「柘榴、答えは決まったかい?」
どこか優しげな声色の少年が俺に問いかける。
「──ああ、決めたよラウルス」
彼の問いかけに俺は意を決して口を開く。冬空の草原の静寂の中、俺の声が空に響く。
「じゃあ、聞かせてもらおうかな。君の選択を」
人生は選択の連続である。
かつてどこかの作家が自作でそんな言葉を書いたらしい。
確かにその通りだと思う。まだ15年しか生きていない俺も、常に選択を迫られている。
そして、あの時こうすれば良かった、選択を間違えたなどといつも思うことになるのだ。
思うに、選択とは後悔をしたものの方が印象に残りやすい。選択が正解だったと自分で思うなんてことは滅多にないのである。
そうして記憶には選択を誤った瞬間ばかりが蓄積されていく。
──だが、それでも。選択しないと未来は掴めない。
後悔をするとしても、そのリスクを取らないと未来は変えられない。
だから、俺は決意する。
「──例え今の平穏を失うとしても、俺は真実が知りたい!!」
──その選択が何をもたらすかも知らずに。
「ざっくん、おはよー!!」
2101年の1月のある朝、学校に向かうべく目を擦りながら家を出た俺に呼びかける小柄な少女。正月が空けて今年最初の学校だと言うのに彼女はとても元気だった。
「おはよう、玉姫。朝から元気過ぎないか?」
「だって、ようやく学校だからね! みんなにずっと会えなくて寂しかった~! ざっくんとは毎日会ってたけど!」
そう言って表情をコロコロと変える少女。彼女──
幼い頃に両親を亡くした俺のことを心配してか、冬休み中も毎日家に押しかけてきた過保護な性格をしている。とっくに身長も追い抜いて、妹に間違われそうなほど小柄な彼女は俺に対してお節介な姉のように振る舞うのだ。
「別に俺ももう高校生だ、玉姫に面倒を見てもらわなくてもやっていけるんだけどな」
「あー、そういうこと言うんだ! ざっくんは1人だとご飯もちゃんと食べないって、たま知ってるんだからね!」
「別に食事なんて、栄養補給にさえなっていればなんでも良いだろ。お前は過保護すぎるんだ」
「もー、またそういうこと言う! やっぱりざっくんをほっといたらダメだね! たまがちゃんと見てないと」
「俺にそんな構わなくて良いんだぞ、玉姫だってそんな暇じゃないだろう」
「も──!! ほんとに分かってない!!」
そう言って彼女は口を膨らましてそっぽを向いてしまった。
──実の所を言うと、彼女の世話焼きな側面には助けられている。彼女の言うとおり、俺は1人だと食事をするのも面倒くさがってしまう性格だ。
だが同時に、こうも思うのだ。俺は彼女を、玉姫を縛ってしまっていないかと。幼い頃に両親を亡くして孤独になってしまった俺をほっとけないという理由で助けてくれた彼女を、俺に縛り付けてしまっているのではないかと。
ありがたいと思っているからこそ、彼女には自由でいて欲しいのだ。俺のせいで可能性に蓋をして欲しくない。だからこそ素っ気ない態度をとっているところもある。分かってないのはどっちだという話だ。
「朝から騒がしいね……もう少し静かにできない?」
そんな俺たちに声がかかる。後ろを振り返ると、俺を軽く見下ろす視線で少女がいた。
「なんだ、藍か。気にしないでくれ、玉姫のいつものお節介だよ」
「ざっくんのわからず屋! そんな言い方しなくても良いじゃない! それと、あいちゃんおはよう!!」
「おはよう。玉姫は初日から元気だね、ぼくは朝からそこまでテンション上がらないよ……」
「安心しろ、藍。それは俺もだ。玉姫が元気すぎるだけだろう」
そう言って俺はやれやれと言った表情で隣にやってきた少女──
彼女も俺と玉姫の幼なじみであり、小学校の頃からの付き合いである。
「だいたい柘榴が余計なこと言ったのが悪いんだろうとは思うけど、朝から元気すぎるのは同感。まあ、そこが玉姫の良いところだとぼくは思うけどね」
「あいちゃん優しい! やっぱりざっくんが余計なこと言って心配かけるのが悪いんだよ!」
「分かった分かった、俺が悪かったよ。これでもいつも面倒見てくれる玉姫には感謝してるんだ。これでいいだろ?」
「一言余計! ほんとざっくんはヒネ過ぎだよ!」
