長い長いお説教が終わり、上層に向けて歩み始めたベル達。
とは言え、特筆すべきことは何もなかった。
レベル4が五人にレベル5が一人、おまけにレベル6までいる。
中層程度では、何の問題にもならない。
まあ、道中ベルに噛みつこうとしたリオンを、リューが何度も粛清しようとしたという出来事はあったが、それは割愛。
そうして一行は、18階層にまで戻ってきた。
「皆さん、外套買ってきましたよ!」
街の外の人目につかない場所で待機していたアーディたちのもとに、リヴィラの街で買った外套と持ったベルが駆け寄る。
ファミリアの金庫番であるリリはリヴィラの街での買い物など絶対に嫌だったのだが、五人の顔を隠すため仕方なく承諾した。
この五人の存在が発覚することで起こる騒動を考えれば、背に腹は代えられない。
「おぉ、悪ぃな兎」
「今日稼いだ分が…。ギルドの課税、借金、いつの間にか消えていくファミリアの資産…。」
「大変だな…。まあ元気出せよ、リリ助」
「何他人事だと思ってるんですか、この浪費家!」
ファミリアの財政事情を誰よりも深く考えているリリは頭を抱えながら胃を痛める。
そして、それを見て他人事のように呟く
「ま、まあまあ。ボールスさんも少し安くしてくれたし…」
「リヴィラの安くしたなんて雀の涙以下ですよ!どうせ10,000ヴァリスが9,999ヴァリスになった程度ですよ!」
「リヴィラの街の物価に関しちゃ俺もヒドいとは思うが……。安くして貰ってるんだから文句言うなよ」
「だ・か・ら!!財政悪化の原因の一つであるヴェルフ様はなんでそんな他人事なんですか!?」
「しょうがないだろ。いい武器を作るには良い素材が必要なんだ。金を惜しんで適当な武器作って、ダンジョンで呆気なく死ぬなんて嫌だろ?」
「それはそうですけど!もうちょっと考えて作れって言ってるんですよ!」
やはり他人事のように呟くヴェルフに、リリは怒りを隠せない。
そんな中、アリーゼは元々気になっていたのか、ヴェルフに問いかける。
「そういえばあなた、鍛冶師なの?」
「そうだが…、それがどうかしたのか?」
「いや、なんでベルと同じファミリアなのかなって。普通、鍛冶師はヘファイストス・ファミリアかゴブニュ・ファミリアのどっちかに行くものだと思ってたから。さっきの会話からして、別のファミリアから出向してるわけじゃないでしょう?」
アリーゼのその疑問にヴェルフ達は納得の表情をし、輝夜やアーディ達はアリーゼと同じように疑問を浮かべる。
言われてみればそうだな、とヴェルフに視線を向ける。
その視線を受けて、ヴェルフは当時のことを思い出しながら何でもないように答える。
「俺も元々ヘファイストス・ファミリアにいたんだが、色々あって少し前に改宗したんだよ。4,5ヶ月くらい前になるか」
「へぇ~。じゃあ、ファミリアの中じゃ結構な新参なの?」
「新参も何も、ファミリア自体が半年前に出来たばかりですし。新参と言うなら、最初の眷属であるベル様以外、全員が新参になりますね。ベル様以外全員他派閥からの改宗ですし。まあ、今後続いていくことを考えたら、今のメンバーはファミリアの結成当初からいる古参って扱いになるんじゃないですか?」
今の団員たちはファミリアの黎明期を支えたメンツと言っても過言ではない。
誰か一人でも欠ければ今のヘスティア・ファミリアは存在しないだろう。
それを考えれば、リリの言葉はあながち間違いではない。
だが、ここでアーディはリリの言葉に疑問を抱いた。
リリの言葉がすべて正しければ、信じられない矛盾があるからだ。
「ねえ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「それっておかしくない?ファミリアは半年前に出来たばかりで、アル…じゃなくて、ベルは最初の眷属。しかも、他派閥からの改宗でもない」
「ええ。そうですよ?」
「言われてみりゃ、おかしいな。そいつ、レベル4はあるはずだぞ?たった半年でレベル4になったって言うつもりか?」
「違いますよ、ライラ」
ライラの言葉を、リューは否定する。
そう、違うのだ。
現実はもっと、ありえない。
「ベルは今レベル5です」
「…おう。それで?」
「? それで、とは?」
「いや、それ以外にも説明することあるだろ。ほら、アタシが言った疑問についてとか」
「ありません。リリルカが言ったことは全部正しいですし」
「それだと、そいつはたった半年でレベル5になったってことになるぞ?」
「だから、そう言ってます」
「いや、ありえねえだろ」
「あり得たから困ってるんですよ」
リューはハッキリとした口調でそう言ったきり、それ以上話そうとしない。
まあ、それもそうだろう。
これ以上喋れば必要以上に詮索され、
百歩譲って、アリーゼに気づかれるだけならまだしも、ベルがそれを知ってしまうのはまずい。
スキル効果が無くなる可能性もあるし、隠しきれなくなって余計な火種が生まれるかもしれない。
