最強のハゲには、男の娘かつ最強電気使いの弟がいる 作:雨を呼ぶてるてる坊主
夢を見ていた・・・と言ってもそんな良い夢じゃねぇ・・・。ガキの頃の記憶だ。虐めっ子のたっちゃんがジャングルジムの上から、俺に飛び蹴りをかましてくる・・・。クソッ、夢だからか・・・!?避けようにも避けれねぇ!
そうして、大の字に倒れた俺の目に映ったのは・・・ホタ兄の顔だ。けれども、ホタ兄の顔は失望したような表情を浮かべている。
『残念だよ・・・ガロウ君。怪人協会に行っちゃうなんて・・・。僕はガロウ君なら、心優しいヒーローになれるって信じてたのに・・・。こんな事になるなら、ガロウ君なんて助けなかったら良かった・・・。』
その言葉に、俺は何も言えなくなる。現に、ホタ兄の想いを裏切ってしまっているんだから・・・。
すると、いつの間にか周囲が暗闇に染まり、ホタ兄の顔が溶け始めメロンの様な
『そんなに弱者が虐げられる世界を憎むなら・・・。受け取ってしまえば良いんだよ・・・。どんな気に入らない奴でも殺せるような・・・。まさに、カミのような力を・・・。』
そう言いながら、網目だらけの顔に成ったホタ兄が手を近づけて来る。そうして、その手を取ってしまいそうになったとき・・・。
『駄目!!そんな声に耳を貸さないで!!』
暗闇に突如現れた、
その声が響くと、目の前に居るもう一人のホタ兄は舌打ちをすると消滅する。
その瞬間、俺の意識は現実に戻された。
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ぴちょん・・・ぴちょんという水音が、やけに
(・・・ここは何処だ?俺は生き延びたのか?記憶が曖昧だな・・・。)
そう思いながら重たい体を起こした俺の目に飛び込んできたのは、一枚の手紙と上着だった。
ガロウ君へ。怪人協会へようこそ。
これを読んでいるという事は、貴方は一命を取り留めましたね。その命を救ったのは我々である事を良く自覚して、暴れる事の無いようにその部屋で静かに待っててください。
今外に出ても、ヒーローの的になるだけ。貴方には居場所が必要。服を用意してあります。使ってください。
手紙を読み終えた俺は、紙をクシャクシャに丸め投げ捨てる。
(痛ぇ・・・。すっげぇ痛ぇ・・・!!身体中が・・・手足も重いし、ひどい頭痛がする。喉が渇く。あと食事・・・何か血になるものが必要だ・・・。)
取り敢えず、臭い檻から脱出する為に鉄格子を蹴り破る。すると、そこには通路が広がっていた。しばらく歩いていると、段々と記憶が蘇ってくる。
(そうだ・・・!俺は、ジジイと戦ってて・・・まぁ、途中で鬼サイボーグが止めてくれたがな・・・。そんで、ホタ兄と知り合いかどうかジジイに聞かれて答えようとした瞬間、鳥怪人に連れ去られたんだ・・・。怪人協会・・・目障りな奴等だ。ジジイ達はどうなった?あのムカデ野郎相手に・・・どうでも良いか。)
そう思いながら血生臭い
「ひゃぁぁぁ・・・!!い・・・命だけは助けてくれぇ・・・!!」
「み、見逃してくれぇぇ!!俺達が悪かったぁ!もう、二度と歯向かうような事はしねぇよ!!人質なんて、どうだっていい・・・金で雇われただけなんだ!!そうだ・・・報酬を全額アンタ等に譲ったって良い・・・!だから・・・食べないで!殺さないでぇ!!」
そこで泣き叫んでいたのは、七人の男女達だった。バトルスーツみたいなのも着込んでいるし、外部の傭兵集団共か・・・?なんつー無謀な事してんだよ!!
そう思いながら物陰から観察している間にも、傭兵共は命乞いを続けている。しかし、そんな奴等に絶望を与えるかのように、中央に居る一つ目の怪人・・・あれが恐らく鳥怪人の言ってたギョロギョロって奴か・・・?そいつが、無情にも告げる。
「そうは言っても、うちの兵隊を二匹も退治してくれちゃって。おいそれと帰す訳にはいかないよねぇ・・・。」
そう言うとギョロギョロは、傭兵共の隣で佇んでいる寡黙な怪人に目を向ける・・・いや、あれは怪人じゃねぇな。ロボットか?そう考えていると、頭の中にギョロギョロの声が響いてくる。
(隠れてても良いから、もうちょっと待っててね。ガロウ君。)
これは・・・テレパシーか?それにしても、ホタ兄以外の奴から「ガロウ君」呼ばわりされるなんて寒気がするぜ・・・。
そうこうしていると、我慢の限界に達したのか周囲の怪人共が傭兵共に襲い掛かる。そんな状況に、とっさに物影から飛び出そうとした瞬間・・・全身を包帯で覆い隠し、両腕から長い刃を生やした怪人が周囲の怪人を切り裂いた。あいつは・・・ガキが持ってたヒーロー名鑑に載ってた、キリサキングか・・・?
