偽札が完成したと呼び出しを受けた。
今までは客車を1つ貸し切っていたが、今度は貨物列車を丸ごとだそうだ。
金持ちだな、偽札作ってまで儲ける必要があるのだろうか。
そしてユキメよ、何故そこまで過激な服装なんだ。
君が娼婦なのは分かっている、でもなんで会うたびに布面積が少なくなっているわけ?
前はスリットが増えただけだったのに、今度は脇腹が剝き出しになっている。
「用意した場所はどうだ」
「上々でありんす、領境の廃坑とあって人がよるようなこともありんせん」
僕が選んだのは昔姉さんを攫った変態が拠点にしていた廃坑。
あそこは人目につかないし、周りにも人は住んでいないから見つかるのに余裕を持てる。
完成品の偽札を渡される。
「原版の作成に時間をかけただけあって、なかなかのものでありんしょう?」
「ふむ」
手に取って見てみるが全く違いが分からない。
どこに違いがあるの?同じにしか見えないんだが。
「どちらが本物かわかりんすか?」
だから分かんないよ。
そもそも僕は計画を提案しただけで紙幣自体詳しく見たことはないんだ。
ほんの少しだけなら違いがあるのが分かるけど、元々の紙幣を覚えていないからどっちが本物なのか分からない。
適当に言っておけば何とかなるはずだ。
こういう時は感覚でいくと基本解決する。
「答えるまでもない。比べるとこちらの紙質の方がやや粗い」
粗い方の紙幣を差し出す。
「インクのにじみにも違いがある、印字の歪みに関しては言うまでもない」
強化した視覚ではこれ以上の違いは見られなかった。
「これ以上指摘する必要があるか?」
「.....ありんせん」
よし、なんとかなった。
ユキメの反応から偽札がどちらか推測もできた。
『精度の悪い方が』
「偽物....」
「本物でありんす」
「え」
「え?」
「......うっん。完成度を求めすぎたな、本物のできを上回るとは」
本物より精度の高い偽札ってなに?
それもう偽札じゃないよね?
短期間で仕上げた僕らの方ができがいいって、連合のレベル低すぎだろ。
「作り直しでありんしょうか?」
「その必要はない。見破れる者もそういないだろう」
「ではこのまま流通を?」
「頼む」
「ジョンはんは出処を探る者の始末をお願いしんす」
ここまでは順調。
問題はどのタイミングで集めた資金を渡すかなんだよな。
起死回生の逆転を演じる必要があるから早すぎても駄目、遅すぎても駄目。
「ジョンはんは女の扱いをもう少し覚えた方がいいでありんすね。いつか背中からブスリなんてこともありんすよ」
「何を言っている?」
「酷いお人やわ、わっちと会う前に楽しんで来られたのに。わっちはいつでも構まわんといっておるのに、ジョンはんは女泣かせやわ」
確かにイータの所に匂い消しを貰いに行った時に2人に襲われたさ、でも2時間もなかったし風呂に入って体を綺麗に洗って、匂い消しを使ったのにどうして分かる。
やっぱりフェロモンでも出てるのか?
「匂いを消してもその濃いオスの匂いは誤魔化しようがありんせん。獣人はそういった匂いに敏感なのでありんす」
ユキメの付き人のナツさんとカナの方を見ると少し顔が赤くなって内股をすり合わせている。
もしかして今の僕って獣人からしてみれば発情してるってアピールしてるのと変わらない?
