あれから3年がたち、僕は13歳になった。
あの時助けた悪魔憑きの少女をアルファと名付けた。
僕は普段、平凡な少年を演じながら、
裏ではディアボロス教団に対抗する組織シャドウガーデンの
盟主シャドウとして過ごしている。
架空の悪の組織に対抗する組織なんてかなり変だが陰の実力者には
自分で作った秘密結社が必要だから特に気にしていない。
盟主なんて言っているが、僕が出来ることなんてほとんどない。
組織運営はアルファがしている。
僕はほとんど案山子だ。
「悪魔憑きを見つけてきたわ。治療をお願い。」
「ああ、任せろ。」
いや、あった。
アルファは偶に悪魔憑きを拾ってくる。
まだアルファは悪魔憑きの治療ができないので僕が治療する。
盗賊狩りに積極的な僕と悪魔憑きを探す彼女では、遭遇率が違うのだろう。
実際僕が見つけたのはアルファだけだ。
色々あって、アルファと2人で始めたシャドウガーデンは気付けば8人に増えた。
泣き虫のベータ、常軌を逸した運動音痴のガンマ、
理性をどこかに置いてきてしまったデルタ、どこか自信なさげなイプシロン、
距離感を感じるゼータ、頭がいいのにものぐさなイータ。
ちなみに、彼女たちの名前は僕が付けた。
名前はギリシャ文字から名付けている。ギリシャ文字はなんか
カッコイイしね。
そして、僕が盗賊狩りで貯めた金銭は彼女達に使っている。
何故か同年代の子達の父親代わりをしている。
本当にどうしてなんだろう?
最初は皆親しかった人から見捨てられたショックで、暗い雰囲気が続いていたので前世で学んだ知識を陰の叡智と称して皆に話した。
ベータには童話や物語を読み聞かせ、頭の良かったガンマには経済について、イプシロンには僕の得意だったピアノを、
イータには科学知識を教えた。
高校教育レベルでは限界があったが元気づけるには十分だった。
ちなみにデルタとゼータは話よりも撫でて欲しいと言われたので撫でた。
撫でるというよりはペットにするようなものになったが2人は喜んでくれた。
撫で終わると他の皆が2人をジトっとした目でみていた。
何で?
彼女たちには他にも僕が前世で学んだ剣術や護身術を教えた。
3人を除き皆スペックが高いので直ぐに覚えた。
3人には僕の自信をへし折られた。
イータはスペックはいいのにものぐさなせいで剣を握ろうとしないので柔術や護身術だけになってしまった。
真剣に教えているのにやる気がないのは結構来るものがあった。
ガンマとデルタは酷かった。
ガンマは僕の教えたことを理解しているが、とにかく運動神経が壊滅的なせいで剣を振るというより、振り回されている状態だ。
零距離で振ってもカスリすらしない。ここまで来ると奇跡だ。
デルタはスペックだけならアルファ並みだ、だが頭がよろしく無かった。
バカなのだ。とてつもないバカなのだ、それ以外の表現がないほどに。
ぼくは懇切丁寧に説明した。それこそ5歳児に話すレベルで説明した。
笑顔で説明を聞いてくれるが頭の周りに大量の?が浮かんでいるのが分かった。
仕方ないので2人には同じことを教えることになった。
「目一杯、力と魔力を込めて叩き斬れ。」
そしたらできた。バカと天才は紙一重らしい。
僕の苦労は何だったのだろう。
僕の自信がへし折られた瞬間だった、ポッキリと。
しばらく寝込んだ。
僕にとってどうでもいいことだが姉さんが15歳になった。
この世界では15歳になると貴族の集まる学園に通って、
貴族についてのあれこれを本格的に学ぶらしい。
姉さんは僕と違って優秀なので王都にある学園に通うらしい。
前世で言うところの高校とそこまで変わらない。
姉さんが行くのは国内外から将来有望な人材が集まる超有名校らしい。
僕には関係ないが。
王都に行くことが決まってからの姉さんはかなりしつこかった。
四六時中ついてきてストーカーみたいだったし、僕を自分のベッドまで引っ張っていって僕の胸に顔をうめて抱き枕にしてくるので
抜け出すのにかなり苦労した。
アルファたちの訓練にも遅れることがあったので、理由を説明すると凄く不満そうにしている。
決まってそういう時は当たりが強い。何でだろう。
姉さんの送別会が行われた。ハゲは泣いていた。
長期休みとかで帰省するんだから泣く必要ないだろう。
送別会の間姉さんはじっと僕を見つめてきていた。見ないでほしい。
送別会も終わって明日には王都に向け出発することになった。
しかし、朝起きると屋敷が慌ただしかった。
姉さんが誘拐されたらしい。意味わからん。
姉さんの部屋に行くと部屋はかなり荒らされていた。
窓は割られ、本は散乱し、家具は倒されている。
寝込みを襲われ抵抗出来ずに攫われたのだろう。
その証拠に戦闘があった形跡もなく、鞘に収まったままの姉さんの剣が床に落ちている。
相当慣れている相手だろう。
「あのクレアを攫うとは、相当の手練れに違いない!」
うん。だからそれは皆わかってるんだ。
というかなんでこんな時にダンディな雰囲気を出すんだ?
