最強のハゲには、男の娘かつ最強電気使いの弟がいる 作:雨を呼ぶてるてる坊主
ホタルは飛んだ。怪人の身でありながら、多くを語り合った友を抱きかかえて。
最早深海王に、脅威と呼ばれる要素は無くなっていた。サイタマの腹パンの攻撃により、意識不明の重傷を負い、仮死状態といった具合である。
そうして、ホタルは到着する・・・そこは、初めてホタルと深海王が出会った場所だ。
「・・・到着。じゃあ、始めようか。エレクトリックラジエーション・・・。透視の結果、胸部骨折に心肺停止みたいだね。AED治療と治癒能力で骨折箇所を治癒っと・・・。」
そう呟くと、深海王を膝枕した後、胸部に指を置き、AED治療を始めたのだ。しばらく治療を続けると・・・。
「・・・ここは?」
深海王が目を覚まし、所在を尋ねる。
「・・・貴方と僕の、思い出の場所です。」
「ここは・・・、私達の出会いの場所・・・。」
「はい・・・。」
ホタルが頷くと、深海王はまだ痛みが少し残るのか咳をする。
「ゴホッ!!・・・信じられないわ。貴方が来るまでは、汚れに汚れていた海や砂浜がこんなに綺麗に・・・。」
「僕だけの力じゃありません。海を、そこに住む御魚さん達を想う多くの人々による努力の結晶です。」
その時、深海王の眼前に映ったのは幻・・・、まだ、ヒーロー協会なるものが発足していない時代に、供え物を捧げに来る漁師・・・、村で起きた事を嬉々として話しに来る無垢な子供・・・。そして、供え物の返礼として、多くの活きの良い魚を与えた先代深海王の影・・・、深海王に成ってない下っ端の頃に、人々に海の恵みを与えて穏やかな顔を浮かべる自分の顔・・・。
そんな思い出に、深海王は呟く。
「愚かなのは、人じゃない・・・。昔の事も忘れ、畜生道に堕ちた私の方だった・・・。」
「・・・そんな事はありません。私達人間が、海を想っていれば貴方が畜生道に堕ちる事はありませんでした。」
「でも・・・。」
そう
「そして貴方も、
「え・・・・・・?」
困惑した顔をする深海王を他所に、ホタルは話し続ける。
「・・・疑問に思っていたんです。本来、怪人とは人を本能的に襲うもの。けれども貴方は初めて僕に会った時、敵意を収めていた・・・。そこがまず、疑問に感じた所でした。」
「・・・・・・。」
その言葉を、深海王は不安そうな顔に成りながら聞く。
「そこで、調べてみたんです。古事記に掲載された、深海に沈んだ人物を・・・。貴方の正体は・・・。」
ホタルが核心をつく発言をしようとすると、深海王はその先の言葉を拒絶しようとする。
「やめて!!私はとっくに堕ちた身よ!!今更その名を名乗る資格は・・・!!」
しかし、ホタルは深海王の正体を言い当てる。
「貴方の正体は、
そう言うホタルに、深海王は図星を突かれたように顔を
「・・・・・・っ!!」
「その証拠に、貴方からは殺気が微塵も感じられない。いや寧ろ、人々を害する事を
その言葉に、深海王は押し黙りながら肯定する。
「・・・大当たりよ。私は、日本武尊様が海神様を怒らした事により、荒れた波を鎮める為にその身を投げたわ・・・。」
「・・・・・・。」
その言葉に、ホタルは静かに話を聞き始める。
「とある文献には、私は怨霊に成ったって書いてるけど、深海に入ってから500年前に人間が攻め入るまで、私は人から神格化した神だった・・・。私の配下の異形の海人族も初めは普通の魚だったわ・・・。彼らは地上から来た私のような存在でも温かく迎え入れてくれた・・・。それからの日々は温かかったわ・・・。人間達が攻め入るまでは・・・っ。」
そうして辛そうに話を続ける深海王に、ホタルは気を遣う。
「・・・話したくないのであれば、無理には聞きません。」
