よくここまでやれたと思うわ。
賛否が出る話だと思います。
信用崩壊が始まり王都では暴徒化した民衆があちこちで破壊行為を行っていた。
一部のまだ落ち着きのある市民も銀行の前に長蛇の列を作り紙幣の交換を待っている。
そして換金に訪れた人の対応に追われてミツゴシの本店も慌ただしくなっている。
そんなミツゴシの一室でアルファとガンマは肩を寄せて泣いていた。
「そんな....主様が...そんな」
ガンマはシャドウがジョン・スミスであった事実を受け入れられず嗚咽をこぼし肩を震わせて泣いている。
「酷い人...死なせてすらくれないなんて」
アルファの傍にはナイフが落ちており暖炉の火の光を反射しゆらゆらと輝いている。
帰還しシャドウに見捨てられた事実に耐えられなかったアルファは自害しようとしたができなかった。
ナイフを当てた瞬間、走馬灯の様に記憶を思い出した。
初めて出会った日に掴んだ手の感触、抱きしめられた時の温もり、与えられた愛情、家族と居場所が出来た時の喜びを思い出しもし自裁すれば今までの人生を否定してしまう、その事に気付きナイフを落としてしまった。
「捨てるのなら、ちゃんと捨てて欲しかった.....」
思い出も何もかも全て否定してくれていれば終わることができたのにと呟く。
コンコンと扉がノックされ扉が開くとニューが入ってくる。
「あの..これはどういう」
すすり泣くガンマの姿を見て戸惑いを隠せていない。
「彼がジョン・スミスだったのよ」
「彼?一体誰の事を....」
「シャドウよ」
ニューは固まってしまった。
ジョン・スミスと戦い敗北して帰還してから不思議に思っていた事がある。
それは死んでいない事だった。
圧倒的な力を持っている敵と戦ったのに生きている。
相手の戦い方もおかしかった、こちらが殺害を前提として動いているのに相手は戦闘不能を目的として動いていた。しかもできるだけ傷つけないようにだ。
同行してた2人の傷も深くなく一時的に行動不能になるだけで、直ぐに回復した。
相手には襲撃した者を生きて帰す理由があったという事。
ニューの中でパズルのピースがパチリと嵌った。
「シャドウ様がジョン・スミス?....だとしたらこれは....」
手元の報告書に目を落としそこに書かれている内容をもう一度みる。
シャドウがジョン・スミスだと分かった今、その内容にはいくつかおかしな点があった。
「アルファ様まだお話すべき事があります」
「もういいわ....彼に捨てられた私に価値なんてないのよ」
「シャドウ様はまだ我々を見放したわけではないかもしれません」
「どういう事?」
その言葉にアルファは顔を上げる。
「確信があるわけではありませんですが今上がった報告におかしな点があります」
「聞かせて」
「我々が調査していた月丹ですがやはり教団の関係者でした。教団の計画は連合を捨て駒としミツゴシを潰す計画だったようです」
「シャドウガーデンに関係なく潰しにきたのね」
「偽札を流し信用崩壊を意図的に起こす事で我々を潰すつもりだったようなのですが」
「そう....つもりだった?」
「はい。偽札の製造自体は行っていたようなのですが流通させる前に偽札が流れ始めたのです」
その言葉に泣いていたガンマも顔を上げる。
「偽札を流していないのに偽札が流れている?どういう意味よ」
「我々が突き止めた偽札の出処は教団の物ではなく.....」
「彼が作った偽札....そして今市場に流れている物も彼が作った物?」
「はい。王都の外れに不審な人の流れを確認したので調査したところ数名ですがチルドレンと手つかずの大量の偽札を確認しました。連合の偽札です」
「ア、アルファ様!?これはどういう.....」
そして見計らったかの様に扉が開かれ慌てた様子のベータが入って来る。
「アルファ様!イータに解読させたシャドウ様の暗号を見てください!私達はまだ見放されていません!!」
ベータから渡された手紙を皆が覗き込む。
『まず最初に謝っておくよ、ごめんね。
きっとガンマやベータは泣くと思うから謝っておくね。
