ヴァンパイアとアリス 作:獄華
手榴弾の爆発を受けても死ななかったストレイツォ。
しかし不死身とは言えジョジョが与えた傷の修復には時間を要していた。
不気味な唸り声を上げながらストレイツォは血みどろの再生中身体で壁にへばりついていた。
まだジョジョを追うには少し時間が必要だ。
「いくら不死身になったとは言え……。細切れになった肉体の修復にエネルギーを使い相当の疲労がある……!。おのれぇジョセフ・ジョースター……!」
パシャアンと先程めちゃくちゃになった喫茶店で眩いフラッシュがたかれた。
「やったわ!特ダネよ!もっと撮って新聞に売りつけてやる!ラッキー女性記者としてのデビューよ!」
スモーキーと同じく石仮面や波紋に関して何も知らない女性が呑気に写真を撮っている。
……女はストレイツォの存在に気づいていない。
この女を使えば自分が身体を動かす事なくあの狡猾なジョジョをおびき寄せる事が出来そうだ。
ズルルゥとストレイツォは壁をゆっくりと下り……破片を一つ砕く。
吸血鬼となった今彼の指圧力破壊度数は235kg/cm²
「な、何か動いたような……?」
音に反応した女は視線を上に向けるが既にストレイツォは……跳躍した後だった。
その跳躍力は4m22。
轟音と砂煙を上げ彼は着地した。
ビクリと女は身体を震わす。
「う、後ろに何かいるの……?」
――――――
「ハァ…ハァ。ここまで逃げてくればもう安心だろ」
スモーキーとジョジョは喫茶店からかなり離れた橋まで逃げて来ていた。
こんな異常事態の最中でなければデートスポットには持って来いなのに。
(もっともそんな彼女おいらにいねぇけど)
「いや、奴は必ず追って来るぜスモーキー。暫く休憩だ。呼吸も整えねぇと波紋も練れねぇ」
「波紋か。あのストレイツォって怪物倒す為にジョジョが使ってたのを見てだけど、おいらを助けてくれた時も使ってくれたよな」
「……スモーキー。お前の為を思って言うが波紋ってのは化け物を倒す為に生まれた術だ。波紋には深く関わらない方がいいぜ……ミイラ取りがミイラになったバカな波紋使いもいるしな」
「……重い因縁があるんだな。ところでジョジョ……。さっきから上着のポケットがさまるで心臓が脈打つみたいに動いてるんだが、動物でも飼ってんの?」
ゲッ!とジョジョは驚きの声を挙げた。
「金糸雀!もっと落ち着いて呼吸しろ!。まるで俺の心臓が飛び出てるみてーじゃねーか!」
(カナリア……?。ジョジョの奴鳥と一緒に行動するなんて中々洒落てるな)
と思ったスモーキーはジョジョのポケットから顔を出したその物を見て驚愕した。
「ぷはぁ!酷いかしら!ジョジョ!。乙女をこんな目に合わせるなんて!」
一般的なアンティークドールとほぼ同じ高さの人形がなんと表情豊かにジョジョと喋っているではないか。
しかも中々可愛いし、「こんな目に合わせるなんて!」と彼女は発した。
(こんな目にって……!マジかよジョジョ!)
