前の話のタイトルをあんな感じにしたけどやっぱりノリと勢いは大事だよね
陰の実力者流 責任の取り方
王都にある時計塔のてっぺんで僕は座り込んでいる。
結果だけ見れば僕の作戦は成功した。
僕が用意していた金貨を使ってミツゴシは信用崩壊を乗り越え、王国内での立場を確固たるものにした。加えて商売敵であった大商会連合の崩壊でミツゴシはその販路も手にする事になる。
ミツゴシの成長は国ですら危険視しているが今ミツゴシが王国から撤退すれば経済破綻すると言われる程だ。
勿論、民間に被害がなかったという訳でもない。
王国に店を構えていた商会の大半が倒れて、一時は国の機能が麻痺するかと思われたが、連合の中でもガーターの圧力に負けて仕方なく連合に入っていた善良な商会はミツゴシの資本を受ける事で営業を再開。
連合からの圧力により自由に出来なかった商売が出来るようになった事で以前よりも活気づいているとも言われている。
倒れた商会はというと、官僚と癒着してちょろまかしていたり、裏組織の後援をしていたり、違法行為をしていたり、教団が王国の経済に関与する為の窓口となっていた商会が倒れた。
ミツゴシからすれば商売敵が消えただけでなく、教団の操り人形が消えた事でより攻撃を強めることが可能になった。
当然いい事ばかりという訳でもなかった。
信用崩壊を乗り切ったミツゴシを危険視するものもいれば、連合という制御が失われた事で商会同士の争いの発生に怯える人がいたりと最良の結果と言えない結果になってしまった。
僕はただスーパーエリートエージェント!を楽しみたかっただけなのにこんな事になるなんて思いもしなかった。
だがそれとは別に問題がある。
「絶対怒ってる」
僕は最初こそ楽しむためだったとはいえシャドウではなくジョン・スミスとして動き、偽札を作ってばら撒き偽札の動きを探るシャドウガーデンを妨害して裏切りと取れる行動を取った。
裏切られた皆からすれば何も知らされず教えて貰えない中、顔を見せず手紙で「実は裏切っていませんでした、ごめんね」とか知らされたら怒るに決まってる。
今までなら放置して感情が落ち着くまで待っていたが姉さんの前例があるから放置は無し、アルファがブラックホールに目覚めているので早いうちに対処しないといけない。
既に切り札である『何でもいう事聞く券』を使った後だが僕には日本人としてのとっておきがある。何せ日本には古来から伝わる謝罪方法があるからだ。前世で日本人に生まれた事に感謝している。
ミツゴシの屋上にある玉座のある館で正座して待機する、呼びに行って貰ったのでもうすぐ来るはずだ。待っていると扉が開いて今回迷惑をかけたアルファ、ガンマ、ベータ、カイ、オメガ、ニューが入ってきて僕の格好に驚いている。
「どうしたの、その格好?」
驚くのは当然だ。僕が白装束を着ているからだと思う。
これは僕がする謝罪に相応しい服装だから着ている、普段から着ている訳じゃない。
これから日本式の謝罪を始める。
日本式謝罪方法その1 ジャパニーズDOGEZA
「この度は誠に申し訳ありませんでした」
僕は土下座した、とても綺麗な土下座だと思う。
もしここに土下座評論家がいれば5段階評価の5を貰える様な土下座だと自負している。
組織のトップが部下に土下座するなんて組織内のバランスが崩れる恐れがあるから推奨はされない事だ。だがここにいるのはある程度僕の事を理解してくれている人達なので問題はないと思っている。
「結果を求めるばかりで皆様の事を蔑ろにしてしまった事深く反省しております」
「私達を守る為の選択だったのでしょ?」
「そうです。主様は優しさ故に私達を遠ざけたのですよね?」
「私達を攻撃するのだってお辛かったはずです」
皆の優しさが辛い。
優しい言葉をかけてくれるけど皆の表情は辛そうだ。
これはその2もする必要がありそうだ。
「商会を崩壊寸前まで追い込み、人的、金銭的にも追い詰めた事は許されない事だと理解しています」
「そんな...気にしないで。貴方のお陰でミツゴシは今回の事を乗り越える事ができた、それだけじゃない今後ミツゴシに手を出そうとする勢力も現れないわ。全部貴方のお陰よ、だから頭を上げて」
こうやって言ってくれるが僕は人としてしてはいけない事をしたのだ、許されるべきではない。
謝罪の為に帯を解いて、白装束の前を晒し帯に差していた物を手に取る。
