陰の実力者になりたくて!addition   作:読者0

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やっとヤンデレらしさが出てきた


ブラックホール、それは病みの力

皆の分のチケット代で僕の手持ちは空になったからこれで同行しなくていいと思っていたが

 

「あなたはVIPから入れるから気にしないでいいわよ」

 

と言われた。

それならアルファ達もVIPから入れるからチケットなんていらないんじゃないかと言ったら

 

「あなたに貰ったチケットで行くことに意味があるの。それとも何かしら?他の事が良かったのかしら?もしかしてこの状況で他の女の所に行こうとか考えてないわよね?」

 

ブラックホール状態で言われたから行きますとしか言えなかった。

ちくしょう。

 

 

週末約束通りに温泉ランドに来た。

温泉ランドは予想以上に大きかった。やっぱり頭の出来が違うとここまでの差ができるようだ。

ここまで差があると僕がただの筋肉バカだと知られないようにしないと。

アルファ達は先に来ていて専用エリアで待っているとの事なのではやく着替えよう。

アルファには既にミツゴシ製の高級水着を用意して貰っているのでこれ以上の出費はない!

ミツゴシ従業員専用の更衣室に入って紙袋を開けて水着を取り出す。

.....よし!確か水着の販売があったから買いに行こう。

高かったけど水着は買えた、半ズボン型と日除けのパーカーを購入して更衣室に戻った。

 

「これも仕返しなのか」

 

アルファ達の用意した水着は酷かった。

ブーメランタイプのぴっちりとした水着と半ズボン型の水着が入ってはいた。

ブーメランタイプはどう見ても僕の聖剣がはみ出るようなサイズだったし、ズボン型の方はポケットではなく股関の部分と尻の間の部分にチャックが付いていたのでどういう用途で付けられたものか察してしまい血の気が引いた。

悪意しか感じない。

 

着替えてプールに向かうと既に皆着替えていて揃っていた。

 

「ぐぁっ」

「おい!しっかりしろ!」

 

胸を押さえてふらついているカイをオメガが支えている。

水着に着替えただけで負傷者が出た。

こうやって見てみるとモブの僕とは程遠い美人だな。

水着姿でいつもより美人に見える。

ベータとイプシロンが天然と人工の争いを繰り広げているけどいつもの事だ。

3名程個性的すぎる気がする。ラムダはレオタードだし、イータはバニーだ。どういう理由でそれを選んだのか聞いてみたい。

ニューは...うん。

 

「ねぇニュー」

「は、はい」

「これ着ててね」

 

着ていたパーカーを脱いでニューに着せる。

 

「ちょっと刺激が強すぎるから」

 

ニューの水着は紐だ。

黒い紐の様な過激な水着で見ているとバーサーカーになりそうなのでパーカーを着せて刺激を減らす。

イータとシェリーに中途半端に性欲を削られたから見ていて辛い。

 

「ありぎゃとうごじゃいましゅ!」

 

渡したパーカーの袖やらフードの匂いを嗅いでいる。

 

「これが、これが『彼シャツ』!!」

 

ちょっと違うと思うよ。もう少し周りが見えるようになった方がいいと思うな。

君の同僚2人と上司6人が凄い顔して見てるからね。

 

「ムキムキなのです!カッコイイのです!」

「落ち着け、落ち着くんだ。ここで気絶したらここからの幸せがなくなってしまう!」

 

ラムダとデルタはニューの事なんか頭にないらしい。

ラムダはやっぱり無理しすぎてるみたいだな。

今後は適度に休みを取ってもらおう。

 

「それじゃ、行こうか!」

 

特に意識せずに背中を向けてしまった。

 

「ちょっと大丈夫なの!」

 

呼びかけられて振り向くと悲痛そうなアルファ達がいる。何で?

 

「ごめんなさい、あなたに背負わせるばかりで役に立たなくて」

「急にどうしたの?」

「だって...背中が」

 

.....あ。忘れてた、背中にはデルタに付けられた引っ搔き傷が残ったままだった。

皆僕が戦いで付いた傷だと思ってる、どうする?