最初から話すと長いから割愛するね。大商会連合の事を調査していた時に月丹の存在が気になって動いた所、月丹が教団の関係者である事が分かった。
そして偽札を流して僕の....皆の大事なミツゴシを潰そうとしている事が分かった。
そこで教団が動く前に偽札を用意して先手を打つことにしたんだ。協力してくれたのは女の人だけど怒らないでね。狐の獣人だけど誓って何もしてないから、ほんとだから。
話が逸れた、とにかく偽札を基に集めた金貨を使えばミツゴシはこの危機を乗り越えれるはずだから。
僕はこれが最善だと思ったし、これ以上の策を思いつかなかった。
君達に裏切りととれる行動を取った事は反省している。
恨んでくれていいし、殴るなり蹴るなり斬るなり刺すなりしてくれて....刺すのはやっぱり無しで。
刺す以外なら何をしても....尻もなしで。
とにかく恨みがあるのならぶつけてくれていい、それだけの事をした自覚はあるから。
最後にアルファへ、僕は君の事を捨てたりしないから。
何回も言っているのに信じてくれないのはちょっとショックだけど、僕が君達を捨てることなんないから。覚えておいてね。
追伸
集めた金貨は昔姉さんを助けにいった廃坑に隠してあるから。
協力者は僕がミツゴシの為に動いてる事を知らないから攻撃しないでね』
「まるで予言ね」
「私とベータが泣く事まで分かるなんて」
「.....獣人の所が気になりますが」
この状況においてもニューはいつも通りだった。
「最善の選択....酷い人ね、もう少し教えてくれてもよかったんじゃない?」
「アルファ様.....」
「分かってるわ、彼はミツゴシとシャドウガーデンの関係が露呈する事を恐れて動けない私達の代わりに動いた」
「信用創造のリスクを理解しているからこそ打てる手....流石はシャドウ様です」
「正体を隠したのも我々との関係を断つためだったのですね」
「恨んでくれて構わないなんて....そんな事できるわけないじゃないですか、ズルいです」
「本当にそうね」
涙を流しているがその表情は先程と違い明るくなっている。
「....でもデルタは?」
「大丈夫よ。怒ってないから入ってきなさい」
窓の方に向き呼びかけると窓がゆっくりと開き
「きゅーーーん」
ばつの悪い表情をしたデルタが窓から入ってくる。
「デルタ!?良かった!」
「本当にどこに行っていたのよ!」
「あぅ、苦しいのです...離すのです」
心配させた事を分かっているのかいつものような元気さもなく抱きつくベータとガンマを振りほどこうともしない。
「あぅ、アルファ様...デ、デルタはボスの秘密のシークレット任務で」
「いいのよ、彼に何か任されたのでしょう?」
「秘密だから言えないのです」
「分かっているわ。でも言葉は正しく使いなさい。それだと意味が重複しているわ」
「でもでもボスがそう言ったのです」
「彼がそんな事言うわけないじゃない」
「む~~~」
「はいはい」
デルタの頭を撫でると立ち上がる。
その表情は先程までの悲しみにくれていた顔からいつもの凛々しい表情に戻っている。
「彼が用意してくれた機会を無駄にする訳にはいかないわ」
「勿論です!」
「後は私達の仕事ですね!!」
シャドウガーデンは動き出す。
現在僕ことジョン・スミスは偽札の秘密を探る月丹の傭兵.....畜生共をストレス発散のついでに狩りまくっている。
「ヒャッハー!」
『ぎゃあああああ!!』
「ヒーーーーーーーーーィヤッホウ!」
叫ぶのはやっぱりいい、なんだかスッとする。
既に金庫と畜生共の拠点を往復する事5回、相変わらず金貨は金庫の中で光り輝いていた。
時間的にそろそろ手紙を解読しているはずなのにまだ回収に来ていない。
「ユキメの事も気になるし」
最後に本物の紙幣を交換しに行くと言っていたがユキメ本人が行く必要はない。
しかも行く前にサラッと超絶ヘビーな身の上話をしてきたのが更に気になる。
僕の周りに来る人なんか当然みたく重い話をするけど聞く側の気持ち考えた事ある?なんで誰も僕に心の準備をさせてくれないの?