「僕なりに謝罪の方法を考えましたがこの度の騒動は謝罪だけで済むことではありません、ですので行動で誠意を示す事にしました」
用意していたのは脇差、侍が持つ小型の刀。
日本式謝罪方法その2 ジャパニーズHARAKIRI
脇差を鞘から抜き逆手に持ち腹に刃先を当てる。
「この度の騒動、腹を切ってお詫びいたします」
『え』
両手で握って力を込める。
「すいませ....」
『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
「うがぁ!」
押し倒された。
うん?....なんか冷たいしヌルヌルしている様な
『あ』
ちょっと刺さってるし血も出てる。
「血が!血がぁぁぁぁぁぁ!!」
「速く治療を!!」
「シャドウ様が死んじゃう!!」
「死なないでください!!」
「速く抜かないと!!」
「今抜きます!!!」
抜くのはまずい、刺さってる所がよろしくない。
太い血管ではなく細い血管が集中している所に刺さっている。
同じ量の水でも太いパイプと細いパイプでは出る勢いは細いパイプの方が強い。
そんな状況で抜くとどうなるか?
ブシィッ!
少量ではあるものの噴水みたいに血が噴き出る。
噴き出た血がニューの顔とスカートにかかって赤くなる。
僕の白装束も赤く染まる。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
耳元は止めてくれ。鼓膜が破れそうだ。
「速く治療を!!」」
「シャドウ様が.....シャドウ様が」
「包帯を持って来て!急ぎなさい!!」
細い血管だからそんなに血も出ないし直ぐ止まるからそんなに焦らなくても
「私のせいで...シャドウ様が...そんな...いや、いやぁぁあぁぁぁ」
なんかごめん。
再び正座する事になった、だがさっきと違い周りを囲まれて冷たい視線で見下ろされている。
僕が150万ゼニー出して買った脇差は粉々に破壊され残骸が散らばっている。
胃が痛い、胃薬が欲しい。
「聞かせて欲しいのだけれど」
「何でしょうか」
「腹を切るのが謝罪のつもりだったの?」
「そ、そうです。それ以外思いつきませんでした」
「ふーーーん」
「すいませんでした」
そしてまた土下座。さっきよりも綺麗な土下座だと思う。
思いっ切り当たって鈍い音がした。
「前から思ってたのだけど」
「何でしょうか」
「あなたって普段は真面目なのに、時々信じられないほど常識から外れるわよね」
「おっしゃる通りです」
落ち着いて考えてみると今回も勢いに任せて行動していた、腹切ってたら皆のトラウマが増えるだけじゃないか。
「だって皆怒ってると思ったから」
「怒ってないわよ」
「本当に?」
「本当よ」
「本当に?」
ベータ達に顔を向けるとゴゴゴゴゴと音を立てて空気が揺れている。
「怒っていません、腹を切ろうとした事以外は」
「私も怒っていませんよ、腹を切ろうとした事以外は」
「右に同じです」
「同じく」
「....」
ニューだけは黙って何も言ってくれない。
「ニュー?」
「はい、何でしょうか?」
「怒ってる?」
「いえいえ、これっっっっっっっっっぽっちも怒ってませんよ」
「ごめんなさい」
滅茶苦茶怒ってる。
顔に血がついたままだから余計に怖い。
「....やっぱりちょっと怒ってるわ」
アルファがボソッと呟いた。
やっぱり怒ってるじゃん。このまま蟠りが残るのも嫌だから許してくれないかな。
「許してくれない?」
「許して欲しいの?」
「うん。許して欲しい」
「......ちょっと待ってて。何をさせるか考えるから」
何でもとは言わないが受け入れるよ。
でもお願いがある。尻だけは勘弁して欲しい。
僕はガンマの様にそっちの資質は持ってないから。
「決めたわ」
「はい」
せめて尻だけはやらないでくれ。
「心して聞きなさい」
「はい」
「今週末に新しく『ミツゴシ温泉ランド』がオープンするの」
「うん」
「そこに連れていってくれたら許してあげるわ」
「....それだけ?」
「それだけ」
連れていくだけでいいんなら途中で抜け出すのも別に問題なさそうだな。
抜け出さなかったら胃に穴が空きそうだし。
「ちなみに途中で抜けるのはダメよ」
「ハイ」
何で分かるんだ。
悪魔憑きから回復するとエスパーを取得するのか?