言うしかないのか?この間デルタとヤってる最中に付けられたって言うのか?

言えるわけない。よし、誤魔化そう!

 

「えーっとね、これは....」

「ボスーーーー!」

 

言い訳しようとしているとデルタが背中にしがみついて来た。

 

「残してくれてたのです!嬉しいのです!!」

 

空気が凍りついたのを感じた。

 

「シド」

 

背筋に寒気が走った。

冷や汗が止まらないし、震えも止まらない。

 

「説明を求めるわ」

「せ、説明ですか」

 

言うのか、言わないといけないのか。

 

「これはねその....あ、そう。名誉の負傷ってやつ.....」

「デルタが付けたのです!!」

 

はい、オワタ。

 

「匂い付けてもすぐ消えるの嫌なのです。だから消えないように噛み嚙みしたり引っ搔いたりしていーーーっぱい付けたのです!ボス残してくれたのです!嬉しいのです♡」

 

背中に付いた傷に頬擦りしたり、舐めたりしている。

暖房で暖められた筈の室内なのに吹雪が吹いているようだ。

 

「は?」

 

冷たい声がしたので恐る恐る皆の方を見てみる。

デルタ、君は何て事をしてくれたんだ。

恐れていた事が遂に起こってしまった。乙女なラムダと僕の背中にしがみつくデルタを除いた全員が、アルファのブラックホールに感染してしまった。

ちくしょう。  

 

「御体に傷を残すなんて、そんな...ダ、ダメだラムダ堪えろ。そんな破廉恥な事考えるな」

 

やっぱりラムダには定期的に休みを取ってもらおう。

皆とは別方向でおかしくなってる。

 

「ねぇ、主」

「何かな、ゼータ」

 

何時の間にか眼前にゼータが近づいていた、その目はブラックホールの様に黒く渦巻いている。

 

「ワンちゃんが犬だから許したの?」

「違うよ」

「デルタ犬じゃないもん!」

 

肩から顔を出したデルタがゼータに吠える。

 

「私も猫の獣人なんだよね」

「そうだね」

「なら私もいいよね」

「え?」

 

固まっていると肩に嚙みつかれた。

 

「何するのです雌猫!!」

 

嚙みついたゼータはデルタの様に歯を突き立てるのではなく、歯を押し当て跡が残る位の力で嚙みつく。

口を離すと薄く歯形が残っており、吸い付いたのか少し赤くなっている。

 

「デルタの消えたのです!何で重ねたのです!?」

 

ゼータが噛み付いたのはデルタが付けた歯形の上だ。

しかも治療してから嚙み付いたのでデルタの歯形が消えてしまっている。

 

「あんな痛そうなのが残ってたら主が可哀そう。それに私はワンちゃんみたいに主に痛い思いをさせたりしない」

「またデルタの事バカにしたのです!!」

「ワンちゃんのより私が付けた物のほうが主も喜んでくれる」

 

全然嬉しくない、君の所為で背中に感じる圧が強まった。

 

「許さないのです雌猫!!」

「許さないんだったらどうするんだい?わんわん♪」

「ムキィーーー!!ぶっ潰すのです!!!」

 

背中から飛び降りたデルタはゼータに飛び掛かった、近くに僕がいるので控えめな喧嘩だ。

 

「なんで消したのです雌猫!!」

「言ってるでしょ痛そうだから消したって、そんな事も覚えられないのかな?ワンちゃんは♪」

「キィーーー!!」

 

なんでわざわざ煽るかな。

 

「ねぇシド」

 

気づくとブラックホールに目覚めた皆に囲まれていた。

 

「私達もいいわよね?」

「あれは抵抗できなかっただけで...」

「いいわよね?」

「だから...」

「イ・イ・ワ・ヨ・ネ♡」

「分かったよ」

 

すると列を作り綺麗に並びだす、揉めることもなく静かに並んでいる。先頭は勿論アルファだ。

僕の両肩を掴んで

 

「いただきます♪」

 