というか、そもそもベルにあのスキルについて知られるのは嫌だ。
そう考えた末での、行動だった。
だが、リオンの方はやはり納得できない。
輝夜やアリーゼたちも納得できていないが、それを露骨に表に出すことはない。
まあ、多少は出てしまったかもしれないが、それだけ。
しかし、ベルに反感のようなものを抱いているリオンは怪訝な様子を隠そうともしない。
「ありえないでしょう…、たった半年でレベル5など」
「信じる信じないはあなたの勝手ですが、私達からこれ以上話すことはありません」
「全員その男に騙されているのではないですか?」
「騙すメリットは?そもそも、どうやって?」
「周囲の人間を全員洗脳でも――」
“してるのではないか”と、続けることは出来なかった。
リューがその言葉の続けることを、許さなかった。
ベルに止められた以上、リューとしてはこれ以上リオンに牙を向けるつもりはなかった。
口撃をする気はもちろんあるが、攻撃をするつもりはなかった。
だが、それはダメだ。
その言葉だけは、ダメだ。
許せないし、許すつもりもない。
あの絶望を味わったベルに、そんな言葉許せるわけがない。
その言葉を発したのが過去の自分であれば、なおさら。
リオンは反応できていない。
間違いなく首を取れる。
殺すことにためらいはない。
止める気もない。
そのまま刃はリオンの首を捉える――ことはなかった。
首に当たる寸前で、神の刃がそれを弾く。
「――ッ!」
「落ち着いてください、リューさん!!」
五人と初めて出会した時以上の純粋な殺意を持って、リオンを殺そうとしたリューを、ベルはなんとか思いとどまらせようとする。
しかし、リューも引く気はない。
あの発言だけは、許容できない。
「そこを退いてください、ベル。他の小さな反発程度であれば未熟者のたわ言と見逃しますが、今のはダメだ。あのような思いをしたあなたにあんなことを抜かすなど、許すわけにはいかない。それが過去の自分であるならば、なおさら」
「リオンさんはあの出来事を知らないんですから、仕方のないことです!」
「知っていようが知っていまいが、変わりません。実力も気概もないくせにプライドだけは無駄に高い未熟者など、周囲と不和を生むだけです。やはり、殺しておくべきだ」
「駄目です!落ち着いてください!!」
リューを止めようとするベルだったが、やはりレベル5とレベル6の壁は大きい。
この膠着状態も長くは続かないだろう。
そうなれば、ベルも全力で戦うしかない。
レベルブーストとヴェルフたちの支援が有ればギリギリ勝てるだろうが、リヴィラの街の人々にリオンたちの存在がバレる可能性が高い。
だから、出来る限りこれは避けたい。
「ここで僕たちが戦えばアリーゼさんたちの存在が他の人達にバレます!落ち着いて、武器をしまってください!」
「その小娘を放置すれば遅かれ早かれ気づかれます。ならば、早いうちに始末するに越したことはない」
「やめてください!」
「どんなくだらない理由かは知りませんが、あなたに救われていることも理解しようとせず反発し続ける小娘など、私は許すことが出来ません。ましてや、それが過去の自分であるなど…、なんと悍ましいことか」
他人であれば、怒りを向けれど斬ろうとなど…、ましてや殺そうとなどしない。
不愉快な思いをして眉をひそめるだけだ。
多少手が出るかもしれないが、それだけだ。
だが、対象が過去の自分であるならば話が別だ。
憎たらしく思うし、殺したくなる。
自身が一番嫌っている時代の自分であれば、なおさら。
しかし、リオンも訳なく反発しているわけではない。
闇派閥壊滅の件は別にして、ベルを信用できない理由があるのだ。
それが正しいものかは別として――。
「貴様、言わせておけば!!」
「黙りなさい、未熟者。貴様に喋る権利などありはしない。死期を早めたいのですか?」
「貴様こそ黙れ!黙って聞いていれば勝手なことを!そもそも、前科のあるその男を信用など出来るわけがない!!」
「前科…?」
リューはリオンの言葉に眉をひそめ、その真意を問いただす。
その様子に、リオンは我が意を得たりと言わんばかりに話し始める。
「その男が私達の前から姿を消した後、私達はその男の一切を思い出すことが出来なくなった!因果関係など明白だ!勝手に記憶を消すような野蛮な男をどうやって信用できる!!」
「ちょ、リオン!!」
「アリーゼたちも思っているはずです!!記憶の件をこの男が話すまで、私はこの男を信用しない!!」
ベルを睨みながら啖呵を切るリオン。
そんな様子のリオンに、呆れるようにため息を吐きながらリューはベルに尋ねる。
「そういえば、そのようなことを言ってましたね……。ベル、あの未熟者はああ言っていますが、どうなのですか?」
「え?あ、いや、そう言われても……。リオンさんたちが僕を覚えていなかった事自体今初めて知りましたし…。」
「でしょうね」
