!車両1つだけで数億はくだらないんだぜ!ガーター様がお怒りになるのも当然だぜ」
「ガ、ガーター様?」
「おっと口が滑っちまったな...これから死ぬお前らには関係ねぇけどな!」
ナイフを振り下ろすと服が切り裂かれ白い肌が露になると歓声が上がる。
「そ、そん、な何故ガーター様が...大商会連合の会頭を務め人格者として知られている方がこんな山賊まがいの連中と繋がって他の商人の邪魔をしていたなんて..」
追い詰められているにしては余裕のある流暢な話し方だが、気分を良くしている野盗達はそれに気付かない。
「そういう事さ、ガーター様は俺たちみたいなのを便利に使ってのし上がってきたのさ」
「そんな....そんな今さら知ってる事ばかり聞かされても『ああ、そうですか』としか思わないですけど」
「は?」
呆けている野盗達をよそに女性達は変装を解き本性を晒す。
「黒服の女...お前らまさか」
男が一歩下がったその瞬間、車両に頭が叩きつけられた。
周りを囲んでいた者達も、野盗達も誰も気付く事ができない速度で現れた乱入者。
叩きつけられた痛みで朦朧としているが、何とか目を動かして押さえつけている指の隙間から周りの状況を見ようとして
「ひ」
惨劇を見てしまった。
体を縦に裂かれた者、顔の半分が無くなった者、胸に穴が空いた者、体の一部が抉り取られている者。
男の仲間は数秒もしないうちに惨たらしく殺された。
そして自分を押さえつけている男の姿を見てしまう。
「ま....魔人」
手配書に描かれているのと同じ姿。
そこらのチンピラなんて比べものにならない本物の怪物。
「おい.....お前、今なにしようとした」
魔人の怒りを買った男の運命は決まった。
「ぎゃああああああああ!」
「しけてんな」
無法都市での稼ぎが少なかったので王都の近くに湧いた盗賊を狩ったけど、戦績は虚しいものだ。
魔力で死体を焼却処分して注意深く探してみるが、これ以上はないようだ。
集まったのは僅か100万。
「こいつらどうやって生活してたんだ?」
20人近くいるのに100万とか倹約しても生活するのは難しいだろ。
もしかして誰かに飼われてる?
正義のミカタぶる気はないけどこいつらの飼い主を調べて
「燃やしちゃったらダメじゃん」
時すでに遅し、死体は灰になった後だ。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。
盗賊である事に変わりはないから、これで世界が一歩平和に近づい.....てないな。
こいつらは台所に潜む黒光りする人類の天敵の様にどこにでも湧いてくる。
潰しても潰しても湧いてくる。僕にとっては財布だが一般人からすれば迷惑以外の何物でもない。
「あっちにもいるな」
僕の盗賊レーダーに反応がある。
「あいつ終わったな」
気配を殺して遠くから見ていると、とんでもない命知らずを見つけてしまった。
盗賊の1人がミツゴシのお姉さん....変装したニューにナイフを突き付けていた。
サディスト....加虐趣味のニューにナイフを突きつけるとか碌な死に方はしない。
多分バラバラにされる。
人の獲物を横取りする趣味はないし、多分邪魔になるだろうから
「ひぃ」
今何が起きた?
ニューの服が裂かれたのか......殺す。
「おい.....お前、今なにしようとした」
服を裂いた男を叩きつけて、野盗達を殺す。
怒りに任せて殺してしまったのでかなり無惨になってしまったがこいつらは野盗だから、消えた所で困る人がいるわけでもない。
「聞いてるんだから答えろよ」
押さえつける力を強めると骨が軋む音がなる。
「たず...げて」
「お前は自分に命乞いする権利があると思ってるのか?ある訳ないだろう、自分がどういう人間か分かってないのか?今まで何してきたか考えろよ」
「ごべ...ん...なさ」
「謝る相手が違うだろ」
指がめり込んでいるのか血が流れている。
「めい...れいされたんです」
「そんな事知ってるよ。で、だからなんだ?お前楽しんでたよな?あれがお前の本性だろ。汚らわしい、命令とか関係なくお前が自分で決めた事だろ...そもそも」
ジタバタともがいているが力を強めて黙らせる。
「お前みたいなのが触れていい女じゃないんだよ」
絶望の淵に立たされてもなお立ち上がった彼女達とこいつらでは価値が違う。
他者を踏みにじって笑うこいつらはこの世界で一番の汚物だ。
「これ以上話しても無駄だな....首を刎ねられるのと潰れた果実みたいになるの、どっちがいい?」
「なにを...」