嚙み付いた。

僕は食べ物じゃないよ。

 

飢えた獣達に嚙みつかれ、腕と肩に歯形が増えた。

ブラックホールに目覚めた彼女達は執拗に舐め回し味わうように嚙み付いた。

ブラックホールに目覚めた癖にいざやるとなると恥ずかしかったらしくカイは真っ赤になっていた。あとラムダも自分の欲望を抑えようと頑張っていたが1人取り残されるのに耐えられなかったみたいで

 

「私だってシド様に跡を付けたいです!!」

 

肩に嚙みついてしっかりと跡が残った。

嚙み付いたあとやはり恥ずかしかったようで僕に抱きつき離れようとしなかった。

嚙み付きタイムが終わって遊ぶことになり久しぶりにハメを外して楽しく遊ぶことが出来ていた。

 

「うがああっ!」

 

つい10分前までは。

先程までの楽しい雰囲気は消え去り、ビシバシと敵意をぶつけ合っている。

事の発端はデルタが

 

「ボス何でも聞くって言ったの!!」

 

とジョン・スミスの時にした約束を引き出してきたからだ。

確かに僕は約束した、でも何でもとは言っていない。考えるといっただけだ。

しかし頭が5歳児のデルタはあくまで何でもすると言ったと主張する。

ここで黙っていないのが彼女達だ。

最初はデルタだけではなく分け合う事はできないか話し合っていたのが誰が権利を得るかに変わった。

そして何故かそれをビーチバレーで決める事になった。

試合は

 

アルファ、ニューvsデルタ、ゼータ

ベータ、イプシロンvsカイ、オメガ

 

の組み分けになった。試合は3点先取制。

そして今はアルファ、ニューvsデルタ、ゼータに試合中だ。

ちなみにアルファがニューと組んでいるのは僕のパーカーを貰った事が気に喰わなかったみたいで後衛に回され

 

「いだいっ!」

 

手加減されたデルタのサーブを受けている。アルファが攻勢をかけてニューがひたすらガードする。

しかも相手は獣人だから手加減していても結構なパワーが乗っている。

それでも耐えて2対1と有利になっている。

 

「ちゃんとやってよバカ犬!!」

「うるさいのです雌猫!!ちゃんとやってるのです!!」

 

獣人2人には連携もクソもない。

互いのミスを押し付け合っている、イイ感じに決まって1点取ることが出来たがその後は防ぐのに手一杯で押されている。頭5歳児のデルタはアルファの動きに翻弄され、ゼータのカバーを台無しにする。

これはアルファとニューの勝ちかな。

 

「やったのです!!」

 

ニューのレシーブが失敗しボールが真横に飛んで行った。

流石に何回も受け続けたら失敗くらいするか。

 

「無理はしなくていいわ。ここからは私が変わるわ」

「いえ、私はまだやれます!」

 

熱血スポコン漫画みたいになっているが動機が不純なので目も当てられない。

後衛に回してニューがボロボロになるまで追い込んでたのはアルファだよね?よく優しくできるね。

 

「私だってもっとシャドウ様とイチャイチャしたいんです!!」

 

その言葉に反応した獣人達は獣のような唸り声を上げる。あれは本気だな。

デルタが本気のサーブを飛ばした、狙いはニューだ。獣らしく弱った相手から狙ったようだ。

だがアルファ程ではないが天才肌のニューはここまでボロクソにされ続けたのだ

 

「ふっ!」

 

綺麗なレシーブが決まった、3割もいなせていないが獣になった2人には衝撃だろう。絶対に決まると思っていた攻撃が防がれたんだから。

そして惚けている所にアルファのスパイクが決まり試合は終わった。

弱いと思っていたニューに受け止められたのが余程衝撃的だったらしく試合が終わった後も暫く呆然としていた。

次は天然と偽物ペアとストーカーペアの試合だ。

普段は仲が悪いがいざという時は息ピッタリのイプシロンとベータ、常に一緒で息のあった動きで僕をストーキングする2人。コンビとしてはカイとオメガの方が優勢だろう。

 