「おいスモーキー!何で急にそんなつめてぇ視線を向けんだよ!」
「ジョジョ……。俺愛の気持ちは様々だと思うな。君がダッチワイ―――」
「違うわ!断じて違うわ!。こいつは……金糸雀は生きる人形。ローゼンメイデン何だ!」
「ローゼンメイデン……?」
スモーキーにとってまた新たに聞く単語である。
「初めましてスモーキー!。カナはローゼンメイデン第二ドール金糸雀かしら!宜しくね!」
「ス、スモーキーです!こちらこそ宜しく金糸雀……!」
明らかに金糸雀の可愛さにテレテレなスモーキーにジョジョは構う。
「何だぁ!スモーキー!。金糸雀に惚れちまったのか〜?」
「な、何言ってんだよ!。ただ可愛いなって思っただけだよ!」
「健全な男子ねスモーキーは、ところでお二人さん騒いでいるところ悪いけど……敵が来たわよ」
「あぁ。そうみてぇだなぁ」
吸血鬼ストレイツォは橋の工事作業員が移動する通路で、女と共に立っていた。
女の口に自分の指を射し込んでいるが何がしたいのか全く持って不明だ。
それが却って恐ろしい。
「た…助けてぇ……」
「うわぁ!追って来た!逃げろ〜!」
(あの近くにいるのは……間違いないローゼンメイデン第二ドール金糸雀。ジョセフの奴、祖父ジョナサンと同じくローゼンメイデンと行動を共にするばかりか今度はローゼンメイデンのマスターになるとは)
彼の目は遠く暗く離れた中でもジョジョの指に契りの指輪があるのを確認できた。
今こそこのジョジョを試すべきだ。
「この女は人質!お前が逃げればこの女を殺す!。だがここまで登ってくれば女は離す!」
「なぁに考えてんだオメー!俺はそんな女知らねーぜ!このタコ!」
「逃げようジョジョ!」
金糸雀は黙って聞いていた。
そして分かっていた。
『無意識の海』を通じジョジョがあの女性を見捨てない事を。
「私はお前を試す!。この女を見捨てて逃走すればその程度の男だと思い、私も肉体の疲労がある故もう貴様は終わん!スピードワゴンの復讐に来る男ではない……だがこの女の為、登って来るとあれば!それは貴様の性格を証明すると言う事!」
「んぅ!」
女の口に入れてる指を更に深くストレイツォは押し込んだ。
「将来のお前は私にとって非常に危険となる男だ!今直ちに全力を尽くし……貴様を始末せねばならん!5秒後にこの女を殺す!逃げるか、登ってくるか決めろ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ストレイツォの圧は尋常ならざるものだ。
彼は本気で殺るだろう。
だがジョジョは……。
「でーーーーっ。愛を誓い合った恋人ならともかくよォ。この俺がそんなブスの為に戦えるかバーーーーーカ!!」
(エリナが聞いたら泣きそうな台詞かしら……)
「殺し方はこのまま顎ごと口の先を引き裂く。そのまま一気に引き下ろし喉の肉と胸の肉を抉り取る」
「エッへッへッへ!チベットの波紋法の後継者共あろうお方がそんな女の子に酷いことするもんかい!」
ボギンッ!
「あぐっ!?」
何の躊躇いもなかった。
ストレイツォはその女の奥歯を取ると見せしめと言わんばかりにジョジョの前に飛ばした。
コォーンと奥歯が床に落ちた音と女の悲鳴が夜のニューヨークに響き渡る。
「奥歯が……女の人の奥歯が……!」
「この野郎!本当に引っこ抜きやがった!」
怒りでジョジョの目が震えだす。
「ストレイツォ!容赦せん!」
「テメェェェェェ!ストレイツォォォォォ!許さねぇ!」
あまりの怒りにジョジョは上着を引き千切る。
迷うことなく通路に跳び乗りストレイツォを指差した。
「テメェ!性根まで人間じゃねぇ!」
「惚けた男だがやはり激情の性格であったな!」
「頼むぜ金糸雀」
「お任せかしら!」
女を海に投げ出したがすぐさま金糸雀とその人工精霊ピチカートがキャッチして見せた。
これでジョジョは思う存分戦える。
「解体してやるッ!ストレイツォ!」
「RRRRRRRR……喰らえ!」
再び放たれた
今度は不規則な弾道を描きジョジョに迫るが彼は至って冷静だ。
「破る策はさっき思いついた。この俺に同じ手を使う事は既に凡作何だよ!」
ジョジョは咄嗟に出したグラスに波紋を流しストレイツォが放った空裂眼刺驚を跳ね返したのだ。
「何!?」
ジョジョの眉間を穿つ筈だった攻撃が自分の眉間を穿ちストレイツォの頭が少し吹き飛ぶ。
流石のジョジョももう一発は受け止められず自身の右肩を貫通した。
