陰の実力者になりたくて!addition   作:読者0

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楽しい楽しいモブライフ?
モブとしての第一歩➡失敗


僕は15歳になり学園に通うことになった。

今僕は姉さんが通う王都にあるミドガル魔剣士学園の入学式に参加している。

何故こうなったかと言うと全て姉さんのせいだ。

本来であれば地方の学園に進学しモブムーブと陰の実力者プレイを楽しむつもりだったが、進学先を選んでいる時に帰省していた姉さんに首を絞められながら進学先を決められ願書を書くことになった。

助けようとしてくれたオトンは姉さんに右ストレートを叩き込まれた。

オカンの右ストレートは遺伝したらしい。

抵抗すると締め上げる力が強くなるので書くしかなかった。

書き終えると、

 

「よくできました。いい子ね。」

 

と頭を撫でられ、褒められた。ちょっと嬉しかった。

これがDVというやつなんだろうか。

 

結果的には王都にきたのは良かったのかもしれない。

物語の舞台としてはこれ以上ない場所だし、それに教団の王国における活動拠点もある。

主人公、または重要人物と関係を築き陰の実力者として暗躍するつもりだ。

何人か思い当たる人がいるが接触が難しい。

なので一番近い人から始める。

対象はアレクシア・ミドガル第2王女だ。

本来なら王族に男爵家の息子が接触することはあり得ないが、ここは学園だ、理由はいくらでも作れる。

 

「おいシド。今更逃げるなんて言わないよな?」

「罰ゲームの約束は絶対ですよ。」

「分かってるって。」

 

金髪ノッポのヒョロ・ガリと坊主頭でチビのジャガ・イモだ。

名前を聞いた時は思わず聞き返してしまった。

偶々入学式で隣の席に座っただけだの関係だったがなかなか面白かったので友達になった。

女子に話しかけられれば上がりまくり、目上にはビビりまくる、モブっぽさが溢れ出ていた。

数日前にテストで最下位だった奴がアレクシア王女に告るという罰ゲームだ。

当然僕は最下位。

勿論わざとだ。本気を出せば瞬殺どころか学年トップも夢じゃない。

しかし僕はモブ、本気を出してはいけない。

接触する理由を探していた僕には丁度良かった。

 

「ア、ア、アレクシアお、王女...つつ、付き合ってくださぁい!」

 

上がりっぽく見せるのも忘れない。決まった、モブらしい告白だ。

まあ、振られるだろう。

入学してから2ヶ月で、100人を超える人が彼女に告白し散っている。

僕からすればアルファ達の方が美人だし。

そもそも告白自体、失敗前提で顔を覚えてもらえればいいぐらいだったし、身の程知らずにも告白し振られるモブムーブを楽しむつもりでいた。

僕の王都でのモブとしての第一歩は大成こ...

 

「ええ、よろしくね。」

「.....へ?」

 

何故かアレクシア王女と付き合うことになった。

僕はモブとしての道を歩いてたつもりだが崖っぷちにいたようで、踏み出した先に地面はなくそのまま崖から落ちていったようだ。

王都でのモブとしての第一歩は大失敗に終わった。

 

 

最近ずっと何故と思っている。

僕の周りからの評価はかなり落ち込んでいる、これではただのクズだ。

そもそも付き合えた理由が分からない。

僕はモブで下級貴族の息子、そして彼女は第2王女だ。

これが幼馴染とかならまだわかるがあの日の告白が初対面だ。

恋愛関係に発展するような何かがあった訳ではない。

絶対に裏があると思った。

 

裏はあった。

彼女には剣術指南役であり婚約者候補のゼノン・グリフィンがいる。彼との結婚を躱す為の当て馬として選ばれたというわけだ。

彼女はあの日、僕が罰ゲームとして告白するのを事前に調べていたようだ。

僕の実家は下級貴族、滅多なことが無い限り結婚までは行くことがない。

当て馬にはぴったりというわけだ。

 

「巻き込まないで欲しいんだけど.....」

「時間稼ぎができればいいの、手伝いなさい。」

「メリットが無い。ゼノン先生を敵に回して、無事ですむ訳がない。」

「五月蠅いわね、ほらこれで十分でしょ。」

 

そう言って、金貨が大量に入った袋を投げ渡してきた。

中を確認すると1枚10万はくだらない金貨が10枚。

最近は陰の実力者コレクションに浪費していたからありがたかった。

僕は袋を懐に収める。

 

「給料分は働かせて頂きます。」

「素直なのは嫌いじゃないわ♪」

 

金に負けてしまった。

 

