もしも第一部にアナスタシアを最初に召喚したら略して『ぐだアナ』 作:388859
翌日、明朝。
藤丸はマシュと共に、管制室に足を踏み入れた。
昨日までのややゆったりした雰囲気と比べ、管制室は慌ただしい。スタッフ達が機器の点検から、第一特異点の観測は勿論、更には特異点攻略の要点を何度も確認、抜けがないかしらみ潰しに探している。
「……なんか医療ドラマの現場みたいだ」
「特異点攻略は私達にとって二度目ですが、ほとんどの方が初でしょうから。それだけ皆さん、ベストを尽くそうとしているんだと思います」
そう言えば特異点Fのときは、レフの爆弾によってカルデアは壊滅的な打撃を受け、建て直すだけで精一杯だったっけ、と藤丸は思い出した。ならさぞ緊張するだろう。
この特異点攻略に、世界の命運が懸かっている。であれば、最善を尽くすのは何ら不思議なことではないが……やはり、ここまで緊張感が高まっていると、背筋が嫌でも伸びた。
と、二人を見つけたロマニが持ち場を離れ、駆け寄ってきた。
「あぁ藤丸くん、マシュ。おはよう。調子はどうかな?」
ほにゃ、っとした柔和な笑顔。いつもと変わらない彼に、藤丸は少しだけ気持ちが軽くなる。
「おはようドクター。正直ちょっと寝不足気味かも。昨日は寝付けなくて……」
「私もです、ドクター。一応しっかり八時間寝られるよう調整したのですが……」
「まあ仕方ないよ。突発的に放り込まれた前回と違って、今回は自ら飛び込むんだ。それに君達は唯一現場に行くわけだからね。その恐怖を呑み込め、だなんて言わないさ」
カラカラと笑っているロマニも充血している。どうやら緊張しているのは二人だけではないらしい。
「よし、それじゃあブリーフィングを始めよう。こっちだ二人とも。もう既にアナスタシアが待ってるからね」
「え?」
ロマニについていくと、カルデアスの前でダ・ヴィンチとアナスタシアが待っていた。今朝迎えにいったときは既に部屋にいなかった為、ちょっと悲しい気持ちになったのだが。
自然とアナスタシアと並ぶ形に立つと、藤丸は少しどぎまぎしながら、
「……おはよう、アナスタシア」
「……ごきげんよう、マスター」
「!」
思わず顔ごとぐりん!、と動かして、アナスタシアを見るが、彼女は依然として無表情を貫いている。
しかし確かに聞いた。アナスタシアと言葉を交わした。会話をした。藤丸にとって、これはとんでもない進歩である、間違いなく。
「おお……! やるじゃないか、藤丸くん。マシュという後輩がいながら隅に置けないね、君も!」
「ダ・ヴィンチちゃんの含みのある言い方はともかく。よかったですね、先輩。挨拶を交わすという仲良し計画第一歩、ひとまずクリアです」
「会話、なのかなあ……? いや、まあ会話ということにしておこう。僕だってほら、会話という会話はあんまりしてないし……」
とにかく、とロマニはブリーフィングを開始した。
「今回攻略する特異点の時代は中世、舞台はフランス。百年戦争の休止期間となるそこで、歴史を根底から覆す歪みが起きている」
地図、そして年表をポップアップさせ、ロマニはそれぞれに触れていく。すると触れた箇所から波紋が広がり、それらは燃え上がっていく。
「本来の歴史において、人類のターニングポイントとなる出来事。それが覆され、枝木を折るように分岐した世界。これが特異点……というところまでは、理解出来てるね、藤丸くん」
頷く。魔術なんぞ知らぬ存ぜぬの一年生ではあるものの、藤丸もそれは理解した。
「君とマシュにやってもらうのは、その特異点の調査、そして修正だ。ここでポイントになるのは、各特異点には発生するための核があるってこと。つまり、その核となるもの、聖杯があるままじゃ例え特異点を修正しても消えない。回収までして、初めて人理を修復出来るってわけだね」
聖杯が何かは正直藤丸は理解していなかったが、ロマニ曰く『願望を叶える電池みたいなもの』なんだとか。サーヴァントも叶えたい願いがあるからこそ、魔術師に付き従う道を選ぶらしい。
……となると、アナスタシアにもあるのだろうか。誰かに媚びてまで、叶えたい願いが。
「さて、じゃあ次に攻略についての注意事項だけど……まあ、ここ一週間で説明してきたからもう耳タコになるかな。ま、改めて確認しておこうか」