発情してないけどさ。
「....その、なんだ.....傷つきやすいから断ると何をしでかすか分からないんだ」
「わっちも傷つきやすいのでありんすが?」
「君とは利害関係が一致しているから組んでいるだけだ」
「.....ここまで冷たくあしらわれたのは初めてでありんす」
勘弁して。
どうして僕の周りに来る人って癖のある人が多いんだ。
「夜の女を傷つけた罪は重いでありんすよ」
次から次へと問題が出てくる。
少しくらい落ち着かせて欲しい。
貨物列車とはいえ2両だけではあるが客室がありそこで警護している。
「暇だ」
僕1人だけで誰もいない。
ユキメは他にも根回しがあるらしいから一緒ではない。
終わったら話し合おうと言われたけど会いたくない。
僕への視線が協力者に向けるものから段々と獲物に向ける視線に変わってきている。
ユキメだけならいいんだが付き人の2人も僕の事を獲物みたいに見ている。獣人怖い。
「来た」
誰かが後ろの車両の上に降りてきた。数は.....3人か。
気配を消して待っていると扉からスライムスーツを身につけた女性が3人入ってくる。
やっぱり最初に気づくのはミツゴシか。
席に座っていると僕に気づかないのか通り過ぎていく。
スーパーエリートエージェントの登じょ.....見たことある剣だな。そんなわけないか。
「2人とも!避けて!」
気づかれた。気分が乗りすぎてちょっと失敗した。
ま、いいか。
彼女達は車両から叩きだして終わりだ。
「何者だ!?」
「ジョン・スミス」
「お前がジョン・スミスか!?」
素人なのか猪みたいに突っ込んでくる。
ラムダに鍛えられたのならちゃんと集団行動できるようになるはずなんだけどな。
拘束して終わ....なんでローズがここにいるの?
いつの間にシャドウガーデンに入った....まさか前にアルファが言ってた僕の考えてることがどうとかってこれの事!?
特に何も考えてないなんて言えない。
「帰りたまえ、今はまだ知るには早い」
窓から叩きだして一息つく。
「なんでローズがいるんだ.....しかも666番」
アレクサンドリアに帰ったときに、人の入れ替わりが激しいとは思っていたけど666人て、いつの間にそんなに増えた。
組織の維持をアルファに丸投げした結果がこれか。
最後に僕が人数を確認したのは王都に来る前で330人だったはずなんだが、1年に満たない期間で倍近くに増えている。
人助けはいい事だけど、捨て猫を拾う感覚で連れて帰ってくるのはどうなの?
「重い」
666人の食い扶持はミツゴシが用意している。
この計画が失敗したら666人が路頭に迷って、陰の実力者としての地盤もなくなる。
重い、重すぎる。
666人のこれからが僕の両肩に乗ってると思うと辛い。
「失敗....失敗した」
「アルファ様!大丈夫です、大丈夫ですよ!」
「ごめんなさい...ごめんなさい....いやぁ、捨てないで」
陰の間で失敗の報告を受けたアルファは先日のASMRの影響で精神的に不安定になっていた。
「置いて行かないで.....お願い、お願いよ」
「落ち着いてください!!」
ガンマはレコーダーを取り出してアルファの耳に当ててボタンを押す。
『ドクン』
「あ、ああ」
「...ごめんなさい、情けない所を見せたわ」
「そんな事はありません気持ちは分かります」
シェリーとイータが生み出した禁忌の爪痕は深かった。
「それでジョン・スミスだったかしら?聞き覚えのない名前ね」
「新たなチルドレンでしょうか」
「無法都市の可能性は?」
「吸血鬼調査の際に調べましたが該当する人物は確認できません」
