クワイエットと呼ばれるリコリス   作:ぺへ

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1話

現在の時刻は午前2時。小太りな男は額に大量の汗を流しながら走っていた。理由は死がすぐそこまで迫っていたからだ。

 

男は裏の世界では有名な武器商人だった。海外で質の高い武器をマフィアやテロリスト達に売り捌き、遂には日本へも手を伸ばした。今日は最初の商談だったのにも関わらず客と出会った瞬間、その客の頭は弾け飛んだ。

 

こちらは複数。当然、警戒するも次々と脳天ごと弾け飛ぶ。男は恐怖を覚え、今は必死に逃げているのだ。

 

「(死にたくない!死にたくない!死にたくない!!)」

 

必死に生にしがみつく男は幸運な事にタクシーを見つける。距離は約一キロ程。助かったと思った瞬間、そこで男の意識は途切れた。永遠に。

 

 

男が亡骸となった場所から北に約三キロの場所にある高層ビル。その屋上では少女が一つ息を吐いた。上下紺色の制服に身を通しているものの、上着は大胆に前を開け黒の下着が見えている。腕には襟元に付けるであろうリボンが簡単に巻かれている。

 

少女は『Direct Attack』、通称『DA』と呼ばれる秘密機関に所属する殺し屋である。インカムの電源を入れ二回ほど雑音を流して直ぐに電源を落とした。一切喋ること無く。

 

彼女が喋る事は無い。幼年期、実親から虐待された挙句、本来存在しないはずの虫を寄生させられた。

 

その寄生虫は言語によって感染する特殊な虫。虫自体が言語を学習し拡大していく。故に彼女は1つの言語を除き、喋ることを辞めた。

 

少女はライフルを分解しカバンに詰めて下を見る。約、50m程。なんの戸惑いも無く飛び降り、なんの音も出さずに着地した。服を正し少ない人混みに紛れる。帰宅し荷物を全て置きシャワーを浴びる。

 

少女はシャワー中、毎回考える事がある。それは殺めた者達の顔。初めて殺した者から今日殺した者の顔まで覚えている。殺した者達の顔は皆恐怖心に染められている。

 

自分は追われる側になった時どう思うのか。分かるはずもない。シャワーを止め体を拭き愛用しているマイクロビキニを着る。

 

部屋を出た瞬間、突然頭をはたかれた。しかし少女の顔は驚き等では無く面倒そうな顔。目線を向けた先には赤い制服を着た少女が鬼の様な表情で少女を見ている。

 

「・・・貴様。また、申請を出さずに武器を持ち出したな?」

 

面倒そうにしながらも分解したライフルをゴルフバッグから取り出して彼女に渡すもまたはたかれる。

 

「いや、自分で返してこいや!面倒事を押し付けんな!」

 

少女はため息を着き、裸足のままローファーを履いて分解したライフルを両手に持ち部屋を出ていく。ビキニのままで。

 

「ちょ!服!・・・行っちゃった・・・はぁ・・・」

 

少女はため息を付きながらシャワーに入る。と言うのも彼女が無断で武器を持ち出すのは一度や二度では無い。相棒になってから少なくとも数百回はやられている。

 

最初の内は上が大慌てであり、少女諸共特大の雷を喰らった。しかし、少女に反省の色は無く幾度となく無断借用を繰り返した。

 

どれだけ武器庫の警備を強化しようと施設外に移動させようともいつの間にか盗られている。しかし、盗られた翌日には綺麗な状態で返却されている。

 

流石に上も諦め黙認するものの、ファーストである相棒には文句を言うという構図が完成した。

 

「正しく『クワイエット』か・・・。はぁ〜・・・」

 

少女はそんな事を思いながら疲れもあり眠りに着いた。

 

 

 

彼女の所属する秘密機関、DA(Direct Attack)の地下に武器庫はある。武器庫には赤外線や監視カメラと言った厳重過ぎるトラップの先の部屋に一人の中年オヤジが椅子に座りながら銃のメンテナンスを行っていた。

 

彼はDA内でガンスミスとして勤務していた。DAの主な兵士は少女だ。その少女に合わせた銃をカスタマイズし引き渡す仕事をしている。だが、二人を除いてそこまで感謝された覚えも無い。

 

自分の背にあるドアが開いた音を聞いた男は振り向くといつもの彼女がいた。しかしいつもの制服では無く水着だ。他の者なら焦るかもしれないが男は銃にしか興味が持てなかった。

 

「おう、返却か?」

 

頷く少女に、相変わずかと思う。男はこれまで少女の喋る場面を見た事が無い。そもそも彼女が人間であるかも怪しい。赤外線とカメラに人が感知された時点で警報がなる筈なのに一切鳴らなかった。人間では不可能なのだ。

 

「相変わらずの無口だな。今回盗ったのは・・・VSR10か。しかも俺のフルカスタム。使い道はどうだった?」

 

少女は親指を立てる。つまりは扱いやすかったという事だった。彼女は言葉を発さない。しかしながらもそれ以外はお喋りだ。男は照れ臭そうに顔を背ける。

 

「おう、そうだ。こいつを持っていけ。」

 

男は話題をすり替える様に銃を渡す。大型のライフル、「SVDドラグノフ」。少女は受け取り直ぐさま構える。通常のドラグノフと違いバレルを短くしサプレッサーを装着している。スコープは8倍率まで調整可能であり、マガジンもAKの様なバナナマガジンがセットされている。

 

「ドラグノフを元に作ってあるが、なんとかAKの機構を組み込めた。セミだけでなくフルオートでも行けるぞ。それとコイツはお前の相棒に渡してくれ。」

 

そう言ってアタッシュケースを渡す。少女が開けると「グロック34」が入っていた。当然フルカスタムである。

 

「俺の最高傑作だ。フルオート機構も備え付けてる。上には黙っとけよ。」

 

少女は受け取り頭を下げて出ていく。なんとなくカメラの映像を見るもやはり姿は写っていない。

 

「正しくクワイエットだな・・・」

 

男は再び銃のメンテナンスをし始めた。

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