「京都への出張?」
「ああ。それがお前とクワイエットのリコリスとしての最後の任務だ。」
急に楠木さんに呼び出されたと思ったら出張の話。でも最後の一言が気になってしまう。
「私とクワイエットは他の支部に飛ばされる・・・という事ですか?」
「いや。お前とクワイエットは昇進だ。司令官クラスから知る事の出来る『サイファー』への移転。」
「サイファー・・・。アラビア語で"ゼロ"を指す。ファーストの先はゼロへ進むと?」
「そうだ。これは決定事項でもある。」
ゼロねぇ・・・私は思わず葉巻に火を付けた。司令室は本来禁煙。でも、楠木さんは何も言わず話を続けた。
「上はお前の師匠もお前の夢も知らない。だからこそ目を付けたのだろう。」
「ハアー・・・。楠木司令は私の夢を果てを理解していると?」
「彼の夢を継いだという事くらいは想定している。だからこそ、リコリスの司令官として最後の命令だ。思いっきり暴れて来い。」
なるほど。分かりやすい。それ程、難易度の高い任務って訳だ。私に背を向けている楠木さんに敬礼をして司令室から出る。
何となく横を見ればクワイエットが目を閉じながらも腕を組んで待っていた。彼女もやる気なのだ。ならば相棒として期待に応えなければ。
「相棒。天国に未練はない?」
そう問いかけた私にクワイエットは親指を立てる。彼女は言葉を発しないが感情豊かだ。これまで共に過ごして来てそれが伝わってくる。
「んじゃ準備開始だ。リコリス最後の仕事、ド派手にやろう。」
スネークも無邪気な笑みを浮かべクワイエット共に自室へ向かう。その後ろ姿は誰がどう見ても一蓮托生の存在だった。
楠木司令から新たな任務が下ってから数時間、準備を終えた私達は新幹線で京都へ向かっている。急な任務故に千束ちゃんの喫茶店への挨拶は無し。
まあ、たまにはそれもいいかもしれない。私は幾つかの駅弁を食べ、クワイエットは窓の外をずっと見ている。
「今回の任務だけど、恐らくは面倒な事が起こる。だからクワイエットが逃げれる状況を作るよ。」
クワイエットは私に目線を向ける。何を言っているんだと。だけど、あらゆる任務をこなして来た私の勘が告げている。一筋縄では行かない。
だからこそあらゆる策を労する必要がある。例え非現実的であっても。それが軍人として・・・否、戦士としての心構えだ。
私がボスから学んだ教訓の一つでもある。まあ、今の時代にそぐわないかもしれないがそんなものは知らない。
私は彼と呪いで繋がっている。今も彼から教わった技術を使い続け生き残っているのがその証拠だ。
そんな風に思い出に浸っているといつの間にか京都へ到着きていた。東京から京都への新幹線。往復ならかなりの出費だろうがDAが保証してくれている。ラッキーという他ない。
「とりあえず、私が貴方の名前を大声で呼んだらすぐに撤退して。その後の判断は任せる。」
クワイエットは頷きまた外を眺める。
彼女が何を考えているのかなんて分からない。でも彼女には全幅の信頼を置いているのは事実。だからこそ、クワイエットはやらかすと信じている。
その後、長らく新幹線に揺られ京都へ着く。駅を抜ければ迎えの車を発見し京都支部まで乗せていって貰った。
京都支部へ到着し京都支部司令との軽い挨拶を交わした後、今回の任務の内容を聞く。だけど、明らかに胡散臭い。
ここの司令もそうだけど、明らかに任務内容が大雑把なのだ。『犯罪者の隠し持つ密輸品の確保』。それが今回の任務だけど、大まかな場所以外は何も無い。
話を聞きながら、向かいのクワイエットと目が合う。瞬きで『警戒しろ』とモールス信号を送り、彼女もモールス信号で返してきた。
これで万が一の逃げ道は出来た。さあ、