それから何日かたった。

僕とアレクシアは仲睦まじい恋人を演じていた。

図書館で勉強を教わった。

実際凄く分かりやすかった、生まれの違いがでていた。

学食であーんもした。

普通、こういうのは一口で食べられる肉とかサンドイッチだと思う。

熱々のラーメンでやるべきではない、頬に当たった時に熱ってなった。

鍛錬場でイチャイチャしたりもしてみたが、

 

「ふっ...」

 

とゼノン先生はかなり余裕そうな笑みを浮かべていた。

ここまでくると不気味だ。

 

「ハァーームカつくわ。

 少し剣が上手いだけで調子に乗って。」

 

上手くいかないことにアレクシアはご立腹だ。

世渡りの下手な僕は特にこういうのが苦手でアドバイスもできない。

 

「あいつ胡散臭いのよね。あの顔見たでしょ?」

「そうだねー」

 

彼女の機嫌を悪くしないように、相槌を打つ。

 

「聞きたいんだけどどこに不満があるの?悪くないと思うけど。」

 

イケメン、剣術指南役で地位も名誉も文句はない。

女子から人気は高いが女癖が悪いわけではない。

 

「何もかもよ。あの欠点なんてありませんて顔が嫌いなのよ。

 上辺を取り繕っているに決まっているわ。」

「説得力が違うね。」

 

アレクシアも猫をかぶっている。

人当たりの良い王女を演じているが、人気がなくなると罵詈雑言を吐き散らす。

王女よりもボンテージを着て仮面を着け、鞭を持って

 

「この豚が!」

 

とか言う夜の国の女王様のほうが性に合っていると思う。

 

「ふん!」

 

思いっきり足を踏まれた、しかも小指。痛い。

 

「痛いよ、ハニー」

「それやめて。」

「酷くない?これでも結構頑張ってるのに。」

「あっそ、今日の給料よ。」

 

袋が投げられる。僕が拾う。

中身を確認して袋を懐にしまう。

ゴミを見るような目で見てくる、やっぱり女王様のほうがいいんじゃない?

 

「私は上辺だけで判断しないわ。」

「じゃあ、いかにも豚顔で加齢臭を漂わせたハゲのおっさんでも良いの?」

「目に見えている欠点があるんだからゼノンよりはまだマシね。」

「マジですか....」

「マジよ」

 

まあ確かにゼノン先生が胡散臭いのは認める、人が良すぎる。

僕がアレクシアと付き合っているのに冷静すぎる、感情を一切出したりしない。

授業で僕をボコボコにするわけでもないし、

アレクシアに対しても他の生徒と変わらない丁寧な指導をしている。

人が良いといえばそれまでだが、表に出さないだけで何かあるという感じがする。

 

「意外と人を見ているんだね。」

「それはどうも」

 

僕は懐の金貨を確認する、結構な金額だ。

これなら陰の実力者コレクションを増やすことができる。

 

「ねえ」

「何?」

「力を隠す理由は何?」

「....何の話?」

「噓が下手なのね。

 姿勢や歩き方を見ればわかるわ、相当強いでしょ。何で手を抜くわけ?」

 

別に驚いたりはしなかった。

歩き方や姿勢にはその人の強さが現れる。

陰の実力者プレイの一環として、凡人と評価されるシド・カゲノーが

見る人が見ると、違和感を抱くように強さを偽装している。

姉さんやゼノン先生辺りなら僕が手を抜いているのに気付いていると思う。

アレクシアが見抜くとは思わなかったけど。

 

「やれって言われたことはちゃんとやってるだろう?」

「それだけじゃないわ。毎回わざと負けているじゃない。」

「僕男爵家だよ。勝ったら面倒じゃん。」

 

アレクシアと付き合ったせいで、アレクシアの所属する1部に引き上げられた。

ちなみに1部は9部あるクラスの中で高位のクラスだ。

所属しているのは高位貴族や有力貴族の子女ばかり、

下手に実力があってプライドが高い分、下級貴族の僕が勝ったりすると

相手のプライドを傷つけるだけだ。

 

「まるで負けるわけがないみたいな口ぶりね」

「.......」

 

否定もしないし肯定もしない。

実際学園のレベルでは例え全生徒に囲まれたとしても負けはしない。

 

「本当は強いんでしょう。」

「さあ、世界最強なんじゃない。」

「随分な自信ね。」

 

今までの修行で、前世で目指した核で蒸発しない身体は手にすることができたが、

地球を破壊したり、時間を操られたりしたら勝てる気がしない。

伝説にあったりはするが、それができる奴は確認できていない。

確認できる範囲でいえば、世界最強。

 