無法都市は力こそがものをいう街。
本人が隠そうとしても噂は広がっていく。
「流れの傭兵でしょうか?」
「それはあとにしましょう。今は次に誰を行かせるか考えましょう?」
「デルタはどうですか?直ぐに仕留めてきますよ」
「デルタ....」
「何か不安な事でも?」
「線路...壊さないといいのだけれど」
「あー」
先のアレクシア誘拐事件の際にデルタは王都で暴れまわり至る所に痕跡を残し、後処理の方に労力を割いた。教団に打撃を与える事はできたが幾つもの建物が倒壊してしまった。
デルタは周りへの被害を気にしないので戦えば最悪輸送手段に大きなダメージが出ることになる。
「....デルタは最終手段ですね。でもそうするとなると」
「誰を行かせるかなのよね」
デルタを行かせないとなると誰を行かせるべきかという問題が出てくる。
僅かな情報から判断できたジョン・スミスの脅威の度合いは七陰並み。
「誰を行かせましょう?」
「3人に行かせましょう」
「3人?.....アルファ様彼女達を送ると実務が」
「私が変わるから問題ないでしょう」
「何と言えばいいでしょう」
「成功したら一週間有給を上げると言っておきなさい」
「い、いいんですか?」
「いいわよ」
ガンマは陰の間を出て3人の元へ向かう。
「失敗は許されない、彼の期待に応えないと」
アルファの頭にはシャドウに捨てられない為にはどうするかそれしかなかった。
次なるジョン・スミスへの刺客はストーキングにおいて並ぶ者のいないケルベロスだ。
ミツゴシと連合の争いのせいで僕をストーキングできていない彼女達は僕がジョン・スミスである事を知らない。
だから全開の魔力が飛んでくるし、殺意も飛んでくる。
親しい人に殺意を向けられると結構傷つくな。
狭い車両で3人を相手するのはやりにくい、外に出るか。
窓から屋根に上がると3人も付いてくる。
「女性に手を上げたくはないのだが仕方ない」
戦い方を糸から近接に変える。
「はやっ」
「遅い」
ニューの懐に入り込み正拳突きを食らわせる。非常に心が痛い。
「この変態がぁ!!」
君には言われたくないよ、オメガ。
前に僕の部屋からパンツ盗んでいったよね?知らないとでも思ってた?
しかも1枚じゃないし、複数枚持っていたよな。
あの後交換に来たアルファに僕が『
返してとは言わないし、きっと色んな事に使っているのだろうからあげるけど今度からは一言言ってね。
本当にアルファは怖いんだ、だからせめて一言は言ってくれ。
突きを放った腕を掴み背負い投げの要領で列車から落とす。
「随分お転婆だ、ベッドの上でもお相手は遠慮したい」
あの状態のオメガの相手はしたくない。
残りはカイだけだが2人が脱落した事で倒すことよりも情報を持ち帰る事を優先し、その上で僕にダメージを与えるつもりのようだがそれは悪手だ。
それが通用するのは自分以下の相手か同等の存在だけで、強い相手には本気でやらないと生き延びることすらできないよ。
「来ないのかな?ではこちらから行こう!」
防御を固めたカイは動きが悪い、王都に来てからサボってたりする?
ちゃんと訓練しないと追い抜かれちゃうよ。
「変な仮面のくせに!!」
あ、傷ついた。
あーあ、傷ついたなー。
僕の美的センスがないのは分かってるけど、そんなにはっきり言われると傷つくな。
「誰が変な仮面だ!!」
「ゲホっ」
思いっ切り鳩尾に入って、態勢が崩れて列車から落ちた。
.....僕は悪くない。
仮面を馬鹿にしたカイが悪いんだ。
僕は悪くない。
....やっぱり終わったら一杯おごった方がいいかな?