「そ……」
「「そんな!バカな!」……と言う!」
「そんな!バカな!」
「テメーの体液は波紋グラスで弾かれた!。眉間を狙って来るのは分かってたからなぁ!受けるのは簡単だったぜ!」
「こ、この…!」
「コォォォォォォォォォ!」
体制を立て直しこちらに近付くストレイツォを見てジョジョは波紋の呼吸をする。
「NUGAAABHAAA!」
彼の拳が黄金に輝いた。
「スピードワゴンに……地獄で詫びろ!」
今度は何物にも阻害されずジョジョの波紋を纏った拳はストレイツォを捉えた。
波紋がストレイツォの顔を溶かす……。
「今夜からは安心して眠れるぜお祖母ちゃん」
波紋傷が広がる中ストレイツォは落ちまいとまたも手を橋に張り付かせるが……手榴弾で身体をバラバラにされた時よりも威力は小さいのに太陽と同じ効果を持つ波紋の方が、体感的な痛みは上だった。
「ぐ、ぐぅ……」
ガシィ
敢え無く手が離れ川に落ちる寸前でジョジョが腕を掴む。
「何故私が落ちていくのを止める……?。お前の片腕を吹っ飛ばす力が残ってるかも知れないのだぞ」
「やってみやがれそんときゃ。もう一つの腕でテメェをぶん殴るだけだ。一つ聞きてぇ。何故わざわざスピードワゴンの遺体を川に捨てた!。どうもスッキリしねーぜ!」
ジョジョの疑問にストレイツォはニヤリと笑った。
「ジョセフ。やはりお前はジョナサンの血統を受け継ぐ男……表面上の態度はまるで違うがやはり謎や冒険に首を突っ込む性格!そしてその性分故に最早逃れられない運命に今踏み込んだ事を告げておこう」
「っ!?。何のことだ?」
「今に分かる!『柱の男』の事を!今に出会う!『柱の男』に!。チベットの波紋使いの間でも代々恐れられて来た!『闇の一族』に!」
「テメェ!わけの分からん事を振るんじゃねー!」
「死体を川へ捨てたのは柱の男のせいだ。柱が死体の流れる血を吸い始めたのだ……!植物が養分を吸収するかのように!不気味だった……だから外へ運んで捨てたのだ!……だがもうすぐきっと目覚めるだろう!奴の二千年の眠りからな!」
コォォォォォォォォォォ。
1つの波紋の呼吸が始まった。しかしそれはジョジョではない……吸血鬼になったストレイツォの波紋の呼吸だ。
「ジョセフ……近いうちきっと彼に会うだろう!きっと分かるだろう!柱の男の正体と生物進化の意味が……!神が定めた運命のように!」
ストレイツォの身体から眩い光が溢れると同時に波紋傷が至るところから発生していく。
「吸血鬼の肉体で波紋を……!。死ぬ気かテメェ!」
「私は後悔していない。醜く老いさらばえるよりも一時でも若帰ったこの充実感を持って地獄へ行きたい!若帰った事は我にとって至上の幸福だったぞ!」
ストレイツォ自身が編み出した波紋が吸血鬼の彼の身体を破壊し眩い光が放たれる。
「待て!ストレイツォ!まだ話を……!」
「さらばだジョジョ!」
掴んでいた彼の腕が波紋で消えた。
ストレイツォは眩い波紋の光の中で消滅したのだ。
「ウォォ……」
それはやるせなさからか。
「オォォォォォォ…!」
悔しさからか。
「ウォォォォォォォォォォォォ!」
ジョジョはゴリラのように自分の胸を拳で叩いた。
「ジョジョ……」
「スモーキー。今はそっとしてあげた方がいいわ」
「う、うん」
先程までは同年代の女の子と話すような感じだったのに、今の金糸雀はまるで子を諭す母のような穏やかな話し方にこの時スモーキーは奇妙な感覚を覚えた。
(波紋に吸血鬼に柱の男……。確かに人の人生は喜劇そのものかも知れないわね。水銀燈)
ふと思い出したローゼンメイデン第一ドール水銀燈。
彼女は今何をしてるのだろうか?。
非常な現実は何故か金糸雀に姉を思い起こさせた。
エリナから彼女が共にアリスとなった真紅と最後にnのフィールドに向かうまでのあらましは何度か聞かされている。
ジョースター家の右手右足を失いローザミスティカを真紅に託し動けなくなった蒼星石も、ディオがジョセフの祖父ジョナサンの肉体を奪うよう手助けしたのも水銀燈だ。
(水銀燈……私達の姉妹の絆は無くなったのかしら。第一ドールと第二ドールの私達は話す時間が他の子達よりも多かったのに、くだらない話しをしたこともあったのに貴女は変わってしまったの水銀燈?)
水銀燈には複雑な思いがあるが今の金糸雀のマスターはジョセフ・ジョースターだ。
もしも水銀燈と敵対するような事態になっても彼を支えるしか金糸雀には道はないのだ……。