俺がそう考えていると、傭兵共に利用価値を見出したロボットがキリサキングを止め、SM嬢みたいな格好をしている女怪人が傭兵共に鞭を打ち付けて洗脳しやがった。
その様子を観察していると、キリサキングの奴が俺の気配に気付いたように不気味に呟きやがる。
「ふーっ・・・ふっふっふっ・・・。まーだ、人間の匂いがするねぇ・・・。出てこぉい・・・。」
その声と共に向けられた粘つく様な視線。まぁ、こんな所で隠れ続けても
「やぁ、ガロウ君。早い御目覚めだね。」
その言葉に続くように、周囲の怪人共もギャーギャー騒ぎ始める。
「あれが、ヒーロー狩りか。」
「いいね~、応援してるよ。」
「傷付いたところを、拾って介抱して・・・特別扱い?」
「何故?」
「ギョロギョロ様が、あの程度の人間に目を付けた理由は何なんだ?」
「人間?怪人?」
「既に死にかけじゃん。襲って食っちまうか。」
そう騒ぎ続ける怪人共を無視しつつ、ギョロギョロとは反対側に居る巨大な怪人を俺は見やる。
デケェ・・・ギョロギョロの奴も大概デカいが、そんな奴よりも数十倍の大きさを誇っていやがる・・・。あれが、怪人協会の親玉か?
そう考えていると、ギョロギョロは騒ぐ怪人を制する。
「静かに。今から彼と、大事な話をする。」
「・・・俺に、どうして欲しいんだ?」
そう聞く俺に、ギョロギョロは怪人協会の現状勢力を語りだす。
「怪人協会は、現在総員500名。ヒーロー協会所属のプロヒーローと似たような数だが、推定災害レベル"鬼"以上は先日の戦いで減った結果、残り三十名にも満たない。今のままでも、十分に勝てる戦力差ではあるが・・・さっき見て貰った通り、我々に足りないのは団結力・・・そして、先導者だ。ガロウ君には幹部になって貰い、私の補佐を頼みたい。」
その言葉に、黒いピク●ンみたいな姿をした怪人が呟く。
「いきなり幹部か。えらく好条件だな。」
「彼の様に強い反ヒーロー思想の強い者こそが、私の求めていた人材だ。たった一人で活躍して・・・ボロボロに成ってでもS級ヒーローの喉元に食らいつこうとする気概・・・最高だよ。」
その言葉に、俺は苛立ちを覚える。俺の事を何も知らねぇ癖して、上から目線で評価してくるこいつの言葉に。というか、今の今まで怪人協会からの勧誘は断り続けてきただろうが。
そう頭の中でぼやく俺を無視して、ギョロギョロは条件を突きつける。
「ただし・・・ボスのオロチ様から、条件がある。我々に君が本当に"怪人"なのか、まだ判断できない。君が本物の怪人である事を証明してくれ。」
「ツノでも生やせってか?」
そう皮肉る俺の言葉に、後ろに控えていた巨大な怪人・・・オロチが条件を突きつけて来る。
「一日やる・・・誰でもいい。ヒーローの首を持ってこい。」
その言葉に、硬そうな外骨格を持つ虫の怪人が同意する。
「そりゃ、分りやすい。躊躇いなくヒーロー殺せりゃ、立派な怪人だ。」
相変わらず上から目線な怪人に苛立ちを覚えるが、ここで歯向かっても流石にマズいのでA級ヒーロー達を潰して、とっくの昔に条件を満たしている事を告げようとする。
「・・・・・・ヒーローの命なら、午前中の戦いで・・・。」
そう言いかけた俺の言葉を、俺を
「残念な
その言葉に、俺は目を大きく開く。・・・生き残っただと?あの、幾つもの山を覆いかぶせそうなほど巨大なムカデ野郎相手に・・・ジジイ達だけじゃなく、A級ヒーロー達もだと・・・?しかも、討伐したのはキングと・・・ホタ兄だと!?