「今のは柘榴が悪いね、もっと素直になれば良いのに」
俺たちはそんな他愛のない話をしながら学校に向かう。何気ない日常の1ページ。そう言える日が今日も始まるのだと思っていた。
「──?」
「玉姫、どうかしたか?」
そんなことを考えていた瞬間、玉姫が不思議そうな表情をして振り返った。珍しい表情だったので彼女に何かあったのかを尋ねる。
「いや、今見慣れない雰囲気の男の人がいた気がしたんだよね。なんかこの街では見かけない感じだったような?」
「なんで疑問形なんだ……俺には全くそんな姿見えなかったけど……藍、お前は?」
「ぼくも気づかなかったな、どんな感じの人?」
「なんか髪が長くてすごくスラッとした感じだった……かな? なんかたまの方を見てた気がする」
「確かにそれは目立つかもな。でも少し気になるな……何者なんだ……?」
「今考えても仕方ないでしょ、それよりそろそろ電車乗らないと。遅刻しちゃうよ」
謎の男のことは気になりつつも、俺たちは藍に急かされて駅へと向かうのだった。
俺たちの住む街、
玉姫が言う通りの人物がいるのであれば、全く認知されていないということは無いだろう。何か嫌な予感がする……
「おはよう」
「あ、おはようございます。生徒会長」
他愛のない会話に応じつつ、考え事をしながら歩いていると気づいたら校門前にいた。
「万能の男」なんて大それた渾名で呼ばれている彼は、その名に恥じない程非の打ち所のない振る舞いを見せている。
自分とはタイプが違いすぎて、今後自分が関わることは無い。そう思わせるだけの威厳がある人であった。
「澪谷くん、大丈夫か?」
「すみません、少し考え事をしていただけです。お気遣いなく」
考え事をしていたのを勘づかれていたらしい。本当によく気が回る人だ。
これ以上会話をしたくないというのもあり、俺は会話をすぐに切り上げてその場を離れる。
「ざっくん、愛想無さすぎ!」
「別にいいだろ、あの会長のことあまり得意じゃないんだ」
「だとしてもあんな避けるような言い方は良くないよー! たまから謝ったけど、次はちゃんとしてね!」
「はいはい、分かってる」
玉姫を適当にあしらって教室に向かう。後ろでぶーぶー言っている声が聞こえるがスルー。過度に目立った行動もせず、ただ日々を生きる。それで良い。
──市の研究施設で働いていた両親が実験中の事故で無くなってから、俺は空っぽだ。生きる意味も見い出せず、かと言って死ぬ理由も特にない。
親を亡くした俺を助けてくれた玉姫やその両親、周りの人達が幸せに生きてて欲しいというのが俺のささやかな願いだ。
──俺はそれでいい。そう思っていた俺の人生がこの日に変わるだなんて、この頃はまだ想像もしていなかった。
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方は大変ご無沙汰しています。
葉城雅樹と申します。
この度、所属するサークル「珀明の星律」の企画「PROJECT ARCADIA」で小説を担当することになりました。
プロットや設定段階から練りに練った作品です。
今回はさわりの部分のみとなっていますが、ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。
また、宣伝となりますが本日のコミケ並びに2024年1月21日のボーマス54.Sでこのプロジェクトのアルバムを頒布しています。
全曲で作詞を担当していただいてますので興味ある方は是非クロスフェード動画をご覧ください。
以下のリンクから飛べます。
【全曲XFD】珀明の星律1stアルバム「Яe:Solutear」【C103,ボーマス54.S】
https://youtu.be/aSMm77rIGKE?si=ApS_dOERXnElFdn8
年明けの早いうちに続きを投稿する予定です。
宜しければ、感想・お気に入り登録・評価など頂けると非常に嬉しいです。
https://syosetu.org/?mode=rating_input&nid=332859
(評価はこちらから可能です。よろしくお願いします)
それでは、また近いうちにお会いしましょう。