これはどこかの世界線であったかもしれないifのお話。
鬼教官が
これはそんなお話。
「全くどうしてこんな....はぁ」
自室でベッドに寝転がり一息つく。
思いの外、腐ったエルフの抵抗が強く面倒.....これ以上喚かれて業務に支障が出るのは全体の利益にならないと考え、厳重に保管すると言ってしまた。
言ってしまった以上は責任を取らないとならないのだが、ラムダの自室にはそんな厳重な保管設備はない。
しかも相手は七陰、一言に厳重と言っても相手が七陰だと一般的な基準の厳重では通用しない。
七陰にも通用する金庫なぞ流通してる訳がない。
ならばどうするか?
作ってもらうしかない。
「あそこに行くしかないのか...」
シャドウガーデンで何か作って貰うとすればイータの研究室に行くしかない。
正直な所、行きたくないはない。
というか区画に近づきたくもない。
しかし保管すると言った手前、やらない訳にもいかない。
実験されかけたトラウマのせいで立てなくなるくらい足が震えまくっているがいくしかない。
ベッドから降りて、震える足に力を込めて立ち上がる。
足は行くのを拒否している。だが行くしかない。
今シャドウガーデンで七陰にも通用するような金庫を作れるのはイータしかない。
「行くか」
向かう先はイータの研究室、部屋から出る。
ここでラムダはうっかりをしてしまう。
件の3人はここにいないし、自分の部屋に勝手に入る者などいないだろうと思って鍵を掛けなかった。そして
「あれ、いないんですか?」
しかしそんな事は関係無く平気で部屋に入って来る者もいる。
部屋の主人がいないのにも関わらずニューはラムダの部屋に平気な顔して入った。
「やっぱりいないんですか?聞きたいことがあったんですけどね」
部屋の主人がいないのを確認し、立ち去ろうとした瞬間。
ふと机の上の2冊の本が目に留まる。
「...ははぁん♪うっかりさんですね。駄目ですよぉ、こんな自分の癖が分かっちゃうような危険物出しっぱなしにしてたら♪」
間違いではないのが恐ろしい。
実際ラムダは自分の癖が丸わかりになってしまう書籍を隠してはいる。
机の上にあるそれではないが。
「まぁ大体予想は付きますが見ておきますか♪」
今でこそ対等な立ち位置だが昔はキッツイしごきをされていた。
キッツイしごきのお陰で強くなれたけど、それはそれとしてからかうネタがあるんなら集めて後でからかってやろう。
そんな軽い気持ちで
「げぼぁ!!」
吐血した。
挿絵を見れば癖を簡単に把握出来ると浅はかな考えの結果、脳にダメージを負った。
吐血の瞬間に顔をそらしたので
「何....これ?」
勿論ニューとてそういう分野がある事は理解している。
まだ貴族であった時に社交界でその類の噂は聞いたし、貴腐人なんて呼ばれる人達がコミュニティを作っているのも風の噂で聞いた事もある。
貴腐人がバレると社交界で居場所を失うから皆必死に隠していた。
ニューは貴腐人ではなかった。
この瞬間までは。
「これは....シャドウ様と....シド様を別人として書いてるんですか?」
一瞬でそこまで理解するのは流石と言える。
「ならこっちは....」
迂闊にももう一冊に手を伸ばす。
余りにも軽挙な行動である。
「ぶふぅ!!」
鼻血が噴水の様に噴き出た。
鼻血がかからないようにしっかりと
貴腐人の鑑である。
「これ...受けと攻めが入れ替わってる....ん?もしかしてこれってベータ様が書いた本?」
読んでいて文章と挿絵にベータ特有の
「もしかして趣味じゃなくて没収しただけ?」
現場に立ち会っていないのにそこまで察する事ができる洞察力は凄まじい。
もっと別の所でその洞察力を使うべきではあるが。
「こんな劇物がミツゴシにあったらシャドウ様は近づいてくれるなくなるでしょうね」
こんなものがあれば近づいてくれなくなるのは分かっている、そのはずなのに
「ベータ様の才能...恐るべし」
ページを捲る手が止まらない。
見開かれた目は血走っている。
1時間かけて読み終わったニュー深呼吸をする。
「新しいを世界を知れました」
貴腐人達の気持ちを今体験する事で理解できた。
文字通りの薔薇色の世界。
新しい世界を知れた
とても新しい世界を知れたとか言える表情ではない。
「そろそろ出ますか、帰って来たら面倒ですし」
本の位置を部屋に入った時と同じ位置に1㎜のずれもなく置き、鼻血と吐血の処理をして部屋から出ようと扉に手を掛ける。
その瞬間ある事が頭よぎる。
(これ抜け駆けとか言われませんよね?)