「マスター、ちゃんと、撫でて」

「ああ、ごめん」

 

イータとガンマは僕に膝枕されている。

やる気のないイータと試合が成立しないガンマは試合に出れない変わりに僕に膝枕する事を要求してきた。膝枕する意味が理解できないでいると、僕が2人に膝枕をしなくてはいけない理由とやらを説明され、ゴリ押しされる形で膝枕をする事になった。

2人の頭を撫でていると何時の間にか点が決まっていた。

1対1と白熱した戦いになっている。

 

「いいい加減に諦めなさいよ!!」

 

と言いながらイプシロンの鋭いスパイクが飛ぶ。

 

「こればかりは譲れません!」

 

オメガがレシーブしカイがネット前に落として、ベータの動きを乱す。

レベルの高い頭脳戦だな、これは長引きそうだな。

 

「壁ドンされたんならいいじゃない!しかも顎クイまで!私だってされた事ないのに!」

「な、何故それを!」

 

動揺した所為でレシーブに失敗した。

なんで知ってるの?隠しカメラでもあるのか、帰ったら部屋を調べよう。

膝に頭を乗せている2人と周りからジト目で見れている気がするけど気にしない。

ベータの描いた少女マンガ擬きが人気なのは知ってるけど1人ずつしていたらキリがないんだから我慢してくれ。

試合は一進一退の攻防だったが

 

「ひゃぁ」

 

レシーブしようとしたベータのビキニが解け座り込んでしまった事で点が決まり2対2となった。

 

「ちょっと何してんのよこのぶりっ子!!」

「ぶ、ぶりっ子じゃないもん!」

「こんな事で主様の気を引こうとするなんて浅ましいわねー」

「ぐぬぬぬぬ」

 

睨みあって試合が進まないのに痺れを切らしたラムダが咳払いをする、歯形をつけた事で満足したラムダは試合から辞退し審判をしている。

両者ともに後がないので今まで以上に激しくなり言葉での攻撃もしている。

 

「上司を立てようって思わないわけ!」

「幾ら皆様でもこれだけは譲るつもりはありません!」

「命令よ!譲りなさい!」

「嫌です!もっとふっき...イチャイチャしたいんです!」

 

さながらパワハラ上司とそれに抵抗する部下のようになっていてミツゴシがどれだけブラックか分かるようだ、1人性癖が出ていた気もするが気づかないフリをするのが彼女の為だ。

試合を見ていると審判のエルフがチラチラとこちらを見ているのに気付いた。

僕の二の腕や腹筋、胸板、首筋を見ている。

ラムダはバレていないと思っているようだが彼女は筋肉フェチだ、ヤッテいる時もやたらと胸板や腹筋を触っているのにバレていないと思っているのは可愛いと思ってしまった。

イタズラしたくなったのでラムダにちょっとSっぽく笑いかける。

 

「~~~~~っ」

 

ようやく気付いたみたいで顔を真っ赤にして背けた。なんか楽しい。

 

「ドS」

 

膝枕されているバニー姿のエルフから非難が飛んでくる。

 

「ドSって程じゃないでしょ」

「ドS、鬼畜」

「鬼畜は酷いんじゃない?」

「止めてって、言っても、止めて、くれない」

 

そう言って自分の胸を押さえている。

 

「オッパイ、イジメるの、止めて、くれない」

「それはごめん」

 

いっつも表情が変わらないのに胸をイジメたら喘ぎ声を上げてあられもない表情になるんだから、イジメたくなるのは仕方ないじゃないか。

 

「許して、欲しい?」

「そうだねー、許して欲しいかな」

「なら、前みたいに、呼んで」

 

キラキラした目で見上げてくる。

前みたいにか、皆がいるけど仕方ないかな。

 

「許してくれませんか、イータ先輩」

「ふふん♪許して、しんぜよう」

 

楽しそうに頭を太ももに擦り付ける。

あ、試合終わったみたいだ、やっぱりスペックの差はそう簡単には....なんかこっち見てるんだけど。

 

「せんぱいって何なのです?美味しいのです?」

 

デルタは理解できていないけど、他の皆は意味を理解したらしい。

 

「主様」

 

膝枕されているもう1人のエルフが黒く渦巻いた目で見上げてくる。こっわ。

 

「説明を求めます」

 

ここは元凶に説明してもらおう、僕が言ったら曲解されるかもしれないからな。

 

「イータ」

「ん、分かった」

 

元凶に責任を取って貰う。

 

「マスターより、年上、限・定!」

 

もうちょっと他になかった?