「それは君にも言えるだろう。」

「喧嘩売ってるわけ。」

 

如何にも不満ですと言う顔で見てくる。

 

「私の剣が何て言われてるか知ってるでしょ。」

「凡人の剣、だよね。」

 

お姉さんであるアイリス王女と比較された剣だ。

 

「私には才能がないのよ。

 努力はしてきたわ、でも努力だけで才能という差を

 埋めることはできない。」

 

アレクシアは前世の僕と似ている。

努力してある程度は成長するが、直ぐに伸び悩む。

壁にぶつかって立ち止まってしまうタイプだ。

僕も壁を超えるのにはかなり時間がかかった。

 

「才能が無ければ、どれだけ努力したって無駄なのよ。」

「それは違うと思うよ。

 才能ってのはどれだけ効率良く努力できたかに尽きると思う。」

 

アレクシアが睨んでくる。姉さんみたいだ。

 

「私の努力は無駄って言いたいわけ?」

「そんなこと言ってないだろ。方向性が違うってことだよ。」

「どういうこと?」

「君はお姉さんを目標にしているけど、お姉さんが何のために

 努力したかは知らないんだろう。」

 

アレクシアは次女でお姉さんであるアイリス王女を目標にしているけど

アイリス王女は長女で手本がない状態で、自分なりの目標を立てて努力したはずだ。

何を目標にして努力したのか理解できなければただの物真似だ。

 

「お姉さんを目標にするんなら、お姉さんが目標にしたものを

 知った方がいいと思うよ。」

「随分上からね。まあ、言いたいことはわかるわ。

 ......あんたに言われるのは気にいらないけど。」

「一言余計じゃない。」

 

身体能力の面では、アレクシアの言う通りだと思う。

僕だって改造を重ね無ければここまで強くなることはできなかった。

でも技術は努力しだいで埋められると思う。

 

「僕は君の剣が好きだよ。基本に忠実で真っ直ぐな剣、諦めずに進み続けている努力の証。

 僕は好きだよ。」

 

そう言ったらアレクシアが顔を背ける。顔が赤くなっているような気がする。

 

「今日は帰るわ」

 

アレクシアはそう言うと早足で学生寮の方へ帰っていった。

 

 

 

シド・カゲノーを一言で表すと平凡な少年に尽きる。

何かに興味を示すわけでもなく、何をやるにしてもやる気を感じない態度だ。

必要最低限のことはするし、言われた事には忠実で教師からの評判も悪くない。

彼の剣には才能を感じなかった。

自分と同じ凡人の剣。

だが、どこか目が離せなかった。

私との稽古は忠実に熟している。けど、他の生徒の試合では勝ったことはない。

最初は強引に1部に引き上げたんだから当然かと思ったが、すぐにおかしいことに気付く。

勝ったことはないしかし、負けて怪我をしたこともない。

負け方もおかしかった、相手に違和感を抱かせずタイミング良く負けている。

それだけではない、動き、歩き方や姿勢に無駄がない事にも気づいた。

私と同じで本性を隠していると。

 

「力を隠す理由は何?」

 

はぐらかされたが、勝ったら面倒だと答えた。

気になってどれくらい強いのか聞いたら世界最強と答えた。

冗談なんかではなくその目には確固たる自信があった。

その後私の話へと変わり、彼は言った。

 

「僕は君の剣が好きだよ。」

 

ブシン祭で負けた時に同じことを姉さまにも言われた。

才能を持っている姉さまに言われて恨みすらした。

それ以来、自分の剣が嫌いになった。姉さまとも口を利いていない。

 

「僕は君の剣が好きだよ。基本に忠実で真っ直ぐな剣、

 諦めずに進み続けている努力の証。

 僕は好きだよ。」

 

たったそれだけの言葉で救われた気がした。同じ凡人だったからかもしれない。

 

「僕は君の剣が好きだよ。」

 

ずっと耳元で彼の言葉が響いている。

顔が熱い、心臓の鼓動も五月蠅い。

 

「僕は君の剣が好きだよ。」

 

頭を振って振り払おうとするが消えない

 

「僕は君の剣が好きだよ。」

 

違う、これは気の迷いなのよ。

 

「僕は君の剣が好きだよ。」

 

違う、違う。

 

「僕は君の剣が好きだよ。」

 

こんなの私じゃない!!

 

 

 

次の日ヒョロとジャガと話しながら登校していると正門前で

ゼノン先生と騎士団に囲まれた。

 

「君にアレクシア王女誘拐の疑いがかけられている。

 一緒に来てもらう。」

 

僕終わったわ。

 

 

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