ヴァンパイアとアリス   作:獄華

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 半世紀前の戦いを共にした二人は久々に会った。


憧憬

 

 メキシコの熱砂が取り囲む空港の前にその老人は立っていた。

 若い頃から変わらぬ眼差しとその顔の傷は紳士になる前の食屍鬼街(オウガーストリート)を纏め上げていた若い頃の貫禄を彷彿とさせる。

 

 

 

 

 ロバート・E・O・スピードワゴン。

 

 

 彼はアメリカに渡り石油王となり巨万の富を築いたのだ。

 ……そして彼はある男を待っていた。

 

 

 「お久しぶりです。スピードワゴンさん。アメリカに渡り石油で大成功なされたとか」

 

 

 スピードワゴンより少し若く見える初老の男が連れの二人の男と東洋式の両手を合わせた挨拶をしてみせる。

 ディオと水銀燈の戦いに一緒に挑んだ波紋戦士ストレイツォ。

 スピードワゴンはストレイツォを待っていた。

 

 

 「いや、大した事は…。ストレイツォさんは相変わらず若々しいですな。とても同い年とは思えませんな。波紋法は生命のエネルギー!。いや羨ましいです!」

 

 

 

 スピードワゴンは自分の後ろにある小型の飛行機に乗るよう指示を促した。

 

 ジョナサンの死から約半世紀……時は移り世代も変わり亡き老師トンペティ、ダイアー、ツェペリの跡を継ぐストレイツォ率いる波紋の一派と石油王となったスピードワゴン。

 彼らはこれから同じメキシコであるものを見に行く。

 スピードワゴンが設立した財団の遺跡発掘隊によって発見されたある物。

 未だ世間には公表されていない、彼らしか知らないある物を……。

 

 

 

 

 

 「これから貴方が目撃する物は、それを見た瞬間…多分……いや、絶対に貴方の背筋に身の毛のよだつような恐怖の疼きを味わらせる事でしょう!。50年前ディオや水銀燈の戦いで体験したあのドス黒い気分以上の疼きを!」

 

 

 

 小型の飛行機から降りた一行は禍々しい空気が流れる遺跡の中を進んでいた。

 奥に近づくに連れ空気の流れが変わっていく。

 

 

 「おぉ……!」

 

 

 一行が辿り着いたのは不気味な柱が立ち並ぶ大広間だった。

 

 

 「遺跡の奥にこんな大広間が……!」

 

 

 

 あの日nのフィールドに連れられ少ししか相見えなかったディオ・ブランドーと人智を越えた力を持って攻撃を仕掛け三人を屠った水銀燈に匹敵するかのような悍ましさだ。

 驚愕するストレイツォに冷静を持ったスピードワゴンはライトを持って話を切り出す。

 

 

 「貴方を呼んだのは他でもない!。これです!」

 

 一際大きな柱をスピードワゴンは照らしてみせる。

 

 「こ、これは石仮面!。それもこんなにたくさん!」

 

 

 「それだけではありませんぞ」

 

 

 スピードワゴンがライトを動かすとその柱には石仮面を取り囲むように『男』と思わしき人間が掘られていたのだ。

 

 

 

 「こいつは!柱の男!」

 

 

 「ストレイツォさん!。貴方この生命体を知っているのか!?」

 

 

 「……うむ。『闇の一族』とも言われる種族だ。チベットの波紋戦士の伝承の中で語られてきたがまさか本当に存在していたとは……噂では彼らが石仮面を作ったそうだ……」

 

 

 「なんですと……!」

 

 

 ストレイツォの目はまるでUFOやチベットに伝わるイエティ(雪男)でも見たような雰囲気だ。

 波紋使いと柱の男……永きの戦いに於ける因縁の邂逅でもある。

 

 

 「柱の男……恐ろしい名前ですな……。調べた結果こいつにはアミノ酸がある…細胞がある…微妙ながら体温がある……脈拍がある!。生きているんじゃ!こいつは!」

 

 

 「……貴方も水銀燈の戦いの中で我が老師トンペティの言葉を聞いた筈……。『貴様……全ての生物と言う事は………柱の男の力も……』と言う言葉を……柱の男もそうだが至高の少女(アリス)の力も計り知れんな…」

 

 

 「だがストレイツォさん!水銀燈の時の我々は奴に対抗出来なかったが今は違う!。貴方をここに呼んだのはただ一つ!。こいつが眠っている内にこいつを波紋法で完全に破壊して頂きたい!ただそれだけですじゃ!」

 

 

 「スピードワゴンさん。申し訳ないがこいつらは柱や人工物と一体化し永きに渡り眠っては活動する種族……対生物能力の波紋は一体化してる奴等には無機質だから効かん。そんな事より、ジョセフ・ジョースターは元気かね?」

 

 

 「え」

 

 

 思わず素っ頓狂な声が出た。

 

 

 「彼は以前波紋で貴方を助けた事があるとか」

 

 

 「な、何故今ジョジョの話を……?」

 

 

 突然、ジョセフ……ジョジョの話をされてスピードワゴンは戸惑うがストレイツォはジョジョの話をやめようとしなかった。

 

 

 「聞いたのはジョジョが13歳の時の話だったか…。そう、確か身代金目的で君の飛行機がハイジャックされた時のエピソード」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ジョジョ13歳。石油王スピードワゴンを狙ったハイジャック犯が機内で銃を向ける中、スピードワゴンは痛め付けられ口から血を流し正に成す術が無い状況だった。

 そんな危機的状況にも関わらずジョジョは漫画を読んでいたが……。

 

 

 