それを聞いたガンマが勢いよく体を起こした、その目はさっきのが噓の様にキラキラしている。

 

「主様!わた、私も年上です!」

「そ、そうだね」

 

潤んだ目でこっちを見つめてくる。これ言うまで諦めてくれないな。

 

「いつもありがとう、ガンマ先輩」

「あふん♡」

 

先輩呼びしたら崩れ落ちてしまった。

 

「ふぎゅっ」

 

僕の太ももにダイブする時にガンマの石頭が直撃してしまったようでイータは頭を押さえている。

 

「大丈夫?」

 

撫でると頭を擦り付けてくる、猫かよ。

 

「主様」

 

顔を上げると何時の間にか列が出来ていた。

 

「イプシロンも年上ですよ」

 

圧が凄いな、戦闘の時だってそこまでの圧は出さないのに。

分かったよ、呼べばいいんだろ。

 

年上全員を先輩呼びする事になった。

 

「私はその.....『先生』と呼んで頂けないでしょうか」

 

まあ、1人は性癖を隠そうともしていなかったが。

 

「ラムダ先生」

 

呼んだら両手で顔を覆って座り込んでしまった。やっぱりラムダが一番乙女かもしれない。

 

「年上?どうして私は15なの....そもそも年上って何だったかしら?」

「あれれーおかしいなー。なんで私は先輩って呼ばれないんだろー。なんで私15なんだろー」

 

エルフ2人が哲学に目覚めていたが、頭の良くない僕にはついていけそうにないので無視した。

 

「なんで誰も教えてくれないのです!?先輩って何なのです!」

 

デルタは駄々をこねていたが頭を撫でたら忘れてしまったようで機嫌が良くなった。

そして最後の試合が始まった、流石に長くなりそうなので1点先取になった。アルファとベータは相手のペアに殺意を飛ばしている、そんなに呼ばれたかったかのかよ。

殺意前回のサーブが飛んだ、殺る気満々だな。

ニューとイプシロンがちょっと可哀そうだな。年上というだけで相手から殺意を向けられているんだから。

 

「ちゃんと、撫でて」

「まだダメなの?」

「まだダメです」

 

まだ撫でないといけないのか、そろそろ腕が疲れてきた。

 

「交代するのです!ズルいのです!」

 

もう5歳児が限界だから止めたい。

撫でている間に試合が終わっていた。勝ったのはアルファとニューだ。

 

「試合終わったから降りてね」

「もうちょっとだけお願いします」

「堪能中」

「ダメ、降りて」

「そんなーーー」

「むぅ」

 

文句を言いながらも膝から降りてくれる。

 

「さて次は何をしよう....」

「シド様♪」

 

背中に誰かが抱きついていた。

アルファ達ではない、だって僕の前方にいるし。

それに背中で押し潰されている物の柔らかさには覚えがある。

 

「久しぶりだね、エリザベートさん」

 

後ろを見るとそこには赤い長髪の水着姿の女王様がいた。

 

「エリザベートですわ、シド様」

「エリザベートさ....」

「エリザベートですわ」

「.....エリザベート」

「はい♪」

 

どうしているのかは敢えて聞かない。

どうせ執念と勘と返ってくるのは分かりきってる事だ。

でもねエリザベート

 

「ここは専用エリアだよ」

 

今僕らが使っているのは従業員専用エリア、エリザベートが入ってきたらいけないんだよ。

 

「些細な事です」

「聞いてた?ここは」

「些細な事です」

「だから....」

「些細な事です」

「.....そうだね、些細な事だね」

 

