声帯虫。それは言語を介して感染する寄生虫。人の声帯に住み宿主を食い殺す。
本来なら存在しないはずの寄生虫は存在していた。誰かに見つけられるのを待っていた。種を増やす為に。生き残る為に。
そんな時に、天才を発掘し無償の支援を行う謎の組織『アラン機関』に発見された。アラン機関はすぐ様調べに入った。しかし寄生虫だという事以外何も分からなかった。分かるはずもない。
しかし実証は不十分だったにも関わらず、一人のイカれた科学者によってとある少女に寄生させた。隔離して様子を見るつもりだったのだ。何も分からないよりはその方が手っ取り早いと。
しかし声帯虫にとっては僥倖としか言えない。これで種を増やせると。しかし少女に寄生した瞬間、流れ込んできたのは強い憎悪と報復心、普通を願う小さな気持ちだった。それが突然変異を起こした。
少女は寄生された瞬間、激流の様な痛みに体を支配された。今まで受けてきた暴力が、苦痛が、悲しみがとてつもなく小さな物に感じる。
焼かれ、冷やされ、折られ、切られ、殴られ、蹴られる痛みが一気に押し寄せる。しかし気を失う事も出来ない。しかし実際にはそんな外傷は一つも無い。
少女は
その後、科学者は抹消された。アラン機関は急いで声帯虫を探すも見つけられなかった。故にこの件は闇に葬られた。少女もまた孤児院へ返された。そこから少女の、『クワイエット』の伝説は幕を開けた。
私がクワイエットと出会ったのはファーストとなって幾度かの任務をこなした時だった。
「気味の悪いリコリスが入ってきた。」「人間かどうかも怪しい。」そんな噂がある時耳に入ってきた。
そんな噂を聞けば誰しもが気になる。私もそんな一人だった。そんな時、新人リコリスが突然暴れ出して手が付けられないという話が入ってきた。
私だけではなくほとんどのファーストに連絡が言ったのだろう。現場に急行すれば既に多くのリコリスがおりファーストもチラホラと見えた。
人を掻き分け進むと状況が分かってきた。サードの制服を着たリコリスがファーストの口にナイフを刺そうとしているのだ。なんとか顎を引き締めているものの歯の隙間を無理矢理こじ開けた。
前歯は欠け口から血が流れ始める。しかし彼女の制服や肌を見れば水が滴っている。何故?とは思ったもののそれを考える程、悠長な時間は無かった。
銃を構えているリコリスに下ろさせて私は彼女の肩を掴む。
「こら!やめなさい!」
瞬間、彼女はナイフをこちらへ向けてきた。明らかに素人では無い俊敏な動き。実戦を幾度となくこなしている動きだ。
しかし、それはこちらも同じだ。咄嗟に腕をクロスさせてナイフを止め、一瞬の隙にナイフを弾き彼女を投げ飛ばした。
投げられた事に少し驚いた表情をしているものの、その目は怒りに濡れている。その怒りは恨みも孕んでいるようにさえ見える。
このままだと話も聞けない。故に私は腰を少し落としてナイフを構える。彼女も意味を理解したのだろう。腰に挿していたもう一本のナイフを抜き構える。
「今だ!!抑えろ!!」
誰かがそう叫んだ。その瞬間、目の前で驚くべき事が起きた。消えたのだ。驚く間も無く左のが崩れ私はナイフを左脇腹より少し前の方向に出して右に飛んだ。
完全なる勘だった。それでも当たっていたのだろう。金属同士が当たる甲高い音と重みが乗っかってきた。すぐに体勢を整えるもののそこから飛び退いた。
またしても勘だ。任務で感じる寒気が私を襲ったのだ。私がいた場所の壁に拳程の穴が空いた。またしてもサードが突如として姿を現した。目の周りには先程まで無かったはずの蝶の様な黒い痣が出来ている。
全てを理解した。聞きかじった噂に今見た真実。コンクリートの壁をぶち破る異常な力に突如として消える
しかし私の思いは別にもあった。彼女とパートナーになればどんな任務になるのだろうか。
私はファーストであるが部隊を率いた事は数回しかない。理由は動き辛いからだ。確かに仲間の支援があるのはメリットだが私にとってはほとんどがデメリットに感じてしまう。
『リコリスは命令に従順でなければならない。』という事を幼年期より教えられる。故に自分で考える力を奪われるのだ。それは部隊壊滅に大きく繋がる。
故に一人がいい。一人が楽だ。そう今まで思っていた。しかし彼女は違う。彼女は自分で判断し考える力を備えている。
サードが再びナイフを突き立てて来る。私はナイフを最初の動きで弾きそのまま彼女を拘束しようとするもすぐ様蹴りで反撃してきた。それを防ぎ彼女を地面に倒して右腕を拘束して無理矢理仰向けにした。
当然ながら彼女は抵抗する。故に私も本気だ。力が強すぎる。だからこそ一切気を抜けない。
「誰か手伝って!それと医療科から強めの麻酔を貰ってきて!」
今迄の彼女が人間離れし過ぎていて全員の頭がショートしているのだろう。誰も動こうとしない。
「早く!!急げ!!」
私の怒声でスイッチが入ったのだろう。何名かのリコリスが走っていき、また何名かのリコリスが彼女の体を抑えた。足元を抑えた者は開いた壁の方へ吹き飛ばされたが仕方なし。
数分もしない内に白衣を着た中年おばさんが注射器片手に走ってきた。
「しっかり抑えてなさい!」
話は簡単に聞いたのだろう。左腕に針を刺して中に入っていた透明の薬液が減っていく。全部無くなった頃には大人しくなり眠りについていた。余程強い麻酔だったのだろう。
先程まで口にナイフを入れられていたリコリスが彼女を撃とうとする姿が見えた為、私は銃を抜きリコリスの銃を狙って発砲した。見事、銃のみに当たりファーストは手を抑えている。
「彼女を殺すのは事情聴取後だよ。」
「ふざけんな!そいつは殺さねえと気がすまねぇ!それに単なる気まぐれに決まってるだろうが!!」
「なら、何で彼女はこんなに濡れているわけ?」
その一言を言った瞬間、数人のリコリスが一瞬ビクついた。なるほどね。
「そこのあなた達。後で私の所に来なさい。それと司令には私から報告しておく。」
私は彼女を抱き上げ、とりあえず自室に向かう。今の彼女は誰に殺されてもおかしくない。
これが私、『スネーク』とクワイエットの出会い。