少しは僕の胃を気遣って欲しい。
「何か思い出せそうなんだが」
ユキメの身の上話を聞いていた時に僕の黒歴史の何かを思い出しそうになったんだが思い出せなかった。思い出したくないようなものなのかそれともただ忘れているだけなのかは分からない。
「崩壊が始まった、全ては計画通り......本当に崩壊が始まってるんだけどいつ来るの?そろそろ来てくれないと取り返しつかないんだけど」
手紙にはちゃんと金庫の場所を書いてあるし、滅茶苦茶分かりやすいように牢屋を金庫室代わりにしているから一目で分かる。分からなかったらそいつの目は節穴さんだ。
「胃が痛い...もっと僕の胃に優しいイベントとか起きてくれないかな」
ブシン祭の前を含めると既に片手に収まらない回数で胃に穴が空いている。
普通の人なら胃に穴が空くなんて経験しない事だ。
もういっそのことイータに頼んで人造の胃に変えて貰うか?
....やめとこ。ついでに色々いじられそうだ。
「ふむ......ないな」
金庫室代わりにしていた牢屋まで来ると眩しい位に光り輝いていた金貨が全て消えている。
錠の部分も綺麗に切断されている。
この鮮やかな切り口はニュー辺りかな?
「ジョン様!」
「ジョン・スミス様!!」
階段から急ぎ足で誰かが降りてくる。
誰だっけ?
.....そうだ!ナツさんとカナさんだったと.....思う。
駄目だ、胃が痛すぎて頭が回らない。
「ユキメ様が姿を消しました!恐らく月丹に!」
月丹?そんなのもい.......た...な。
まさか金貨を持って行ったのはミツゴシではなく月丹なのか?
足がふらつき鉄格子にもたれかかって錆がついて服が汚れる。
失敗した?失敗したのか.....僕は?
あれだけやっておいて傷つけて.....その結果がこれだと?
「金貨がなくなってる!」
「まさか月丹が!....でも早すぎると思うけど.....」
傷つけて泣かせて何もできませんでした?.....ふざけるな!
「ひぃ」
「なんて力と魔力....本当に人間なの?」
勢い余って枠ごと鉄格子を外してしまった。
ついでに鉄格子を丸めておこう邪魔だし。
「奴はどこだ」
「え、あの」
「月丹はどこにいる」
「郊外の平原に.....いるかと」
それだけ分かれば充分だ。
月丹.....よくも僕の邪魔をしたな。
八つ当たりだが付き合って貰うぞ......死ぬまでな。
僕はオカルトを信じていないが、運命はあると確信した。
「お前がジョン・スミスか.....散々邪魔をしてくれたな」
月丹を見た瞬間思い出した。
そしてユキメを初めて見た時に感じた違和感と超絶ヘビーな身の上話を聞いた時に思い出しそうになった何かが繋がった。
ユキメの背中に残っている傷跡、そして月丹の両目を縦に切り裂く傷跡。よく覚えてる。
「久しぶりだな、君は私の事を覚えていないだろうが私は覚えている」
「俺はお前なんぞ知らん!!お前を殺して金貨を奪えば俺はラウンズに....」
「お前の目を奪ったのは私だ...これでも思い出せないか?」
「何を言って......っいやまさか、そんな筈はない!」
「あの日の事はよく覚えている。焼き尽くされた村、そこら中に死体が積み重なりむせかえるような血の匂いを今でも思い返せるようだ」
「そんな訳ない!.....お前がお前が....」
「ただ1人生き残った少女に止めを刺そうと刀を振り上げる男の事は良く覚えている」
「出鱈目を言うな!!お前があいつな訳がない!!そんな事あっていい訳がない!!!」
「ジョンはん...あんさんは...まさか」
スライムを操作し、あるものを作り出す。
それは僕の黒歴史そのもの。
「これを見れば私の事を思い出せるだろう?」
作り出したのは紙袋。
紙袋には穴が空いている、頭からかぶれば丁度目の辺りにくるように。
「お前はぁぁぁぁぁぁ!」
「ようやく思い出してくれたか」