もう諦めるしかないな。

何を言っても帰ってくれないだろう。

 

「メアリーさんも久しぶりですね」

「.....」

「メアリーさん?」

「シド様、メアリーはむっつりなんです。そっとしてあげてください」

 

エリザベートとお揃いの水着を着ているメアリーさんは全身真っ赤になって立ち尽くしている。

 

「シャドウ様」

 

振り向くと黒く渦巻く目で見てくるベータがいた。

ベータのブラックホールを間近で見るとちびりそうになった。アルファとはまた違った怖さがある。

 

「今日は私達だけのはずですよね?どうしてその女がいるんですか?噓だったんですか?私達だけの時間のはずなのにどうして呼んだんですか?納得のいく説明を求めます」

 

息継ぎ無しで言い切るから余計に怖い。

 

「何か勘違いしているようだから言わせてもらうけど、私は今日偶然ここに来ただけでシド様の気配を感じたから来ただけ。シド様からお話されて来たわけではありません」

 

フォローしてくれるのは有り難いけど、僕の気配を感じたから専用エリアに入ることについて躊躇いとか感じなかったの?その辺どう思ってるの?

 

「......噓を言っているわけではないですね」

「愛するシド様の事に関して噓などつきません。愛するお方には誠実でありたいのです」

 

誠実と言った時になんだか胸が痛くなったな。

誠実なら普通立ち入り禁止のエリアには入らないよね?

 

「シャドウ様」

「なに?」

「この事は帰ったらじっくり話し合いましょう」

「分かった」

 

時には逃げてはいけない事もある。

この話し合いから逃げれば僕に後ろめたい事があると思われかねない。決して逃げてはいけない、正々堂々と正面から向き合うのだ。

ベータがブラックホールに目覚めた事にも向き合わないといけない。

 

「やっぱりシド様はいい匂いがしますね」

「分かりますか!?シャドウ様はいい匂いがしますよね!」

 

おい、さっきまでの険悪な空気はどこにいった。

性癖が一致しただけでさっきまでの空気が無くなるのはおかしいだろ。

 

「それにこの筋肉も素晴らしいですわ」

「分かりますか!やっぱりこの筋肉は芸術的ですよね!」

「中々話が分かる人ね」

 

なんか増えたぞ。

 

「傷のついた筋肉というのも色気があって素晴らしいですわ」

「それは私達が付けたんですよ」

「え?」

「ここに付いてる歯型が見えますよね?これは私が付けたんですよ」

 

僕の腕を持ち上げて付けた歯型を指差す。

 

「シド様」

「なに?」

「私も付けていいですか?」

「なんで」

「ダメですか?」

 

エリザベートは吸血鬼でしょ、それに僕を見る目が怖い。

完全に肉を前にした獣の目になっている。

 

「ダメですか?」

 

その潤んだ目で見上げないでくれ。

胸が痛い。

 

「....痛くしないでくださいよ」

「はい♡」

 

息を荒げながら腕を掴み口を近付けていく。

 

「いただきます♡」

 

だから僕は食事じゃないって。

 

「ふあぁぁぁぁぁぁ♡」

 

喘ぎ声を上げながら崩れ落ち陸に打ち上げられた魚の様に体が震えている。

エリザベートが嚙み付いた所を見ると皮膚が少し切れて血が出ている。

しまった、治療して衝動が収まったとしてもまだ日が浅いから.....