本気でバカなのか?
「で?」
オカンの冷たい声が響いた。僕はスッと部屋の入口まで後退した。
オトンはかなりうろたえている。
「いや...だから相手は手練れで....」
「だから?」
「......」
「....行け。」
「はい?」
「さっさと探しに行けってんだよ!このクソハゲがぁ!!」
「ぶへぇ」
オカンお得意の右ストレートがオトンの顔面に直撃し、
情けない声を出しながらオトンが吹っ飛んだ。
僕は静かに自分の部屋に戻った。
決してオカンが怖かったからではない。決して。
「ベータいる?」
部屋に戻った僕は独り言のように呟く。
「ここに」
窓から入ってきたのはスライムスーツ姿の
銀髪少女のエルフ。ベータだ。
「生きてる?」
「恐らくは」
「居場所は?」
「申し訳ありません。現在捜索中です。」
地図には古代文字とか何かが書かれている。
僕は古代文字読めないんだけど。
「犯人はディアボロス教団教団の関係者です。」
「教団か....」
この3年間僕らは盗賊を狩りまくった。
この世界に蔓延る悪には教団が少なからず関わっていると言い盗賊狩りに参加させた。
実際にはディアボロス教団は僕が盛りまくった話で架空の組織だが、
盗賊は結局どこまでいっても盗賊だ。
悪であることには変わりないし、アルファ達に経験を積ませる為にも
彼らには尊い犠牲になってもらった。
今回の誘拐犯も身代金目的の誘拐だろう。
姉さんが狙われたのは、跡取りを誘拐すれば得られる身代金が高いと判断したか、
もしくは人買いに売りとばすつもりなのか。
あんな性格だけど顔はいいからな。
「目ぼしき場所がいくつかありますが、正確には.....」
「心当たりがあるからそこに行こう」
「そんな場所が....」
知らなくても無理はない。
散歩してた時に、偶々見つけた場所だし。
家の文献にも載ってない遺跡でなかなか頑丈そうな牢屋もあった。
どこに連れていくにしても中継地点を挟む必要がある。
僕ならそこに連れていく。
「七陰を全員集めろ」
「かしこまりました」
窓からベータが出ていく。せめて閉めて欲しい。
シドの言っていた地下遺跡、そこにクレアは拘束されていた。
両手を鎖で繋がれ魔力を封じられている。
男が足音を立てながらクレアに近づく。
「クレア・カゲノーだな」
「....確かオルバ子爵だったわね、見覚えがあるわ。」
「随分と余裕だな。」
オルバはそういうと蹴りを放つ。
クレアはそれを首を少しずらして避ける。
「魔力を封じられた状態で避けるとはな。
力に振り回されているわけではないらしいな。」
「量よりも使い方だって教わったわ。」
「才能のある父親だな。」
「あのハゲな訳ないじゃない。弟よ。」
「弟?」
「ムカつく奴よ。」
言葉とは裏腹にどこか自慢げだった。
「出来るくせにやろうとしない。本当は才能を持ってるくせに表に出そうとしない。」
「かなり過大な評価だ。報告では座学以外には特に興味を持たないと聞いている。」
「随分物知りね.....少し前まで私もそう思ってたわ。」
懐かしむように語りだした。
「バカだった私は、弟の根性を叩き直してやろうと思って
弟と一緒に盗賊退治にいったわ。」
「愚かだな。この一帯は地域的に盗賊が潜伏しやすい。
子供2人などいい獲物だ。」
「その通りよ。私は弟を危険な目にあわせただけ。
私は下っ端に足蹴にされて負けたわ。」
もう同じことはしないわ、と自嘲気味に言う。
「よく生きていていたな。誰に助けてもらった?」
「弟がやったのよ。」
「......何を言っている?」
その光景は今も脳裏に焼き付いている。
斬られたはずの弟が、何事もなかったように立ち上がり、盗賊に襲い掛かった。
「ヒャッハー!盗賊は皆殺しだ!!」
そして、蹂躙が始まった。
辺り一面に舞う血しぶき、地面に転がる盗賊の首、断末魔の叫び。
それを起こしたのがシドであることを理解し意識を手放した。
目を覚ましたときにはいつものシドだった。
頭が悪い訳でも、運動が苦手な訳でもない。
座学には積極的に取り組むのにそれ以外には興味を示さず
基本最低限のことしかしない。
自堕落で平凡な少年。それが周りが与えた評価だ。
あの光景が幻覚ではないかと思えるほどかけ離れていた。
「まあ、それはどうでもいい。
クレア・カゲノー。お前には悪魔憑きの疑いが掛かっている。
心当たりはあるか?」
「あんたが気にするべきは身代金じゃない?」
「黙って答えろ。手を挙げるようなことはしたくない。」
「もう終わったことよ。」
「過去形だと?」
「1年くらい前よ。」