そう考える俺の目線は、
いつも穏やかな笑みを浮かべ、困っている人が居たら何が何でも助ける・・・俺にとって唯一のヒーローだけ。
その幻影の口が、小さく動き出す。
『ガロウ君・・・。僕は絶対に諦めないよ。ガロウ君が闇に堕ちそうなら・・・進むべき道が暗闇に閉ざされて、分からないのなら・・・。僕がガロウ君の光になって、
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怪人協会から抜け出して久しぶりに町に出てみると、奇妙なデモ団体がプラカードを掲げながら
『ヒーロー協会の体たらくを見れば分かる様に、人類側に勝ち目はありません!全面降伏すべきです!!』
そう大声で叫ぶ連中が掲げる横断幕には、「怪人様を迎合せよ」や「全面降伏」などと言った文字が書かれている。そんな異様な光景に、俺は虫唾を走らせる。何故かは分からないが、奴らの主張には信念の様なものが
「うるせぇぞー!怪人の味方になるくらいなら、死んだほうがましだっつーの!!」
怪人を目指している俺でさえも同意出来ない主張に対して、野次を飛ばした男に向かって、団体のリーダー格の男が取り巻きらしき連中に指示を出す。
「丁度良い!ならば貴方を、
その指示を受けた連中が男に向かって走り出すが、その内の一人をデコピンで俺はぶっ飛ばす。そうすると、連中はドミノ倒しのように倒れやがる。
・・・別に、善意で助けたわけじゃねぇ。ただ単に、通行の邪魔だからぶっ飛ばしただけだ。・・・しかし、胸糞悪ぃな。生贄だのなんだのと大層な事を抜かしていやがるが、結局テメェらが助かりたいだけだろうがよ・・・。
「生贄制度で自分達だけ助かろうなんて・・・。怪人を舐め過ぎだぞてめぇ等。」
それに、てめぇ等のやってる事はホタ兄みたいなヒーローの努力を
怪人協会の影響か・・・。人間社会がこうも簡単に揺さぶられるとは、拍子抜けだな。既にこんな状況だと、俺という最強の怪人が大々的に出現した時のインパクトが薄れちまわないか、不安になって来たぜ・・・。
そう考えていると、俺の考えを肯定するかのように街頭ビジョンに映し出されたニュースキャスターが、各地で起こっている強盗や空き巣状況について話し始め、その内容に専門家らしきおっさんが嘆き始める。
『けしからん輩が居るものですな。怪人が暴れているからと言って、相対的に人の罪が軽くなる訳ではありませんよ。』
おっさんのいう通りだ。怪人協会の連中も積極的に人間を殺そうとしていない。全面戦争だの大層な事を言ってるが、さっさと行動に起こせばいいものを中途半端に集まってるだけで、行動に起こそうともしていやがらねぇ。
徹底的にやらねぇから、こんな馬鹿共が増長するんだ。怪人同士の仲良しサークルがやりたいなら、静かにやってろってんだ。
俺は奴等とは違う。怪人協会みたいに群れる事無く、徹底的に真の恐怖の象徴になってやる。
ただ・・・。今は、腹が減り過ぎた。そうして飲食店まで歩を進め、いざ入ろうとしていたら酔っぱらった馬鹿が店先で暴れていた。何人かの男が取り押さえようとするが、全く聞く耳を持っちゃいねぇ。
「どうせ俺達はみんな怪人に殺されちまうんだ!我慢なんかしてられっか!」
そう叫びながら力の弱そうな爺さんの胸倉を掴む奴に、何故か俺は苛立ちを抑えきれない。そうだ・・・これは空腹の所為だ。この馬鹿が暴れる事によって、店に入る為の時間が一秒でも増えてしまう事に対する苛立ちだ。
そう結論付けた俺は、酔っ払いに近づいてどくように言う。
「おい。店の出入り口で邪魔なんだよ。消えろ。」
そう言ったが判断力が鈍っているのか、酔っ払いは刃物を取り出して襲いかかって来やがる。
「あぁ!?なんか言ったかガキ!コラァ!」
判断能力が乏しそうな為、俺は突きつけられたナイフの切っ先を指圧でへし折り、酔っ払いの眼球すれすれに突きつける。
「失せろ。」
俺が至近距離で告げると、さっきまでの威勢は何処へやら・・・酔っ払いは尻尾を撒いて逃げて行きやがる。その情けなさが、余計に俺を苛立たせる。
中途半端に暴れまわって、自分の意見が通らないと知るや否や、自分より立場の弱そうな相手にしか突っ掛かれないクソ野郎共が・・・。
取り敢えず、数日ぶりの飯だ。気分を落ち着かせて食べねぇとな・・・。