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ♡」

 

なんかえらく艶っぽいな。

何が起こるか分からないからビーチチェアに寝かせてみるが、目の焦点はあっていないし肌から蒸気が出ている。

 

「エリザベート様!!」

 

エリザベートの叫び声で意識を取り戻したメアリーが走ってきて僕に掴みかかる。

 

「シド君!エリザベート様に何をしたんですか!」

「僕に嚙み付いた時に血を飲んだみたいです」

「.....嚙み付いた?」

「跡を残したかったんですって」

「...疑ってすまない」

 

僕から手を離すと腕から流れる血を見てゴクリと唾を飲む。

 

「....私も一滴貰っていいですか?」

 

あんたもかい。

目がさっきのエリザベートと同じだし、息も荒い。

 

「これは...そう!原因を確かめる為に必要なんです!!」

 

一人で言い訳してるけど飲みたいだけだろ。

 

「本当に原因が分かるんですか?」

「た、多分...」

 

分かり安い。目が色んな方を向いている。

 

「じゃあ、いいですけど」

 

僕の腕を掴むとさっきよりも息が荒くなる。

そして舌を出して一滴だけ舐める。

 

「んぅぅぅぅぅぅぅぅ♡」

 

エリザベート同様膝から崩れ落ちぺたんと女の子座りになってしまった。

 

「しゃわるのはだめぇ♡はなしてぇ♡」

 

真っ赤になったメアリーを抱き上げエリザベートの隣に寝かせる。

水を飲ませると体温が下がったのか荒かった呼吸が落ち着く。

 

「シド君」

 

火照った表情で僕の名前を呼ぶ。

 

「シド君の血は吸血鬼にとって.....劇物、です」

 

劇物ですじゃないよ。

いきなりそんな事言われてもどう反応していいか分からない。

 

「シド君の血は多幸感が強すぎます。一滴だけで10人分の血に匹敵します」

 

選ばれた血とか漫画ではよくあるけど、食料として選ばれた血は初めてだ。

 

「もしかして依存したりします?」

「さっきも言ったように多幸感が強すぎます、一滴飲めばもう10年は血を飲まなくて良くなります」

 

特効薬みたいなものなのか?

 

「飲み過ぎたら恐らく気が狂って、心が壊れます」

 

確かに劇物だな。

エリザベートの方を見てみるとモザイクをかけないといけないレベルになってしまっている。

とても女王がしていい顔ではない。

 

遊ぶはずだったのに吸血鬼2人が僕の血で酔っ払ったので介抱する事になった。

 

『ジーーーーーー』

 

それはわざわざ口に出して言う事じゃないでしょ。

突き刺さる様な視線が痛い。

 

「シ、シャドウはん?」

 

もういいって、誰もお代わりなんて頼んでないから。

てかなんでさらっと入ってきてるの、立ち入り禁止って書いてなかった?

文字読める?

 

「ユキメ、傷は大丈夫?」

 

振り向けばこの前、偽札事件で協力してくれたユキメがいた。

滅茶苦茶気まずい。

ユキメからすれば利用するだけ利用して裏切った裏切り者だ。

.....あれ?でもここに来てるって事はもしかしてこの前の事を許してくれてたりするのかな?

 

「この前の事はごめんね」

「お気になさらず、全ての事はアルファはんから聞いておりんす」

 

聞いてるんだ、良かった。

もふもふの尻尾を見れなくなるのは心苦しかった。

 

「.....」

「ユキメ?どうしたの?」

「....」

「やっぱり傷がちゃんと治ってなかった?」

「ひぃ、いや、その、これは....」

 

喋り方が崩れて顔も真っ赤になっている。

 

「アルファはん!!はようこっちに!!」

 

アルファを引っ張って走り去っていった。

何で顔が赤かったのかはよく分からないけど、アルファを連れていってくれた事には感謝してる。

ブラックホールの感染源がいなくなったからエリザベートとメアリーが感染する事もないはずだ。

 

「主」

「なに、ゼータ....痛いよ」

 

振り返った瞬間手加減なしで思いっ切り腕を引っ搔かれた。

皮膚がめくれて血が出ている。

 

「主はさ、猫より狐がいいの?」

 

その質問が来ると思ってたよ。

前から犬か猫、どっちがいいかしつこく聞いてたからユキメが現れたら当然聞くよね。

 

「答えてよ主、黙ってちゃ分からないよ」

 

アルファがいなくなっても既に感染しているから手遅れか。

僕は別にもふもふしてて可愛かったら何でもいい。

しかし今求められているのはそんな答えではないのは誰の目にも明白だ。

 

「猫じゃだめなの?確かに尻尾は狐と比べたら細いかもしれないけどちゃんともふもふしてるよ?それとも何かな私だけじゃ足りないの?だから直ぐに他の獣人と浮気するの?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ。ねぇ主、なんで浮気するのかな?答えてよ」

 

うん、怖い。

今までにないレベルで怖い。こんなゼータは初めてだ。

というかこれって浮気なの?