シドが盗賊を蹂躙した日から月日が流れ、あの光景は夢なのだと思い始めた頃、
魔力の制御が上手くいかず使うと痛みが走り、黒い痣が広がり始めた、悪魔憑きの症状が発生した。
クレアは絶望した。
悪魔憑きの末路を知らないものはいない。
教会に悪魔として捕まり浄化と言い処刑される。
「夢....これは夢......悪い夢なのよ。」
自分に言い聞かせた、きっと良くなる筈だと。
だが日に日に悪化していった。
体を動かせば痛みが走り、魔力を練ろうとすれば、激痛が走りる。
痣も少しづつ広がっていく、もう無理だと思った。
そんなある日、
「ストレッチに付き合ってよ。」
ストレッチとは運動の前後に筋を伸ばすことで柔軟性を高め、
体調を整えるマッサージの一種。シドはそう説明しクレアにストレッチを施した。
ストレッチを終えると、広がっていた痣は消え、体に走っていた痛みも消えた。
やはりシドは凄い。力を隠しているだけで本当は凄いのだと。
クレアは自慢げに話した。
「悪魔憑きの治療が出来る少年か.....」
オルバは考え込む。
なにせ、悪魔憑きの治療など前例のない話だ。
だが不安要素は排除しておくに越したことはない。
「.....始末しておくか」
瞬間、クレアを繋いでいた鎖が千切れた。
そして、クレアの拳がオルバの顔に直撃した。
「あの子に手を出したら許さない。絶対に殺してやる!!」
あり得ないことに驚愕したが、クレアの血に濡れた両腕と弾け飛んだ様な
手錠の残骸を見て何をしたのか察した。
「これほどとは....」
魔封じに感知されないほど微細にかつ強固に練り一瞬で放出したのだ。
「随分感情的だな、そんなに大事か?」
「当たり前よ!」
「なら大人しくていろ。大人しくしないと言うのなら
その先は言うまでもない。」
クレアは歯を嚙み締めるしかなかった。
先の魔力放出により両腕が使い物にならなくなり、出血もバカにならず
全身の震えが止まらない、いつ意識がとんでもおかしくはなかった。
オルバはそれを察していたが下手に動くことができなかった。
先程見せられた実力も原因だった。
背中を見せれば確実に食らいつかれる。
だが殺すのは論外、数少ない人間の悪魔憑き。
拘束しようにも下手に動けない。
結果硬直状態が生じる。
コツコツ
沈黙を破る様に足音が響いた。
「誰だお..ぎゃあ!」
「何が...!」
オルバの部下2人が突如として殺された。
これにはクレアのことを忘れて振り向いた。
「やっぱりここか」
「誰だ!?」
音を立てて現れたのは黒のコートに身を包み、黒い剣を持った人物。
性別は恐らく男、小柄だがその雰囲気は異常だった。
一切の隙がなく、手にした剣、身に纏うコートは
凝縮された濃い魔力を帯びている。
深いフードからは鋭い眼光がオルバを睨んでいる。
「お前は誰だ!答えろ!」
「俺はシャドウ。」
「シャドウ....」
オルバがシャドウに恐怖を感じている中、クレアは安堵していた。
いつも一緒にいる誰かが迎えに来てくれたような感覚。
安堵したクレアの身体から力が抜ける。
倒れる寸前、シャドウがクレアを優しく受け止める。
「っ!いつの間に!」
「.....誰が喋っていいと言った?」
「っ!」
放たれた殺意に身動き一つ出来なかった。
震えが止まらず冷や汗も止まらない。そして、
(何なんだ...こいつは一体何なんだ?!)
理解不能の恐怖が襲った、余りにも異質だった。
小柄な体躯の内側に途轍もなく巨大な何かを
隠しているような今までに感じたことのない感情。
「....シド」
「俺はシャドウ。起きた時には全て終わっている
だから安心して眠るといい。」
青紫色の光が広がりクレアの傷が跡すら残さず綺麗に癒えていく。
安心したクレアは寝息を立てる。
無事を確認しシャドウが立ち上がりオルバの方を振り向く。
「お前もう死んでいいよ。」
体の震えが止まり冷や汗も止まった。
恐怖を克服したわけではない、ただ許容できる恐怖を
超えてしまい感じることが出来なくなったのだ。
オルバは悟った自分は一線を超えたのだと。
そして理解した、目の前にいるのは人間であって人間ではないと。
『死』
全ての生命に訪れる絶対的な結果が人間の形をして目の前にいるのだと。自分はそれに触れたのだと。理解した瞬間、オルバを青紫の光が包み込みんだ。
彼にとって幸福だったのは痛みも感じることなく終わったことだろう。
文字通り消えたのだ、骨、血肉、身に着けていた服、髪の毛に至るまで彼の存在を証明することのできる全てが消滅したのだった。
5000文字はなかなかに辛かった