地図と歴史を消し、ロマニが次に映像として出したのは、七つの点だ。
「あくまで今回の特異点は、始まりに過ぎない。僕らカルデアが攻略すべき特異点は、現時点で七つ。確かに今回の攻略は、今後の指標にもなるものだ。だけど、ここで燃え尽きたって意味がない。それではこの先がないし、特異点がこれ以上増えないとも限らないからね」
そう。
勝っても、これで終わりじゃない。ならば、
「絶対に無理はしても、無茶はしないこと。特に藤丸くん。君は多分、最前線でいながら、立っていることしか出来ないという状況に何度も直面するだろう。しかし、そんな状況であっても、誰かの盾になろうだなんてことはしないように。厳しいことを言うけど、君に代わりはいないし、何より君が命を投げ出したところで、何かを為せるとは限らない。むしろ、君を失えば我々は唯一の命綱を失うことになる」
だから、
「何があっても、生き残ることを考えてくれ。所長代理として君に望むのは、それだけだ」
「……はい」
生き残れ。それは今まで言われてきた言葉より、よっぽど重くのしかかった。
思い出すのは、やはりオルガマリー。ただの人間でありながら戦闘に参加していた彼女ですら、あっという間に死ぬような激戦区。
そこでアナスタシアがす、と人形から片手を離し、挙手をした。
「質問があるのだけれど。いいかしら、ドクター」
「え? あぁうん、何かな?」
「敵はどんな姿をしているか聞いても? 見つけたらすぐに凍り付けにしようかと思ったのだけど」
物騒な物言いにぎょっとする藤丸。彼だけではない。ダ・ヴィンチ以外の全員が、アナスタシアの言葉にたじろぐ。
「そ、そうだね……流石にレイシフトしてから確認してみないことには、何とも。それにいきなり襲っちゃ情報も聞き出せないし、そもそも敵かも分からないからほら」
「そうですか。では、そちらの指示があり次第凍らせますが、よろしくて?」
「いやいやいや話聞いてた!? ほら、なるべく消耗したくないし、最短で攻略するにはやたらめったら攻撃するのは得策じゃないんだってば!?」
「どうせ全て凍らせるんです、後でも先でも同じことでしょう」
……色々気になるが。ともかく藤丸は、一言だけぶつけてみた。
「何をそんなに焦ってるんだ、アナスタシア?」
「……………………」
たっぷり一拍ほど開けた返答は、我に帰るという表現が正しかった。
「………………いえ、別に」
「そう? 俺にはうずうずしていたように見えたからさ。気合い入れてくれるのは嬉しいけど」
「ごめんなさいマスター、はしたない真似をしてしまって。私、少し舞い上がっていたみたい」
「ん、そっか。ならいいんだ。でも出来れば、余り置いてけぼりは止めてほしいかな。ほら、君やマシュがいないと、俺はおろおろしちゃうからさ」
「……はい、マスター」
「うん。じゃ、特異点でもよろしくね」
手を出してみたものの、ひらりとかわし、アナスタシアはブリーフィングから抜け出してしまう。
危なかった……気がする。室内の気温が下がったのも、冷気だって幻覚ではないだろう。
「……握手までの道のりは、長そうだなあ……」
「おぉ……見事な手綱だったよ、藤丸くん。自身の立場を上手く利用した対応だった! 生きた心地がしなかったよ僕は!」
「あんまり褒められた対応じゃなかったと思うんですけどね……気を付けないと」
レフ・ライノールを凍らせる、ではなく。彼女は敵を凍らせると言った。
一見それは、戦いたくてたまらない戦闘中毒者や、それこそ物語の英雄のようだが、アナスタシアは違う。
「ねえ、マシュ」
「どうしましたか、先輩?」
「アナスタシアって、本当にただの皇女なんだよね?」
「はい。史実が正しいなら、そのはずです。しかし彼女は現に氷を操る魔術を使い、使い魔まで所持しています。彼女にそんな逸話はないはずです」
「やっぱり引っ掛かるよね……」
彼女はただの皇女だ。そこに武勲も、然したる功績もない。あるとすれば、それは単なる悲劇の被害者という、物語性だけ。
そして物騒なのは、言動だけではない。
あの瞳。初めて見たときはあんな、青空のように綺麗に見えたそれが、凍りついて、感情が消え失せていたのだ。意図的に封じ込めた結果、それが言葉として出てしまっていたかのように。