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数時間後・・・ファミレスの肉メニューやサラダメニューを全制覇した俺は、食い逃げがてら軽くランニングをしていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。マラソンは流石に無理があったか・・・。」
体力も含めて、全くベストコンディションに戻ってねぇ・・・。・・・この調子じゃぁ、ホタ兄はおろか鬼サイボーグにも勝てはしねぇ・・・。・・・・ホタ兄と戦う事になるのか?・・・俺は。・・・いや、今更何を考えてんだ!あの日・・・ホタ兄と再会した日に決めたじゃねぇか!!・・・ホタ兄相手だろうが、ヒーロー狩りは続けるって・・・。何処かで安静にするか・・・?だとしても、拠り所が怪人協会しか思いつかねぇ・・・。
『怪人協会の庇護の下で、傷を癒した方が良いでしょ?このアジトになら、ヒーローに追われる心配も無い。ただ・・・先に条件を満たして貰う必要があるけど・・・。』
その条件が、ヒーローの首を持ってこい・・・か。まぁ、今の俺のコンディションでもB~C級程度なら簡単に狩る事が出来るかもしれねぇ・・・。けど、何か引っかかる。ヒーローを殺せば、怪人として認めるってのはどういう理屈だ?そりゃあ、ただのヒーロー殺しだろ・・・。怪人ってのは、もっとこう・・・。その現場に居合わせないような連中も、恐怖に陥れる存在っつーか・・・なんつーか・・・。あー・・・言語化出来ねぇ・・・。
とはいえ、仮に狩るとしたら誰にする・・・。そのとき俺の脳内にとある人物が思い浮かぶ。
(・・・ホタ兄。)
・・・!?今、何を考えたんだ俺は!?ホタ兄を・・・狩ろうとしたのか?俺を虐めから救ってくれた、恩人ともいえるあの人を・・・。その時、俺の心の中の悪魔が囁きかける。
『狩っちまえよ、激雷の天使を。お前も言ってただろ?相手はS級5位で、民衆からの支持も厚い人気者だぜ?野郎をぶっ殺せば、民衆を絶望の淵に叩き込んで怪人協会からも一目置かれる。なにより、お前は人気者のたっちゃんが嫌いだったろう?人気者という肩書きだけなら、激雷の天使も同じさ。』
(・・・!?ざけんな・・・、そんなこと出来る訳ねぇだろ!!)
そう心の中で叫んでいると、そんな考えを打ち壊すかのような声が響いた。
「痛いっ!やめてよぉ!!」
声のする方を見ると、昼間助けた不細工なガキが同級生らしき三人組に石を投げ付けられている・・・。成程な・・・昼間に俺のアジトだった廃屋にガキを行かせたのも、あの三人組ってわけか・・・。
「おい、タレオ。お前どうして無事だったんだよ?」
「お前も怪人なんじゃねーの?」
「やーい。怪人ブサイクー。」
三人組はニヤニヤしながら、ガキの頬を引っ張ったり石を投げつけている。あれは・・・どう考えても「遊び」の
・・・こんな時、あの人ならどうする・・・。・・・いや、考えるまでも無いな。ホタ兄なら・・・真っ先に脇目も振らずに止めに行くはずだ。
そう考えた俺は、大きく息を吸い怒声を浴びせる。
「・・・・・・やめろ!!」
俺がそう言うと、三人のガキ共は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。・・・ったく、大人の声量でビビるくらいなんだったら、最初っから虐めなんてするんじゃねぇよ・・・。
そうして土手の斜面を滑り落ちた俺は、不細工なガキと二人っきりになる。相変わらずメソメソ泣いてやがる。・・・自分でも、何で虐めを止めたのかは分かんねぇ・・・。俺には何のメリットも無いのに・・・。
そうだ、これはただの気まぐれだ。決して、ホタ兄みたいに虐めを止めれる様な存在に成りたいとか思ったわけじゃねぇ・・・。そう・・・ただの気まぐれ・・・。
「・・・なんて、ひでぇ面で泣いてんだ。こりゃ、虐められるわ。可哀想に・・・。」
俺がそう言うと、ガキは鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。
「よお。一日に二度も会うとは奇遇だな。」
俺がそう言うと、ガキはヒーローでも見るかのような目で俺に話し掛けてくる。
「おじさん!!??」
「おじさんじゃねー!!俺は、まだ18だぞ!!」