頭に浮かんだのは
これが抜け駆けになるかどうかと言われれば抜け駆けになるかもしれない。別に隠しておけないいいだけなのだが、バレるとあの2人の事だから
バレなければいいだけなのだが、ニュー含めてシャドウガーデンはシャドウ関係の隠し事は何故か直ぐにバレる。
顔に出ているわけではないのに直ぐにバレる、なんでかバレる。
自分1人だけ楽しんでいたと知られれば絶対にある事ない事吹き込まれる。
「仕方ないですね」
ある事ない事吹き込まれるぐらいなら、もうこっちから共犯者にしてしまえばいいとの結論に至った。
机の上の同人誌を手に取って、扉から顔を出して誰もいない事を確認する。
確認を取れたら、部屋の扉を一切の音立てない様に閉める。
後は
探すのに時間がかかると思ったらあっさり見つかった。
10分もかからなかった。
「なんだ....これは」
場所はニューの部屋に変わり、カイとオメガは驚愕に目を見開いていた。
部屋に入って椅子に座ると同人誌を押し付けられた。
何なのか聞いてもただ一言
「読め、読んだら分かる」
としか言わない。
そして読んでみれば薔薇が敷き詰められた文章が広がっている。
「どこで見つけた?」
「ラムダの部屋から拝借してきました」
「あいつこんな趣味があったのか」
2人がなんだか勘違いをしているが訂正はしない。
勘違いされてあたふたしているラムダを見るのは面白そうだから、ニューは訂正しない。
「凄いな、これは」
オメガは作りこまれた作品を絶賛しながら読み進める。
一方カイは一言も発さずページをめくっていく。
目を限界まで開き、1ページづつ読んでいく。少し血走っている。
「ふぅ、いいなこれは」
オメガは読み終わり一息つく。
カイも読み終わり深く息を吸う。
お互いの同人誌を交換し読み進める。
「素晴らしいものを見れた」
悟りを開いたような清々しい表情でオメガは同人誌を抱きしめる。
そして一方カイはというと
「刺激が強すぎましたか?」
机に突っ伏してピクリとも動かなくなってしまった。
「仕方ないさ、女同士は普段の情報収集で慣れていても男同士...それも主様同士だとこいつには刺激が強すぎた」
普段のカイを知るオメガは雑にカイを扱った。
「しかし」
「やっぱり」
「シャドシドはいいですね」
「シドシャドは素晴らしいな」
「は?」
「ん?」
ニューとオメガの間にピリッとした緊張感が漂う。
一瞬、睨み合うと
「聞き間違いですよね」
「そうだな」
頬を緩め、笑いあう。
『やっぱり』
「シャドシドですね」
「シドシャドだな」
「はぁ?」
「あぁ?」
「いやシャドシドでしょう?」
「シドシャド一択だろう?」
「は?」
「あ?」
古来より続くオタク同士の争い、カップリング論争。
例えば物語で男A、女B、女C、女Dがいたとする。
AB、AC、ADの3通りの組み合わせが誕生し、どの組み合わせが一番いいか争いになる。
ただしこれが
上記の組み合わせの他に受けと攻めで更に分けられる。
ABのカップリングだと攻め(A)と受け(B)を入れ替えたBAのカップリング、ACであればCA、ADであればDAと多様化する。
AとBという組み合わせ自体は同じでも受けと攻めの解釈違いで論争になる。
数え切れないオタク同士の絆を破壊したカップリング論争がニューとオメガの間で繰り広げられる。