つい昨日まで、マスターとされる少年を無視し続けたということを抜きしても、好戦的過ぎるし、何より異常なまでの敵意。全て繋がっているのだとすれば、彼女を駆り立てる何かが見えてくるのだろうが。
「……うーん、分かんないや」
「だよねえ。まあ、彼女の力はかなり強力だ。それに特異点攻略には誰よりも精力的みたいだし、アテにしていいと思うよ」
ロマニの言う通りだ。今はお互い何も知らない。なら、いちいち探っていく方がむしろ失礼だ。
「よし、じゃあブリーフィングを続けようか」
サーヴァントなのだし、大丈夫だろう。
このときの藤丸は、そう考えていた。
意識が溶けて、真っ白に染め上がる。
レイシフト。平たく言うと時間旅行?とか何とからしいそれは、ぶっちゃけSF映画にそこまで詳しくない藤丸では何がどう起こってるか分からない。
ただ。
それは夢へ誘うように、あるいは空を自由落下するかのような強風が今も吹き付けていることだけは、分かった。
「ん?」
目を開けば、広がるのは一面の青空。と、豆粒みたいに見える地面と草原。
まさに今。藤丸は、落下していた。
「う、お……!?!?」
レイシフトは成功した。確かに。だがこれは予想外だ。
特異点攻略に向け、色んなシミュレーションをしてきた。撤退戦、防衛戦、その他諸々。一通りはこなしたはずだ。
だが、これはない。微睡みから覚めれば頭からまっ逆さま、吹き付ける風で頬が波打つなんて体験は初めてだった。
「せ、先輩!」
近くからマシュの声。五メートルほど離れた地点で同じく降下中の彼女も、さーっと顔を青ざめさせて、
「お、落ち着いて! 落ち着いてください! 大丈夫です、私が受け止めますから!!」
「ほんとに!? 結構距離離れてるけど!?」
「はい大丈夫です!! どんとこいです!!」
大丈夫ではなさそうだなあと考える暇もない。足をばたつかせて、少しでもマシュに近づき。
「その必要はないわ、マスター」
「は?」
直後だった。
つるん、と。
何やら冷たいものに、うつ伏せで乗り上げた。
「べばぁ、!?」
それは、氷で作られた滑り台だった。明らかに自然に作られたものではないそれの上で、勢いよく藤丸は滑っていく。目を凝らせば、側で上品に自由落下しているアナスタシアがこちらに手をかざしていた。
(助けてくれたのか……!)
なんだかんだで会話してくれたり、助けてくれたり、案外ちゃんとサーヴァントやってくれるんだ……と思ったのも束の間、ふと藤丸は思った。
おや? この滑り台、どう降りればいいのだろう?
「……あれ……?」
まるで冷凍マグロみたいな格好で滑る姿は間抜けだが、まだ地上まで距離がある。しがみつこうにもつるつるしていて止まることも出来ない上に、滑る速度は加速度的に上がっていく。
それこそ、車のボンネットに張り付いたカエルみてぇな感じで。
「お、オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!? た、助けて誰かああああああああああああああああああああああっっ!??!」
「あら。落下してるあなたを助けてあげたのに、その言い草はないんじゃないかしら?」
「わざとだろ!? 君わざとでしょ!? いいから早く降ろしてくれぇ!!」
「了解マスター。気を付けていってらっしゃい」
瞬間。すぽーん、と身体が浮かんだ。
あっ……これ知ってる。落下してる奴。
「ひああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?」
浮遊感はたっぷり五秒ほどだったか。放物線を描きながらくるくると回った藤丸の身体は、そのまま藁の塊にずぼ、と突っ込んだ。
「せ、先輩!? ご無事ですか!? フォークみたいに刺さって、こう、物凄くドラマチックな格好になってますが!?」
「……お、面白いってハッキリ言ってくれた方が、心は痛まなくて済みますぅ……」
「……、」
横で頬を膨らませたまま震えるアナスタシアに、疑問符を浮かべながら、マシュは藤丸救出に向かう。
が、不幸は更に連鎖する。
「おい、こんなところで何をしている!」
金属性の鎧をガチャガチャ言わせて現れたのは、まさに中世の騎士、といった一団だ。現地住民か、と藤丸達は早速登場した情報源に色めき立つが、その前にリーダーっぽい人がこう言った。