「!? フザケたことを抜かすな!!記憶の抹消など、貴様以外に誰がやるというのだ!?」
「他にも候補くらいいるでしょう。神ヘルメスとか」
「流石にヘルメス様もそこまでしないと思いますけど…。」
「甘いですよ、ベル様。あの神はそれが必要な状況とそれを叶えるだけの手段があれば、確実にやります」
「えぇ…。」
あくまでヘルメスを好意的に捉えているベルに対し、ヘルメスをとことん信用していないリリ達は辛辣だ。
まあ、ゼノスの件やその他で苦い思いをしたことがあるので、当然の反応と言えるだろう。
「まあ、冗談はさておき。言っておきますが、あなた達の記憶の件にベルは一切関与していません」
「なぜそこまで断言できる?」
「第一に、ベルは記憶を操るようなスキル・魔法を持っていないから。第二に、ベルは記憶を操ることの危うさを知っているから」
「……どういう意味?」
「そのままの意味です」
ベルは知っている。
記憶を操られたものが、その後どれだけ後悔するのかを。
操られなかったとしても、たった一人だけ取り残されたものがどれだけ心を擦り減らすのかを。
それを知っているベルが、それを他者に強いることなどありえない。
「詳しくは後で語りましょう。語り尽くすには、時間が足りないので」
そう、時間が足りない。
ベルの半年の軌跡を語り尽くすには、あまりに時間がない。
他の冒険者であれば、一時間も有れば語り尽くせる程度の期間の話ではあるが、ことベルの歩んできた道に関してはその限りではない。
一晩あっても語り尽くせるかどうか。
「私達は彼がそのようなことをする人間ではないということを知っています。それはあなた達だって同じはずだ」
アリーゼたちも、それは分かっている。
彼は迷いながらも、まっすぐ歩んで戦い続けた。
それは、彼女たちも分かっているのだ。
「それに見て見ぬふりをし、自分にとって都合のいい現実だけを見るな未熟者。次ベルを貶すような言葉を吐いてみろ。今度こそ、その首を刎ねる」
リューの言葉は、決して誇張されたものではないのだ。
いつまでもベルがリューを抑えきれる保証などどこにもない。
とはいえ、そうなってしまえば困ることになるのは目に見えているので、リリは助け舟を出す。
「地上に戻って、神の前で確認を取りましょう。そうすれば、あなた達も多少は信用できるはずです。どうせ、事態の収束には神の知恵が必要になりますし、そのついでに。それまでは、双方絶対に手出ししないでください」
リリのその提案を、二人は受け入れる。
こうまで言われてしまえば、牙を向け続けることなど出来ない。
そうして、二人のリューは停戦状態になった。
しかし、そうなると別の問題も出てくる。
「ていうか神の前で確認って、誰の前で確認するんだよ?ヘスティア様か?」
「ヘスティア様はたしか、今日一日バイトだったはずですが……」
「今から帰れば昼間に戻ることになりますが、夜まで
「それもあまり得策ではないですね。そこの未熟者がそれまで大人しくしているとは思えません」
「貴様――ッ!」
リューはリオンに嫌味を言う。
だが、リオンも睨みつけるだけで剣を取ろうとはしない。
一応、停戦状態は守られているようだ。
「外部の神にお願いするしかないですね」
「あ、ヘルメス様とかは?」
「論外です。あの神にこんな面倒事持っていったら話がさらに面倒になります」
「それには同意ですね」
ベルの提案をあっさり却下する他の面々。
ここで、リリから話を打ち明ける神の条件を整理される。
「話を打ち明ける神の条件は三つです。一つは口が固く、この件を他に漏らさないと信用できること。二つはこの件を面白おかしくかき乱そうとしないこと。最後は、面倒事を持ち込んでも今後のファミリア同士の付き合いに影響がなく、リリたちが罪悪感を抱かない相手」
「ヘファイストス様はダメだな。流石に、面倒事に巻き込むのは悪い」
「ミアハ様もですね。ナァーザ様がポーションを卸してくれなくなるかも知れません」
「タケミカヅチ様も遠慮していただけると……。」
「デメテル様も無理そうですね」
「神ヘルメスはもちろん論外ですし」
「他にリリたちが交流があって、口が固くて信用できて、面倒事に巻き込んでも良く罪悪感を抱かない。むしろ、巻き込んで清々するような神…。
「ですね。どの道、護衛の件をしてくださってるあの方達には話さなくてはいけませんし……。」
ベル達はある一人の女神を思い浮かべていた。
そして、ちょうどその頃、とある酒場で働く看板娘は、小さくくしゃみをしていた。
あとがき
少し短めになりましたが、ご容赦ください。
過去の自分との対峙ってことで、どこかで“理想を抱いて溺死しろ”ってリューさんに言わせたいんですよね。
タイミングがあればいいんですけど…。
さて、今回のあとがきでも言わせていただきます。
他の方が書いたこの設定を見てみたいので、誰か書いてください!!
マジでお願いします!
以上、あとがきでした!