「シドシャドも見ましたけど、どう考えてもシャドシドでしょう」
「お前こそ何を言ってるんだ?シドシャドだろう」
「お?」
「あ?」
「シャドシドでしょう?」
「シドシャドだろうが?」
「あぁ?」
「おぉ?」
今にも殺し合いを始めそうなピリついた空気に変わる。
カップリング論争で殺し合いに発展しそうになるのはこの世界ではシャドウガーデン位だろう。
「はぁ、いいですか?普段からシド様は目立たない様に生活されています、言い方は悪いかもしれませんが陰キャです、弱々しい感じのある陰キャです。
そしてシャドウ様は圧倒的力を持って君臨するお方です、支配者なんです。
どう考えてもシャドウ様が攻める側でシド様が受け側です。分かりますか?」
「お前こそ分かってないな。シャドウ様は支配者、そこは同意する。
だからこそシドシャドなんだよ。
弱々しい側を持っているのにも関わらず、恋人の前でだけ見せる攻めの魅力。
そして圧倒的力をもって君臨する支配者たる人間が恋人には強く出られず、されるがままになる。
表で見える関係と裏の関係のギャップの差がいいんだよ。
分かるか?だからシドシャドなんだ」
厄介オタク同士の自論がぶつかり合う。
途轍もない早口で話しあい、バチバチと火花が散る。
「起きましたか」
「ちょうどいいタイミングで起きたな」
バチバチにぶつかり合っているタイミングで、主人同士の
「貴方はどっちですか?シャドシドですよね」
「やっぱりシドシャドだろう?」
起きたばかりのカイにどちらがいいか問いかける。
「両方」
『はぁ?』
カイの答えはシドシャドでもシャドシドでもなく、両方。
どっちつかずの態度に2人は眉を顰める。
「両方とかじゃなくてどっちかですよ、そういうどっちつかずの態度良くないですよ」
「今はどっちが推せるかという話をしてるんだから両方とかはっきりしない態度は求めてないんだよ。どっちかなんだよ」
「どっちが推せるかとか私にはどうでもいいんだよ、私は両方なんだよ。私がどんな風に考えようが私の勝手だろうが、私はシドシャドもシャドシドも推せるんだよ。私の好みに口出すな」
「今そういう正論求めてないんですよ」
「はっきりしろよ」
「五月蠅い、私の好みに口出すな」
3人の間に殺伐とした空気が広がる。
「最早語る言葉はなし」
「後はこれで決める」
「私の趣味嗜好に口出すな」
最後の手段、実力行使に移る為に得物を構える。
語るべき言葉は全て語り尽くした、ならばもう力でしか語れない。
貴腐人の争いは机上から力での争いにステージを移した。
「シャドシドこそ至高」
「シドシャド以外に道はない」
「両方美しいんだよ、どっちがいいとかごちゃごちゃ五月蠅い」
「どっちかつかずの優柔不断が」
「見損なったぞ、お前とはどうやらここまでのようだ」
「鬱陶しい馬鹿どもめ、私が分からせてやる」
『ぶち殺したらぁ!!』
無法都市。
かつては3人の支配者がいたが、2人が消え今は残った白の塔の支配者ユキメが支配している。
無法都市の支配者ユキメは現在
「うぇぇ~~~ん」
大変困惑していた。
部屋でお茶を飲みながらゆっくりとしているといきなり窓がぶち破られた。
敵襲かと身構えると土煙の中から泣きながらシャドウが出てきて抱き着いてきた。
破壊音を聞いて駆け付けたナツとカナも頭の上に大量の??が浮かんでいる。