「いいえ、話すわ。最初の頃は人間達も信仰深く、私の事を拝めてくれたわ。勿論私もそれに応える為に、彼らに海の幸を捧げた。お互いに良好な関係を築いていた・・・。でも、ある人間達が私達の住処を襲ったわ。・・・そこからは地獄絵図。魚の子供は死に絶え、先代の深海王であった神も殺された・・・。だから、私は復讐を誓ったの。天罰を与えるようにね・・・。まぁ、負けちゃったけど・・・。」
その言葉に、ホタルは確認するように質問する。
「あなたが怪人化したのは、人間達への恨みでしょう?」
「・・・えぇ。そして、その恨みによる
そう言い放ったと同時、深海王の頬を包み込んだのは、温かな手の平であった。
「え・・・?」
「よく、話してくれましたね・・・。」
次に深海王の顔に降り注いだのは、温かな滴。しかし雨は降っていない。ならば、その正体は・・・。
「辛かったでしょう・・・?御自身の体が、怪人に成っていくのは・・・。信じていた人達に裏切られるのは・・・。人を信じたい気持ちと、復讐の心に挟まれて
深海王を膝枕する、ホタルの涙であった。
「あ・・・。」
その時、深海王の脳裏に昔の記憶が蘇る。
それは、海神の怒りを鎮める為に海に飛び込んだ自分の姿。深く暗い深海に沈んだときは、恐怖と悲しみに包まれた。
しかし、そんな自分を温かく迎え入れてくれた海の生き物達。
(この暖かな気持ち・・・、初めてお魚さんと会った時と同じ・・・。私を温かく迎え入れてくれた時と同じ・・・温かい・・・気持ちになる・・・。)
その時、深海王の体に異変が生じた。
「・・・え?」
なんと、ピシピシと体がひび割れていくではないか!!その様子に、ホタルは驚愕する!
「こ、これは!?」
次の瞬間、深海王の体が眩く光り始める!
「うわぁ!!・・・一体何が?・・・え?」
次の瞬間、ホタルが目を開けたときに居たのは、半魚人の様な怪人では無く・・・、黄緑の
「え?え・・・?」
そんな女性の登場に、ホタルは
「ど、どうしたのですか?」
その口から放たれるのは、コロコロと鈴を転がす様な、綺麗な声。
「ど、どちら様・・・ですか?」
そう聞くホタルに、女性は名乗りを上げる。
「わ、私です!深海王ですよ!!」
その言葉に、ホタルは更に驚愕する。
「えぇ!?嘘は言わないでください!見た目も口調も、別人じゃないですか!!」
そう言って、鏡を差し出すと女性も驚いた顔をしていた。
「この姿・・・
「え、えぇ~・・・?あぁ・・・。」
あまりの衝撃事実に、ホタルは気を失ったのだった・・・。
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「う、うぅ〜ん。あ、あれ?」
数分後、目が覚めたホタルの眼前にあったのは美しい顔である。
「ひ、膝枕?」
そうホタルが言うと、ホタルに膝枕をしていた美女・・・弟橘媛が心配そうに尋ねる。
「お、落ち着かれました?」
「な、何とか・・・。え、えっと・・・弟橘媛・・・様・・・ですよね?」
ホタルがそう問うと、彼女は複雑そうに答える。
「えぇ・・・、そうですね。」
「ご、ごめんなさい。神様に膝枕してもらうなんて・・・。」
そう言ってホタルが謝ると、弟橘媛は恥ずかしそうに手を振る。
「い、いえ。先程のお返しの様なものですから・・・。」
「そ、その・・・。お綺麗に成りましたね。」
そう言うホタルに、弟橘媛は少し悪戯っぽい表情になる。
「あら?前の私は
その言葉に、ホタルは精一杯首を振る。
「め、滅相もございません!!と、とってもお綺麗でした・・・身も心も。」
「ふふっ。嬉しい事を言ってくれますね。・・・それにしても、これからどうしましょうか・・・。」
そう。深海王という存在は消え去った。ここに残るのは、一人の女神だけ。
その時、ホタルが提案しようとする。