「また俺から奪いに来たのか!!ジョン・スミス!!!」
「月丹...引導を渡してやる」
月丹の振り下ろした刀と僕の拳がぶつかり火花が散る。
「なっ!」
「呆けている場合か?」
「がぁ」
こいつも教団の関係者だから何かしらの改造をしているのだろう。
肋骨を折るつもりで殴ったのにヒビが入っただけだ。
「お前が!!お前さえいなければ!!俺はこんな風にならなかった!!」
「確かにお前が力に執着する原因の1つに私は関係しているのだろう」
「そうだ!!お前がいたから俺は力に溺れた!!」
「だがそれはお前がした選択であり、お前が背負う業だ。他者に押し付けるものでは....ない!!」
殴り飛ばすと何本かの木をへし折って地面に落ちる。
刀を杖代わりにしてよろよろと立ち上がる。
「またお前に奪われるぐらいなら.....命だって捨ててやる!!」
懐から取り出した大量の錠剤を飲み込み。
「うぅぅぅぅああああああああ!!」
月丹を中心に赤黒い魔力が荒れ狂う。
「これならお前を殺せる!!」
「そこまで堕ちるとは...救いようがないな」
「黙れ!!お前を殺す事以外、俺には必要ない!!」
僕の拳と月丹の拳がぶつかり魔力の衝撃波が雪を吹き飛ばす。
そして折れたのは
「ぐぁ」
「所詮は借り物の力だな」
月丹の腕が弾かれた瞬間に踏み込み丹田を打ち抜く。
後ろに逃げようとするが足を踏んで逃げられないようにする。
薬の効果で殴ったそばから回復するが永遠に治るわけではない、効果がなくなるまで殴り続ければいい。
「終わりだな」
薬の効果が切れた月丹は立っていられなくなり地面に倒れ、白い雪が血で赤く染まる。
「まだお前は言っていない事があるだろう」
「ぐうっ何も言う事などない!!」
顔に拳を振り下ろすと血が飛び散る。
「言え」
顔に向けてもう一度拳を振り下ろす。
「言うべき事を」
拳を振り下ろす。
「俺も...お前のように強ければ.....何か変わったのだろうか」
「知ったことではない」
「厳しいな....だがもう俺に守ることは.....できないしその資格もない.....だからお前に託す」
震える腕を上げ指を指す。
「ユキ.....頼む」
「分かった」
月丹が息を引き取ったのを確認し、胸の前で腕を組ませる。
「ジョン.....はん」
血を流しながら体を引き摺るように歩くユキメに近付き抱き止める。
背中の傷は深い。この際だから残っている傷も治しておこう。
「すまなかった」
「ジョンはんが謝るような事など何もありんせん」
「私は救うだけでその後に責任を持たなかった。君の身に起きた全ての事は私に責任がある」
命を救うという行為には責任が伴うのに、僕はそれを放棄してなかった事にした。
「恨みがあるのなら受け入れる」
「ジョンはんはまたわっちを助けてくれた、それだけで充分でありんす」
「そうか」
「できるのなら.....もうわっちを離さんといて」
あれ?
なんか背中から嫌な音がする。
なんで?
傷を治したとはいえ、血が流れていたから休ませる為ユキメを「やる事がある」と言って帰らせた。
月丹の遺体に付いている血を拭い綺麗にしてから埋葬する。
彼が力に執着した原因の1つは僕なんだからそれぐらいはするべきだろう。
「何にも出てこない」
月丹は金貨を盗んだ所でユキメと鉢合わせて戦闘になったのだから近くに埋めたと思ったのにどれだけ雪を掘っても何も出てこない。
ガン!とスコップの先に何かが当たった。
「ついにきた!!」
スコップを捨てて手で掘っていくと、金貨が入っているにしては小さい箱が出てきた。
「なんこれ?」
箱の中には布に包まれたビー玉サイズの宝石が入っていた。
「.....これだけ?」
箱を回したり叩いたりするけど何も起こらない。
本当にこれ以外何もないの?
『お前を殺して金貨を奪えば俺はラウンズに....』
....もしかして月丹、金貨盗んでない?
じゃあ誰が持っていたんだ!