次の刺客はデルタだ。
座席に座りながら窓の外を見ると、列車と並走しながらこっちを見ている。
目は狩りをする時の目になっているし、口の端からは涎も垂れている。
デルタの中ではジョン・スミスは獲物認定されているようだ。
「うがあ!!」
窓を破って入ってきたデルタは着地すると爪を振るって攻撃してきたが糸で止める。
デルタ相手なら糸使いとしての戦いができるな。
糸を操作し車両全体に蜘蛛の巣の様に糸を広げていく。
「うがぁぁぁ......うん?」
毛を逆立てて絶叫を上げようとしていたのに首を傾げている。
鼻をひくひくさせて匂いを嗅いでいる。
匂い消し使ったんだからだいじょう.....ユキメにも気づかれてたから効力はないな。
「ボス?」
「私はジョン・スミスだ」
「ボス?」
「私は君のボスじゃない」
「でもボスの匂いがするのです」
「.....なんで分かるの?」
「やっぱりボスだ!ボス~~~~~♡」
糸の隙間をくぐり抜けてきて、僕の所にたどり着くと抱きついてくる。
座席に座るとデルタも床にお座りする。
「む~~~」
「今度は何?」
唸ると掴みかかってきた。
「消えてるの!もっかいつけるの!」
「何が?」
「首に付けた跡が消えてるのです!もっかいつけるのです!!」
「落ち着いて、他の所は残してるから」
袖をめくって腕を出すと、デルタがつけた歯型や引っ搔き傷のついた肌が出てくる。
「あはぁ♡むふふふふふふふ♪」
腕を見ると顔色を良くして頬擦りして舐め始める。
消さなくて良かった。
消してたら今度は血が流れることになっていた。
治療せずに傷を残し続けるなんて始めてやったが無駄にならずによかった。
「えへへへへへ♪」
今度はボタンを外して服の中に潜り込んで腹筋を舐めだす、くすぐったい。
「デルタは何をしていたの?」
「デルタは狩りをしていたの!」
「服の中から出てきて欲しいな」
「えーーーーイヤなのです!」
「話す時はちゃんと目を合わせて話すって教わったでしょ?デルタはイイ子だからできるよね?」
「デルタはイイ子なのです!できるのです!」
服の中から出てきてキラキラした目で見てくる。
「よくできました」
「えへへへへへ♪」
頭を撫でると有り得ない速度で尻尾が揺れる。
「それでデルタは何を狩っていたの?」
「デルタは狩りをしていたの!」
「誰を狩っていたの?」
「ジョン・スミス!!.....あれぇ?」
不思議そうに首を傾げている。
「ボスがジョン・スミス?」
「そうだね」
「うーーデルタじゃジョン・スミスに勝てない、アルファ様に知らせなきゃ!」
「ストップ!!」
「きゃいん!」
しまった。
止めようとして尻尾を掴んでしまった。
「尻尾ダメ!」
「ごめん」
「尻尾ダメ!」
「ごめんて」
「む~~~~~」
「ごめんね」
「デルタは.....えーとえーと」
「寛大?」
「そう!デルタは寛大だから許すのです!」
機嫌直してくれてよかった。
「僕は今、秘密のシークレット任務をしているんだ」
「秘密のシークレット任務?」
「そうそう。誰にも知られてはいけない秘密でシークレットな任務なんだ」
デルタは横文字の表現に弱い。カッコイイと思ったものには食いつく。
「カッコイイ!デルタもするのです!!」
食いついた。
「残念、これは僕にしかできないんだ。それにデルタがジョン・スミスの事をアルファに報告してしまうと任務は失敗してしまう。なんでか分かる?」
「分かんない!」
「秘密でなくなってしまうからだ」
「でもデルタにはアルファ様の任務が.....」
「大丈夫、これから僕が捜査官デルタに新しい任務を与えよう」
「捜査官!?なんかカッコイイのです!」
チョロすぎて心配になってきた。
「シャドウガーデンのルールは覚えてる?」
「覚えてない!」
「僕が与えた任務は何よりも優先される、アルファの任務よりもね」
「アルファ様に怒られない?」
「怒られない」
「ホントに怒られない?」
「怒られない」
絶対に怒られる。
今のデルタはミツゴシの任務で動いてる、そこに昔決めたシャドウガーデンのルールを持ち出すのはお門違いだ。ここは1つミツゴシの未来の為にアルファに怒られて貰おう。
「では任務を与えよう!」
「はいなのです!」
「ここから真っ直ぐ行くと無法都市がある」
「無法都市」
「そこに黒い塔があってジャガーノートって悪いおっさんがいるからそれを狩っておいで」
「黒い塔、ジャガー....ジャガ」
「ジャガーノート」
「そう!ジャガーノート!」
「じゃ、いっておいで。任務が終わったらご褒美上げるから」
「何でもする!?」
「しない」
またか。またこうなるのか。
「何でもはしないよ」
「するの!」
「しない」
「するの!」
「しない」
「す~~~~~る~~~~~の~~~~~!」
床に寝転がって暴れ回る。
「デルタだって.....えーとえーと....そう!譲歩したのです!だからボスも言う事聞くのです!」
どこでそんな言葉覚えてきた!?