だから姉さんもエスパーを持っているのか。
搾られるのと金銭で解決できるのを比べると金銭の方が遥かにいい。
「分かった!チケット用意してくるね」
玉座の間を飛び出して1階に向かう。流石に白装束ではなくいつもの服に着替えた。
1階には先行チケット売り場があったのでそこで購入する事にした。
金額もそこそこ高い、こないだの無法都市貯金が無くなるが背に腹は代えられない。
あれ、そういえば何枚用意すればいいんだろう?
.....よし!決めた。
「すいません。このチケットなんですけど...」
そしてチケットを購入した。無法都市貯金が無くなった。
しかしこれで解決できるならこんな出費は痛くも痒くも....やっぱり痛い。
シドが出ていった玉座の間ではアルファが他の5人からジト目で見られていた。
「何よ、言いたいことがあるのなら言いなさいよ」
今回ばかりは少し仕返ししてやろうと思ったのだ。
「いいじゃない、いっつもイジワルなんだから少し位仕返ししたって」
いつも受けているイジワルの仕返しもしてやろうと思っていたのだ。
ベッドの上だけではない、ここ最近の事件でも何も知らされずに解決されていて不満がたまっていたのだ。
そんな年相応の反応をしているアルファを見てほっこりしていると
「買ってきたよ!」
キラキラとした笑顔のシドが帰ってきた。
余りにも眩い笑顔に目が焼かれそうになっていると
「11枚!」
....うん?
顔を見合わせて今のを聞き間違いか確認する。
「間違えてないかしら?私達は7人よ」
あくまでも温泉ランドに行くのは七陰だけと控えめに主張するアルファ。
仲間から外されたケルベロスはいつもの上司からのパワハラに頬を引くつかせる。
「間違えてないよ?アルファでしょ、ベータでしょ....」
指を折りながら数えている普段見れない子供っぽい姿に、身悶えそうになるのを歯を食いしばって耐えている。
普段のシャドウとは違う15歳の年相応の姿は彼女達の心に刺さった。
「ふぐぅ」
特にダークエルフの心に深く突き刺さった。
「それにカイに、オメガに、ニューに、あとラムダ。11人、間違ってないでしょ」
七陰3人の鋭い視線が3人に突き刺さる、3人は直ぐに目を逸らした。
そこにあるのは醜い女の嫉妬だ。
「ラムダは色々と大変だって聞いてるから休んで欲しいし、それに3人には何かと世話になってるからお返ししたいと思ったんだけど」
何かと世話になってる?
そんな事何にも聞いてないんだけどと言うのが視線から伝わってきて3人の胃に正体不明の痛みが走った。
流れる汗が落ちて絨毯に染みができる。
この3人報告している以上にシャドウをストーキングしている。
そして七陰3人はケルベロスが虚偽の報告をしている事に気付いた。
今にも襲い掛かりそうになっているが
「あ、ごめん。駄目だった?」
しょんぼりしているシドを見て胸を痛める。
(か、可愛い)
それと同時に可愛いと思ってしまったのだ。さっきまでの自決騒動への怒りなど遠くに吹き飛ぶ程に。
「久しぶりに皆と一緒にいれると思ってたけど、ごめん先走って....」
(そんな事ないですわ!)
(違うんです!!これはそういうんじゃないんです!!)
(シャドウ様があんなに肩を落とすなんて、私はなんてことを)
(胸が痛い....)
(ああああああ!!可愛いすぎるぅぅぅぅぅ!!)
約1名おかしな反応をしているが、皆がシドのしょぼくれた姿に胸を痛めた。
そしてアルファはというと唇を嚙んで気絶するのを必死に耐えていた。
「......そんな、訳ない、でしょ。皆で一緒に、行きましょう」
本当なら邪魔者達を排除したいが受け入れた。
「本当に?!」
先程の嫉妬と自決騒動に対する怒りはどこへやら眩い笑顔にまるで浄化されるような感覚を感じて立つのもやっとになっている。
「週末が楽しみだね!」
その余りにも眩い笑顔に今までの嫉妬が浄化され、嫉妬していた自分を恥じ
(天使か!?)