俺がそうキレると、ガキはまたしゃくり声を上げ始める。それが鬱陶しいから、俺はガキに背を向けると冷たく言い放つ。
「チッ・・・さっさと帰れ。もう日が暮れる。また、怪人が出るかもしれねえぞ。」
俺がそう言うと、しゃくり声を上げながら何故かガキが謝ってきやがった。
「おじさん・・・ごめん。お昼は逃げちゃって・・・。」
その言葉に、俺は
俺がそう考えていると、聞いてもいないのにガキはペラペラと話し始める。
「僕・・・ちゃんと見てたのに・・・。ヒーロー達がおじさんを退治しようとしてたけど、やっぱりあれは間違いだったんだよね・・・。だって、おじさんはあのとき・・・銃弾から僕を守ってくれたんだから!」
そう話し続けるガキの顔を、俺は目の端で捉え続ける。その顔は・・・どこまでも純粋で、邪気なんてものは存在しないんじゃねぇかってぐらいに輝いていた。その表情に、俺は重ねてしまう。ホタ兄の顔を・・・。
髪色も、目の色も・・・声色だって、ホタ兄とは似ても似つかないガキの癖に・・・。ホタ兄の顔が・・・今、俺が一番嫌われなければならないヒーローの顔が重なってしまう。そう俺が苦悩しているとも露知らず、ガキは無邪気に話し掛け続ける。
「今だってそうだ・・・助けてくれた。きっとおじさんは、正義の味方で・・・。」
そう言いかけたガキの口を思いっきり塞ぎ、俺は八つ当たりするかの如く低い声で脅しにかかる。
「やめろ・・・。鳥肌立ったぞ。」
俺は正義の味方なんかじゃない・・・。この世に恐怖を与える絶対悪になる男だ・・・ヒーローとは真逆の道を歩もうとする、最悪の怪人に成るんだ・・・。
だから、頼む・・・。俺に未練を残させるようなことをするな・・・。
あの人の幻影が重なる様な・・・無邪気な笑顔を向けないでくれ・・・。
そうイラつきながら考えていると、後ろから声が掛かる。
「おい!食い逃げ犯!!」
その声に、俺は更に苛立ちを覚える。こっちは今、取り込み中なんだよ。しかし、そんな俺の想いを無視するかの如く、声の主は騒ぎ立てる。
「この野郎!食い逃げなんて・・・!!全く、良いタイミングでやりやがってこの野郎!!今回だけ許す!!・・・それじゃあ、一応注意したという事で。」
「おい待て!何だそりゃぁ!!」
コイツ何しに来やがった!?注意しに来ただけで、あとは知らんぷりで見逃すのかよ!!
「俺を退治しに来たんじゃないのか!?怖気づいたか!?ヒーローネームは何だ!!」
俺がそう言うとハゲはボソボソと小さい声で何かを言ってるが、全く聞き取れねぇ。・・・というか、よくよく見たらこいつ、どっかで会った事があるな・・・。そう思いながら必死に記憶の糸を手繰り寄せると、ある記憶がインターネットの検索機能の様にヒットする。そうだ!こいつは確か、ホタ兄と再会した時に一緒に居たハゲじゃねぇか!!
俺がそう考えていると、ガキが俺の服を引っ張る。
「おじさん・・・食い逃げしちゃったの?見逃してくれそうだし、絡まない方が良いよ。」
ガキは俺に気を遣っているんだろうが、今の俺に怒りを燃やす燃料にしかならないようだ。怪人協会どころか、雑魚ヒーローやクソガキにまで情けを掛けられたらいよいよ終わりだ。どうやったか知らねーが、バングのジジイが生き延びたって話を聞いて、内心ホッとした自分に腹が立つぜ。怪人の定義はともかく、俺に決定的な覚悟が足りてねぇのは確かなようだな・・・。
さっきの思い出した記憶から推察すると、あのハゲはホタ兄の知り合いみてぇだ・・・こいつを狩れば、きっとホタ兄は悲しむはず・・・。俺が、ホタ兄に対して抱いている未練も綺麗さっぱり吹っ飛ぶって訳だ・・・。
なめんじゃねぇ・・・俺は怪人だ。
自分自身に覚悟の証明をする為にも、俺はハゲの背後に忍び寄り拳を掲げる。
「おい。今からテメェを・・・。」
そう言いながら、俺はハゲの首を取ろうと・・・
「すまん。俺も共犯だから、これ以上絡むのは勘弁して・・・。」
ハゲが何か小声で言ってたが、聞き取る暇も無い程の勢いで、頬に走った衝撃と共に俺は吹き飛ばされた・・・
「おぐぅおっはぁぁぁー!!」
「怪人協会のアジトの具体的な場所も分かったし、今日は白菜料理~。腕によりをかけて作るぞ~・・・あれ?なんか、お兄ちゃんが僕との御約束を破った気が・・・。取り敢えず、小腹が空いたから軽食を摘まみにファミレスにでも行こっかな。」