「シャドウはんどないしたん?」
泣きじゃくるシャドウの頭を撫でながら怖がらせない様に聞く。
「ベータが....ベータが酷いんだ」
「ベータが僕で
シャドウの魂からの叫び声を聞いて3人は固まる。
余りにも悲痛な叫び、しかし耳に入った内容は疑問を抱かざるをえなかった。
「しかもアルファとイプシロンがそれで『
シャドウの口から放たれた内容が余りにも衝撃的すぎて、脳の処理が追いつかずフリーズする。
処理が追いつきやっと現実を認識する。
「酷いことされるんだぁ」
ユキメはシャドウの耳を塞ぐ様に抱きしめ現状の確認をする。
「
「はい、男性同士のあれです」
「好意を寄せている相手で書く様な事ではないでしょう、馬鹿なんですかね。しかもそれを使って『
「言い過ぎやで」
「失礼しました」
確認してみても馬鹿らしいという感想しかでてこない。
ツッコミを入れようにも「何してんの?もっとやる事あるだろうが」としか言いようがない、それ以外でてこない。
本当にシャドウガーデンは一体何をしてるんだ。
「怖いようぅ」
改めてシャドウの顔を見る。
泣き過ぎたせいで目の周りが赤くなっている、瞳は潤んで恐怖に怯えているの表す様に揺れている。
(可哀想やなぁ)
(凄い可哀想)
(真っ赤になるほど泣いて...可哀想)
年頃のお姉さん達の母性本能が刺激されるくらいに可哀想。
本当に可哀想、とっても可哀想。
娼婦の仕事とか関係なく甘やかしたくなるぐらいに可哀想、現職の時でも金を貰わなくても甘やかしたくなる位には可哀想。
可哀想なのに、可哀想なはずなのに
とっても可愛い。
可哀想と可愛いは両立する。
これは日本最古の書物である古事記にも書かれている常識だ。
美少年が目が真っ赤になるほど泣きはらして、甘えてくる。
涙を流しながら胸元に顔をうずめて甘えてくる。
とてつもなく可哀想で可愛い。
「ぐすっ、怖いぃ」
強い男性が時折ぽろっと見せる弱さ。
所謂ギャップ。
年齢に似合わない強さと頭脳を持ち合わせているのにも関わらず、怖がる時は年齢相応の怖がり方をする。
その姿が胸を打ち、母性が溢れ出てくる。
とっても可哀想。
でも可愛い。
とってもとっても可哀想。
でも可愛い、とっても可愛い。
本当に可愛い。
とっても可哀想でとっても可愛い。
抱きしめて、甘やかして、溶けて無くなってしまう程に堕落させてしまいたくなる。
「怖かったなぁ、いっぱい泣いてええんよ。わっちらは怖い事なんてなぁんもせぇへんからなぁ」
「ぐすっ、えっぐ」
「我慢しなくていいんですよ、恥ずかしくなんてないですから」
「男の子だからって我慢しなくていいですよ、情けないなんてこれっぽっちも思いませんから」
「ひっぐ...ぐすっ」
胸元に顔をぐりぐりと押し付けシャドウは甘える。
「大丈夫よ、もうなんも怖ないからなぁ。ここにおったらなぁんも怖い事なんてあらへんよぉ」
ユキメは胸に埋める様にシドを抱きしめて柔らかい髪の毛を優しく撫でる。
両サイドからナツとカナが震える背中を撫でる。
ああ、なんて可愛いんだろう。
震えて可哀想なのに、とっても可愛い。
可哀想で可愛いシャドウ。
いっぱい甘やかして蕩けさせてあげる♡
いかがでしたでしょうか
しつこいかもしれませんが、あくまで分岐したifの話です
これで本当にBL編は終わりです
可哀想と可愛は両立する、これは真理