もうわけがわからない。
「絶対怒ってる....アルファ絶対怒ってる」
今回ばかりは冗談じゃ済まない。
冗談抜きの命の危機.......どうしよう。
傷を治療され金貨の回収の為にアジトを訪れたユキメは呆然としていた。
おそらく鉄格子であった鉄の塊が転がっている事も驚きだがそこにある筈の金貨が綺麗さっぱり無くなっているのだ。
「貴方がユキメかしら?」
暗がりから金髪のエルフ、アルファが現れる。
「どちらさんでしょう?」
アルファを排除しようとするナツとカナを制し注意深くアルファを観察する。
(わっちでは到底敵いんせん)
長年の経験と獣人としての本能からその差を察する。
「私はアルファ、シャドウガーデンの者よ。その様子だと彼からは何も聞いていないのね」
「シャドウガーデン?」
「余り時間がないから手短に話すわ」
アルファがユキメに語ったのは月丹の変貌の理由。
そしてシャドウガーデンの目的について
「ディアボロス教団.....」
「それが月丹を唆した組織の正体。我々が戦うべき敵」
「ジョンはん...シャドウはんも」
「ええ。ついでに言うとミツゴシ商会はシャドウガーデンのフロント企業なの」
「っ!だからシャドウはんは」
「私達は最初から彼の掌の上で踊っていただけだった」
「ほんに恐ろしいお方やわ....アルファはんもでありんすか?」
きょとんとしたユキメに不貞腐れた様にアルファは返す。
「酷い人でしょう?何も言わないで出て行って、手紙だけよこすんだから」
「ふふっ。それは確かに酷いお人やわ」
「彼を裏切り者と罵るのもいいでしょう、最初からそのつもりで彼は貴方と組んだのだから。手紙にもそう書いてあったわ」
「そんなつもりはありんせん。わっちは二度も命を救われんした」
「...そう」
アルファは二度命を救われたと言った時にピクリと反応したが直ぐに冷静さを取り戻す。
「我々は貴方と協力したい、理由は2つある。1つはこのまま雪狐商会を経営して無法都市と連携して欲しい」
「ミツゴシ商会が表を雪狐商会が裏を....そういうことでありんすね。ではもう1つは?」
苦虫を嚙み潰したような表情になりイヤそうに話す。
「彼をどう思った?」
「どうとは?」
「数多の男を見てきたユキメとして率直な意見を聞かせて欲しい」
「.....娼婦の中にも稀に傾国なんて呼ばれる者がありんすがシャドウはんはそれと同じ類のお方でありんす」
数多の男を見てきたユキメからしてもシャドウは目の離せない、自然と目が向いてしまうような魔性の男だった。暗い夜に虫が光に吸い寄せられる様に近づきたくなってしまう。
「あんなお方は初めてでありんす」
「あなたの口からそれを聞けたのは良かったことなのかしら」
「これが2つ目の理由でありんすか」
「ええ。さっきあなたが言ったように彼は魔性の男なのよ。内部でも彼の為なら命が惜しくないと言う子が大勢いるの」
「それはまた....」
「更に頭が痛いのが少し目を離した隙に女を引っ掛けて帰ってくるの、あなたもその1人ね」
「わっちはそんな....」
「誤魔化さなくてもいいわよ、私と同じ目をしているから分かるわ」
ユキメは扇を開き恥ずかしそうに顔を隠す。
「私達がどれだけ周りを固めても、彼にその自覚がないからどんどん増えてるの。あなたのようにね」
「わっちのように」
「最近だとどこぞの王女様だったり、剣聖を誑かしてたわ」
「.....冗談だと思いたいでありんす」
「私も冗談だと思いたいわ、貴方と組みたいのは貴方の娼婦としての技術が欲しいからよ」
「わっちの娼婦としての力」
「私達は未だ彼を虜にする事ができていない、その為にはどんな男でも虜にする力が必要なの」
「わっちへの見返りも当然ありんすか?」
「....非常に、非常に不服だけど彼の傍に侍る権利を上げるわ」
「それでは商談成立でありんす」
「....これからよろしく」
「こちらこそよろしゅうたのんます」
アルファとユキメは固く握手を交わす。
話題に上がった本人の知らぬ所でまた包囲が狭まった。