「出来る範囲でならね」
「何でも!」
「出来る範囲で」
「な・ん・で・も!」
「......考えとく」
「ヤッタのです!」
チョロいな。
僕は考えるって言っただけでやるとは言っていないからな。
「じゃあおさらい、デルタは何をするの?」
「むほーとしで黒いジャガジャガを狩るの!」
「よし、よくできました。そんなに急がなくていいからゆっくり狩っておいで」
「狩ってくるのです!!」
入ってきた窓から飛び出ていく。
なんか違う気もしたけどまぁいいか。
アルファには.....別に言わなくてもいいかな。
デルタが遊びに行くことは多いからそこまで心配しないでしょう。
任務の途中で抜け出したと思われてもおかしくはないから大丈夫。
僕の都合でシャドウを休業しているがシャドウガーデンにはそんな事は関係なく定時報告を受けている。
「偽札の噂は王都中に広がりつつあります」
「ふむ」
「王宮が動くのも時間の問題かと」
「そうか」
ここまでは順調に計画が進んでいる。
市民が偽札を見つければ、信用崩壊が始まるがまだその時ではない。
「市場にも悪影響が出ていますがこのままでは我々の手に余る事に...あのシャドウ様?」
「どうした?」
「メモを...」
「今後に活かす為には必要だからな」
僕は君達と違って脳みそまで超人ではないから、こうやってメモを取って勉強しておかないといつまでたっても成長できない。
「そうですか.....それと今日はもう1つ大事な....報告が」
「む」
空気が変わったな。
「ジョン・スミスの対策の為に我々はデルタを派遣しました」
「ふむ」
来たから知ってるよ。
今頃はそこら辺で肉でも...
「消息が途絶え....死亡したものと....思われます」
「え」
「え」
待て待て待て待て.....今何て言った?
脂肪?....死亡したって言ったのか?
まだ帰ってきてないの?
デルタならジャガーノートのおっさんなんて一発なのになんで帰ってきてないんだ?
道草か?それとも冬眠でもしてるのか?
「デルタは.....デルタは」
どうする?どう誤魔化す?こんな状況は想定していなかった。
「そう!少し遠い所に行ってしまったん....だ」
「そうですね....少し遠い所に行った....だけですね」
言えない、とても生きてますなんて言い出せる雰囲気じゃない。
「ジョン・スミスは手練れです、もしよろしければシャドウ様に....」
「すまないが、やることがある」
どうしよう。
これって失敗したら僕どうなるんだろう?
胃が痛い。
ベータが帰ったら胃薬飲もう。
「その...メモなんですが」
「ん?」
「機密文書は処分するか暗号化する規則が.....」
そういえばそんな設定もあったな。
「これを読めるか?」
「これは!....なんて複雑な暗号なんですか!」
面と向かって言えないのならどうするか?
手紙を書けばいいんだ!