「藁に頭から突っ込むなど怪しい奴め! 取り押さえろ!!」
「はい!?」
何故!?、と藤丸は思ったが……変な格好した奴らが藁で遊んでいたら、業務に真面目な兵士?達は事実聴取の一つもするだろう。
だが勘違いは困る。焦った藤丸は下半身をくねらせて身の潔白をジェスチャーした。
「あの、怪しくないですよ!? ただ遊んでるだけなので!! はい!! 本当です!!」
「尻だけ丸出しの男よ。お前が何を言っているか知らんが、今は非常時。事情はちゃんと顔見て話すからこっちへ来い」
何故一歩目からこうなる。フランスにレイシフト出来たかも分かっていないのに、いきなり現地から変な奴扱いなんてことあるか? ないだろう。
すると、アナスタシアがぼそ、と呟いた。
「……面倒ね。凍らせようかしら」
「だから!! 凍らせるの禁止って言ってるでしょ!? 血気盛んが過ぎない!?」
「凍らせる……? やはりさっき空にかかった氷の道はお前達の仕業か!! 一体何者だ!!」
「もー何言っても不利にしかならないよぉ!!」
うわーん!、と藤丸が藁の中でパニックに陥り、マシュとアナスタシアが臨戦態勢に入る。最早激突は避けられない……そのときであった。
けたたましいアラート音が、藤丸達から鳴り響いた。
「な、なんだ……!? 何でこんな何もないところで鐘の音が……!?」
「すまない、レイシフト直後に! 早速緊急事態発生だ!」
慌てている現地民(騎士)さん達は置いておいて、ロマニが状況を報告する。
「南西の空から、こちらへ向かってくる飛行物体多数! ゴーストの類いじゃない、統率の取れた獣の群れだ! すぐにそっちに来るぞ!」
藁から脱出した藤丸が、急いで南西の空に目を凝らす。すると黒胡麻のような点が、徐々に黒い波となっていく。
光沢のある鱗に、ぎょろりとした瞳、そして空を掻く大翼。
それを形容するのなら、
「ど、ドラゴン……!?」
「いや、アレは完璧な竜種じゃない。恐らくはその亜種であるワイバーンだ!」
どちらにせよ、あんなものが十五世紀のフランスにいたわけがない。これこそ、人理を焼却した敵の尖兵か。
「不味い不味いっ、撤退だ撤退! 急げ、火を吐かれたら一巻の終わりだぞ!」
フランス兵達がワイバーンを見て、武器すら投げ捨てる勢いで逃げ回る。それでどれだけの脅威かは、推し量れるというもの。
しかし退かない。こちらは単なる兵士ではなく、戦略兵器にも匹敵するサーヴァントがいる。
「マシュ!」
「はい、分かってます。私がワイバーンを引き付け、アナスタシアさんがそれらを一網打尽……ですね。訓練でやった通りです」
流石は冬木を乗り越えただけあり、緊急事態への対応も早い。マシュが円盾を構え、走り出そうとしたときだった。
アナスタシアが一歩、前に出た。
「……アナスタシア?」
「マシュは下がっていてくれる? マスターも、私より前に出ないで」
「ですがアナスタシアさん、それではあなたが無防備に」
「心配は無用よ、だって」
アナスタシアが、常時持ち歩いている人形を撫でる。
「全部凍らせるもの、わざわざ前に出る必要もないわ。ね、ヴィイ?」
瞬間。想像を絶する冷気が、フランスの大地に轟いた。
緑の草木も、茶色い藁も。その全てを、白雪が覆い尽くしていく。アナスタシアから吹き荒れるそれは最早ただの魔術ではなく、災害のそれだ。
「ヴィイ、お願い」
胸に抱えた人形、ヴィイが青白く光る。術者の願いを受諾し、その足下から黒い影がせり出してくる。
そこで藤丸はアナスタシアが何をしようとしているのか分かったものの、余りの豪雪に立っていられない。その全てを拒絶する絶対零度は、まるでアナスタシアと自分を分け隔てる世界。
「全てを呪い殺し、奪い殺し、凍り殺しなさい」
ウサギにも似た長い耳を持つ、影の巨人。巨人の青白い魔眼がワイバーンの群れを捉えると、周囲に拡がっていた冷気が指向性を得た。
「魔眼起動、疾走せよ」
空を飛ぼうと関係ない。この精霊の瞳が開いている限り、視界に入った瞬間その命はもう握られている。
それこそは、アナスタシアが唯一持つ魔術師としての業。死の間際に契約した精霊、ヴィイの力を解放したそれは。
「