「あ、あの・・・。僕から提案があるのですが・・・。」
「提案・・・?」
「付いて来て下さ・・・。」
そう「付いて来て下さい」と手を伸ばそうとした瞬間・・・
(深海王・・・。いや、弟橘媛。貴様、寝返ったのだな・・・。隣の男も含めて没収だ・・・。)
何者かが、二人の頭の中に語り掛けてきたのだ。
「!?」
その言葉に、ホタルは声のする方を見つめる。
「ひっ!」
そして、その言葉を聞いた弟橘媛は怯えた顔をしたが・・・。
(没収が出来ない・・・?そうか、隣にいる貴様は・・・。まぁ良い・・・。怪人の力が無くなった時点で、貴様に価値は無い・・・。)
謎の声が見切りをつけるような発言をすると、その場には波の音が残されるだけだった。
「な、何だったんでしょう?と、取り敢えず行きましょう。」
「は、はい・・・。」
そう言うとホタルは弟橘媛を姫抱きし、何処かに向かったのだった。
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数分後・・・ここはヒーロ協会本部、そこには、ホタルと弟橘媛に向かい合うように座っている、鼻が特徴的な男が居た。
「して、何用だね?ホタル君。・・・そこの女性は?」
「本日は、お話しの場を設けて頂き感謝いたします。シッチさん。」
ヒーロー協会幹部の一人、シッチだった。ヒーロー協会に腐敗した幹部達が居る中、ホタルが信頼を置く数少ないマトモな幹部である。
「単刀直入にお話しします。彼女は今回の事件の首謀者、深海王です。」
その言葉に、シッチは顔に驚きの色を見せる。
「何だと・・・?報告書の写真と違うが・・・。」
「それに関しても、全てお話しいたします・・・。」
それからホタルは全てを話した。
彼女は弟橘媛という、深海を統べる女神であったという事。
彼女は人間を愛していたという事。
信じていた人間に裏切られ、女神から怪人に堕ちてしまった事。
許されるのなら、また女神として海を、人の子達を見守りたい事・・・。
その願いをシッチは、真剣な顔で聞いていた。
「彼女のしでかした所業は、許される事ではありません。ですが、彼女が堕ちた原因を作ったのは、僕達人間です。ならば、その彼女の
そのホタルの言葉に、シッチは弟橘媛の方をじっと見る。そして、そんな視線に弟橘媛は身を縮こませる。
「・・・・・・っ!」
「深海王・・・いや、
そうシッチが言いかけた所で・・・弟橘媛は待ったをかける。
「そ、その事で渡したい物が・・・。」
そう言うと、弟橘媛は数枚の護符を手渡した。
「これは・・・?」
護符を手に持ちながら、シッチは質問する。
「私の神通力を込めた、癒しの護符です・・・
そう言って、弟橘媛は頭を下げる。そして、次いでホタルも頭を下げる。
「僕からもお願い致します。それに現実的に考えて、今まで海を統べていた弟橘媛様が居なくなってみてください。今度こそ、海の生物達が侵攻してきてもおかしくありませんよ?」
「・・・・・・。」
その言葉にシッチは少しの間、目を閉じて考え込む。
「・・・シッチさん!!」
そうホタルが声を出すと、シッチは静かに口を開く。その眼には、真剣さが宿っていた。
「・・・今度の議題に、今回の話を提示しよう・・・。深海王・・・いや、弟橘媛様。今回は我々人間が多大なるご迷惑をお掛けして、申し訳なかった。」
そう言ってシッチが頭を下げると、弟橘媛も頭を下げる。
「・・・!!こ、こちらこそ申し訳ありませんでした!お心遣い有り難う御座います!!」
この日、怪人が発生し始めて数年。初めて、人類と怪人が和解した瞬間であった。
ホタルと弟橘媛が去った後、シッチは部屋で独り言ちる。
「しかし、さっきの者・・・。あの男の言う「カミ」とは違うのか?今度、聞いてみるか・・・。」