 「おい小僧!こんな後ろにいるんじゃねぇ!前に行け!」

 

 

 ハイジャック犯の一人にジョジョは銃を突きつけられ前へ移動するように促されるがあろうことかジョジョは「ハァ」と溜め息を吐いたのである。

 

 

 「ハイジャックされたのはスピードワゴンの爺さんだろ?。一緒に居ただけの僕には関係無いね。ここで漫画読んでっからいいから気にせず勝手にやってくれ」

 

 

 シッシッ、とでも聞こえて来そうな感じで気怠そうにジョジョは手を動かした。

 

 「ナマ言うんじゃねぇ!ガキがぁ!」

 

 

 ジョジョを待ち受けていたのは銃の持ち手部分を思いっきり顔に叩きつける攻撃だった。

 鼻血を吹き出しスピードワゴンの下までぶっ飛ぶ。

 「ジョジョ!」とスピードワゴンは彼を心配したが……彼が攻撃を受けて流した血が……祖母エリナが買ってくれた服が血で汚れたのを見て恐怖する。

 

 

 (ま、まずい!。ジョジョは殴られた事よりもエリナさんに買ってもらった服が血で汚れた事を怒るタイプ!)

 

 

 ムッカァァとジョジョは立ち上がった。

 

 

 「落ちつくんじゃ!ジョジョ!」

 

 

 「お前ら!飛行機を乗っ取ったからには墜落するのも覚悟しての行動何だろうな!」

 

 

 ジョジョは攻撃されて吹き飛んだ事によりパイロットのすぐ近くにいる。

 そのままパイロットに波紋を流し込んだ。

 

 

 バリリィ!

 

 

 「なっ!。今のは波紋!」

 

 

 

 またやった……間違いなく波紋だ。

 祖父ジョナサン・ジョースターのような力は無いが、その孫ジョセフ・ジョースターは生まれつき波紋を使う事が出来た。

 危機的状況になると昔からジョジョは波紋を使う。

 ジョジョが波紋を使ったのを確認したスピードワゴンは「……これで何度目じゃ」と肩を落とす。

 波紋で気絶したパイロットが離れた操縦桿は当然下降し墜落し始めた。

 ハイジャック犯達が絶叫する中、ジョジョは座席を外し即席のシートを作る。

 

 「爺さん!。シートに包まって飛び降りるぜ!」

 

 

 「それしかなさそうだな……」

 

 

 ジョジョ達は無事地面へと降りられ、パイロットがいなくなった飛行機はハイジャック犯と共に墜落した。

 黒い煙がモクモクと上がっている。

 

 

 

 「相変わらず後先考えずに無茶する奴よ!」

 

 

 「考えているよ。少なくともエリナ婆ちゃんとあんたの命だけは守れる範囲内で。僕のたった二人の家族だもんな」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ジョナサンと顔はそっくりだが……性格は紳士と言うには程遠い奴。だがあいつはやる時はやる男です」

 

 

 「祖父ジョナサンから受け継いで生まれつき波紋呼吸法を身に付けているわけだ」

 

 

 「えぇ。しかし何故今その話を?」

 

 

 

 ストレイツォの方を振り向いた瞬間彼の周りに居た財団の職員二名と彼自身が連れてきた弟子達が血飛沫を上げて地べたに倒れた。

 

 

 「な、何を!?」

 

 

 「この物達は今私が殺した……そして君が死んだら当然ジョナサンの孫は悲しみ、怒り!、この私に恨みを抱くだろう」

 

 

 「スッ、ストレイツォ!ガハッ!」

 

 

 

 波紋戦士であるストレイツォの強力な蹴りがスピードワゴンの頭部を捉え彼を地面へと倒れ伏せる。

 他の者達のように自身も殺されるかと思ったスピードワゴンだが何とか生きていた。

 

 

 「ストレイツォ……血迷ったか?」

 

 

 「いいや。至って冷静だよスピードワゴン。私は肉体を鍛錬するために波紋法の道へ入った……。だが修行すればするほど自分の老いていく肉体がはっきり分かる!。情けない程にな。普通の人間よりほんのチョッピリ優れてると言うだけなのだ」

 

 

 ストレイツォは何処か懐かしむ様子で暗い遺跡内の天を見上げる。

 

 

 「波紋法でさえこの老いは止められん!。私は五十年前の戦いの時秘かにディオと水銀燈に憧れた……あの美しさに強さに……不老不死に!。特にディオとはほんの少ししか邂逅して無いが彼には魅せられた……。私も不老不死の力が欲しいと思った。アリスや吸血鬼のように!。他人を犠牲にしてもなぁ!」

 

 

 あろうことかストレイツォは柱の男の周りに付属してある石仮面を一つ手に取り顔に被った。

 

 

 「ネジ曲がったか……ストレイツォ……!」

 

 

 「私はこれから貴様の血で不死を手に入れる。そうすればこの世でこの仮面の事を知るのはエリナ・ジョースターとその孫ジョセフのみ!。アリスと化した水銀燈と真紅は行方知れずだからな……。二人を抹殺した後私はディオ以上に石仮面の謎を極められる!」

 

 

 「やめろ……石仮面にはまだ解いていない恐るべき秘密が!」

 

 

 ……スピードワゴンの忠告虚しくストレイツォは石仮面に血を塗り骨針を頭に食い込ませ慟哭を放ちながら吸血鬼と化していく。

 

 

 

 「エリナさん……ジョジョ……」

 

 

 スピードワゴンは最後に石仮面から眩い光を放つストレイツォを見て気を失った。

 遺跡の中ではただ一人ストレイツォの慟哭が響く……。

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