「綺麗に死ぬのか、無惨に死ぬのかどっちがいいか聞いてるんだ」
「い、嫌だ」
「ここで自分がやってきたのを受け入れるのなら綺麗に死なせてやろうと思ったけど.....気が変ったわ、じゃあな」
男の頭を勢い良く地面に叩きつけると潰れたトマトの様になる。
「汚い」
自分でやっておいてなんだが本当に汚い。
血がかかって汚い、魔力で綺麗にしよう。それよりも
「怪我してない?」
「は、はい。だいじょ....ひぃん」
「本当に?」
ニューの頬に手を添えて、傷がないか調べる。
外傷はないが震えている顔も赤い。
「何かの病気か?それとも毒か?」
「あ、あにょ、もうだい.....」
「うっ、ううん」
わざとらしい咳払いが聞こえて振り向くともじもじしているアルファがいた。
「ごめんアルファ、邪魔しちゃった」
「....もっと他にあるでしょう」
「うん?」
「何もないわよ」
ボソッと呟いたので聞こえなかったが何もないんなら聞かない方がいいだろう。
「それで、何か調べてたの?」
「別にそんな事はないけど、最近盗賊が増えたからちょっと掃除しておこうかなと思って」
「本当に?」
「本当だよ」
「今は深く聞かないでおくわ」
今じゃなくて未来でも深く聞かないで欲しい。
「無暗に狩らないでね、デルタが暴れた時の発散相手は必要だから」
「.....分かった、暫く控えておく」
哀れ盗賊達。
デルタのサンドバッグにされるとは、ミンチにされる事はもう確定だな。
「邪魔にならないうちに帰るね」
「ちょっとまだ...」
アルファの話を無視してダッシュで帰る。
獣の群れの中にいつまでもいるほど僕はバカじゃない。
シドが立ち去った後も現場の処理の為に彼女達は残っていたが、ニューはその場で立ち尽くして自分の顔を揉み先程の言葉を思い出していた。
「お前みたいなのが触れていい女じゃないんだよ」
これがずっと頭の中で響いている。
シドは盗賊みたいな存在が触っていい存在ではないという意味だったのだがニューは別の意味として捉えていた。
(触れていい女じゃない?....シャドウ様は嫉妬した?...違うもしかしてシャドウ様は私を独占したい?...私はシャドウ様のモノ?)
曲解した答えにたどり着いたニューは頭の中でできちゃった婚からの結婚式、出産までの脳内シミュレーションを繰り返す。
(子供は2人....3人は欲しい。家は大きいのを買って、大型犬を飼って.....まだ、まだ足りない。もっと、もっともっと....)
自分だけの幸せな妄想に浸っているが、しかしそんな幸せな時間がそんなに続くわけでもなくトントンと肩を叩かれる。
「幸せそうね、ニュー」
「アルファ.....様」
背後には笑顔のアルファがいるがその背には般若がいる。
「いつの間に彼と仲良くなったのかしら?」
空気が揺れ出すと、周りの空気が歪みその目は黒く渦巻き始める。
危機を察知したニューはエルフ2人に助けを求めるが
「これは酷いな」
「どうやったらこんな風に切れるのか」
エルフ2人はニューが視界に入らないように死体の処理をしていく。
「帰ったらゆっくりと話しましょう」
「あ、あ、あ、あの....」
「話しましょうね?」
「は...はひぃ」
さてニューは明日も無事に朝を迎えられるのだろうか。
ストーカーが増えたということは喜ぶべきことなんだろうか。
ケルベロスではない事は分かっている、3人はここまで露骨な付け方はしない。
朝の散歩の為に寮から出てきた時から着いてきているから僕の事を多少は調べているという事だろう。
しかも着けてきているのが獣人だから人混みに紛れても付いてくる。
匂いだけはどうしようもない。
「何のようですか?」
人気のない路地裏まで来て、ストーカーに話かける。
ストーカーは和服姿の獣人。
こんな人にストーカーされる覚えもないし、知らない人だし。
「言伝を預かっておりますので」
「僕みたいな一般人にそんな事言われても困るんですけど」
「これでも昔は武芸をたしなんでいました、それに着けているのに気付いたのに一般人というのは無理かと思います」
ぐうの音も出ない。
「では今晩こちらにお越しください」
紙を渡して獣人さんは去っていく。
さてこれは行った方がいいのか、行かない方がいいのか.....
「ここであってるよね?」
来てしまった。
他にストーカーがいない事は確認済み、シャドウガーデンの関係者もいない。
指定された列車が来たので乗り込むと、僕を着けていた獣人さんに出迎えられる。
僕を何の用で呼び出したのか聞かせてもらおうかな。