全てを浄化するような笑顔は彼女達の頭の中をぐちゃぐちゃにかき回した。
「悔いはない....」
そしてダークエルフが1人昇天した。
あくまでこれはシドに堕ちてしまった彼女達でしか感じることしかできない事だが。
ミツゴシ温泉ランドにシャドウガーデン御一行が訪れる事が決まった。
王都 ミツゴシ高級ホテルVIPルーム
「ひぃ!」
バタン!と勢い良く扉が開かれた事に驚きメアリーは持っていたカップを落としそうになるがギリギリ落とさずに済んだ。
「エリザベート様、もっと静かに開けてください。びっくりして落とす所でした」
「そんな事どうでもいいじゃない」
「.....どうしてこうなったんでしょう」
シドと出会ってからのエリザベートはフットワークが軽くなり、性格も女王の時は控え目で落ち着いてたのが少しずつガサツになり始めた。
気付いたらいなくなっているのは相変わらずだが行動範囲が広くなり、メアリーに見つからないように行動するようになった。
朝に弱いのは相変わらずである。
「それより水着を買いにいくわよ」
「水着?....本気ですか!?絶対に私は着ませんよ!」
メアリーはどこぞのサキュバスと違い想いを寄せる相手でも婚前前に肌を晒すのは破廉恥だと考える貞淑な様に見えるむっつりである。
他には自分の体に自信がないのと単に肌を晒すのが恥ずかしいだけだったりする。
「あなたそんな事言ってたらシド様に抱かれる時どうするつもりなの?」
「それとこれとは関係ないですよね!?」
「関係あるわよ」
「どこがですか!?」
エリザベートは深い溜息を着くとメアリーの腕を引っ張って連れ出そうとする。
「ほら速く行くわよ」
「だから何で急に水着がいるんですか!?」
「必要になるからよ」
「だから何でですか!?」
「勘よ」
「か、勘....」
メアリーは抵抗する事を諦めた。
エリザベートの勘が鋭い事を知っているからだ。
実際に何の情報もない中、勘と執念でシドを見つけ出したのだから。
そしてやると決めたエリザベートを止める事は不可能な事も理解している、だから抵抗する事を諦めたのだ。
(きっとシド君絡みですね)
そしてそんな主の影響を受けたのかメアリーも勘が鋭くなり始めた。
「週末が楽しみね♪」
エリザベートの手には『ミツゴシ温泉ランド入場券』と書かれた2枚の紙が握られている。
無法都市 白の塔
「はっ!!」
自室にて雪狐商会の事務処理を終えて茶を飲み一息付いていたユキメの体に電撃が走った様な衝撃が駆け抜けた。
尻尾は何かを訴えるかの様にゆらゆらと揺らめいている。
獣の持つ第六感が何かを感じ取ったのだ。
「ナツ、入りなんし」
ユキメが呼びかけると襖が開き外で控えていたナツが部屋に入り頭を下げる。
「お呼びでしょうか」
「水着を用意しなんし」
「はい、かしこまり.....まし......た......水着?」
「ええ」
不思議そうに首を傾げるナツとは違い平然としたまま言い切ったユキメ姿は異様に映る。
そしてユキメが平然としているのでナツは更に混乱する。
「え、えーと、み、水着ですか?」
「ええ、わっちに合うものを用意しなんし」
「はいぃぃぃぃぃ!かしこまりました!!」
走って出ていくナツを見送るとユキメは窓の外に視線を向ける。
「ようやく仮面の下が見れそうでありんす」
ユキメはシャドウの顔を知らない。
直接見たカナからは感覚的な部分しか聞いておらず、顔合わせた時にもシャドウはフードで顔を隠していた。ジョン・スミスであった時も仮面を付けて顔を隠し声も変えていた。
ユキメはいまだシャドウの本性を知らないのだ。
そしてここでユキメはとんでもない勘違いをしていた。
(年はわっちと同じか少し上でありんしょうか?)
その立ち振る舞いや強さからシャドウの実年齢を自身と同じか少し上だと思っていた。
ユキメが相手にしてきた男はみな同年代か少し上の男ばかり。
男に対する免疫があっても
この勘違いがユキメの情緒をぐちゃぐちゃに破壊する事になるなど誰も思わないだろう。