これなら伝えたい事を会わなくても伝えられる。
手紙には僕の計画の全てを書いた、所々で言い訳みたいな文章になっているが数日もしないうちに解析できるだろう。
そのタイミングでこっちも信用崩壊を起こせばいい。
「これを解読できたのなら、我が叡智の一端を開示してやろう!」
あ、胃に穴空いた。
痛い。
僕の計画もいよいよ詰の段階に入った。
1番重要なタイミングは手紙を暗号で書いた事で調整できているし、計画の全貌も書いているからそれで察してくれるだろうと思っていたのだが
「どうして....どうしてよ.....どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!どうしてよ!どうして貴方がそこにいるのよ!シャドウ!」
ジョン・スミスを排除する為にアルファが直接動いた。
殺しに来ていたので応戦したら、長年の付き合いの所為か直ぐに正体を見抜かれた。
「今の僕はジョン・スミスだ」
「なに.....何を言って....デルタ!デルタはどうなったの!?」
やっぱりそれを聞いてくるか。
どう答えればいいんだ。
「.....遠いところに行った」
噓は言っていない。
実際、遠いところ(無法都市)に行っているから噓は言っていない。
「そんなんじゃ.....そんなんじゃ分からない!貴方が理解できる事を私には理解できない!」
僕は君が理解できる事を理解できない。
「貴方ができる事も私にはできない!」
僕は君ができる事ができない。
経営とか銀行の設立とか。
「それでも...それでも貴方を支えたい、理解したい、傍にいたいの....私に全てを与えてくれた貴方の隣にいたいの......だから教えて貴方は一体何をしようとしているの?何が目的なの?教えてくれたら必ず期待に応えるから!」
これは手紙を解読する前に来てしまったな。
どうしよう。
「私じゃダメなの?」
「昔言ったように何者にも代えがたい存在だ」
「ならどうしてそこにいるの!」
「これが最善の手段だからだ」
「意味が分からない!教えてよ!何が悪いの!何がいけないの!?」
「アルファは何も悪くない、悪いのはこんな方法しか思いつかなかった僕が悪いんだ」
悪いのは傷つける事を理解しながらこの手段を選んだ僕だ。
もっとより良い手段を考えられるようにしなかったからこうなっている。
「だから教えてよ!私だってもう昔みたいに貴方を追いかけているだけじゃない!きっと役に立てるから!」
「それはできない」
「なんでよ!」
「これは私が始めた事だ、だから私が終わらせないと行けない」
「もういい....分かったわ」
アルファの腕が力なく垂れる。
「連れて帰る。もうどこにも行かせない、もう1人で背負わせない。貴方1人に背負わせるぐらいなら閉じ込めて私達が貴方の代わりに全てを背負うから......だから、だから私の所に来てお願いよ。貴方に剣なんて向けたくない、血が流れる所なんて見たくない。お願いこっちに来て....そうしたら痛い思いをせずに済むから.....来てよ....斬りたくないの!こっちに来てよ!!」
「それはできない」
「だからなんで!」
「私にはやらなければならない事がある」
「分かった.....もういい.....力づくで連れて帰る!!」
アルファの体から魔力が放たれる。
糸を飛ばして拘束しようとするがすり抜けていく。
「霧化か」
確か暴走状態のエリザベートが使っていたな。
糸を張って結界代わりにしていたが意味ないな、僕の周りを覆う霧全てが刃なのだから。
体の至る所に細かい傷ができて血が流れる。
「痛いでしょ!?血が流れるのは嫌でしょ!?だから私の所に来て!私だってこれ以上貴方を傷つけたくないの!お願いよ!!」
「断る」
「っ!!ならもう優しくしない!」
霧化には利点の割に弱点が致命的だ。
利点は全方位から攻撃が可能な事、弱点は攻撃の際には実体化することだ。
霧だから防御の必要はないが攻撃する瞬間に実体化してしまうなんて致命的だ。
「悪くない判断をしているが相手が悪いな」
そして何より致命的なのは質量が軽すぎる事と広範囲に広がっていることだ。
つまり吹き飛ばせば何も出来なくなる。
「強くなったな」
「っ!!」
「でもおしまい」
魔力を操作し、腕を中心にして竜巻を発生させる。
吹き飛ばされない為には霧化を解くしかなくなる。
解いた瞬間に踏み込み発勁を打ち込み列車から落とす。
「目が覚めた時には全部終わらせておくから」
僕は皆を傷つけたんだ。
絶対に失敗は許されない。
「いやぁ.....いやぁ、行かないで........置いて行かないで......痛いの苦しいの...許して、助けて」
「私を1人にしないで」