 

「何言ってるのです雌猫、ボスは犬の方が好きなのです」

 

何で今出てくるんだ。タイミングが悪すぎる。

てか人に犬扱いされたら怒るのに自分で言うのはいいのかよ。

 

「五月蠅いバカ犬、今は主と話してるから引っ込んでてよ」

「負け惜しみなのです!悔しいのです雌猫?」

 

なんで煽る。

分かってやってるんじゃないよな?

分かってたら相当悪質だからな。

 

「ぎゃんぎゃん吠えるバカ犬よりも、落ち着いた猫の方が主に相応しい」

「嫉妬してるのです雌猫!デルタの方がボスに可愛がってもらってるのです」

 

一番してほしくない煽りをしやがった。

 

「私はバカ犬と違って任務があるから仕方ない、でも会えなかった分しっかりと可愛がってもらってるから嫉妬なんてしてないよ」

「でも雌猫ボスに呼ばれてないのです」

「は?」

「デルタはボスと一緒に狩りしたりお散歩したりしてるのです。任務がなくてもボスと一緒なのです!雌猫は任務がなくても一緒に狩りしてないしお散歩もしてないのです。だからボスは犬の方が好きなのです!」

 

君は本当にデルタか?

無意識でその煽りをやってるのか?だとしたら相当性根が腐ってるぞ。

 

「はぁ!?これだからバカ犬はダメなんだよ。ただ暴れるだけで気づかないのできないバカ犬を主が可愛がるとでも?ねぇワンちゃん、お情けって知ってる?」

 

煽りがまるでラリーの様に行き来している。

 

「お情け!?お情けって言ったのです!?デルタはボスに大好きって言って貰ってるからお情けじゃないもん!!」

「へーそうなんだ。でも私は貪るように求めて貰ってるからそんなに違いはないと思うなーー」

『.....』

 

睨み合っていた2人は今度は僕の方に顔を向ける。

 

「主」

「ボス」

『犬と猫』

「どっちが好きなの!?」

「どっちが好きなのです!?」

 

答えたくない質問が来た。

落ち着いて選択肢を作って考えよう。

 

1.犬が好き→デルタ歓喜、ゼータブチ切れ

2.猫が好き→ゼータ歓喜、デルタブチ切れ

3.狐が好き→両者ブチ切れ、ユキメ惨殺

4.別になんでもいい→両者発狂、戦闘開始

 

詰みだな。

思いつく選択肢だとどれを選んでも修羅場は必須だ。

.....いや、待てよ。

これならどうにかなるか?....でも前に誤魔化すなって言われてるから怒るかもしれない。

 

「ボス?」

「主?」

 

何も言わないで2人を力強く抱きしめる。

 

「答えになってないよ」

「どっちが好きなのです?」

 

更に力強く抱きしめると答えをせかすように2人の爪が食い込む。

 

「.....主ってホントズルいよね」

「......ボスズルいのです」

 

2人を離すと頬が赤らんでいる。

ゼータもブラックホールから引きずり出すことができた。

 

「次はちゃんと答えて貰うからね」

「ボス、ちゃんと決めておくのです!」

 

分かってるよ、次はないって顔に書いてるから。

ふぅ、これにて一件落ち......

 

「シャドウ様」

「主様」

 

いつの間にか天然と人工が近づいてきていた。

2人ともブラックホールに目覚めている。

 

「私とベータ」

「私とイプシロン」

『どちらが魅力的ですか?』

 

これまたとんでもない質問がきたな。

 

1.たたかう

2.にげる

 

→2.にげるでいいですか?

 

「ふっ」

 

シド・カゲノーは逃げ出した!!

 

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