フランスの空を、ロシアの北風が席巻する。たかがドラゴンの亜種に、それを耐えられるわけがなかった。
宝具、
「え、エネミー反応、全ロスト……マジでか……」
ドクターの驚きは最もだ。逃げ遅れたフランス兵や、マシュも藤丸ですら、その行動には口が塞がらない。
「……翼があるから、鳥みたいなものでしょう。極寒で羽ばたけるほど、私の国は暖かくないわ」
アナスタシアが白く吐息を漏らし、すっと己がマスターへ向き直す。
藤丸は宝具の余波で動けなかった。礼装で耐寒はしていたが、先程のそれは優に礼装の機能を貫通していた。
だがそれを差し引いても、藤丸は動けそうにない。
話しかけられて、少しは距離が縮まったと思っていた。だが今の宝具を発動したときの彼女の目は、藤丸の知らない感情があった。
憎悪。まるで親の仇を前にしたような、誰かを殺しても消えないマイナスの炎が、アナスタシアの瞳にはあった。
「すみません、マスター。手早く済ませようと宝具を無断で使用しました。許してくださる?」
「え?……あ、いや、……」
頷こうとしても、冷えた体は震えてそれすら出来ない。そうだと信じたい。決して彼女に恐怖を抱いているわけでは。
「許してくださる?、じゃないだろ!? いきなり宝具をぶっぱなすなんてどうかしてるぞ、君!?」
「はい、その通りですドクター」
そう大声で怒鳴り散らしたのは、ロマニだ。
そして同意したのは一人だけではない。マシュは警戒を解かずに、
「今のエネミーは、確かに未知の相手でした。しかし宝具はそんなに乱発していいものではありません。カルデアからの補給もままならない上に先輩を巻き込めば、リスクの方が圧倒的に大きい。正直に言って、今の行動は理解しかねます、アナスタシアさん」
「そもそも今のは多分雑兵だろう。それをスマートに退けられないようじゃ、この特異点攻略は夢のまた夢なんだ」
流石に正論を二人からぶつけられては、アナスタシアも謝るしかないらしく。
「……そうね。確かにそう。改めて謝罪します、マスター。勝手な真似をしてしまって」
溜飲を下げたからか、アナスタシアは素直に頭を下げた。藤丸もそこに追い討ちはしない。
「……、うん。まあ済んだことだから」
「ええ、済んだことよ」
「君が言うな君が!? 藤丸くんがそうやって甘やかすからだね……!」
「いいんですよ、ドクター」
頭を下げるアナスタシアに、ロマニが説教を垂れようとするが、藤丸は頭を振る。
「アナスタシアは何もムカついたからとか、そんな理由でこんなことはしない。彼女も世界を救うためにここまで来てくれたんです。それらを考えても優先した結果がこれなら、俺は何も言いません。というか、彼女も理由は言いたくはないでしょうから」
「だけどこれは……!」
ロマニが食い下がろうとしたが、そこで藤丸達は異変に気付いた。
戻ってきたフランス兵達が、無言でこちらへと武器を向けていたのだ。
それも当たり前か。あんな現象を起こせる人間を目の当たりにして、警戒しないわけがない。
「しまった、今の戦闘で怖がらせてしまったのか……!? 不味いぞ貴重な情報源なのに!」
「落ち着いてください、ドクター。私達はあくまでワイバーンを殲滅しただけです。危害を加えようとしたわけではないと証明すれば……」
「別に彼らに話を聞かないといけないわけではないのでしょう? ここを離れてもいいんじゃないかしら」
「一応言っておくけど君のせいだからね、アナスタシア。いや最もな意見なんだけども」
思わず藤丸は突っ込んだものの、さてどうしたものか。ここで誤解を解いておかないと後々大変なことになりそうだが……。
「お待ちください」
まるで水面に響くような、清廉な声だった。
全員がその声に反応し、視線を向ける。すると、フランス兵達から驚きの声が上がった。
「ま、まさか……!?」
「どうやら何か行き違いがある様子。この異常事態で気が逸る気持ちは理解出来ます。しかし、武器を向ける相手をよくご覧になってください。特に、フランス兵の方々。あなた方には、彼らが悪行を行う不貞の輩に見えますか?」
「……あの、あなたは?」
マシュに問われ、声の主、旗を背負った少女は高らかに名乗りを上げた。
「我が名はジャンヌ・ダルク。このフランスを救うべく馳せ参じた、一人の人間です」